先日、川崎市内のある製造業社長との面談で、こんなやり取りがありました。
私:「社長、御社の粗利率は何%ですか?」
社長:「えっと……たぶん30%くらいだと思います」
私:「では、営業利益率は?」
社長:「う〜ん……税理士から聞いたような……5%くらい?」
この社長、年商8億円の会社を20年経営されています。しかし、自社の数字を「たぶん」「聞いたような」という言葉でしか答えられませんでした。
これは決して珍しいことではありません。私がコンサルティングで接した30社以上の社長のうち、自社の財務を正確に把握していた方は、たった一人もいませんでした。
「売上は上がっているのに、なぜかお金が残らない。税理士が作る決算書の数字と、自分の実感が全然違う……」——多くの経営者がこの違和感を抱きながら、「なんとかなるだろう」と経営を続けています。
近年の倒産件数は年間8,000〜1万件で推移しており(2024年は1万件超)、その中には売上が順調だった会社も数多く含まれています。さらに深刻なのは、倒産直前まで「会社は順調だ」と思い込んでいた経営者が多いという事実です。
実際に私が支援した会社の中には、売上が前年比150%に成長していたにもかかわらず、運転資金の不足で倒産寸前まで追い込まれたケースがあります。「売上が上がっているから大丈夫」という思い込みが、会社を崖っぷちへと追い込んでいたのです。
財務を軸とした経営コンサルタントとして30社以上の資金繰り改善を支援してきた経験から、断言できることがあります。財務を理解していない社長に共通するのは「才能や頭の良さの問題」ではなく、「財務の正しい使い方を誰からも教わっていない」という構造的な問題です。
古典の叡智である二宮尊徳の「分度」思想、渋沢栄一の「論語とそろばん」と現代財務理論を融合した「収益満開経営」の視点で、その本質的な原因と解決策をお伝えします。
この記事を読むことで、あなたは以下を手にすることができます。
理化学研究所と富士通の共同研究により、財務センスは4ヶ月の適切な訓練で習得可能であることが証明されています。才能の問題ではなく、正しい方法で取り組めば、誰でも「数字で経営する社長」になることができます。
財務を「税理士に任せるもの」から「社長の最重要な仕事」へ——この認識の転換こそが、会社を「なんとかなるだろう」の不安から救い出す最初の一歩です。
普段、中小企業の社長と財務について話をしていて、ある共通の問題を感じます。それは、会社の現状を客観的な数字で把握せずに経営しているという事実です。
予め申し上げておきますが、これは社長を責めているわけではありません。創業社長の多くは、素晴らしい商品やサービスを世に届けたいという純粋な想いで起業されています。財務の専門家になりたくて起業したわけではないのですから、決算書に詳しくないのは当然のことです。
問題は別のところにあります。多くの経営者が、自分の感覚と税理士が作る決算書の数字がなんとなく違うと感じています。それでも税理士に詳しく聞くことはなく、「そんなものか」と思いながら経営を続けています。決算書は年に一度、税務申告のためだけに作成される道具だと認識している社長も少なくありません。
この状況こそが、私が「なんとかなるだろう病」と呼ぶ、現代日本の中小企業経営の最大の病理です。会計がわからないから現実に対峙できない。だから「なんとかなるだろう」という希望的観測に依存してしまう。しかし、会社はお金がないと生き残れません。
2024年の国内企業倒産件数は1万件を超え、前年比で大幅に増加しています。この中には、倒産直前まで「自社は順調だ」と信じていた経営者の会社が数多く含まれています。売上が伸びているのに資金が枯渇する「黒字倒産」は、財務を正しく理解していない社長に最も多く発生するパターンです。
違和感を抱くことは悪いことではありません。その違和感こそが、会社を救う第一歩になります。大切なのは、その違和感を放置せず、数字という現実と真剣に向き合う覚悟を持つことです。
「財務は苦手だから」「自分には向いていないから」——こうした言葉を聞くたびに、私は一つの研究を思い出します。
理化学研究所と富士通研究所の共同研究は、将棋のプロ棋士が持つ「直観的思考回路」の秘密を解明しました。研究者たちは、将棋未経験者20名を対象に4ヶ月間の訓練を実施。その結果、訓練を受けた全員が、プロ棋士と同じ直観的思考回路を発達させることに成功したのです。
この発見が示すことは明確です。プロ棋士の直観力は、生まれつきの才能ではなく、適切な訓練による習得物だということ。そして、これは財務センスにも完全に当てはまります。
盤面を見た瞬間に「この局面は危険だ」と察知するプロ棋士の能力は、経営者が数字を見た瞬間に「この月は資金繰りが危ない」と察知する財務直観力と、脳科学的に全く同じメカニズムで動いています。
つまり、財務センスとは才能ではなく、正しい方法で繰り返し数字に触れることで、誰でも習得できる「技術」なのです。私がコンサルティングの現場で見てきた事実とも完全に一致します。最初は「財務は苦手」と言っていた社長が、6ヶ月後には自ら月次の数字を分析し、先手先手の経営判断ができるようになった事例を何度も経験してきました。
問題は「才能があるかないか」ではありません。「正しいやり方で取り組んでいるか」——それだけです。
古典『礼記』には、「入りを量りて出を制す」という言葉があります。「収入の額を正確に計算し、それに応じた支出を行う」という意味で、2000年以上前から変わらない経営の根本原則です。
この原則を「知行合一」の精神で徹底実践した人物が、江戸末期の日本に複数存在しています。彼らに共通するのは、精神論ではなく数字という現実と向き合い、その上で戦略的な判断を下したことです。
山田方谷は備中松山藩の財政改革を担い、10万両の負債を8年で完済しただけでなく、藩の財政を黒字に転換しました。その手法は単なる質素倹約ではありませんでした。産業奨励で攻めの収益拡大を図りながら、計画的な借り入れ交渉で戦略的ファイナンスを実行し、能力主義的な人事断行で組織を引き締めた。まさに現代の企業再生と同じアプローチです。
上杉鷹山が米沢藩で実践したことも、本質は同じです。漆・紅花・織物業の振興で収益源を多角化し、債権者との信頼関係を丁寧に構築することで返済計画を見直した。「入り」を増やしながら「出」を適正化するという、収益満開経営の原型がここにあります。
二宮尊徳の「分度」思想は、収入の範囲内で支出を計画する財務管理の核心を突いています。さらに彼は「推譲」として余剰を将来の投資に振り向け、地域経済全体を活性化させました。これは現代でいうキャッシュフロー管理と内部留保の哲学そのものです。
彼らが頑張ったのではなく、考えて行動したのです。感情論や精神論ではなく、数字という現実と徹底的に向き合い、その上で戦略的な判断を積み重ねた結果が、歴史に残る大改革を生んだのです。
多くの社長が知らない重要な事実があります。税務会計で作られた決算書が、いかに経営判断に適していないか、ということです。
税務会計の目的は、税務申告のための数字を正確に作ることです。過去の実績を記録し、税金を適正に計算し、税務署への報告義務を果たすための道具です。一方、管理会計の目的はまったく異なります。経営判断のための情報を提供し、未来の戦略を決定し、会社の実態を正確に把握するための道具です。
多くの中小企業では、税務会計で作られた数字で経営判断しようとしています。これは、後ろ向きの運転で車を走らせようとするようなものです。過去を見るための道具で、未来を決めようとしているのです。
税務会計が「有害」と言える理由は、減価償却の扱いにあります。税務会計では、機械や設備の購入代金を数年に分けて費用化します。しかしキャッシュは購入時に一気に出ていきます。この差異を理解していない社長は、「利益が出ているのにお金がない」という状況に混乱します。
売掛金と入金のタイムラグも、税務会計の数字だけ見ていると見落とします。受注が増えて売上が伸びても、入金が2ヶ月後なら目先の資金繰りは苦しくなります。売上高が増えるほど運転資金の需要が膨らむという「成長の罠」は、管理会計的な視点がなければ気づけません。
税理士を批判しているわけではありません。税理士は税務のプロとして、きわめて重要な役割を果たしています。ただ、社長が自分の会社の経営判断に使うべき数字は、税務申告用の数字ではなく、管理会計的な視点で整理された数字であるということを、明確に認識する必要があります。
「数字を見ることは冷酷だ」「人間味がない」——こうした声をよく耳にします。しかし、これは根本的な誤解です。
稲盛和夫氏がJALの再建に取り組んだ際の有名なエピソードがあります。徹底的なコスト削減を指示した稲盛氏に、ある部下がこう問いました。「安全はどうするのですか?」稲盛氏の答えは明確でした。「どちらもだ!」
当時のJALは「安全」という名の下に、コスト管理がほとんどされていませんでした。パイロットが業務でハイヤーを使うなど、経営規律が機能していない状態でした。稲盛氏はここに「両立」の本質を見ました。
人を大切にすることと、徹底した財務管理は対立しません。両立しなければならないのです。なぜなら、会社が倒産すれば、すべての従業員が路頭に迷うからです。財務を管理することは、従業員の雇用を守ることに直結しています。
日本レーザーの近藤宣之会長は「社長の仕事は人事と財務」と明言しています。なぜでしょうか。財務における「調達・運用・適正化」の判断を責任を持って行えるのは、社長しかいないからです。外部の専門家や従業員、経理担当者に丸投げできるものではありません。
渋沢栄一が「論語とそろばん」で示したように、道徳(人を大切にする経営)と算盤(数字による経営)は相反するものではなく、一体のものです。金の計算ができない人が経営などできるわけがない——これは冷酷な発言ではなく、人を守るために必要な覚悟の言葉です。
私が提唱する「収益満開経営」は、単なる財務改善の手法ではありません。和魂(日本古来の叡智)と洋才(現代の科学的手法)を統合した、令和時代の経営革新です。そして、財務力の強化は3つのステップで着実に進めることができます。
ステップ1:脳科学的現状認識(入りを量る)
まず、自社の現状を数字で正確に把握することから始めます。月次損益の実態把握、キャッシュフローの見える化、借入と返済計画の全体像の整理——この3つが起点です。理化学研究所の研究が示すように、毎月数字に触れ続けることで、直観的な財務センスが育まれます。最初は「わからない」で構いません。わからないことを知ることが、すでに前進です。
ステップ2:管理会計的な視点の習得(出を制す)
税務申告用の決算書を「経営判断に使う」という誤りから脱却します。売上総利益率(粗利率)、営業利益率、キャッシュフロー計算書の読み方を習得し、税理士との対話を「申告のための確認」から「経営改善のための議論」へと転換します。難しい資格は不要です。基本的な管理会計の知識を、自社の数字で学ぶことが最も効果的です。
ステップ3:知行合一の実践(継続的改善)
陽明学の「知行合一」——知ることと行動することは一体であるという教え——を実践します。月次でレビューし、数字の変化を確認し、データに基づいて意思決定を積み重ねる。この習慣が根付くとき、社長は「なんとかなるだろう」という受け身の姿勢から、「必ずうまくいく」という確信に基づく能動的な経営へと変容します。
2000年前の『礼記』から、江戸末期の陽明学者たち、現代の稲盛和夫氏まで——時代を超えて「真の経営者は財務を理解している」という事実は変わりません。財務を「苦手なもの」から「最強の経営ツール」へ変える旅を、今日から始めましょう。
毎週月曜日、経営の本質を突く洞察をお届けしています。
渋沢栄一・二宮尊徳・近江商人の智慧と現代財務理論を融合した
「収益満開経営」の実践法を、無料でお読みいただけます。
スマホ・PCですぐダウンロード可能 | ステップメールでお届け
※いつでも配信解除できます
合同会社エバーグリーン経営研究所
財務コンサルタント 長瀬好征
「和魂洋才」による収益満開経営で、失われた30年を終わらせ、
2200年の日本に繁栄を残す