赤字で苦しむ会社ほど、なぜ小口現金を当然のように保有しているのか?
30社以上のコンサルティング現場で見た衝撃的な共通点があります。業績不振の会社ほど、現金・小口現金を「当たり前」のように保有しているという矛盾です。
これは偶然ではありません。小口現金の保有は、経営権の放棄を意味しています。
「従業員に立替させるわけにもいかないし、集金の支払いもあるので現金をなくせない」
コンサルティング現場で必ず聞く言葉です。しかし、実態を確認すると驚くべき事実が判明します。
実際の数字
「その従業員って何人いますか?月に何件発生しますか?」
答え:月1-2人、数千円程度
これは1万円、2万円の問題ではありません。決裁権の問題なのです。
月に数千円、年間でも数万円程度の支出のために、なぜ現金を保有するのか。この矛盾に気づかない社長は、自分が経営権を放棄していることに気づいていません。
現金は「悪意やうっかりがなくてもずれる宿命」にある最もリスクの高い資産です。にもかかわらず、その管理を軽視し、「現場の利便性」という名目で放置しています。
「現場で必要だから買っていい」という指示。これが経営権の放棄を意味することを、多くの社長は理解していません。
現場購入の本質
従業員に「現場で必要だから買っていい」と伝えることは、会社のお金の決裁権を従業員に与えることを意味します。
結果:
• レシートだけで精算
• 必要性を記載した報告書なし
• 事前準備の怠慢
• 計画性の欠如
これは事後承認であり、社長が決めているのではなく、従業員が決めているのです。
会社の資金の使い道を決める権限を誰が持っているか。これは経営の根幹です。決裁権が従業員にある会社は、実質的に従業員が経営していることになります。
コンサルティング現場での指摘
「僕が言いたいのは1万円、2万円のことじゃないですよ。従業員に会社のお金の決裁権を与えるのですか?」
「現場で必要だから買っていいとなったら、決裁権が従業員にあるということを意味していることを理解されていますか。」
「社長ではないのですよ、なぜなら、事後承認になるじゃないですか。」
「現場をやりやすく」という言葉の裏に隠れているのは、事前準備の放棄です。
計画的に動けば、必要なものは事前に準備できます。「現場で急に必要になった」という状況は、ほとんどの場合、計画性の欠如を意味しています。
• 「現場で必要になったら買えばいい」
• 事前に何が必要か考えない
• 小口現金で「急場をしのぐ」
• コストで準備不足を補う
結果:無計画な支出の積み重ね = 赤字
• 必要なものを事前にリストアップ
• 発注・購入を計画的に実施
• 給与振込時に立替経費を精算
• すべての支出に事前承認
結果:計画的な支出管理 = 黒字化
「従業員に立替させるのは可哀想」という感情論は、経営判断ではありません。月1-2人、数千円の立替を月末に給与と一緒に振り込めば済む話です。
この「優しさ」が、実は会社を殺しています。準備不足をコストで賄う習慣が、赤字の根本原因なのです。
近江商人は300年前から「毎日夕食前に帳合完了」を実践していました。現代の社長が、江戸時代の商人より劣っているという現実があります。
これは技術の問題ではありません。経営に対する根本的な姿勢の違いです。江戸時代には電卓もパソコンもありませんでしたが、彼らは毎日確実に現金管理を完了していました。
この礼記の教えは、現金管理の本質を示しています。現代で言えば、現状の正確な把握なしに未来への適切な決定はできないということです。
入りを量る = 現状の正確な把握
• 現金がいくらあるのか
• 誰が何に使っているのか
• 本当に必要な支出なのか
出を制す = 計画的な支出管理
• 事前に必要なものを把握
• 計画的に発注・購入
• すべて事前承認で実施
小口現金を「なんとなく」保有している状態は、「入り」も「出」も把握していない証拠です。これでは経営判断などできるはずがありません。
勘定科目明細の現金預金を見れば、その会社の経営レベルが分かります。現金出納帳の実態を調べると、多くの場合「現実に帳簿を合わせている」だけです。
会計の2つの見方
❌ 間違った認識:会計 = 単なる数字の羅列
多くの社長は会計書類を見て「今月も赤字」「売上が下がった」程度の感想しか持ちません。これは会計の表面しか見ていない状態です。
✅ 正しい認識:会計 = 日々の経営行為の集積
真の経営者は、会計数字の背景にある具体的な経営活動を読み取ります。売上の変動要因、費用の発生原因、資金の流れの改善点を明確に把握します。
小口現金の存在は、この「日々の経営行為」が見えなくなっている証拠です。誰が何に使ったのか、本当に必要だったのか、すべてが曖昧なまま処理されています。
会計情報を正しく活用するためには、3つの視点が必要です。過去の分析(なぜその数字になったのか)、現在の把握(今の状況を数字で正確に認識)、未来の計画(目標達成のための具体的行動計画)。
小口現金を保有している状態では、この3つの視点すべてが曖昧になります。過去も現在も把握できず、未来の計画など立てようがありません。
小口現金が奪う経営権の構造
「社長」と「経営者」の違いは、決裁権をどこに置いているかで決まります。肩書きと能力は全く別のものです。
社長 vs 経営者の決定的な違い
社長(肩書きだけの存在):
• 小口現金を「便利だから」保有している
• 現場判断を「尊重」という名で放置している
• 決裁権が従業員にある状態を容認している
• 事後承認で「なんとかなるだろう」と考えている
• 試算表を見ても「今月も赤字か」程度の感想しか持たない
経営者(真の管理者):
• 現金管理を徹底し、小口現金を持たない
• すべての支出に事前承認を求める
• 決裁権を自分が保持している
• 計画的な支出管理を実践している
• 試算表から即座に改善すべきポイントを特定できる
真の経営者は、数字で現実を把握し、自分で判断・決断します。5か年事業計画書と資金繰り表を自分で作成でき、会計数字の背景にある経営活動を読み取ることができます。
一倉定は「事業計画ほど会社のことがわかるツールはない」と断言しました。事業計画作成プロセスを通じて、会社の現状が丸見えになり、問題点が明確化され、解決策が見えてきます。これこそが経営者としての成長プロセスなのです。
理化学研究所の研究:
正しい訓練により4ヶ月で事業計画立案能力は習得できることが科学的に証明されています。専門家レベルの経営直観力を短期間で身につけることが可能です。
しかし、重要な前提条件:
小口現金を認めている状態では、いくら事業計画を学んでも意味がありません。なぜなら、決裁権が自分にないからです。
二宮尊徳「積小為大」の教え:
小さな改善の積み重ねが大きな成果につながるという教えは、現代脳科学の発見と完全に一致しています。小口現金の廃止という「小さな一歩」が、経営全体の「大きな変革」につながるのです。
本来の社長の仕事は、未来の売上利益をつくることです。今頑張っても未来につながらないものは、従業員の仕事です。社長がやるべきことは、事業計画作成と振り返り、そして経営方針の修正への気づきです。
仕事の時間軸による分類
今の売上利益 = 従業員の仕事
• 現在進行中の業務
• 既存顧客への対応
• 日常的な業務改善
• 小口現金での急場しのぎ
未来の売上利益 = 社長の仕事
• 新規事業の企画
• 市場開拓
• 組織構築
• 戦略立案と決裁権の確立
小口現金の管理に時間を取られている社長は、従業員の仕事をしているのです。真の社長の仕事は、決裁権を取り戻し、計画的な経営を確立することです。
小口現金の廃止は、段階的に実施できます。重要なのは、「従業員の利便性」ではなく「経営権の確立」という目的を明確にすることです。
小口現金の実態調査:
• 月に何人が使用しているか
• 月に何件発生しているか
• 1人当たりの月額はいくらか
• 本当に「急な」支出なのか
ほとんどの場合、月1-2人、数千円という少額であることが判明します。
立替精算システムの構築:
• 従業員立替を月末給与振込時に精算
• 購入前に必ず承認を得る仕組み導入
• 購入理由・効果予測の報告書提出を義務化
• 一定額以上は事前発注に完全切替
事前承認フローの明確化:
• 5,000円未満:課長承認
• 5,000円以上:部長承認
• 10,000円以上:社長承認
• 緊急時の例外ルールも明文化
重要なポイント:
「従業員に立替させるのは可哀想」という感情論を排除します。月1-2人、数千円程度の立替を月末に給与と一緒に振り込めば、従業員の負担はほぼゼロです。
この「優しさ」という名の甘さが、実は会社を赤字にしています。真の優しさは、会社を黒字にして雇用を守ることです。
キャッシュレス経営への転換:
• 小口現金を完全にゼロにする
• すべての支出を振込または立替に統一
• 現場での購入を原則禁止
• 決裁権を100%社長に集約
定期見直しの仕組み:
• 月次で支出内容を分析
• 無駄な支出の特定と排除
• PDCAサイクルの確立
• 四半期ごとに効果測定
従業員への説明:
「これは管理強化ではなく、会社を黒字にして皆さんの雇用を守るための施策です」と明確に伝えます。
計画的な経営により、無駄な支出が減り、結果的に賞与原資が増えることを説明します。
年商3億円、従業員15名の製造業A社。赤字が3期連続で続いていました。
改善前の状況:
• 小口現金:月20万円を常時保有
• 実際の使用:月1-2人、平均5千円程度
• 現金出納帳:月末に帳尻合わせするだけ
• 決裁:すべて事後承認(実質的に従業員が決定)
• 社長の言い訳:「現場をやりやすくするため」
コンサルティング介入:
「月に1-2人、5千円程度のために20万円も置いているんですか?これは金額の問題じゃないですよ。決裁権をどこに置くかの問題です」
社長は最初「従業員に立替させるのは可哀想」と抵抗しましたが、実態を見て愕然としました。年間で実際に使っているのは6万円程度。それなのに240万円(20万円×12ヶ月)も現金を保有していたのです。
改善プロセス(3ヶ月):
• 第1ヶ月:実態調査と代替案検討
• 第2ヶ月:立替精算システム構築と試験運用
• 第3ヶ月:小口現金完全廃止と決裁フロー確立
改善後の状況:
• 小口現金:完全廃止(ゼロ)
• 立替精算:月末給与振込時に一括処理
• すべて事前承認制に変更
• 決裁権:100%社長に集約
• 無計画支出:完全排除
驚くべき成果(1年後):
• 現金管理コスト:年間240万円削減
• 無駄な支出の排除:年間360万円削減
• 資金繰り:3ヶ月前から予測可能に
• 営業利益率:3.2%から8.1%に向上
• 年間キャッシュフロー:1,200万円改善
社長の変化:
「決裁権を取り戻したことで、初めて自分が経営していると実感できました。以前は『従業員のため』と思っていましたが、実は自分が楽をしていただけでした。」
「小口現金は『便利』ではなく『経営権の放棄』だったのです。今では試算表を見て即座に改善策を立案できます。数字が語りかけてくるようになりました。」
従業員の反応:
当初は「立替が面倒」という声もありましたが、月末に給与と一緒に振り込まれることで問題なく定着。むしろ「会社が黒字になって賞与が増えた」と喜ばれています。
この事例が示すのは、小口現金廃止は単なる経理改善ではなく、経営者としての覚悟を決める人間変容プロセスだということです。
抵抗1:「従業員に立替させるのは可哀想」
→ 実態:月1-2人、数千円程度。月末給与振込時に精算すれば負担はゼロ。
→ 本質:これは優しさではなく、決裁権を放棄する言い訳です。
抵抗2:「集金の支払いがあるから現金が必要」
→ 実態:月に何件発生しますか?年間でいくらですか?
→ 解決策:仮払金制度を導入すれば、その都度銀行から下ろせば済む話です。
抵抗3:「急な支出に対応できない」
→ 本質:「急な支出」のほとんどは準備不足。計画的に動けば事前準備できます。
→ 真実:準備不足をコストで賄う習慣が、赤字の根本原因です。
抵抗4:「現場がやりにくくなる」
→ 問い:現場がやりやすいことと、会社が黒字になること、どちらが大切ですか?
→ 真実:真の優しさは、会社を黒字にして雇用を守ることです。
小口現金の問題は、金額ではありません。決裁権がどこにあるかの問題です。
赤字企業の共通パターン:
• 小口現金を「当たり前」に保有している
• 「現場で必要だから買っていい」と言っている
• 事後承認が常態化している
• 準備不足をコストで賄っている
• 決裁権が従業員にある状態を放置している
黒字企業への転換に必要なこと:
• 小口現金の完全廃止
• すべての支出を事前承認制に
• 決裁権を社長が保持する
• 計画的な支出管理の確立
• 「現場の利便性」より「経営の健全性」を優先
最も重要な真実:
「現場をやりやすく」という優しさが会社を殺します。真の優しさは、会社を黒字にして従業員の雇用を守ることです。
小口現金の廃止は、単なる経理改善ではありません。社長から真の経営者への変容を意味する、人間変容プロセスなのです。
今日から始められること:
まず、小口現金の実態を調査してください。月に何人が使っているのか、月に何件発生しているのか、1人当たりの月額はいくらなのか。
ほとんどの場合、月1-2人、数千円という驚くべき少額であることが判明します。それなのに月20万円も保有している矛盾に気づくはずです。
その矛盾に気づいた時、あなたの経営者としての変容が始まります。
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