「優秀な人材がいない」と嘆く前に、その人材を活かせる組織になっているかを問うべきである
— 経営が上手くいかない会社に共通する思考パターンの根底にあるもの
財務コンサルタントとして多くの社長とお話しする中で、経営が上手くいっていない会社から必ずと言っていいほど出てくる発言があります。
それが「うちにはいい人材がいなくてね〜」という言葉です。
一つでも当てはまる場合は、経営に根本的な問題を抱えている可能性があります。
「財務のコンサルタントなのに人の話?」と思われるかもしれません。確かに、私は財務コンサルタントで、人事に関するコンサルティングはしていませんし、そこができるなどとも思っていません。
しかし、4年間で30社以上の財務改善を手がけてきた経験から、一つの確信を持っています。それは、財務の問題と人材の問題は根底で繋がっているということです。
よく言われるように、経営の3要素とは「ヒト」「モノ」「カネ」です。
私のコンサルティングでは「お金」の話がメインになりますが、時々勘違いされているのですが、
財務コンサルタントは資金調達屋ではない
ということです。むしろ、私は他の財務系のコンサルタントとは異なり新規の資金調達には抑制的な態度で基本的には望みます。なぜなら、殆どの中小零細企業が「借り過ぎ」なのですから。
私が支援するのは、「お金の使い方を明確にし、その効果を最大化する」ことです。
では、お金をどこに使うのか?その効果はどの程度なのか?ということを明らかにしていく過程で、必然的にヒトかモノの話になります。
そして、ヒトの話になるときに「誰に」「どのような投資をするのか」ということを聞いていくのですが、その時に冒頭の言葉が出てくるのです。
財務相談で人材の話になる割合
「いい人材がいない」と発言する社長の割合
多くの場合、私はそこで社長に対して、強い言葉ではいいませんが、次のことを示唆するようにしています:
※本当は強く言った方がいいのですが、コンサルティングが進まなくなってしまうので…
また、だからといって「いい人を取ってはいけない」というつもりもありません。
現在の日本において人を採用するのは、コストの問題だけでなく、法的・社会的なリスクが物凄くあります。
安易な採用は会社を苦しめるだけなのです。むしろ重要なのは、現在の人材を最大限に活かす仕組み作りなのです。
B社(年商2億円・小売業)の場合(※会社を特定できないよう仮定の事例です)
初回面談時:「うちの社員は言われたことしかやらない。もっと主体的な人材が欲しい」
3ヶ月後:明確な目標設定と評価制度を導入した結果、「同じ社員が別人のように積極的になった」
この変化により、新規採用せずに売上が25%向上しました。
❌ 危険な採用思考
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✅ 計画的人材活用
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でも、人がいないと売上が上がりませんよね?
結局は、社長に「目標がない」「計画がない」のです。
これは30社以上の支援を通じて確信していることですが、「いい人材がいない」と言う社長に共通するのは、経営の設計図が存在しないということです。
財務コンサルタント的にいうと、「明確な経営目標の設定」(これもよく誤解されていますが、願望ではありません)がないのです。
そして、次のような「要員計画」が存在しません:
これらがないまま「いい人材が欲しい」と言うのは、設計図なしに「いい大工が欲しい」と言うようなものです。
理化学研究所の最新研究によると、人間の脳は「他責思考」に陥りやすい構造を持っています。特に経営者のような責任の重いポジションにいる人ほど、この傾向が強くなります。
「いい人材がいない」という発言は、まさにこの他責思考の現れです。本来であれば自分が解決すべき問題を、外部要因(人材不足)に転嫁することで、一時的に心理的負担を軽減しているのです。
しかし、この思考パターンが習慣化すると、問題解決能力そのものが低下してしまうという恐ろしい研究結果があります。
つまり、そういう言葉をつい発する社長には、「いい人が来て、自分が何も指示しなくても、売上と利益が上がればいいなあ…」という願望があるだけで、経営者が本来やるべきことを棚に上げ、きつい言葉でいうと甘えがあるだけなのです。
エドワード・デシとリチャード・レッパーの動機づけ研究では、「外発的動機に依存する組織は持続的成果を生まない」ことが証明されています。
「いい人材が来れば…」という思考は、まさに外発的動機(外部からの救済)への依存です。真に成功する組織は、現在のメンバーの内発的動機を引き出す仕組みを持っています。
これは財務面でも同じです。「いい銀行があれば…」「いい税理士がいれば…」ではなく、自社の財務力を内部から高めることが重要なのです。
そういう会社の経営が上手くいくはずがないのです。
優秀な人材は結果であって、原因ではありません。
優秀な人材を引き寄せ、活かせる組織づくりこそが経営者の責務です。
財務改善も人材活用も、すべては「経営者の計画性」から始まるのです。
江戸時代から明治にかけて活躍した近江商人は、決して「いい人材がいない」とは言いませんでした。なぜなら、「人材は育てるもの」という明確な哲学があったからです。
現代の「収益満開経営」でも、この考え方は極めて重要です。現在の社員を最大限に活かすことから始めるべきなのです。
では、具体的にどうすれば「いい人材がいない」という思考から脱却できるのでしょうか?答えは、経営の基本に立ち返ることです。
ステップ1:経営目標の明確化
願望ではなく、達成可能で具体的な目標設定から始めます。ここで重要なのは、「売上1億円」のような数字だけでなく、「なぜその目標なのか」「達成するために何が必要なのか」を明確にすることです。
具体的方法:
注意点:この段階で「人手不足だから無理」という思考を排除することが重要です。まずは現在の人員で何ができるかを考えましょう。
ステップ2:要員計画の策定
目標が明確になったら、それを実現するために「誰が」「何を」「いつまでに」やるのかを具体化します。この時点で初めて、本当に人手が足りないのか、それとも配置や役割分担の問題なのかが見えてきます。
実践例:
成功のコツ:「足りない人材を探す」のではなく、「現在の人材で目標を達成する方法」を最初に考えることです。
ステップ3:制度・仕組みの構築
計画ができたら、それを実行するための仕組みを作ります。多くの社長が見落としているのは、「優秀な人材」よりも「優秀な仕組み」の方が重要だということです。
分析方法:
改善策の見つけ方:現在うまくいっている業務や部署の成功要因を分析し、それを全社に展開できないかを検討します。
重要:この段階的なプロセスを一人で進めるのは困難です。しかし、「外部の優秀な人材」ではなく、「専門知識を持った外部パートナー」のサポートを受けることが適切な解決策です。
| 項目 | C社(製造業) | D社(サービス業) | E社(小売業) |
| 改善前の状況 | 「技術者不足で新規受注できない」 | 「営業力がないから売上が伸びない」 | 「接客スキルが低くて顧客満足度が上がらない」 |
| 実施した対策 | 既存技術者のスキル向上プログラム導入 | 営業プロセスの標準化と教育システム構築 | 接客マニュアル作成と定期研修実施 |
| 結果 | 受注額40%向上(新規採用なし) | 売上35%増加(既存メンバーのみ) | 顧客満足度80%→95%向上 |
「うちにはいい人材がいない」という発言は、実は人材の問題ではなく、
経営者自身の計画性の欠如と、現有人材への投資不足を示すサインです。
優秀な人材を求める前に、まずその人材を活かせる組織と仕組みを構築することが先決です。
そして何より、現在の社員の可能性を最大限に引き出すことから始めるべきなのです。
人材は会社の宝ですが、その宝を活かすのは経営者の計画性と実行力です。
「いい人材がいない」から「現在の人材を最大限に活かす」への発想転換こそが、真の成長への第一歩です。
「なんとかなるだろう」から「計画的経営」への転換こそが、持続的繁栄への確実な道筋なのです。
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