「いい人材がいない」と嘆く社長の危険な思考パターン

2021.01.16

「いい人材がいない」と嘆く社長の危険な思考パターン

財務コンサルタントが明かす経営の根本問題
📅 更新日:2025年9月13日

🚨 こんな発言、社長の口から出ていませんか?

「うちにはいい人材がいなくてね〜」
この一言が出たら、その会社は経営危険水域に入っています。

📖 読了時間:約8分 | 🎯 対象:人材不足に悩む中小企業社長

【経営が上手くいってない会社の共通点シリーズ】 – 第2回
前回:月次試算表で分かる7つの経営実態把握法

「優秀な人材がいない」と嘆く前に、その人材を活かせる組織になっているかを問うべきである

— 経営が上手くいかない会社に共通する思考パターンの根底にあるもの


⚠️ 99%の社長が気づいていない事実

財務コンサルタントとして多くの社長とお話しする中で、経営が上手くいっていない会社から必ずと言っていいほど出てくる発言があります。

それが「うちにはいい人材がいなくてね〜」という言葉です。

📋 危険な発言チェックリスト

  • ✅ 「うちにはいい人材がいなくて…」
  • ✅ 「優秀な人が来てくれれば売上が上がるのに」
  • ✅ 「指示しなくても動いてくれる人が欲しい」
  • ✅ 「人さえいれば事業は成功するはず」
  • ✅ 「いい人材が取れないから業績が悪い」
  • ✅ 「今の社員には期待できない」
  • ✅ 「もっと主体的に働いてくれる人を探している」

一つでも当てはまる場合は、経営に根本的な問題を抱えている可能性があります。

💡 この記事で明らかになること

  • なぜ「いい人材がいない」という発言が危険なのか
  • 財務コンサルタントが人の話をする理由
  • 経営の3要素(ヒト・モノ・カネ)の真の関係性
  • 計画なき人材論の虚しさ
  • 脳科学が証明する「甘え」の危険性
  • 真の解決策:計画的経営への転換法

なぜ財務コンサルタントが「人材」の話をするのか?

「財務のコンサルタントなのに人の話?」と思われるかもしれません。確かに、私は財務コンサルタントで、人事に関するコンサルティングはしていませんし、そこができるなどとも思っていません。

しかし、4年間で30社以上の財務改善を手がけてきた経験から、一つの確信を持っています。それは、財務の問題と人材の問題は根底で繋がっているということです。

📜 経営の本質:三要素の相互関係

よく言われるように、経営の3要素とは「ヒト」「モノ」「カネ」です。

私のコンサルティングでは「お金」の話がメインになりますが、時々勘違いされているのですが、

財務コンサルタントは資金調達屋ではない

ということです。むしろ、私は他の財務系のコンサルタントとは異なり新規の資金調達には抑制的な態度で基本的には望みます。なぜなら、殆どの中小零細企業が「借り過ぎ」なのですから。

私が支援するのは、「お金の使い方を明確にし、その効果を最大化する」ことです。

お金の話は必然的に「人」の話になる

では、お金をどこに使うのか?その効果はどの程度なのか?ということを明らかにしていく過程で、必然的にヒトかモノの話になります。

そして、ヒトの話になるときに「誰に」「どのような投資をするのか」ということを聞いていくのですが、その時に冒頭の言葉が出てくるのです。

85%

財務相談で人材の話になる割合

70%

「いい人材がいない」と発言する社長の割合

⚠️ コンサルタントからの率直な質問

多くの場合、私はそこで社長に対して、強い言葉ではいいませんが、次のことを示唆するようにしています:

  • 「日本の中小零細企業にスター人材が入ってくると思いますか?」
  • 「スター人材が仮に御社に入社したとして、留まり続けてくれるほど、会社又は報酬に魅力がありますか?」
  • 「現在の社員の能力を最大限に引き出す仕組みはありますか?」

※本当は強く言った方がいいのですが、コンサルティングが進まなくなってしまうので…

「いい人材」への勘違いと現実

また、だからといって「いい人を取ってはいけない」というつもりもありません。

現在の日本において人を採用するのは、コストの問題だけでなく、法的・社会的なリスクが物凄くあります。

安易な採用は会社を苦しめるだけなのです。むしろ重要なのは、現在の人材を最大限に活かす仕組み作りなのです。

📖 ある社長の気づきストーリー

B社(年商2億円・小売業)の場合(※会社を特定できないよう仮定の事例です)

初回面談時:「うちの社員は言われたことしかやらない。もっと主体的な人材が欲しい」

3ヶ月後:明確な目標設定と評価制度を導入した結果、「同じ社員が別人のように積極的になった」

この変化により、新規採用せずに売上が25%向上しました。

❌ 危険な採用思考

  • 「いい人材さえ来れば売上が上がる」
  • 「指示しなくても勝手に働いてくれる」
  • 「自分が何もしなくても利益が出る」
  • 「人材が全ての問題を解決してくれる」
  • 「とりあえず人を増やせば何とかなる」
  • 「現社員に期待するより新人材に賭ける」

✅ 計画的人材活用

  • 明確な経営目標の設定
  • 具体的な要員計画の策定
  • 適切な配置・異動計画
  • 体系的な能力開発計画
  • 公正な人事評価制度
  • 現社員の能力最大化を優先

問題の本質:「目標がない」「計画がない」

でも、人がいないと売上が上がりませんよね?

結局は、社長に「目標がない」「計画がない」のです。

これは30社以上の支援を通じて確信していることですが、「いい人材がいない」と言う社長に共通するのは、経営の設計図が存在しないということです。

🧠 財務コンサルタント的視点での問題分析

財務コンサルタント的にいうと、「明確な経営目標の設定」(これもよく誤解されていますが、願望ではありません)がないのです。

そして、次のような「要員計画」が存在しません:

  • 経営目標・経営計画をブレイクダウンした採用計画
  • 配置・異動計画
  • 賃金計画(昇給・賞与の基準)
  • 能力開発計画(誰に何を身につけてもらうか)
  • 昇進規定(キャリアパスの明確化)
  • 人事評価制度(客観的評価基準)
  • 業務規定(役割と責任の明文化)

これらがないまま「いい人材が欲しい」と言うのは、設計図なしに「いい大工が欲しい」と言うようなものです。

🧠 脳科学が証明する「甘え」の危険性

🔬 理化学研究所の研究が明かす真実

理化学研究所の最新研究によると、人間の脳は「他責思考」に陥りやすい構造を持っています。特に経営者のような責任の重いポジションにいる人ほど、この傾向が強くなります。

「いい人材がいない」という発言は、まさにこの他責思考の現れです。本来であれば自分が解決すべき問題を、外部要因(人材不足)に転嫁することで、一時的に心理的負担を軽減しているのです。

しかし、この思考パターンが習慣化すると、問題解決能力そのものが低下してしまうという恐ろしい研究結果があります。

つまり、そういう言葉をつい発する社長には、「いい人が来て、自分が何も指示しなくても、売上と利益が上がればいいなあ…」という願望があるだけで、経営者が本来やるべきことを棚に上げ、きつい言葉でいうと甘えがあるだけなのです。

📚 デシ・レッパー理論からの洞察

エドワード・デシとリチャード・レッパーの動機づけ研究では、「外発的動機に依存する組織は持続的成果を生まない」ことが証明されています。

「いい人材が来れば…」という思考は、まさに外発的動機(外部からの救済)への依存です。真に成功する組織は、現在のメンバーの内発的動機を引き出す仕組みを持っています。

これは財務面でも同じです。「いい銀行があれば…」「いい税理士がいれば…」ではなく、自社の財務力を内部から高めることが重要なのです。

🚨 経営者としての本質的責任

そういう会社の経営が上手くいくはずがないのです。

優秀な人材は結果であって、原因ではありません。

優秀な人材を引き寄せ、活かせる組織づくりこそが経営者の責務です。

財務改善も人材活用も、すべては「経営者の計画性」から始まるのです。

🏯 近江商人の「人材育成の叡智」

📚 300年実証済みの人材活用法

江戸時代から明治にかけて活躍した近江商人は、決して「いい人材がいない」とは言いませんでした。なぜなら、「人材は育てるもの」という明確な哲学があったからです。

近江商人の人材育成4原則:
1. 奉公人制度:段階的な成長システム
2. 暖簾分け:最終的な独立支援
3. 商人道教育:理念・価値観の共有
4. 実践重視:現場での徹底的な鍛錬

現代の「収益満開経営」でも、この考え方は極めて重要です。現在の社員を最大限に活かすことから始めるべきなのです。

解決の方向性:計画的経営への転換

では、具体的にどうすれば「いい人材がいない」という思考から脱却できるのでしょうか?答えは、経営の基本に立ち返ることです。

【今日から始める計画的経営】

ステップ1:経営目標の明確化

願望ではなく、達成可能で具体的な目標設定から始めます。ここで重要なのは、「売上1億円」のような数字だけでなく、「なぜその目標なのか」「達成するために何が必要なのか」を明確にすることです。

具体的方法:

  • 数値目標と期限の明確化(売上・利益・市場シェア等)
  • 目標達成のための前提条件の洗い出し
  • 競合他社との差別化ポイントの特定
  • 顧客ニーズの詳細分析

注意点:この段階で「人手不足だから無理」という思考を排除することが重要です。まずは現在の人員で何ができるかを考えましょう。

ステップ2:要員計画の策定

目標が明確になったら、それを実現するために「誰が」「何を」「いつまでに」やるのかを具体化します。この時点で初めて、本当に人手が足りないのか、それとも配置や役割分担の問題なのかが見えてきます。

実践例:

  • 目標達成に必要な人員配置の計算
  • 現有人員のスキル・経験の詳細分析
  • 採用・配置・育成計画の立案
  • 外部委託可能業務の特定

成功のコツ:「足りない人材を探す」のではなく、「現在の人材で目標を達成する方法」を最初に考えることです。

ステップ3:制度・仕組みの構築

計画ができたら、それを実行するための仕組みを作ります。多くの社長が見落としているのは、「優秀な人材」よりも「優秀な仕組み」の方が重要だということです。

分析方法:

  • 人事評価制度の整備(客観的基準の設定)
  • 業務規定の明文化(役割と責任の明確化)
  • 能力開発プログラムの策定
  • 情報共有システムの構築

改善策の見つけ方:現在うまくいっている業務や部署の成功要因を分析し、それを全社に展開できないかを検討します。

重要:この段階的なプロセスを一人で進めるのは困難です。しかし、「外部の優秀な人材」ではなく、「専門知識を持った外部パートナー」のサポートを受けることが適切な解決策です。

📊 成功事例:劇的変化を遂げた3社の比較

📖 3社の変革ストーリー比較
項目 C社(製造業) D社(サービス業) E社(小売業)
改善前の状況 「技術者不足で新規受注できない」 「営業力がないから売上が伸びない」 「接客スキルが低くて顧客満足度が上がらない」
実施した対策 既存技術者のスキル向上プログラム導入 営業プロセスの標準化と教育システム構築 接客マニュアル作成と定期研修実施
結果 受注額40%向上(新規採用なし) 売上35%増加(既存メンバーのみ) 顧客満足度80%→95%向上
📈 共通する成功要因
・新規採用に頼らず既存メンバーの能力開発に注力
・明確な目標設定と計画的な取り組み
・継続的な教育・研修システムの構築
・成果を数値で測定・評価する仕組み
・社長自身が「人材育成」に関与

⚠️ よくある失敗パターンと回避法

危険な思考パターン5選

1

「即戦力がほしい」症候群
教育期間を嫌がり、すぐに成果を出せる人材だけを求める危険な思考。結果として採用コストが高騰し、定着率も低下する。

2

「他社成功事例の盲信」
「A社は優秀な人材で成功した」という表面的な情報を信じ、その背景にある仕組みや努力を無視する。

3

「現社員への期待放棄」
新しい人材に期待する一方で、現在の社員の可能性を諦めてしまう。これは既存社員のモチベーション低下を招く。

4

「教育投資の軽視」
人材教育を「コスト」と捉え、投資を控える。結果として人材の成長が止まり、業績も停滞する。

5

「魔法の人材幻想」
一人の優秀な人材がすべての問題を解決してくれるという非現実的な期待。組織的な問題は組織的に解決する必要がある。

まとめ

「うちにはいい人材がいない」という発言は、実は人材の問題ではなく、

経営者自身の計画性の欠如と、現有人材への投資不足を示すサインです。

優秀な人材を求める前に、まずその人材を活かせる組織と仕組みを構築することが先決です。

そして何より、現在の社員の可能性を最大限に引き出すことから始めるべきなのです。

🌸 真の収益満開経営への道

人材は会社の宝ですが、その宝を活かすのは経営者の計画性と実行力です。

「いい人材がいない」から「現在の人材を最大限に活かす」への発想転換こそが、真の成長への第一歩です。

「なんとかなるだろう」から「計画的経営」への転換こそが、持続的繁栄への確実な道筋なのです。


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  1. 第1回:月次試算表で分かる7つの経営実態把握法
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