先日、横浜市内の喫茶店でご支援先の製造業社長と話していたとき、こんな言葉が出ました。「長瀬さん、コロナのときは融資もありましたし、売上もまあまあでした。でも今のほうがよほど怖い」。その言葉が、この記事を書き直す動機になりました。
コロナ禍の2020〜2022年、業種によっては売上が急増した時期がありました。政府は約43兆円のゼロゼロ融資で企業を支え、倒産件数は2021年に6,030件と過去最少を記録しました。一方で「参入しやすい」と言われた焼肉・唐揚げ・高級食パン・無人餃子などの業態に、強みのない参入者が殺到しました。
ところが2025年度(2025年4月〜2026年3月)の倒産件数は1万425件、2年連続で1万件を超えています(帝国データバンク)。しかも大型倒産は減り、負債5,000万円未満の小規模倒産が全体の62.1%を占める——「小さな会社が静かに消えていく」時代に変わりました。
さらに深刻なのは、倒産した社長の多くが直前まで「売上もあるし、何とかなる」と思っていたことです。実際に支援した会社の中には、売上が前年比130%に伸びていたにもかかわらず、運転資金不足で倒産寸前に陥ったケースがありました。「売上が上がっているから大丈夫」という思い込みが、手を打つ機会を奪っていたのです。
30社以上の財務改善支援を通じて、私が感じることがあります。倒産する会社には、時代が変わっても変わらない「共通の構造」がある。コロナ禍の変化と2025年度の最新データを重ねると、その構造がはっきり見えてきます。
財務を軸とした経営コンサルタントとして30社以上の資金繰り改善を支援してきた経験から、倒産を回避し続ける会社と、ある日突然追い詰められる会社の違いを、今回は徹底的に解説します。
古典の叡智である近江商人の「三方よし」「浮利を追わず」、山田方谷の「入りを量りて出を制す」と現代財務理論を融合した「収益満開経営」の視点で、時代を超えた倒産の本質に迫ります。
この記事を読むことで、あなたは以下を得ることができます:
倒産はある日突然起きません。多くの場合、数年前から兆候があります。その兆候に気づき、早く動いた経営者だけが、危機を成長のきっかけに変えることができます。
帝国データバンクの一次データをもとに、2020年から2025年度(2026年3月末)までの倒産件数の推移を整理します。
| 年度 | 倒産件数 | 主な背景 |
|---|---|---|
| 2020年 | 7,773件 | コロナ対策融資(ゼロゼロ融資)により倒産抑制。「官製小康」状態 |
| 2021年 | 6,030件 | 過去最少水準。融資継続・補助金・猶予措置のトリプル効果 |
| 2022年 | 6,428件 | 支援縮小開始。参入しやすい業態でのブーム反動が出始める |
| 2023年 | 8,690件 | ゼロゼロ融資返済本格化。物価高・人件費高騰が重なる |
| 2024年(暦年) | 10,006件 | 12年ぶりの1万件超え。飲食・建設・介護で過去最多 |
| 2025年度(4月〜3月) | 10,425件 | 2年連続1万件超。小規模倒産が62.1%。人手不足倒産が初の400件超 |
📌 傾向変化のポイント:倒産の「質」が変わった
2020〜2022年は大型倒産(負債100億円超)が混在していましたが、2025年度の負債総額は前年度比31%減。件数は増えているのに負債は小さい——これは「小さな会社が静かに消えていく」時代への移行を意味します。負債5,000万円未満が全体の62.1%(2000年度以降最多)という事実が、この構造変化を端的に示しています。
この記事の原型となった2022年当時、私が注目していたのは焼肉・唐揚げ・無人餃子・高級食パン・中古車・飲食業全般での倒産増加でした。2025年度のデータを加えた現在の状況をまとめます。
| 業界 | ピーク・現状 | 本質的な問題 |
|---|---|---|
| 焼肉店 | 2024年55件(過去最多) | 原材料費7割超の上昇。価格転嫁できず体力消耗 |
| 唐揚げ専門店 | 2023年27件→2024年16件 | 淘汰は一巡。しかし残存組も収益構造は脆弱 |
| 高級食パン | 乃が美:240店→116店(継続縮小) | ブーム依存。ブーム終了後の独自価値がなかった |
| 中古車販売 | BALM社831億円破綻(2023年) | 不正問題で業界全体の信頼失墜。「三方よし」の逆を行った |
| 飲食業全般 | 2025年度924件(過去最多更新中) | 人件費高騰+物価高。価格転嫁率42.1%の低さが直撃 |
これらの業界に共通するのは、「参入しやすい」という認識が最大の落とし穴になったという点です。参入が簡単 = 競合も簡単に参入 = 激しい競争 = 利益消滅。この連鎖を止める仕組みを持っていなかった会社が、次々と市場から退出しました。
浮利を追わず——一時的な利益に惑わされるな。
住友家法。住友が400年続く理由の一つがこの家訓です。「今ブームだから参入する」という判断が、まさに「浮利を追う」行為でした。
帝国データバンク「全国企業倒産集計2025年度報」(2026年4月8日公表)から、特に注目すべき数値を抽出します。
危険シグナル①業歴30年以上の倒産:3,278件(過去10年最多)
「長年やってきたから大丈夫」という油断が最大のリスクです。業歴の長さは過去の成功体験の蓄積ですが、それが現状維持バイアスとなり、市場環境の変化への適応を妨げます。韓非子の「守株待兎」——一度成功した方法に固執して環境変化を無視する愚——の現代版です。
危険シグナル②人手不足倒産:441件(初の400件超・過去最多)
そのうち75%が従業員10人未満の小規模事業者。「なぜここで働くのか」を説明できない経営者から人が離れていきます。採用は「条件」より「ビジョン」の時代です。
危険シグナル③販売不振が倒産原因の82.5%(8,608件)
「売れない」のは症状です。本質は独自の価値を作れていないこと。価格転嫁率42.1%(TDB調査)という数字は、過半数の企業が「値上げできない=独自価値がない」状態であることを示しています。
危険シグナル④放漫経営による倒産:194件(4年連続増・過去10年最多)
「知りながら動かない」経営者が増えています。王陽明の知行合一——「知ることと行うことは一体である」——の逆を行く経営者が倒産しています。30社以上を支援してきた経験から言えば、問題を把握しながら先送りする社長の会社は、例外なく悪化します。
危険シグナル⑤物価高倒産:963件(2年連続900件超・過去最多)
原材料・エネルギー・人件費の三重の高騰に耐えられない企業が増加しています。これは「コスト耐性のない財務体質」の問題です。二宮尊徳の「分度」——収入の実態に見合った支出管理——ができていない会社が、外部環境の変化で一気に倒れます。
30社以上の財務改善支援を通じて、倒産する会社と生き残る会社には、業界を超えた本質的な思考の違いがあることがわかってきました。
📐 ビジネス成立の公式
持続的な売上 = 本物の機会 × 模倣困難な強み
「機会」だけ見て「強み」を持たない参入は、掛け算のどちらかがゼロになるため、必ず失敗します。倒産ラッシュに巻き込まれた多くの企業は、機会を見た(ブームに乗った)が、強みを持っていませんでした。
6業界の倒産ラッシュも、2025年度の倒産急増も、実は日本の古典的経営哲学が何百年も前に警告していたパターンです。
備中松山藩の財政再建を成し遂げた山田方谷の教え。まず収入の実態を正確に把握し、それに応じて支出をコントロールする。コロナ融資で手元資金が膨らんだ時期に過剰投資した企業の多くは、「入り」を正確に見ず、「出」を膨らませ続けました。今まさにその請求書が届いています。
300年続いた近江商人の経営原則。売り手・買い手・世間の三方が満足する事業だけが持続します。唐揚げブームに乗った参入者の多くは「売り手(自分)の利益」のみを見ていました。また、「浮利を追わず」——一時的な利益に惑わされない——という家訓は、ブームへの安易な参入への警告そのものです。
小を積んで大と為す。急激な拡大ではなく、着実な改善の積み重ねが持続的成長をもたらします。コロナ禍の一時的好調を「新しい実力」と誤認し、一気に拡大した企業が倒産しました。二宮尊徳が示した「積小為大」の逆——積大(過剰投資)——が命取りになったのです。
倒産傾向の変化と古典の叡智から学んだことを、明日から実践できる具体的な行動に落とし込みます。
✅ 点検①:自社の本当の強みを3つ書き出す
「競合がすぐに真似できない要素は何か」「顧客が他社ではなく当社を選ぶ理由は何か」「10年かけて蓄積してきた資産は何か」——これらに具体的に答えられない事業は、いずれ差別化を失います。「品質が高い」では不十分。測定可能で模倣困難な強みを言語化してください。
✅ 点検②:自社の財務数字を自分の口で説明できるか確認する
支援先の社長に「粗利率は何%ですか」と聞くと、「たぶん30%くらい」と答える方が非常に多い。「たぶん」で経営しているから、問題の発見が遅れ、手を打つ時間がなくなります。月次で試算表を確認し、少なくとも粗利率・営業利益率・現金残高の3つを即答できるようにしてください。
✅ 点検③:価格転嫁できているかを検証する
TDB調査(2026年2月)によれば、コスト上昇分を価格に転嫁できている企業の割合は42.1%——つまり過半数は転嫁できていません。「値上げしたら客が離れる」という恐れが根底にあることが多いですが、これは独自価値が確立できていないサインです。値上げできない会社は、長期的に存在できません。
コロナ禍〜2026年の倒産傾向変化から見えること:
古典の叡智が数百年前から示してきた通り——「浮利を追わず」「三方よし」「積小為大」「入りを量りて出を制す」。時代が変わっても、持続する経営の本質は変わりません。
市場環境は変化し続けます。その変化の中で、自社の本質的な価値を磨き続ける会社だけが、10年後も20年後も存続できます。
倒産はある日突然起きません。多くの場合、数年前から「兆候」があります。その兆候に気づき、早く動いた経営者だけが、経営の危機を成長のきっかけに変えられます。
「和魂洋才」——古典の叡智と現代の財務理論を融合させた収益満開経営の考え方で、あなたの会社が2200年の日本に繁栄を残す企業であり続けることを、心から願っています。
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合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
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