最近、相談の傾向が大きく変わってきました。以前は業歴の長い会社からの相談がほとんどでしたが、会社を作って5期経っていない会社からの相談を受けることが急激に増加しています。これは偶然ではありません。帝国データバンクが集計する「新興企業(業歴10年未満)」の倒産件数は、2025年だけで3,032件に達しました。政府が新設企業を過去最多ペースで生み出している一方で、計画性のない創業が大量の倒産予備軍を生み出しているという構造的矛盾——これが世間に知られていない最大の問題です。
経営コンサルタントとして30社以上の財務改善を支援してきた長瀬好征です。コロナ禍のゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)を経て、2026年現在、日本の中小企業倒産は深刻な局面を迎えています。新設企業の倒産急増というトレンドは、単年の現象ではなく、コロナ禍から続く構造的な問題の帰結です。
この記事を読むことで、次の3点が明確になります。
帝国データバンクは毎月の倒産集計で、業歴別に「新興企業(業歴10年未満)」を個別に集計しています。このデータが示すトレンドは深刻です。
| 期間 | 新興企業倒産件数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2025年(暦年) | 3,032件 | 2000年以降3番目に多い。全倒産の約29.5% |
| 2025年度(4〜3月) | 3,026件 | 4年ぶり減少も3,000件超の高水準継続 |
| 2025年2月時点 | 月241件 | 36カ月連続で前年同月を上回っていた |
2022年から2025年初頭にかけて、業歴10年未満の「新興企業」倒産は36カ月連続で前年同月を上回り続けました(帝国データバンク月次集計)。3年にわたる連続増加は、一時的な景況変動では説明できません。これは構造的なトレンドです。
全倒産件数に占める「業歴10年未満」企業の割合
(帝国データバンク2025年報)
業種別に見ると、新興企業倒産の最多はサービス業(997件)、続いて小売業(711件)、建設業(626件)です。いずれもコロナ禍に新規参入が急増した業種であり、参入障壁の低さが倒産の多さにも反映されています。
さらに注目すべきは規模です。帝国データバンクの2025年度報によれば、負債5,000万円未満の倒産が比較可能な2000年度以降で最多となりました。つまり、倒産増加の主役は大企業ではなく、資本力の乏しい小・零細規模の新設企業なのです。
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東京商工リサーチの2025年調査が、この問題の本質を鮮明に示しています。
2025年には過去最多の新設法人が生まれた一方で、倒産と休廃業・解散も過去最多水準が続きました。この「設立と退出が同時に最多」という異常な状態が何を意味するのか——それは「とりあえず法人を作る」という創業の質的劣化です。
背景には政府の「スタートアップ育成5か年計画」(2022年策定)があります。経営者保証に頼らない融資の促進、商業登記規則改正による代表者住所の非表示など、創業の障壁を下げる政策が功を奏し、社数の面では成果を出しました。しかし東京商工リサーチが指摘するように、増加数の約6割(57.5%)が東京都に集中し、47都道府県のうち26県では新設法人が減少しています。「全国で起業が盛ん」というイメージは、実態と乖離しています。
近江商人が家訓で繰り返した「算(計数管理)の徹底」は、まさにこの問題への処方箋です。商売を始める前に「どう稼ぎ、どう返し、何が残るか」を数字で見通す力——これなき創業は、いつの時代も長続きしません。
東京商工リサーチによれば、ゼロゼロ融資利用後の倒産は2020年7月の第一号発生から累計2,311件(2025年度末時点)に達しました。
| 期間 | ゼロゼロ融資倒産件数 | 特徴 |
|---|---|---|
| 2025年(暦年) | 433件(前年比24.3%減) | 2年連続減少。ただし「倒産の先送り」との指摘 |
| 2025年度(4〜3月) | 410件(前年度比22.7%減) | 資本金1千万円未満が63.9%を占める |
| 累計(2020年7月〜) | 2,311件 | 最多業種:飲食店(60件)、建設業が続く |
件数が減少に転じたことを「問題の終息」と見るのは誤りです。東京商工リサーチは明確に警告しています——「業績改善の伴走支援が伴わないと、単なる倒産の先送りになる」。リスケ(返済猶予)によって倒産を先延ばしにしている企業が相当数存在し、これが件数を抑制しているに過ぎません。
特に深刻なのは、ゼロゼロ融資を利用した企業の約64%が資本金1千万円未満の小・零細企業であるという事実です。これらの会社の多くは、コロナ禍の2020〜2021年に設立されたか、設立直後にゼロゼロ融資を利用した「業歴の浅い会社」と重なります。
——東京商工リサーチ、2025年新設法人調査レポート(2026年5月)
支援現場での経験から言えば、財務危機に直面した新設企業の経営者が最も多く口にするのは「売上を上げれば解決する」という言葉です。しかし財務体質が悪化した会社に売上をただ増やしても、コストも比例して膨らみ、資金繰りはむしろ悪化します。リスケも、その間に抜本的な財務改善をしなければ時間を買っているだけです。
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東京商工リサーチは2026年の倒産展望として、4つのリスク要因を指摘しています。これらはいずれも、財務基盤の弱い新設企業に直撃します。
帝国データバンクは2025年度報で「人手不足倒産が過去最多の442件」を記録したと報告しています。人件費高騰195件、求人難139件、従業員退職108件——この問題も新設企業に特有の打撃を与えます。採用ブランドのない小規模新設企業は、優秀な人材の確保が大企業に対して圧倒的に不利だからです。
政府は2026年4月から各都道府県のよろず支援拠点内に「生産性向上支援センター」を設置しました。しかし東京商工リサーチが指摘するように、「支援軸をどこに置くかを含め、金融機関や公的支援による伴走支援のあり方が問われている」——計画のない企業への支援継続は、問題の先送りにしかならないのです。
江戸末期の陽明学者・山田方谷は、財政破綻寸前の備中松山藩を立て直した際、最初に行ったのは「藩の財政実態の完全な把握」でした。中国古典『礼記』の「入りを量りて出を制す」——収入を正確に把握し、それに基づいて支出を管理するという原則——を徹底したのです。
新設企業の経営者に欠けているのも、まさにこの「実態把握」です。売上の数字は追いかけていても、キャッシュフローの実態、借入の返済スケジュール、固定費の構造——これらを数字で把握している経営者は驚くほど少ない。
業歴の浅い会社の経営者のほとんどは、悪意があって計画を立てなかったわけではありません。財務の基礎を学ぶ機会がなかった。借りやすい環境があった。売上を上げることに全力を注いでいた——これらはすべて理解できます。
しかし、政府の支援は「延命」から「自立」へと軸足を移しました。リスケで時間を買っている間に、事業構造を変え、財務体質を改善しなければ、コロナ借換保証の最終返済ピーク(2026年4〜9月)が致命傷になりかねません。
二宮尊徳の「積小為大」が示すように、大きな変革は小さな一歩から始まります。「返済スケジュールを一覧化する」という2時間の作業が、経営者の認識を根本から変える第一歩です。データに基づいた科学的な経営改善こそが、2200年の日本に繁栄を残すための基盤となります。
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