顧問税理士から「今期も黒字ですね」と言われるだけで終わり、銀行からは追加担保や個人保証を求められる——そんな相談を、私はこれまで何度も受けてきました。決算書は読めても、その数字を「次の一手」に変換できない。これが、多くの社長が営業利益と向き合う中で抱える本当の痛みです。経営コンサルタントとして30社以上を支援した経験から、営業利益を真の経営戦略に活用するための実践的アプローチをお示しします。
経営コンサルタントとして30社以上の会社を支援してきた経験から、営業利益の基本的な定義は理解していても、それを実際の経営判断に活用できていない経営者が大多数であることが分かりました。「税理士は税務申告のプロであって、その数字をどう経営に活かすかまでは教えてくれない」——これは、私が支援先の社長から幾度となく聞いてきた言葉です。
ドラッカーは「利益は企業の目的ではなく、事業を継続するための条件である」と喝破しました。この視点に立てば、営業利益とは「経営者が将来に向けて活用すべき資源の量」を示す指標であり、それをどう読み解き、どう次の打ち手に結びつけるかが問われています。
今回は、渋沢栄一の「論語とそろばん」の精神に基づき、古典の叡智と現代経営理論を融合させた視点から、営業利益を真の経営力向上に活用する7つの実践的アプローチを解説します。
この記事を読むことで、次の3点が明確になります。
営業利益活用法を理解するためには、まず営業利益が持つ多面的な意味を把握することが重要です。
この計算式は会計上の定義ですが、営業利益活用法では、この数字から読み取れる経営情報をどう活用するかが重要です。
損益計算書には売上総利益(粗利)・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益という5つの利益が並びますが、それぞれ「何を測るための数字か」がまったく異なります。売上総利益は「商品・サービスそのものの稼ぐ力」、経常利益は「本業+財務活動を含めた通常の稼ぐ力」、当期純利益は「特別損益・税金まで反映した最終結果」を示します。
その中で営業利益だけが「本業のオペレーションの巧拙」を純粋に映し出す指標です。売上総利益は原価構造だけを、経常利益は財務活動の影響まで含んでしまうため、「経営判断の精度」を測るには情報が粗すぎたり、逆に混ざりすぎたりします。本記事が営業利益に絞って7つの活用法を解説するのは、この「本業の実力を映す唯一の利益」だからこそ、経営判断の起点として最も使いやすいためです。各利益の定義そのものを体系的に知りたい方は、後述の関連記事「損益計算書の利益構造」もあわせてご覧ください。
本業での資源活用がどれだけ効率的に行われているかを示す。同じ売上を上げるのに、A社は100の販管費を使いB社は70で済んでいるなら、B社の方が「経営の筋肉質度」が高いといえます。
会社の核となる事業がどれだけの収益を生み出せるかを表す。営業外の一時的な収益に頼らず、本業だけで稼げる力を示します。銀行が最も重視する指標の一つです。
将来への投資余力と戦略的選択肢の幅を示唆する。「今期の営業利益でどれだけの設備投資ができるか」「何年で借入を返済できるか」という計算の出発点になります。
📌 関連:損益計算書の5つの利益の違いと、それぞれが経営判断で果たす役割について解説しています。
→ 損益計算書の利益構造|社長が理解すべき5つの利益の本質
営業利益活用法の第一歩は、自社の営業利益率を業界標準と比較することです。支援現場でまず行うのは「業界平均との比較」です。例えば製造業の営業利益率の業界平均は4〜6%程度ですが、自社が2%なら「どこに無駄があるか」を探す、12%なら「この優位性をどう維持・拡大するか」を考える、という起点になります。
営業利益の構造を詳細に分析することで、改善すべき優先領域を明確にできます。支援現場では「売上総利益分析」と「販管費分析」を必ず同時に行います。
商品・サービスの収益性
価格設定の妥当性
原価管理の効率性
販売費の投資効率
管理費の適正性
固定費・変動費の最適化
実務で重要なのは、販管費を「固定費」と「変動費」に分解することです。固定費は売上に関わらず発生するコストであり、売上が下がった際に経営を圧迫します。販管費の構造を把握することで、「売上が下がっても赤字にならない損益分岐点」が明確になります。
金融機関は営業利益を会社の信用力評価の重要指標として活用します。30社以上の支援経験から言えば、銀行が最も重視するのは「継続性」と「安定性」です。
設備投資や人材投資の意思決定にも営業利益データを活用します。基本的な考え方は「この投資が何年で回収できるか」です。例えば500万円の設備投資を検討する場合、この設備導入で年間の営業利益が100万円改善するなら回収期間は5年。これを「許容できるか」が判断基準になります。
支援現場では「ROI(投資収益率)を計算せずに設備投資を決めてしまった」というケースが後を絶ちません。営業利益を起点に「この投資の回収見通し」を数字で示すことが、経営判断の質を根本から変えます。
複数事業を展開する企業では、事業部門別の営業利益分析が事業ポートフォリオ最適化の鍵となります。「感覚では主力事業が一番儲かっている気がする」という社長に、部門別の営業利益を可視化すると「実は副業部門が全体の利益を支えていた」という発見が生まれることがあります。
競合他社との営業利益率比較を通じて、自社の競争優位性を分析し、差別化戦略を立案します。営業利益率が高い競合には「なぜ高いのか」を分析することで、自社の改善ヒントが得られます。逆に自社の方が高い場合、その優位性を維持する要因を明確にし、経営戦略に組み込むことが重要です。
過去の営業利益データを基に、将来の営業利益を予測し、複数のシナリオを想定した経営計画を策定します。楽観・標準・悲観の3シナリオを設定し、「悲観シナリオでも事業継続できるか」を確認することが重要です。2025年度の物価高倒産が過去最多水準に達しているという現実を見れば、シナリオプランニングは「あれば望ましい」から「必須の経営ツール」に変わっています。
銀行融資の成功確率を高めるために営業利益データを戦略的に活用します。金融機関は営業利益の安定性と成長性を重視するため、これらの要素を強調した資料作成が重要です。
支援現場では「財務改善のため営業利益率を3%から9%に改善した実績」を持って銀行交渉に臨んだ製造業の社長が、従来より1%低い金利での融資を実現したケースがあります。営業利益の数字は「借り手の交渉力」に直結します。
📌 関連:財務認識の構造的課題として、経営者が陥りがちな3つの誤解について解説しています。
→ 財務認識の構造的課題|経営者が知るべき3つの本質
渋沢栄一の「論語とそろばん」の精神を営業利益活用法に応用すると、道徳的な事業運営と合理的な利益追求の両立が重要であることが分かります。
論語(道徳):社会に価値を提供することで得られる営業利益——顧客が喜んで代金を支払う事業のみが、継続的な利益を生む
そろばん(合理性):効率的な経営による継続的な営業利益確保——感情や慣習ではなく、数字で経営の実態を把握し改善する
この両方が調和してこそ、真の営業利益活用法が実現します。
近江商人の「三方よし」の精神を営業利益活用法に応用すると、適正な営業利益こそが「三方よし」を持続可能にする基盤であることが分かります。利益なき事業は継続できず、継続できない事業は顧客にも社会にも貢献できません。
年商5億円の製造業D社は、営業利益活用法の導入により以下の成果を達成しました。まず現状分析で「販管費の中の人件費比率が業界平均より5%高い」ことを特定。次いで業務プロセスの見直しと役割の再定義を実施。その結果——
この変革の起点は「自社の営業利益率と業界平均の比較」という、ベンチマーク分析の一歩でした。D社の社長も、当初は税理士から渡される試算表を「見るだけ」で終わらせていた一人でした。
営業利益活用法は、単なる財務指標の理解を超えて、企業の持続的成長を実現するための総合的な経営手法です。古典の叡智と現代経営理論を融合させることで、真の「収益満開経営」への道筋が見えてきます。
「黒字ですね」で終わる会話から一歩踏み出し、数字の表面的な理解ではなく、その背景にある経営の本質を読み取り、実践的な改善に活用すること——これが経営者に求められる「営業利益を活かす力」です。
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