資金繰り改善の手法 その17社債の発行

2024.05.18

中小零細企業の社長が悩んでいるのが、「お金」のこと、要は資金繰りだと思います。

現場で財務改善を支援している財務コンサルタントが、

資金繰りを改善する手法を伝えていきます。

 

17 社債の発行

社債とは企業が資金を調達するための借入金のひとつです。企業が投資家から

一定期間資金を借り入れ、その間一定の利息を支払い、最後に元金を返済するという

仕組みです。

 

具体的には次のようなステップで行われます。

  1. 企業が社債を発行すると決めて、金額や利率、返済期間などの条件を設定します。
  2. 投資家に社債の購入を呼びかけ、希望者から資金を集めます。購入した投資家は社債の保有者になります。
  3. 企業は集まった資金を運転資金や設備投資などに使用できます。
  4. 企業は社債の利息を期間中定期的に社債保有者に支払います。
  5. 最終的に企業は社債の元金を一括して社債保有者に返済します。

 

社債発行と新株発行による資金調達の違いは以下の通りです。

 

【資金調達方式の違い】

  • 社債発行は借入れに該当し、発行企業は債務を負います。元金と利息の支払い義務が発生します。
  • 新株発行は増資により資本を調達する方式です。株主に対して配当支払い義務が発生します。

 

【所有者の違い】

  • 社債の保有者は債権者に過ぎず、企業の経営権は持ちません。
  • 新株の保有者は株主となり、一定の経営参加権を持ちます。

 

【返済・配当の違い】

  • 社債は発行条件どおり確実に元利金の返済が必要です。
  • 新株の配当は、企業の業績次第で変動し、支払い義務はありません。

 

【法的性質の違い】

  • 社債は企業の債務であり、債務超過で債権者が優先権を持ちます。
  • 新株は企業の資本の一部であり、債権者に劣後します。

 

【発行コストの違い】

  • 社債は利払いコストが恒常的に発生します。
  • 新株は増資手数料等のコストは一時的です。

 

【財務への影響】

  • 社債は負債が増え自己資本比率が低下します。
  • 新株は自己資本が増え財務健全性が高まります。

 

社債の発行のメリットとデメリットは次の通りです。

【メリット】

  1. 多額の長期資金の調達が可能 銀行借入れよりも大規模な資金調達ができ、長期的な資金需要に対応できます。
  2. 有利子負債によるコストの減税効果 支払う社債利息は損金算入されるため、法人税負担を軽減できます。
  3. 財務体質の改善 自己資本比率が高まり、財務基盤が強化されます。
  4. 債権者の分散 多数の投資家から資金を調達できるので、リスクが分散されます。

【デメリット】

  1. 発行コストがかかる 社債発行に際しては、引受手数料や発行事務費用などのコストが発生します。
  2. 定期的に利払いが必要 発行条件に従い、確実に利払いを継続する必要があります。
  3. 債務不履行のリスク 返済が滞った場合、債務不履行に陥るリスクがあります。
  4. 情報開示義務が発生 社債を発行すると、一定の情報開示が法的に義務付けられます。
  5. 期限前償還の制約 一般に期限前償還には一定の制約があり、機動性に欠けます。

このように、会社にとっては恒常的な利払い負担が課されますが、長期的な資金調達手段として有効に

活用できるメリットがあります。発行時の条件設定が重要となります。

 

もっとも、中小企業においては、一般的な社債の発行ではなく、少人数私募債による社債の発行

が使われています。

 

一般公募社債と少人数私募債の主な違いは以下の通りです。

【発行対象者の違い】

一般公募社債は、不特定多数の投資家を対象に発行されます。 少人数私募債は、あらかじめ特定された              少人数(49人以下)の投資家のみを対象に発行されます。

 

【開示規制の違い】 一般公募社債の場合、発行開示資料の作成や継続的な情報開示が義務付けられています。              少人数私募債の場合、開示規制は一般公募社債ほど厳しくありません。

 

【発行コストの違い】 一般公募社債は引受手数料や開示関連費用などのコストがかさみます。                      少人数私募債は発行コストが一般に低く抑えられます。

 

【メリット】

少人数私募債の方が開示負担が軽く、発行コストも低い

【デメリット】
少人数私募債は調達額に制約があり、資金需要額が大きい場合は公募が必要です。   。

このように、少人数私募債は開示コストが低く抑えられるメリットがある半面、調達額に制約がある               というデメリットもありますが、中小企業ではそれほどデメリットとはいえないでしょう。

 

まとめると、社債の発行は、銀行からの借入れとは異なり、多くの投資家から資金を調達できるメリット

があります。

 

ただし発行条件次第では高額の利息負担が生じる可能性もあります。

資金繰り改善のために活用されていますが、返済能力や財務内容を考慮する必要があります。

つまり、計画性のある活用が重要です。