資金繰り改善の手法 その19値上げによる売上高の改善

2024.05.20

中小零細企業の社長が悩んでいるのが、「お金」のこと、要は資金繰りだと思います。

現場で財務改善を支援している財務コンサルタントが、

資金繰りを改善する手法を伝えていきます。

 

19 値上げによる売上高の改善

 

値上げによる売上高の改善は、資金繰りを改善する重要な手段の1つです。

簡単に説明しますと、次のようなメリットがあります。

  1. 利益率の改善 製品やサービスの価格を上げることで、1件あたりの利益額が増えます。                   原価が変わらなければ、売上高が同じでも利益率が上がります。
  2. キャッシュフローの改善
    売上高が増えれば、入ってくるキャッシュ(現金)の額も増えます。                            在庫などの運転資金への負担が少なくなり、資金繰りが楽になります。
  3. 価格競争力の向上 同業他社に比べて価格を上げることで、高付加価値なイメージを醸成でき、                価格競争力が上がる可能性があります。

一方で、値上げには以下のようなデメリットもあります。

  • 売上げ数量の減少 価格が上がれば、一部の顧客が手が届かなくなり、売上げ数量が減る可能性があります。
  • 競争力の低下 過度の値上げは競合他社に比べ割高になり、シェアを失う恐れがあります。

 

しかし、殆どの社長が値上げは難しいと始めから思い込んでいます。

 

特に下請けをやっている会社に多く見受けられます。

下請け企業の社長の方々が値上げを渋る背景には、このような理由があります。

①発注元企業との継続的な取引関係を重視  発注元企業に値上げを許可してもらえなければ、                  発注がなくなる恐れがある。長年の取引関係を維持したい。

②価格競争に敗れるリスク  同業他社が値上げしないまま自社だけ値上げすれば、価格競争                   で大きく不利になる。

③受注減少への不安  値上げにより受注量が減れば、経営が成り立たなくなる。

しかし、値上げが必要な理由は以下の通りです。

1.適正な利益を確保できない 原材料価格の高騰や人件費上昇で、発注単価が原価を下回るようでは                   利益が出ずに経営が成り立ちません。

2.設備投資や人材育成ができない
利益が出ないと将来的な競争力の源泉となる設備投資や人材育成もできません。

3.資金繰りが悪化する 収支がマイナスになれば、運転資金の確保が難しくなり、倒産のリスクが高まります。

 

特に、今のような急激に円安が進んでおり、資源価格及び人件費が高騰している時期においては必須といえます。

 

つまり、値上げは企業の持続的な発展のために避けられない課題なのです。

 

最初は思い切った値上げは難しいかもしれませんが、少しずつ原価に見合うよう値上げを重ね、

適正な利益の確保を目指すべきでしょう。

そうでなければ、いずれ経営が立ち行かなくなる可能性があるのです。

 

でもなかなか値上げができません。

それは、社長の思考プロセスにいくつかの誤りがあると感じています。

  1. 自社の強みや価値創造への自信の欠如 品質が高いということは、自社の強みであり価値創造の               源泉です。しかし、その強みを適正に評価し、対価を求める自信が経営者に欠けているのかも               しれません。
  2. 短期的な利益確保への過度の重視 値上げすれば短期的には受注減少のリスクがあります。                  経営者は将来的な成長よりも、当座の受注と売上確保を優先してしまう傾向があるかもしれません。
  3. 競争環境への過度の警戒心 他社が値上げしないため、自社も値上げできないと考えている可能性が               あります。自社の強みを過小評価し、競合他社への警戒を過度に重視しすぎているのかもしれません。
  4. 取引先との関係性重視のアンバランス 発注元との長年の関係を重視しすぎて、自社の適正な利益確保            が二の次になっている可能性があります。
  5. リスク回避姿勢の偏り 値上げによるリスクを過剰に恐れ、成長機会を逸している側面があるのかもしれません。

経営においては、自社の強みや価値創造を正しく認識し評価すること、短期と長期のバランスを取ること、

リスクをある程度許容することなどがとても重要です。

こうした観点が欠落していると、適正な値上げ判断ができなくなる可能性があります。

 

そして、値上げができない、最大の原因は、計画性のなさです。

値上げのような重大な決定は、十分な計画と準備が不可欠です。

計画性が欠けているので、

  • 中長期的な経営計画が立てられていないため、値上げの必要性や影響を検討できない
  • 原価計算や適正価格の検討が不十分で、値上げ水準が適切でない
  • 需要の価格弾力性を予測できず、値上げリスクを過小評価してしまう
  • 値上げの財務影響を財務面から検討できていない
  • 値上げによる収益向上効果を具体的に見積もれていない

つまり、計画性が欠如しているため、値上げの意義、影響、リスクなどを多角的に検討し、

適切に対応することができません。

これに対し、しっかりとした計画プロセスを経ることで、値上げが経営にもたらす影響を予め分析し、

望ましい値上げ水準を見極め、リスク対策を講じることができます。

 

このように、値上げは計画性が非常に重要な意思決定なのです。

経営における計画性の重要性を再認識する必要があります。