資金繰り改善の手法 その27 前受金の活用

2024.05.28

中小零細企業の社長が悩んでいるのが、「お金」のこと、要は資金繰りだと思います。

現場で財務改善を支援している財務コンサルタントが、

引き続き資金繰りを改善する手法を伝えていきます。

27 前受金の活用

前受金の活用は、資金繰りを改善する有効な手段の一つです。

簡単に言えば、顧客から先に支払いを受け取ることで、一時的に運転資金を確保する方法です。

 

具体的な例を挙げると分かりやすいでしょう。

 

例えば、あなたが工事業者で、大規模な建設工事を請け負った場合を考えましょう。

工事には多額の費用がかかりますが、代金の支払いは工事完了後になります。

この場合、工事費用の一部を顧客から前払いとして受け取ることができれば、工事期間中の資金繰りが楽になります。

 

また、サブスクリプションサービスやソフトウェアの年間ライセンス料なども前受金の一種です。

顧客から料金を前払いで受け取ることで、事業者側は運転資金を確保できます。

 

ただし、前受金は一時的な資金繰り対策に過ぎません。

前受金を過度に活用すると、債務超過に陥るリスクもあります。

適切な水準を維持することが重要です。

 

前受金は、先払いのでもあるにもかかわらず「資金が潤沢にある」と錯覚を起こします。

前受金による錯覚が起こる主な原因は以下の通りです。

  1. 前受金が収入として計上されるため、一時的に売上が膨らむ
  2. 実際の役務提供や製品納品は後になるため、実際の支出はそれよりも遅れる
  3. 前受金の一部が経費に回されてしまい、役務提供時に資金不足になるリスク

このように、前受金は一時的な キャッシュフローを改善しますが、本質的な収支には変わりません。

むしろ将来の債務を先取りしているに過ぎません。

前受金のデメリットとして以下の点に気を付ける必要があります。

  • 過度に前受金に依存すると債務超過に陥る危険がある
  • サービス提供が遅れた場合、返金リスクが発生する
  • 会計上の売上計上時期と実際のキャッシュフローがずれる
  • 前受金管理を誤ると資金繰り破綻の原因になる

具体的には、リフォーム会社、美容クリニック、英会話学校など、前受金ビジネスモデルを採用している

業界で経営破綻した事例が多数あります。

 

【リフォーム会社の例】 ・顧客から工事の前払金を受け取るが、着工が遅れる ・人件費や材料費の高騰で

想定外のコスト増 ・完工が遅れ、顧客からの工事代金の支払いが滞る ・前受金を別の工事に流用してしまう

こうして資金繰りが悪化し、倒産に至るケースが多い

 

【美容クリニックの例】
・施術の前払い料金制が一般的 ・人気医師が施術を抱え込み、予約が1年待ちに ・前受金の入金から施術実

施までの期間が長期化 ・施設や人件費の運営費で前受金が消化される ・返金請求が相次ぎ、債務超過に陥る

 

【英会話学校の例】 ・料金は数ヶ月〜1年分を前払い ・生徒減少で新規の前受金の入金が途絶える
・講師料など固定費で前受金が失われる ・授業を行えずに返金が必要になり資金繰りが悪化 ・最終的に返金が

滞り、債権者からの取立てで倒産

 

このように、前受金ビジネスでは、提供サービスの遅延などで前受金の入金と支出のタイミングが大きくずれると、

返金リスクが高まり資金繰りが破綻します。

 

適切な入金管理とサービス提供の両立が鍵となります。

 

したがって、前受金活用の際は以下の点に留意することが重要です。

  • 過度な前受金依存に陥らないよう、健全な収支構造を維持する
  • 前受金の使途を役務提供などの本来の目的に限定する
  • 前受金の残高管理を適切に行い、債務の状況を常に把握する
  • 会計処理と実際の資金繰りを区別して認識する

 

つまり、前受金のビジネスモデルだから資金繰りが安泰というのではなく、健全な経営計画と適切な管理が

不可欠です。

 

前受金ビジネスモデルでは、以下のような点に留意する必要があります。

  1. 継続的に新規の顧客から前受金を獲得できる収益計画
  2. 提供するサービスや製品のコストを的確に見積もる
  3. 前受金の入金から役務提供/納品までのタイミングを適切に管理
  4. 前受金の会計処理と実際のキャッシュフローの乖離に注意
  5. 万が一の返金リスクに備えた手許資金の確保

つまり、前受金は一時的な資金繰り改善策に過ぎず、本質的な収益性がなければ持続可能なビジネスモデル

にはなりません。前受金がある状態でも、常に健全な事業計画とキャッシュフロー管理が欠かせません。

 

安泰と考えて経営判断を誤れば、前受金の返金リスクや債務超過などの事態に陥る可能性があります。

前受金ビジネスモデルであっても、しっかりとしたビジネスプランと適切なリスク管理が不可欠なのです。