資金繰り改善の手法 その33 月次棚卸しの重要性と実践的アプローチ

2024.09.06

会社はヒト、モノ、カネ、情報で構成されていると言われています。
そして、その中で、日本の中小零細企業は「カネ」で苦労しています。

本当は、「カネ」の問題が一番解決しやすい問題です。
中小企業専門で財務コンサルティングをしている長瀬好征が、資金繰り
改善の手法を一つ一つ説明していきます。

その33 月次棚卸しの重要性と実践的アプローチ

多くの社長は棚卸しに膨大な時間がかかると誤解しています。
実際は、計画的に行えば思ったほど時間はかかりません。

具体例:
文房具店Aさんは、月次棚卸しを始める前、「1週間はかかる」と考えていました。
しかし、重要度別に在庫を分類し、計画的に実施したところ、実際にかかった時間は以下の通りでした:

– 高額商品(全体の20%で売上の80%を占める):2時間/月
– 中程度の商品:3時間/月
– その他の商品:3時間/月(3ヶ月に1回)

結果、月平均6時間程度で完了し、これにより月商の10%相当の過剰在庫を発見。この金額を運転資金として活用でき、
資金繰りが大幅に改善しました。

段階的アプローチの有効性

全ての在庫を一度に確認する必要はありません。重要度や回転率に応じて頻度を変えることで、効率的な棚卸しが可能です。

具体例:
飲食店Bさんは、以下のように棚卸しの頻度を設定しました:

– 高額食材(肉、魚):毎日10分
– 一般食材:週1回30分
– 備品、調味料:月1回1時間

この方法により、食材廃棄率が5%から2%に低下。月10万円の原価削減につながり、資金繰りに余裕が生まれました。

重要度別管理の効果

全ての在庫を同じように管理する必要はありません。ABC分析などを用いて重要度別に管理することで、効率的な在庫管理が可能になります。

具体例:
アパレルショップCさんは、商品を以下のように分類しました:

A:高額商品(売上の70%を占める20%の商品)- 週次確認
B:中程度の商品(売上の20%を占める30%の商品)- 隔週確認
C:その他の商品 – 月次確認

この方法により、品切れによる機会損失が月50万円から10万円に減少。同時に、過剰在庫も20%削減でき、200万円の資金が解放されました。
この資金で新商品の仕入れが可能となり、売上増加につながりました。

リアルタイム管理の導入

すべての棚卸しを月末に一斉に行う必要はありません。
日常業務の中に組み込むことで、より正確で効率的な在庫管理が可能になります。

具体例:
電器店Dさんは、POSシステムを導入し、販売時に自動的に在庫が更新されるようにしました。
また、商品の入荷時にもすぐにシステムに反映させるルールを設けました。その結果:

– 日々の実地棚卸し作業が30分から5分に短縮
– 月末の棚卸し作業が1日から2時間に短縮
– 在庫の正確性が向上し、発注の精度が上がったことで、欠品率が5%から1%に低下
– 過剰在庫が20%削減され、500万円の資金が解放。この資金で新規顧客向けのキャンペーンを実施し、売上が15%増加

  資金繰りとの直接的な関係

月次棚卸しは、単なる在庫確認ではなく、資金繰り改善の重要なツールです。

具体例:
文具メーカーEさんは、月次棚卸しを始めてから以下の効果を実感しました:

– 滞留在庫(6ヶ月以上動きのない商品)を発見し、特価販売を実施。300万円の現金化に成功
– 過剰発注を防ぐことで、月平均200万円の仕入れコストを削減
– この資金を活用して、納入業者への早期支払いを実現。その結果、2%の追加割引を獲得し、年間100万円のコスト削減につながった

結論:
月次棚卸しは、思ったほど時間がかからず、段階的・計画的に実施することで十分に実現可能です。
重要なのは、まず始めてみること。小さな範囲から始め、徐々に範囲を広げていくアプローチが有効です。

棚卸しを通じて得られる正確な在庫情報は、過剰在庫の削減、欠品の防止、仕入れの最適化などにつながり、結果として資金繰りの大幅
な改善をもたらします。
これは、新規投資や事業拡大の機会を生み出し、企業の持続的な成長を支える重要な経営ツールとなります。

まずは、最も重要な商品や原材料から月次棚卸しを始めてみましょう。その効果を実感することで、全社的な取り組みへと発展させていく
ことができるはずです。

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