【現場での現実】「棚卸は決算のとき税理士がやってくれる」——この一言が、資金繰り悪化の入口です
30社以上の中小企業の財務改善を支援してきた私が断言します。製造業・小売業・卸売業を問わず、月次で棚卸を実施している中小企業にほぼ出会ったことがありません。決算書の在庫欄には「会社保管の通り」とだけ記され、在庫の実態は社長自身も把握していない——これが日本の中小企業の現実です。
帝国データバンク「全国企業倒産集計2025年度報」(2026年4月公表)によれば、2025年度の倒産件数は1万641件と3年連続で増加しています。そしてこの中には、売上が伸びていた会社、黒字だった会社が相当数含まれています。「資金繰りの悪化に気づいたときには手遅れだった」というケースの多くで、在庫の実態把握が遅れていました。
在庫は「現金が形を変えたもの」です。100万円の在庫を持つことは、100万円の現金を倉庫に閉じ込めることと同義です。その在庫が月次で見えていない会社は、現金がどこに滞留しているかを把握していないことになります。
しかし多くの社長は「毎月の棚卸は大変そう」「うちの規模では無理」と思い込んでいます。この思い込みの正体は「全商品を毎月数えなければならない」というイメージです。ABC分析を使えば、管理対象は全商品の約20%に絞れます。そのわずか20%を毎月確認するだけで、資金繰り改善効果の8割以上が得られるのです。
経営コンサルタントとして30社以上の資金繰り改善を支援してきた経験から言えば、在庫の動きが月次で見えていない会社は「目隠し運転」と変わりません。資金繰りが突然悪化しても、どこに原因があるのか特定できないのです。ABC分析と月次棚卸の組み合わせは、この目隠しを外すための、最もシンプルで即効性のある手法です。
近江商人の経営哲学「日々損益を明らかにしないでは寝につかぬ」は、まさに現代の月次棚卸の精神そのものです。渋沢栄一が「論語とそろばん」と説いたように、理念と数字は車の両輪——その数字の土台となるのが在庫の実態把握です。この記事では、古典の叡智を実践レベルに落とし込んだ「ABC分析×月次棚卸」の完全手順をお伝えします。
この記事を読むことで、次の3つが手に入ります。
月次棚卸は単なる作業ではありません。「なんとかなるだろう」という感覚経営を卒業し、「数字で語れる経営者」になるための、最初の一歩です。
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「棚卸は決算のとき税理士がやってくれるから大丈夫」——この一言が、資金繰り悪化の最初の入口です。
コンサルティング現場で社長に「棚卸はどうされていますか?」と聞くと、9割以上がこう答えます。「決算のときに税理士と一緒にやっています」と。しかし決算棚卸は税務申告のためのもの。経営判断に使えるリアルタイムの在庫情報とは全く別物です。
私がこれまでの支援現場で聞いてきた「月次棚卸をしない理由」は、主に以下の3つに集約されます。
この3つの思い込みに共通するのは、「月次棚卸=全商品を毎月数える作業」というイメージです。この誤解を解くことが、月次棚卸を始める最初の鍵になります。次のセクションで、その誤解を根本から取り除く「ABC分析」の考え方をお伝えします。
月次棚卸の最大の誤解は「全商品を毎月数えなければならない」という思い込みです。ABC分析を使えば、管理対象を全商品の約20%に絞っても、資金繰り改善効果の8割以上が得られます。
ABC分析は「パレートの法則(80対20の法則)」に基づいています。どんな業種でも、売上の約80%は全商品の約20%によってもたらされています。この2割の商品が「A商品」です。A商品の在庫動向を月次で把握するだけで、資金繰りに直結する在庫リスクの大部分はカバーできます。
逆に言えば、残りの80%の商品(B・C商品)を毎月数えても、資金繰り改善への寄与は限定的です。全商品を同じ頻度で管理しようとするから「大変」になるのであって、重要度に応じて管理頻度を変えれば、負担は劇的に軽減されます。
この分類により、棚卸の作業量は年1回全商品確認と比べて大幅に削減されながら、資金繰りへの影響が大きい商品は毎月把握できるようになります。A商品だけに絞れば、多くの中小企業で月次棚卸は2時間以内に完了します。
ABC分析を始める前に、次の2点を確認してください。
分析前の確認事項
① 直近3ヶ月の商品別売上データが取得できるか(レジシステム・販売管理ソフトから出力できることが条件)
② 商品点数の把握(全体が100品目未満ならExcel、100〜500品目でもExcelで対応可能。500品目超は販売管理ソフトの活用を推奨)
この2点が確認できれば、次のセクションで説明する業種別の考え方を踏まえて、自社のABC分類を設計できます。
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ABC分析の考え方は共通ですが、業種によってA商品の品目数・在庫リスクの性質・棚卸の着眼点が異なります。自社の業種特性を踏まえた設計が、月次棚卸を「形式」ではなく「経営ツール」にする鍵です。
製造業の特性
製造業では、在庫は「原材料」「仕掛品」「製品」の3段階で存在します。ABC分析の対象は通常「原材料」と「製品」に絞ります。仕掛品は生産管理の問題であり、棚卸より工程管理で対応するのが適切です。
月次管理のポイント:A原材料の在庫残量が適正発注点を下回っていないか、過剰在庫になっていないかの2点を確認します。製造業では原材料の欠品が生産停止に直結するため、A原材料の管理は特に重要です。
目安品目数:原材料が100種類以上ある場合、売上貢献度の高い製品の主要原材料20〜30品目をA商品として特定するのが現実的です。
プラスチック製造業E社(従業員20名)では、月次棚卸により主要原材料5品目の消費パターンが数値で見えるようになりました。以前は担当者の感覚で発注していたものを、データに基づく「適正発注点×発注量」ルールに切り替えた結果、在庫コストを25%削減し、同時に欠品による生産停止もゼロになりました。
小売業の特性
小売業では商品点数が多く、死に筋商品が棚を占有していることが最大のリスクです。死に筋の仕入れに資金を使い続けることで、売れ筋商品の仕入れ資金が圧迫されます。ABC分析で「仕入れてはいけない商品」を可視化することが、資金効率の改善に直結します。
月次管理のポイント:A商品の在庫回転率(月次売上÷月末在庫)を追うことで、売れ行きの変化を早期に察知できます。季節商品は回転率の変化が資金繰りに直結するため、特に重点管理します。
目安品目数:取扱い商品が500品目の場合、売上上位20%の約100品目がA商品。まずこの100品目を毎月確認することから始めます。
アパレル小売業C社では、月次棚卸データの分析で死に筋商品が明確になりました。死に筋の仕入れを停止し、売れ筋に在庫投資を集中した結果、同じ仕入れ予算で粗利率が15%向上しました。「勘」で仕入れていた時代との最大の違いは、データが意思決定の根拠になった点です。
卸売業の特性
卸売業では、仕入れ単価が高く在庫金額が大きくなりやすいため、長期不動在庫の存在が資金繰りに深刻な影響を与えます。売上は立っているのに現金が手元にないという「黒字倒産型」の資金繰り悪化は、卸売業で特に多く見られます。
月次管理のポイント:A商品の在庫回転日数(在庫金額÷月次売上原価×30)を追います。回転日数が60日を超えてきたら要注意のサインです。
目安品目数:取扱いアイテム数が少なくても単価が高い卸売業では、金額ベースでのABC分析が重要です。在庫金額上位20%のアイテムをA商品とします。
機械部品商社A社(従業員12名)では、月次棚卸を導入して3ヶ月後、倉庫の奥に眠っていた長期不動在庫を整理したところ、現在も代替品として需要のある商品が見つかりました。仕入れ先経由で買い取り先を探し、150万円の臨時現金化に成功。その月の資金繰りの山場を乗り越えることができました。
「棚卸と資金繰りは別の話では?」と思う社長も多いでしょう。しかし在庫は仕入れた時点で現金が形を変えています。売れるまでその現金は「眠った状態」です。在庫の動きを月次で把握することは、現金の動きを把握することと同義なのです。
年1回の決算棚卸では、倉庫の「死に筋在庫」や「長期不動在庫」が1年近く放置されます。月次棚卸では毎月の在庫動向を追うため、3〜6ヶ月動いていない商品を早期に発見できます。この在庫を現金化することで、臨時の資金繰り改善が可能になります。前述の機械部品商社A社の150万円臨時現金化はその典型例です。
在庫を多く持つことは「安心」に見えて、実際は現金を倉庫に閉じ込めることです。食品製造業B社では月次棚卸により特定原材料の過剰仕入れが発覚。発注ルールを見直した結果、在庫金額を30%削減し、年間200万円の資金効率改善を実現しました。
在庫金額削減
年間資金効率改善
アパレル小売業C社では、月次棚卸データの分析で死に筋商品が明確になりました。死に筋の仕入れを停止し、売れ筋に在庫投資を集中した結果、同じ仕入れ予算で粗利率が15%向上しました。「勘」で仕入れていた時代との決定的な違いは、データが意思決定の根拠になった点です。在庫圧縮による資金繰り改善の手法と組み合わせることで、さらに大きな効果が生まれます。
建設資材業D社では月次棚卸の開始から2ヶ月で、高価な工具の帳簿との差異が発覚しました。調査の結果、現場での保管ルールに問題があることが判明。管理体制を整備することで、年間50万円規模の損失を防止できると試算されています。年1回の決算棚卸では、この損失は1年近く気づかれないままでした。
月次棚卸により在庫の消費パターンが数値で見えてくると、発注のタイミングと量をデータに基づいて設計できます。プラスチック製造業E社では担当者の感覚発注をデータ発注に切り替えた結果、在庫コストを25%削減しつつ、欠品による生産停止もゼロになりました。在庫の「適正水準」が初めて数値で明確になったのです。
精密機器製造業F社は、月次棚卸データを3ヶ月分まとめて融資相談の資料として持参しました。銀行担当者から「在庫管理がこれだけ整備されている中小企業は珍しい」と評価を受け、金利0.2%優遇の条件で融資を受けることができました。月次棚卸は財務体質の強さを数字で示す「信用の証」でもあります。黒字なのに資金繰りが苦しい根本原因を理解した上で金融機関に資料を持参すると、より説得力が増します。
在庫の動きが月次で把握できると、「この商品はそろそろ仕入れを絞るべきか」「このカテゴリーへの投資を増やすべきか」という判断がデータに基づいてできるようになります。「なんとなく」の経営から「数字で語れる」経営への転換——これが月次棚卸がもたらす最大の変化です。小売業G社(従業員15名・年商3億円)では、ABC分析導入後6ヶ月で総在庫金額25%削減・年間300万円のキャッシュフロー改善を実現しました。
特別なシステムは不要です。Excelがあれば、最初の設定に30分かけるだけで、翌月からの月次棚卸が仕組み化されます。以下の5ステップで完成します。
コピーしてすぐ使えるABC分析テンプレート関数
C2(累積売上):=SUM($B$2:B2)
D2(構成比):=C2/SUM($B$2:$B$最終行)*100
E2(ABC分類):=IF(D2<=70,”A”,IF(D2<=90,”B”,”C”))
F2(棚卸頻度):=IF(E2=”A”,”毎月”,IF(E2=”B”,”四半期”,”半年”))
※C2・D2・E2・F2を入力後、最終行までドラッグコピーする
ABC分類が完成したら、A商品だけを抽出した「月次棚卸チェックシート」を別シートに作成します。このシートに以下の列を追加します。
月次棚卸チェックシート(A商品専用)の列構成
このチェックシートを毎月月末に実施します。所要時間はA商品が20〜50品目であれば1〜2時間です。月次棚卸の最大のポイントは「数えること」ではなく「差異を発見し、原因を特定すること」です。差異が生じたら翌月以内に原因を特定する習慣をつけることが、在庫管理の精度向上につながります。
小売業G社(従業員15名・年商3億円)導入後6ヶ月の改善実績
月次棚卸を3ヶ月続ければ、在庫の動きにパターンが見えてきます。そのパターンが経営判断の精度を高め、資金繰り予測の精度を高め、最終的には「数字で語れる経営者」への道につながります。
近江商人は「日々損益を明らかにしないでは寝につかぬ」という精神で商いを営んでいました。在庫の動きを毎日把握し、何が売れて何が売れていないかを常に意識していた。これは現代で言えば月次棚卸そのものです。
彼らが300年以上にわたって繁栄し続けた理由の一つは、「三方よし」の理念とともに、数字に対するこの真摯な向き合い方にありました。感覚ではなく、数字に基づいて経営判断をする習慣——月次棚卸はその第一歩です。
渋沢栄一は「道徳と経済は車の両輪」と説きましたが、私はこれに「数字の裏付け」が必要だと考えています。近江商人の「三方よし」も、適正な利益が確保されてこそ実現できる。そのためには、在庫という現金の変形物をきちんと把握し、資金繰りを安定させることが土台となります。
二宮尊徳は「分度」という概念を説きました。分度とは「収入の範囲内で生活・経営する」という原則です。在庫管理の文脈で言えば、「売れるだけ仕入れる、売れないものは持たない」という在庫の分度です。月次棚卸は、この分度を現代経営に実装する最もシンプルな仕組みです。
石田梅岩の石門心学は「正直」と「倹約」を商人の徳目として説きました。在庫の実態を正直に把握し、過剰な在庫を持たない倹約の精神——この東洋的な経営哲学は、現代のABC分析という西洋的な管理手法と見事に一致しています。和魂洋才の実践そのものです。
月次棚卸は単なる作業ではありません。「なんとかなるだろう」という感覚経営を卒業し、数字で語れる経営者になるための修練です。まずは来月から、A商品だけでも月次棚卸を始めてみませんか。その一歩が、資金繰りを安定させ、金融機関からの信頼を高め、経営判断の精度を高めることにつながります。
月次棚卸は「全商品を毎月数える」作業ではありません。ABC分析で重要商品を全体の20%に絞り込めば、毎月2時間以内の確認作業で資金繰りを大きく改善できます。
決算棚卸は税務申告のための年1回の作業であり、経営判断に使えるリアルタイムの在庫情報とは別物です。年1回では死に筋在庫や過剰仕入れの発覚が1年近く遅れてしまいます。A商品だけでも月次で確認することで、資金繰り悪化の兆候を早期に察知できます。
まず直近3ヶ月の商品別売上データを準備し、Excelで売上金額の降順に並び替えてください。累積構成比が70%までをA商品、90%までをB商品、それ以外をC商品とする基準で自動分類できます。500品目を超える場合は販売管理ソフトの活用をおすすめします。
差異数量と差異金額を記録し、翌月以内に原因を特定する習慣をつけてください。差異の原因は誤発注・盗難・記録ミスなどさまざまですが、放置すると年1回の決算棚卸まで発覚しないため、月次での早期発見・早期対応が損失の最小化につながります。
【AI活用に関する透明性について】本記事は、経営コンサルタント長瀬好征の実務経験・知見をもとに、AIツールを活用して作成しています。記事内の事例・数値・経営判断の視点はすべて長瀬の実務に基づくものです。
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合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
「和魂洋才」による収益満開経営で、失われた30年を終わらせ、
2200年の日本に繁栄を残す
長瀬好征(ながせ よしゆき)
経営コンサルタント|合同会社エバーグリーン経営研究所 代表
横浜を拠点に30社以上の中小企業の財務改善をサポート。在庫管理・資金繰り改善を専門とし、「和魂洋才」の理念のもと日本古来の叡智と現代財務理論を融合した「収益満開経営」を確立。ABC分析を活用した月次棚卸の導入支援を通じて、多くの「感覚経営」から「数字で語れる経営」への転換を実現してきた。
失われた30年を終わらせ、2200年の日本に繁栄を残すため、経営者の皆様と共に歩んでいます。