資金繰り改善の手法 その39 取引条件の見直しで資金繰りが改善する

2024.11.05

取引条件の見直しで資金繰りが改善する?

~放置された取引条件が会社を蝕む~

 

「うちの取引条件? そういえば10年以上前からそのままですね…」

 

このような返答をする経営者が実に多いのです。

取引条件の定期的な見直しは、実は会社の収益性と資金繰りを大きく左右する

重要な経営課題なのです。

 

特に近年、原材料費の高騰や人件費の上昇、さらには働き方改革による残業規制など、

企業を取り巻く環境は大きく変化しています。

 

にもかかわらず、取引条件だけが何年も前のまま据え置かれている。

これは、じわじわと会社の体力を奪っていく”静かな脅威”といえます。

 

ある製造業の例をお話しします。

金属加工業A社(年商3億円)では、主要取引先との取引条件を5年ぶりに見直してみました。

すると、驚くべき事実が判明したのです。

 

原材料費は30%上昇、人件費は20%上昇していたにもかかわらず、販売価格は5年前とほぼ同じ。

さらに、仕入先への支払いは現金なのに、販売先からの回収は翌々月末という条件も、

「昔からそうだから」と漫然と続けていました。

 

結果として、利益率は5年前の8%から3%まで低下。

資金繰りも常に3,000万円ほどの運転資金が不足する状態が続いていたのです。

A社は、この状況を改善するため、次のような取り組みを始めました。

 

まず、年2回の定期的な取引条件見直しを制度化。具体的には以下の項目をチェックします。

・原材料費の変動

・労務費の変動

・運送費などの経費変動

・支払・回収条件の適正性

・取引量の変化

・緊急対応の頻度

そして、これらの変化を数値化し、取引先との交渉材料としました。

 

「一方的なお願い」ではなく、「Win-Winの関係構築」を目指した交渉を行います。

例えば、仕入先には「安定発注のメリット」を提示し、支払条件の緩和を相談。

販売先には「納期短縮や品質向上」と引き換えに、回収条件の改善を提案しました。

重要なのは、これを「定期的な業務」として組み込むこと。

 

毎年の経営計画に「取引条件見直し」を明確に位置づけ、担当者も決めて、計画的に

実施していきます。

 

この取り組みの結果、A社では2年かけて以下のような改善を実現できました:

・仕入先3社と支払条件を翌月末に変更

・販売先2社と回収条件を翌月末に短縮

・一部製品の価格改定に成功

・運転資金2,000万円の改善

・営業利益率が3%から6%に改善

 

特筆すべきは、この過程で取引先との関係がむしろ強化されたことです。

定期的なコミュニケーションを通じて、互いの経営課題や将来計画を共有できるように

なったからです。

 

放置された取引条件は、気づかないうちに会社の収益力を奪っています。

かといって、急激な変更は取引関係を損ないかねません。

 

だからこそ、定期的な見直しの仕組みづくりが重要なのです。

 

まずは、こんなチェックから始めてみてはいかがでしょうか?

・主要取引先との条件は何年前からのものですか?

・この間、コストはどれくらい変化しましたか?

・取引条件の見直しは誰が、いつ行いますか?

 

「昔からそうだから」という考えが、いつの間にか会社を蝕んでいるかもしれません。

定期的な取引条件の見直しは、健全な企業経営の基本といえるでしょう。