取引条件の見直しで資金繰りが改善する?
~放置された取引条件が会社を蝕む~
「うちの取引条件? そういえば10年以上前からそのままですね…」
このような返答をする経営者が実に多いのです。
取引条件の定期的な見直しは、実は会社の収益性と資金繰りを大きく左右する
重要な経営課題なのです。
特に近年、原材料費の高騰や人件費の上昇、さらには働き方改革による残業規制など、
企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
にもかかわらず、取引条件だけが何年も前のまま据え置かれている。
これは、じわじわと会社の体力を奪っていく”静かな脅威”といえます。
ある製造業の例をお話しします。
金属加工業A社(年商3億円)では、主要取引先との取引条件を5年ぶりに見直してみました。
すると、驚くべき事実が判明したのです。
原材料費は30%上昇、人件費は20%上昇していたにもかかわらず、販売価格は5年前とほぼ同じ。
さらに、仕入先への支払いは現金なのに、販売先からの回収は翌々月末という条件も、
「昔からそうだから」と漫然と続けていました。
結果として、利益率は5年前の8%から3%まで低下。
資金繰りも常に3,000万円ほどの運転資金が不足する状態が続いていたのです。
A社は、この状況を改善するため、次のような取り組みを始めました。
まず、年2回の定期的な取引条件見直しを制度化。具体的には以下の項目をチェックします。
・原材料費の変動
・労務費の変動
・運送費などの経費変動
・支払・回収条件の適正性
・取引量の変化
・緊急対応の頻度
そして、これらの変化を数値化し、取引先との交渉材料としました。
「一方的なお願い」ではなく、「Win-Winの関係構築」を目指した交渉を行います。
例えば、仕入先には「安定発注のメリット」を提示し、支払条件の緩和を相談。
販売先には「納期短縮や品質向上」と引き換えに、回収条件の改善を提案しました。
重要なのは、これを「定期的な業務」として組み込むこと。
毎年の経営計画に「取引条件見直し」を明確に位置づけ、担当者も決めて、計画的に
実施していきます。
この取り組みの結果、A社では2年かけて以下のような改善を実現できました:
・仕入先3社と支払条件を翌月末に変更
・販売先2社と回収条件を翌月末に短縮
・一部製品の価格改定に成功
・運転資金2,000万円の改善
・営業利益率が3%から6%に改善
特筆すべきは、この過程で取引先との関係がむしろ強化されたことです。
定期的なコミュニケーションを通じて、互いの経営課題や将来計画を共有できるように
なったからです。
放置された取引条件は、気づかないうちに会社の収益力を奪っています。
かといって、急激な変更は取引関係を損ないかねません。
だからこそ、定期的な見直しの仕組みづくりが重要なのです。
まずは、こんなチェックから始めてみてはいかがでしょうか?
・主要取引先との条件は何年前からのものですか?
・この間、コストはどれくらい変化しましたか?
・取引条件の見直しは誰が、いつ行いますか?
「昔からそうだから」という考えが、いつの間にか会社を蝕んでいるかもしれません。
定期的な取引条件の見直しは、健全な企業経営の基本といえるでしょう。