資金繰り改善の手法 その40 顧客ターゲット設定

2024.11.12

 

資金繰り改善の意外な方法 ~顧客ターゲットの絞り込みが資金を生み出す~

 

資金繰り改善というと、

多くの経営者は

「売上を増やす」

「経費を削減する」

「借入を増やす」

といった方法を考えます。

 

しかし、実は別のアプローチがあります。

 

それは「顧客ターゲットの絞り込み」です。

 

金属加工業A社(年商3億円)の事例をお話しします。

 

この会社は100社以上の取引先を持ち、様々なロットサイズ、即日から1ヶ月までの納期、

現金から手形120日まで多様な支払条件で、粗利率も10%から40%まで幅広い取引を行っていました。

 

一見、多くの顧客を抱え、柔軟な対応をしているように見えます。

 

しかし、実態は小ロット対応による段取り替えの多発、緊急対応による残業の常態化、売掛金の長期化、

在庫の増加により、資金繰りが著しく悪化していました。

 

なぜ、この状況が起きるのでしょうか。「お客様の要望には何でも応える」というのは、一見正しいように思えます。

 

しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。

 

まず、経営資源が分散されます。

 

設備の非効率な稼働、人員配置の無駄、管理コストの増加が発生します。

 

次に、資金が固定化されます。

様々な材料の在庫増加、売掛金の長期化により、運転資金が増大します。

そして、収益性が低下します。

非効率なオペレーション、値引き要請への脆弱性、品質管理コストの上昇が利益を圧迫するのです。

 

A社は、この状況を改善するため、顧客の絞り込みを行いました。

 

基準は三つ。

収益性(粗利率30%以上、安定的な発注量、適正な単価)、

取引条件(支払サイト60日以内、定期的な発注、計画的な納期)、

将来性(成長が期待できる、長期的な取引が可能、技術力向上につながる)です。

 

この基準に合う30社に取引を集中した結果、驚くべき変化が起きました。

 

確かに売上は減少しましたが、

粗利率は改善、在庫は%削減、売掛金の平均回収期間は短縮、残業は%削減され、運転資金は大きく改善されたのです。

 

なぜ、これほどの改善が可能だったのでしょうか。

それは、在庫、売掛金、業務効率の三つの面で相乗効果が生まれたからです。

 

必要な材料が明確になり在庫が削減され、回収条件が統一されてキャッシュフローが安定化し、

段取り替えの削減により生産効率が大幅に向上しました。

 

多くの経営者は「売上を増やさなければ」「もっと顧客を増やさなければ」という考えに縛られています。

 

しかし、時には「選択と集中」が、より健全な経営への近道となります。

顧客ターゲットの絞り込みは、単なる顧客数の削減ではありません。

それは経営資源の最適配分であり、収益構造の改善であり、資金効率の向上につながる重要な経営判断なのです。

 

まずは、自社の主要顧客10社について、取引条件、収益性、将来性を整理してみましょう。

そこから、自社の理想的な顧客像が見えてくるはずです。

その気づきが、資金繰り改善への第一歩となるのです。