資金繰り改善の意外な方法 ~顧客ターゲットの絞り込みが資金を生み出す~
資金繰り改善というと、
多くの経営者は
「売上を増やす」
「経費を削減する」
「借入を増やす」
といった方法を考えます。
しかし、実は別のアプローチがあります。
それは「顧客ターゲットの絞り込み」です。
金属加工業A社(年商3億円)の事例をお話しします。
この会社は100社以上の取引先を持ち、様々なロットサイズ、即日から1ヶ月までの納期、
現金から手形120日まで多様な支払条件で、粗利率も10%から40%まで幅広い取引を行っていました。
一見、多くの顧客を抱え、柔軟な対応をしているように見えます。
しかし、実態は小ロット対応による段取り替えの多発、緊急対応による残業の常態化、売掛金の長期化、
在庫の増加により、資金繰りが著しく悪化していました。
なぜ、この状況が起きるのでしょうか。「お客様の要望には何でも応える」というのは、一見正しいように思えます。
しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。
まず、経営資源が分散されます。
設備の非効率な稼働、人員配置の無駄、管理コストの増加が発生します。
次に、資金が固定化されます。
様々な材料の在庫増加、売掛金の長期化により、運転資金が増大します。
そして、収益性が低下します。
非効率なオペレーション、値引き要請への脆弱性、品質管理コストの上昇が利益を圧迫するのです。
A社は、この状況を改善するため、顧客の絞り込みを行いました。
基準は三つ。
収益性(粗利率30%以上、安定的な発注量、適正な単価)、
取引条件(支払サイト60日以内、定期的な発注、計画的な納期)、
将来性(成長が期待できる、長期的な取引が可能、技術力向上につながる)です。
この基準に合う30社に取引を集中した結果、驚くべき変化が起きました。
確かに売上は減少しましたが、
粗利率は改善、在庫は%削減、売掛金の平均回収期間は短縮、残業は%削減され、運転資金は大きく改善されたのです。
なぜ、これほどの改善が可能だったのでしょうか。
それは、在庫、売掛金、業務効率の三つの面で相乗効果が生まれたからです。
必要な材料が明確になり在庫が削減され、回収条件が統一されてキャッシュフローが安定化し、
段取り替えの削減により生産効率が大幅に向上しました。
多くの経営者は「売上を増やさなければ」「もっと顧客を増やさなければ」という考えに縛られています。
しかし、時には「選択と集中」が、より健全な経営への近道となります。
顧客ターゲットの絞り込みは、単なる顧客数の削減ではありません。
それは経営資源の最適配分であり、収益構造の改善であり、資金効率の向上につながる重要な経営判断なのです。
まずは、自社の主要顧客10社について、取引条件、収益性、将来性を整理してみましょう。
そこから、自社の理想的な顧客像が見えてくるはずです。
その気づきが、資金繰り改善への第一歩となるのです。