資金繰り改善の手法 その41 「売上が出るならどんな注文でも」が会社を蝕む

2024.11.15

「売上が出るならどんな注文でも」が会社を蝕む

~感情に振り回される経営の危険性~

 

先日、ある製造業の社長から興味深い相談を受けました。

 

「大口の注文が来たんです。

 

でも、生産ラインを完全に止めて、この注文に集中しないと間に合わない。

 

どうすれば良いでしょうか?」

 

私が「既存の取引先への影響は?」と尋ねると、

 

「それは何とかなるでしょう。こんな大きな注文、断れないですよ」。

 

この判断の裏には、ある危険な思い込みが潜んでいます。

 

金属加工のA社(年商3億円)の例をお話しします。

この会社は製品アイテム2,000種類以上、顧客数300社以上を抱え、小ロットから

大ロットまで様々な受注に対応し、納期も即日から1ヶ月まで柔軟に応えていました。

 

一見、柔軟で顧客思考の強い会社に見えます。

 

しかし、実態は違いました。

 

現場では段取り替えの連続による生産効率の低下、納期遅れの常態化、品質トラブルの増加、

社員の疲弊が起きていました。

 

財務面では在庫が増え、売掛金回転期間が長くなり、資金繰りが逼迫していたのです。

 

この状況を生んだ原因は、三つの感情的な判断にありました。

 

まず「断れない病」

。大口注文への過剰な期待から、既存顧客への影響を考慮せず、生産計画が混乱します。

 

次に「何でもやります症候群」。

過剰な製品アイテムを抱え、非効率な在庫管理と管理コストの増大を招きます。

 

そして「今月の売上病」。

採算を度外視した受注、キャパシティオーバーの約束、品質管理の軽視につながっていきます。

 

対照的に、同業のB社はあえて制限を設けました。

製品アイテムを限定し、最小ロット個数を決め、納期は標準2週間、新規取引は月2社までと決め

たのです。

 

結果は驚くべきものでした。営業利益率の改善、在庫の縮小、売掛金回収期間が短縮され

ました。資金繰りが安定したのです。

 

なぜ、制限が成功を生むのでしょうか。

 

まず、オペレーションが安定します。

効率的な生産計画が可能となり、品質管理が徹底され、従業員の技能向上にもつながります。

 

次に、経営資源が最適に配分されます。

在庫の適正化、設備稼働率の向上、人材の専門性強化が実現します。

 

そして、財務体質が改善されます。

運転資金の削減、収益性の向上、投資余力の創出が可能となるのです。

 

感情に流されない経営のためには、明確な基準の設定が必要です。

受注の最小ロット、標準納期、取引条件、製品アイテム数などの基準を定め、それを判断基準と

して活用します。

 

利益率の下限、在庫回転率の目標、品質基準、設備稼働率などを明確にし、定期的に検証して

いく必要があります。

 

「売上が出るなら」

「お客様が望むなら」

「大口の注文だから」。

 

これらの感情的な判断が、実は会社の体力を奪っているかもしれません。

 

経営判断には、「感情」ではなく「理性」が必要です。

 

自社の強みは何か?どんな生産体制が最適か?どの程度の受注が管理可能か?

これらを冷静に見極め、あえて「制限」を設けることが、持続可能な経営への近道なのです。

 

先のB社の社長はこう言います。

「断るべき仕事を断る勇気。それが経営者として最も難しく、そして最も重要な判断かもしれません」

 

今一度、自社の在り方を感情ではなく理性で見つめ直してみませんか?

 

それが、真の経営改善への第一歩となるはずです。