資金繰り改善の手法その47
【補助金活用の落とし穴 – 経営者が知っておくべき実務と教訓】
中小企業支援策として様々な補助金制度が展開されています。
特にコロナ禍以降、最大1億円規模の事業再構築補助金に代表されるような大型の補助金
が登場し、多くの社長の関心を集めました。
しかし、補助金活用には思わぬ落とし穴が潜んでいます。
実例を交えながら、経営者が知っておくべき補助金活用の実態と注意点についてお伝えします。
【補助金活用の基本的な仕組み】
多くの社長は、特に財務の初心者は「補助金はもらえるお金だから、資金繰り改善の即効薬になる」
と考えがちです。
しかし、これは大きな誤解です。
補助金活用の一般的な流れは以下の通りです:
1. 事業計画の立案と申請
2. 審査・採択
3. 事業の実施(自己資金での立替払い)
4. 実績報告書の提出
5. 審査
6. 補助金の交付
ここで最も重要なのは、補助金が振り込まれるのは事業完了後だという点です。
つまり、事業実施時には全額を自社で立て替える必要があります。
【事業再構築補助金から学ぶ教訓】
事業再構築補助金の実例は、補助金活用の難しさを如実に示しています。
1. 安易な模倣の危険性
– フルーツサンド専門店
– インドアゴルフ施設
– 無人販売・自動販売機ビジネス
これらの事業は、時期によって採択事例の「流行」となりました。
しかし、安易な模倣は市場の飽和を招き、結果として多くの事業が苦戦を強いられることになりました。
2. 補助金ビジネスの横行
– 実現可能性を無視した事業計画の量産
– 高額な申請代行費用の発生
– 形式的な要件合わせ
【補助金活用の現実的なコスト】
例えば、1000万円の設備投資に対して500万円の補助金が交付される場合を考えてみましょう。
実際の支出:
– 設備費用:1000万円
– 申請関連費用:50万円
– 専門家への委託費:30万円
合計:1080万円の立替払い
このとき、以下のような影響が発生します:
1. 短期的な資金繰りの圧迫
– 全額立替払いの負担
– 運転資金への影響
– 予期せぬ追加費用のリスク
2. 見えないコストの発生
– 申請書類作成の工数
– 実績報告書作成の負担
– 証憑書類の管理コスト
– 人員の配置と教育
【経営者が押さえるべきポイント】
1. 事業計画が先、補助金は後
– 補助金ありきではなく、本来必要な投資かを検討
– 補助金がなくても実施する価値のある事業であるか
– 自社の強みを活かした独自の展開
2. 資金繰りの綿密な計画
– 立替払い期間の資金計画
– 金融機関との連携
– 予備費の確保
– 運転資金への影響考慮
3. 実施体制の整備
– 社内の担当者・体制の明確化
– 適切な外部専門家の選定
– 書類管理体制の構築
【補助金活用の判断基準】
以下の点をチェックリストとしてご活用ください:
□ 補助金なしでも実施する価値のある事業か
□ 立替払いの資金的余裕はあるか
□ 社内に実施体制を整備できるか
□ 専門家への依頼費用は適正か
□ 市場性・競合状況を十分に分析しているか
□ 自社の強みを活かせる事業か
□ 長期的な収益性は確保できるか
【まとめ – 経営者としての心構え】
補助金は、適切に活用すれば企業成長の強力な後押しとなります。
しかし、安易な活用や模倣は、かえって経営を圧迫する可能性があります。
補助金活用を検討する際は、以下の点を特に意識してください:
1. 補助金は「もらえるお金」ではなく、「事業発展のための一時的な支援」
2. 立替払いを含めた資金計画が不可欠
3. 人的・時間的コストも重要な考慮要素
4. 市場分析と独自性の追求が成功の鍵
まずは自社の経営状態と事業計画を冷静に見つめ直し、補助金活用が本当に適切な
選択かを見極めることが重要です。
補助金は事業発展の手段であって目的ではありません。
この原則を忘れずにしていただきたいと思います。