「未回収債権が増えている」
この状況を、単なる回収業務の問題として捉えていませんか?
実は、これは経営全体を揺るがしかねない重大な警告シグナルなのです。
未回収債権の問題を軽視しがちな理由は明確です。
売掛金は資産として計上され、会計上は企業の財産として扱われます。
また、いずれ回収できるだろうという楽観的な見方も、問題の深刻さを
見えにくくしています。
しかし、未回収債権の増加は、実はより深刻な経営課題の表れなのです。
まず理解すべきは、未回収債権の本質です。これは単なる「回収漏れ」
ではありません。
むしろ、以下のような重大な経営課題が表面化した結果として捉えるべきです。
第一に、営業現場の状況を表すサインです。未回収債権が増加する背景には、
往々にして無理な販売活動が隠れています。
売上達成のプレッシャーから、与信管理が甘くなり、回収可能性の低い取引先
との取引を継続してしまう。
このような状況は、営業現場が健全な判断を失いつつあることを示しています。
第二に、商品やサービスの競争力低下を示すシグナルかもしれません。
支払いを滞らせる取引先が増加する背景には、自社の提供する価値が相対的に
低下している可能性があります。取引先にとって、支払いの優先順位が下がっ
ているということは、ビジネスモデルそのものを見直す必要性を示唆しています。
第三に、これは組織の管理体制の不備を表しています。
未回収債権の増加は、営業部門と管理部門の連携不足、与信管理の形骸化、
情報共有の不足など、組織としての機能不全を示す重要なサインなのです。
さらに深刻なのは、未回収債権を放置することで引き起こされる連鎖的な影響です。
まず、資金繰りへの直接的な影響があります。売掛金の回収遅延は、運転資金の不足
を招きます。
その結果、仕入先への支払いが遅れ、信用力の低下を招くことになります。
これは取引条件の悪化や、新規取引の制限にもつながりかねません。
次に、社内の士気への影響です。回収業務に追われる営業担当者は、新規営業活動の
時間を失います。
管理部門との軋轢も生まれやすく、組織全体の生産性低下を招く要因となります。
さらに、経営判断を誤らせる要因にもなります。未回収債権があたかも実在する資産
のように見えることで、実態以上に財務状況を良く見せてしまい、誤った投資判断や
事業計画の立案につながる危険性があります。
最も警戒すべきは、この問題が時間とともに深刻化することです。
未回収債権を抱えた状態で新規の取引を続ければ、問題は雪だるま式に大きくなります。
気づいたときには、企業の存続そのものを脅かす規模にまで膨れ上がっているかもしれ
ません。
では、どのように対応すべきでしょうか。
まず重要なのは、未回収債権を「警告シグナル」として正しく認識することです。
表面的な回収強化だけでなく、なぜ未回収債権が発生しているのか、その根本的な
原因を分析する必要があります。
具体的には、以下の観点からの検証が必要です:
・営業活動の健全性
・与信管理体制の実効性
・組織間連携の状況
・商品・サービスの競争力
・取引条件の適切性
未回収債権の問題は、実は経営改革の重要な契機となり得ます。
この問題に真摯に向き合うことで、企業経営の様々な課題が見えてきます。
それは、より強固な経営基盤を構築するための貴重な機会となるはずです。
次回は「売上至上主義の落とし穴」として、未回収債権増加の背景にある売上偏重の経
営がもたらす問題について、より詳しく解説していきます。