資金繰り改善の手法 その51 悪循環のメカニズム

2025.01.30

資金繰り改善の手法その51
「資金繰り改善の落とし穴:未回収債権が生む危険な悪循環」

事業を継続していく上で、資金繰りの改善は常に重要な経営課題です。

特に業績が思わしくない企業にとって、手元資金の確保は死活問題となります。

しかし、その過程で陥りやすい危険な悪循環があります。

 

今回は、未回収債権を中心に、この問題について解説していきます。

 

資金繰りが悪化する企業では、売上の低迷、利益率の低下、固定費の増加、

在庫の増加などが主な原因となっています。

これらの要因により手元資金が不足すると、経営者は往々にして

「売上を増やせば何とかなる」という考えに傾きがちです。

 

資金繰りに困った企業が最初に取る行動は、多くの場合「売上の拡大」です。

とにかく売上を立てれば現金が入ってくる、売上が増えれば固定費を賄える、

規模の経済で収益性も改善する、という考えが基本にあります。

 

しかし、ここで重大な落とし穴が待ち構えています。

 

売上を急激に増やすために、企業は次第に与信管理を緩めていきます。

取引条件の緩和(支払期限の延長)、信用調査の簡略化、新規取引先の安易な

受け入れ、既存の未払い客への追加販売などを行うようになります。

 

これらの施策は一時的に売上を押し上げますが、同時に重大なリスクを抱え込

むことになります。

 

与信管理の緩和は、必然的に支払い遅延の増加、貸し倒れリスクの上昇、資金回収

期間の長期化、営業債権の膨張といった問題を引き起こします。

皮肉なことに、売上増加を目指した施策が、かえって資金繰りを悪化させる結果と

なるのです。

 

売掛金の増加により運転資金が固定化され、回収遅延による資金繰りの圧迫、貸倒

引当金の積み増しによる収益悪化、金融機関の信用低下といった負の連鎖が始まります。

 

この悪循環から抜け出せない理由には、心理的要因、組織的要因、財務的要因があります。

 

心理的には、売上の見かけの改善による安心感や問題の先送り志向、現状否認があります。

組織的には、営業部門の評価基準が売上中心であることや、与信管理部門の権限弱体化、

経営層の危機意識の欠如が挙げられます。

財務的には、運転資金の固定化、借入余力の低下、信用力の低下といった問題が生じます。

 

この悪循環の怖さは、その進行が緩やかで気づきにくい点にあります。

最初は売上は増加するものの回収期間が若干延びる程度です。

次第に未回収債権が徐々に増加しますが、まだ許容範囲内と考えられます。

しかし、一部取引先の経営悪化により回収が滞り始めると、連鎖的に未回収が増加し、

資金繰りが急速に悪化していきます。

 

この悪循環から抜け出すためには、まず与信管理の厳格化が必要です。

取引条件の見直し、信用調査の徹底、取引限度額の設定などを行う必要があります。

また、回収体制の強化も重要で、回収専門チームの設置、早期回収インセンティブの導入、

法的手段の活用なども検討すべきです。さらに、営業方針を優良顧客への集中、利益率重視

の営業、新規取引先の慎重な選定へと転換することも必要です。

 

資金繰り改善のための売上追求は、往々にして未回収債権の増加という新たな問題を生み出

します。この悪循環を断ち切るためには、短期的な売上至上主義から脱却し、健全な与信管理

と確実な回収を重視する経営姿勢への転換が不可欠です。

経営者は、「売上の質」を常に意識し、持続可能な成長戦略を構築することが求められます。

未回収債権の問題は、単なる財務上の課題ではなく、企業経営の根幹に関わる重要な経営課題

として認識し、取り組む必要があります。