資金繰り改善の手法 その57 取引先との関係性を考える

2025.03.13

未回収債権問題の本質に迫るこのシリーズも、今回で9回目となりました。

これまで経営視点や組織内部の問題に焦点を当ててきましたが、今回は

視点を外に向け、取引先との関係性について考えていきます。

 

なぜ悪い取引条件を受け入れるのか

多くの企業、特に中小企業が直面する課題として「不利な取引条件の受け入れ」

があります。120日や150日といった長い支払いサイトや、一方的な値下げ要求

を受け入れてしまう企業は少なくありません。

 

なぜこのような状況が生じるのでしょうか。

 

第一に「力関係の非対称性」が挙げられます。

 

大企業と中小企業の取引では、売上依存度の差が交渉力の差となります。

取引先にとっては全体の数%の取引でも、自社にとっては売上の30%以上

を占めるケースも珍しくありません。

 

このような状況では「この取引を失うわけにはいかない」という心理が働き、

不利な条件でも受け入れてしまうのです。

 

第二に「短期的視点による判断」があります。

目の前の売上を確保することを優先するあまり、長期的に見れば自社の経営を

圧迫する取引条件を受け入れてしまいます。

 

「今月の売上目標を達成したい」「とりあえず工場を稼働させたい」といった切迫

した事情が、冷静な判断を鈍らせることがあります。

 

第三に「自社価値の過小評価」も大きな要因です。自社の提供する製品やサービス

の本当の価値を正確に評価できておらず、「この程度の価格でしか売れない」と思い

込んでいることがあります。これは自信の欠如や市場分析の不足から生じる問題です。

 

価格競争に陥る本当の理由

 

多くの企業が価格競争の泥沼に陥り、利益率の低下に苦しんでいます。

この背景には次のような要因があります。

 

まず「差別化戦略の欠如」です。

自社製品やサービスの独自性を市場に伝えられていない場合、顧客は価格だけで

判断するようになります。

 

差別化ポイントが明確でなければ、価格以外に競争の軸を作れないのです。

 

次に「顧客ニーズの誤認」があります。

顧客が本当に求めているのは必ずしも「安さ」ではないことが多いのです。

納期の正確さ、アフターサービスの充実、問題解決力など、顧客が真に価値を

感じる要素を見極められていないことが、不必要な価格競争を招きます。

 

また「自社のポジショニング不全」も見過ごせません。

どの市場セグメントをターゲットにするのか、どのような価値提供で勝負するの

かが明確でないと、価格競争に巻き込まれやすくなります。

 

「あれもこれも」と手を広げすぎて、結局どこでも中途半端になってしまうケース

が多いのです。

 

競争力の本質

 

真の競争力とは何でしょうか。

 

それは単に「安く売る力」ではなく、「適正な価格で選ばれる力」です。

 

競争力の第一の要素は「顧客課題の深い理解」です。

顧客が抱える本質的な課題や痛点を把握し、それに対する最適な解決策を提供で

きれば、価格だけの勝負を避けることができます。

 

これには顧客との深い対話と業界知識の蓄積が不可欠です。

 

第二に「独自の価値提供」があります。他社が簡単に真似できない自社ならでは

の強みを持つことが重要です。

 

それは技術力かもしれませんし、サービス品質かもしれません。

あるいは独自のビジネスモデルかもしれません。

 

この独自性こそが、価格競争から脱却する鍵となります。

 

第三に「長期的な関係構築」です。

取引を単発のものではなく、継続的な関係として捉えることで、短期的な価格だけ

でなく、長期的な価値の交換として位置づけることができます。

信頼関係が構築されれば、多少の価格差があっても選ばれる企業になります。

 

未回収債権との関連性

 

こうした取引先との関係性の問題は、未回収債権とどう関係するのでしょうか。

 

不利な取引条件を受け入れることは、直接的に資金繰りの悪化をもたらします。

支払サイトが長ければ長いほど、運転資金の負担は大きくなります。

その結果、資金調達コストの増加や新規投資の遅れといった悪影響が生じます。

 

また価格競争に陥ることで利益率が低下すると、万が一の未回収が発生した際の

バッファーが少なくなります。

利益率が10%の企業が100万円の未回収を出した場合、それを取り戻すには1,000万円

の追加売上が必要になります。

利益率が5%なら2,000万円です。薄利多売モデルは未回収リスクに対して極めて脆弱なのです。

 

改善への道筋

 

取引先との関係性を改善し、未回収リスクを低減するためには、次のような取り組みが

効果的です。

 

  1. 顧客ポートフォリオの見直し:特定顧客への依存度を下げ、リスクを分散させる
  2. 価値提案の再構築:なぜ自社を選ぶべきかの理由を明確化する
  3. 取引条件の段階的改善:一気に変えるのではなく、小さな改善を積み重ねる
  4. 新規顧客開拓の強化:交渉力を高めるために選択肢を増やす
  5. 社内の意識改革:売上至上主義から脱却し、健全な取引を評価する文化を作る

 

まとめ

 

取引先との関係性の問題は、未回収債権問題の重要な側面です。

不利な取引条件や過度の価格競争は、短期的には売上確保に寄与するように見えても、

長期的には企業の体力を奪い、未回収リスクを高めます。

 

真の競争力を身につけ、対等なパートナーシップに基づく健全な取引関係を構築する

ことが、未回収債権問題の根本的な解決につながるのです。