第124回の続きです。
厳しい現実を前に、企業はどう対応すべきでしょうか。
ここで重要になるのが「計画経営」の実践です。
場当たり的な対応ではなく、長期的視点に立った計画的な経営こそが、この難局を乗り切る
道だと言えます。
まず必要なのは、自社の現状と将来の事業計画に基づいた現実的な人材計画です。
これには以下の要素が含まれます:
– 3〜5年後の事業規模と必要人員の予測
– 年齢別・スキル別の人材構成分析
– 定年退職や自然減少を考慮した補充計画
– 市場相場を踏まえた人件費予算の設定
– 採用・育成・定着のための投資計画
特に重要なのは、「何となく人が足りない」という感覚ではなく、具体的な数字に基づいた
計画を立てることです。
例えば、「3年後に売上2億円増を目指すなら、どのようなスキルを持った人材が何人必要か」
「その人材を獲得するためにはどのような給与水準が必要か」
「現在の社員の年齢構成から見て、何年後にどのポジションが不足するか」
といった具体的な分析と計画が不可欠です。
人材への投資は、最終的に売上・利益の向上につながる必要があります。
社会保険料滞納による倒産が増加している現状を考えると、この連動性の確保は特に重要です。
具体的には:
– 1人当たりの付加価値額を測定・向上させる仕組み
– 人件費の上昇に対応した価格戦略の見直し
– 低収益事業からの撤退と高収益事業への集中
– デジタル化・自動化による生産性向上投資
– 人材育成と事業成長の連動計画
例えば、従業員1人が生み出す付加価値が年間800万円の企業と500万円の企業では、同じ人件
費上昇に対する耐性が大きく異なります。
前者は人件費が上昇しても利益を確保できる余地がありますが、
後者は人件費上昇が直ちに赤字につながりかねません。
「人件費高騰」による倒産の増加は、賃上げと企業の支払能力のギャップが拡大していることを
示しています。
この問題に対応するには、賃上げに見合った生産性向上を計画的に実現することが不可欠です。
具体的な取り組みとしては:
– 業務プロセスの見直しと効率化
– 適切なIT投資による省力化
– 付加価値の高い商品・サービスへのシフト
– 人材育成による一人当たり生産性の向上
– 組織構造の最適化
これらを「いつか取り組みたい」と曖昧にするのではなく、具体的な目標値と期限を設定し、
計画的に実行することが重要です。
従来型の「募集すれば来る」という発想から脱却し、新たな採用戦略を構築する必要があります:
– 自社の強みを活かした独自の採用ブランディング
– 若年層の価値観に合わせた働き方改革の推進
– 地域・業界・学校との長期的関係構築
– シニア・女性・外国人など多様な人材の活用戦略
– 採用から定着までを一貫して管理する仕組み
特に中小企業にとって、大企業との給与競争は不利になりがちです。
しかし、「働きがい」「成長機会」「柔軟な働き方」などの非金銭的価値を提供することで、
優秀な人材を引きつけることは可能です。
東京商工リサーチのデータが示すように、税金や社会保険料の滞納は倒産リスクを高めます。
これを避けるには、精度の高い資金繰り計画が不可欠です。
具体的には:
– 社会保険料率の引き上げや最低賃金の上昇など、人件費関連のコスト増加要因を先読みした計画
– 季節変動や取引条件の変化など、キャッシュフローに影響を与える要素の詳細分析
– 資金ショートリスクを早期に発見し、対応するための早期警戒システム
– 金融機関との良好な関係構築による資金調達力の強化
「なんとかなるだろう」という楽観主義ではなく、最悪のシナリオも想定した現実的な計画が
必要です。
厳しくも希望ある未来
人口減少・高齢化という日本の構造的課題は、確かに厳しい現実です。
しかし、これは同時に大きな機会でもあります。
多くの企業が変化に適応できずに淘汰される一方で、時代の変化を先読みし、戦略的に対応でき
る企業には新たな成長機会が生まれています。
実際に、人材不足を逆手にとって、高付加価値事業へのシフトに成功している中小企業も少なく
ありません。
鍵となるのは「経営者の現実認識と計画力」です。
「募集すれば人が来る」「この金額じゃないと無理」という古い常識に縛られていては、未来は
開けません。
市場の現実を直視し、データに基づいた計画的経営へと舵を切ることができるかどうかが、企業の
命運を分けるでしょう。
結論:計画なき頑張りは単なる消耗
「ただ頑張る」だけの企業は、間違いなく市場から淘汰されていきます。
人口減少と人件費高騰が続く日本において、計画なき経営はもはや経営とは呼べず、
単なる「その場しのぎ」にすぎません。
一方、人材計画と経営戦略を連動させ、計画的に実行できる企業だけが生き残り、さらには成長する
機会を得るでしょう。
そして、その計画的経営の第一歩は、経営者自身の「現実を直視する勇気」から始まります。
東京商工リサーチのデータが物語るように、「計画こそが企業を守る」時代が既に到来しています。
この現実に目を向け、計画経営への舵を切ることこそが、中小企業の生き残りと発展への唯一の道なの
です。
日本の会社の社長の選択肢はすでになくなったのです。