メルマガ126回を配信しました。 第126回 「通帳残高」と「資金繰り」の違い:計画性が資金繰りを救う理由

2025.03.31

収益満開経営コンサルタントの長瀬 好征です。

 

やっと春めいてきましたが、まだ寒さが続いていますね。

中小企業の経営環境も厳しさを増しています。

 

特に、資金が厳しい状況になっていることがわかります。

しかし、多くの社長は「お金がないから」と思っていますが、

そうではありません。

 

今回は、計画性と資金繰りの密接な関係について、最新データ

を踏まえながら解説していきます。。

 

はじめに:誤解される「資金繰り」の本質

 

「通帳残高が増えれば資金繰りが良くなる」

 

多くの社長がこのように考えていますが、これは資金繰りに関する代表的な誤解です。

最新の東京商工リサーチの調査データ(2025/03/28公表)が示すように、

現在多くの中小・零細企業が支払い遅延に苦しんでいます。

2024年度(4-2月)の取引先への支払遅延情報は累計1,149件に達し、すでに前年度の

1,111件を超えて増加の一途をたどっています。

 

この厳しい現実の背景には、単なる「お金の不足」を超えた、より根本的な問題があ

ります。

 

それは「計画性の欠如」です。

 

データが示す厳しい現実:小規模企業ほど苦しい

 

東京商工リサーチの調査によれば、支払遅延が発生した企業のうち、資本金

1千万円未満の企業が668件(前年同期比27.4%増)と約6割を占めています。

 

これは2021年度と比較すると1.7倍という急増ぶりです。

 

一方、資本金1千万円以上の企業は478件(同0.6%減)とほぼ横ばいです。

 

この数字は何を示しているのでしょうか?

 

この格差は、単に「規模の違い」だけでは説明できません。

背景には「経営の計画性」の差があると考えられます。

 

一般的に規模の大きな企業ほど計画的な経営を行っており、資金繰り管理も緻密に

行っている傾向があります。

 

支払遅延の本当の原因:「お金がない」ではない

 

支払遅延が発生する直接の原因は「支払い時点でのキャッシュ不足」ですが、その

背後には以下のような計画性の欠如があります:

 

  1. 売上と入金のタイミングギャップの把握不足

 

売上が立っても入金までにはタイムラグがあります

。業種別のデータを見ると、建設業(総合工事業251件、職別工事業128件)が上位

を占めていますが、これは請負工事の完成から入金までの期間が長いという業界特性

と関係しています。

 

計画性がない場合

「仕事が増えているのにお金がない」という矛盾した状況に陥ります。

これは成長期にある企業が陥りやすい罠です。

 

計画性がある場合

入金までの期間を正確に把握し、必要な運転資金を事前に確保します。

案件受注時点で資金計画に組み込むことで、支払いのための資金を計画的に準備できます。

 

  1. 季節変動への対応不足

 

多くの業種で売上には季節変動があります。特に年度末集中型の業種では、2〜3月に売上

が集中する一方、4〜6月は低調という傾向があります。

 

計画性がない場合:

繁忙期の好調さに惑わされ、閑散期の資金不足に対する準備を怠ります。

結果として、年度初めの4〜6月に支払遅延が発生しやすくなります。

 

計画性がある場合:

年間の収支予測に基づき、繁忙期の余剰資金を閑散期に備えて確保します。季節変動を見越

した資金管理により、年間を通じて安定した支払い能力を維持できます。

 

  1. 急激な成長に伴う運転資金需要の増加への対応不足

 

売上拡大は喜ばしいことですが、それに伴い運転資金需要も増加します。

調査報告にもあるように「コロナ禍に停滞した需要は、反動から一気に回復した」ものの、

「売上拡大に運転資金が追い付かないケース」が増えています。

 

計画性がない場合:

売上増加を単純に喜び、それに伴う運転資金の増加を見落とします。

大型案件を獲得したにもかかわらず、その遂行に必要な資金を確保できず、途中で資金ショ

ートする危険があります。

 

計画性がある場合:

売上計画と連動した資金需要予測を行い、成長に必要な資金を事前に確保します。

金融機関との関係も計画的に構築しているため、必要時に適切な融資を受けることができます。

 

「通帳残高主義」が招く資金繰りの罠

 

「通帳残高」だけを見て資金繰りを判断することの危険性を具体的に考えてみましょう。

 

罠1:見かけの余裕が招く誤った判断

 

通帳に1,000万円あるから安心と考えるのは危険です。

その1,000万円の中には、翌週に支払うべき給与800万円、翌々週に支払う仕入代金500万円

が含まれているかもしれません。

つまり、実際には300万円の資金不足状態にあるのです。

 

罠2:一時的な余裕による不必要な支出

 

計画性がないと、一時的に通帳残高が増えたタイミングで、長期的な視点を欠いた支出判断

をしがちです。

「今お金があるから」と設備投資や接待費、役員賞与などの支出を増やし、その後の資金繰り

を圧迫することになります。

 

罠3:借入と返済のミスマッチ

 

資金繰り計画なしに借入を行うと、返済計画と実際のキャッシュフローがミスマッチを起こ

します。

特に短期借入を運転資金に充てる場合、返済時期には新たな資金需要が発生するという悪循環

に陥りやすくなります。

 

計画性が資金繰りを救う:具体的アプローチ

 

では、計画性を持った資金繰り管理はどのように行えばよいのでしょうか?

いくつかありますが、一つお伝えします。

 

売上と入金の分離管理

 

売上計上と入金は別物です。特に計画管理においては、「いつ売上が立つか」ではなく

「いつ入金されるか」がより重要です。

 

・ 取引先ごとの支払いサイクルを把握し、入金予測の精度を高める

・大型案件の場合、中間金や前受金の獲得など、入金条件の工夫を検討

・売掛金の早期回収のための施策を計画的に実施

 

計画性の欠如がもたらす連鎖的影響

 

計画性の欠如による資金繰り悪化は、単に自社の問題にとどまりません。

調査報告が指摘するように「支払遅延の企業を起点に、取引企業にも二次被害が広がる

可能性」があります。

 

一社の支払遅延が取引先の資金繰りを悪化させ、さらにその先の支払いにも影響を及ぼす

「支払遅延の連鎖」は、業界全体の健全性を損なう深刻な問題です。

これは、個々の企業の計画性が社会全体の経済安定につながることを示しています。

 

まとめ:計画こそが資金繰りを救う鍵

 

「通帳残高が増えれば資金繰りが良くなる」という考えは、あまりにも単純化された

危険な認識です。

 

真の資金繰り改善には、将来を見据えた計画的な資金管理が不可欠です。

 

東京商工リサーチの調査データが示すように、経営体力の乏しい小規模企業ほど支払遅延

リスクが高まっています。

 

この状況を打破するためには、規模の大小にかかわらず、計画的な経営アプローチが必要

なのです。

 

現在の経済環境は、円安や物価高、人手不足、金利上昇など、複数の逆風が同時に吹き荒れ

る厳しいものです。

こうした環境下では、「なんとかなる」という楽観主義や「その場しのぎ」の対応ではなく、

データに基づいた冷静な予測と計画が重要性を増しています。

 

資金繰りの真髄は「今いくらあるか」ではなく「将来いくら必要で、それをどう確保するか」

にあります。

計画性を持った資金管理こそが、支払遅延のリスクから企業を守り、持続的な成長を支える

基盤となるのです。

 

通帳残高ではなく、将来を見据えた資金計画に目を向けることで、貴社の資金繰りは大きく

改善するでしょう。