財務初心者の社長向けに基本的な財務の考え方を、今回は「利益」
というほとんどの人にとってお馴染みのある概念から、実は、誤解
しているということを伝えたいと思います。
財務初心者の社長向けに基本的な財務の考え方を、今回は「利益」
というほとんどの人にとってお馴染みのある概念から、実は、誤解
しているということを伝えたいと思います。
財務諸表を初めて目にした時、多くの社長は「利益」を実体
のあるものと捉えがちです。
「今月は500万円の利益が出た」という言葉からは、あたかも
500万円が金庫に積み上がっているような錯覚を覚えるかもしれ
ません。
しかし、ここで重要な真実があります—利益は実在しません。
利益は単なる概念です。
会計上の計算結果であり、実際に触れるものではありません。
この理解が、健全な経営判断の第一歩となります。
利益とは何か:概念vs実体
「今期の利益は3,000万円です」という報告を受けたとき、あなたは
何を想像するでしょうか?
実際には、その「3,000万円」はどこにも存在していない可能性があります。
なぜなら:
– 売上の一部はまだ入金されていないかもしれません(売掛金)
– 設備投資の費用は既に使われていても、数年かけて少しずつ費用計上されます(減価償却)
– 利益が出ていても、現金は在庫や設備に変わっているかもしれません
つまり、利益≠現金です。これが多くの初心者社長が混乱する最初のポイントです。
ドラッカーが教える「利益」の本質
経営学の巨人ピーター・ドラッカーは、利益について革新的な見解を示しました:
「利益は目的ではない。利益は事業の健全性を測る尺度であり、将来の事業継続に必要なコストである」
この一見矛盾した言葉には深い知恵が込められています。ドラッカーにとって、利益は以下の意味を持ちます:
1. 「明日のためのコスト」としての利益
– 利益は企業が将来も事業を継続するために必要な資源
– 明日の不確実性に対する「保険料」
2. 指標としての利益
– 利益は事業の健全度を示す「体温計」のようなもの
– 高すぎても低すぎても健全ではない
3. 手段としての利益
– 利益は目的ではなく、企業が存続し使命を果たすための手段
– 顧客価値創造の結果として生まれるもの
なぜ利益を目的にしてはいけないのか
利益を目的にすると、企業は危険な道を歩むことになります:
1. 短期的思考への偏り
– 四半期ごとの利益を追求するあまり、長期的な投資や研究開発を犠牲にする
– 一時的な数字の操作に走りがちになる
2. 顧客価値の軽視
– ドラッカーは「企業の目的は顧客の創造である」と述べました
– 利益のみを追求すると、品質低下やサービス切り捨てなど本末転倒の判断をしがち
3. 社員のモチベーション低下
– 「利益のため」は社員にとって心を動かす目的になりにくい
– 一方、「顧客の問題解決のため」なら共感と参画意識が生まれやすい
利益の三つの顔:指標・条件・結果
利益の正しい理解のために、その三つの側面を考えましょう:
1. 指標としての利益
利益は事業の健全性を示す重要な指標です。
定期的な健康診断で測る体温や血圧のようなものです。
数字自体が目的ではなく、その背後にある事業の状態を示しています。
2. 事業継続の条件としての利益
企業が継続的に存在するためには、利益が不可欠です。
これは人間が生きるために酸素が必要なのと同じです。
しかし、「酸素を吸うことが人生の目的」ではないように、「利益を上げる
ことが企業の目的」ではありません。
3. 正しい行動の結果としての利益
適切に顧客価値を創造し、効率的な事業運営を行った結果として利益は生
まれます。
つまり、正しいことを正しく行った「結果」が利益なのです。
利益と現金の違い:社長が知るべき財務の基本
財務初心者の社長がよく混同するのが「利益」と「現金」の違いです:
現金(キャッシュ):
– 実際に銀行口座や手元にある資金
– 日々の支払いや投資に使える実体のあるもの
– 「今」の状態を表す
利益(プロフィット):
– 収益から費用を差し引いた会計上の結果
– 実体がなく、現金残高とは必ずしも一致しない
– 一定期間の「成果」を表す
これが、「利益は出ているのに資金繰りが苦しい」という状況が生じる
理由です。
逆に、「赤字なのに現金は増えている」ということも起こり得ます。
ドラッカーが教える利益の5つの役割
ドラッカーによれば、利益には以下の5つの重要な役割があります:
1.顧客満足のバロメーター
– 顧客が価値を認めなければ、継続的な利益は生まれない
2. 事業の有効性を測る物差し
– うまく機能している事業は適切な利益を生み出す
3. リスクへの備え
– 将来の不確実性に対する保険としての役割
4. イノベーションの源泉
– 新しい挑戦や投資のための資源
5. 社会的責任を果たすための条件
– 企業が社会に貢献し続けるための経済的基盤
実務に活かす:利益を「指標」として使いこなす
利益を目的ではなく指標として捉えた場合、経営者はどう行動すべき
でしょうか:
1. 顧客価値創造に集中する
– 「どうすれば利益が増やせるか」ではなく「どうすれば顧客により良い価値を提供できるか」を考える
– 顧客の問題解決に真剣に取り組めば、適切な利益は後からついてくる
2. 長期的な視点を持つ
– 四半期や単年度の利益に固執せず、持続的な価値創造を目指す
– 短期的には利益を減らしても長期的に事業基盤を強化する投資を行う勇気を持つ
3. 多角的な指標で事業を評価する
– 利益だけでなく、顧客満足度、従業員満足度、イノベーション指標など複数の視点から事業を評価する
– 特に「顧客が再び買いたいと思うか」という指標は重要
まとめ:利益との正しい付き合い方
利益は実在しない概念であり、目的ではなく指標です。
しかしだからといって重要でないわけではありません。
適切な利益は、企業が持続的に価値を創造し、社会に貢献し続けるための必要条件なのです。
ドラッカーが言うように「利益はコスト」であり、明日の事業を継続するための
必要経費です。
この視点を持つことで、短期的な利益追求に走ることなく、真の企業価値の向上に集中できる
でしょう。
最後に、利益が出ているかどうかは重要ですが、それは体温計の数値が正常かどうかを気にする
のと同じです。
体温計の数値を上げることが目的ではなく、健康な体を維持することが目的であるように、健全
な事業運営こそが社長の真の使命なのです。