「売上・利益・現預金・資金繰り」の本当の関係 第2回 なぜ黒字なのに倒産するのか?利益と現金の分かれ道

2025.04.16

 なぜ黒字なのに倒産するのか?利益と現金の分かれ道

はじめに:利益があっても資金ショートする謎

「先月も黒字だったのに、なぜ今月は給料が払えないんだ?」

このような疑問を抱いたことはありませんか?

損益計算書上では立派な黒字を計上しているにもかかわらず、銀行口座はカラに

なりかけている…この矛盾した状況に困惑する経営者は少なくありません。

 

実際、中小企業の倒産理由のトップは「資金繰り悪化」です。

 

そして驚くことに、倒産企業の約3割は「黒字倒産」と言われています。

つまり、利益を出しているにもかかわらず倒産しているのです。

 

今回は、この「利益」と「現金」の根本的な違いを理解し、黒字なのに資金ショート

するメカニズム、そしてその対策について解説します。

 

利益と現金:全く別物の二人

まず最も重要なポイントを押さえましょう:利益と現金は全くの別物です

 

利益とは何か?

利益とは「収益から費用を差し引いた残り」です。

収益は商品やサービスを提供したときに発生し、費用はそれらを提供するために

消費した経済的価値です。

 

例えば、100万円の商品を販売して(収益)、その商品の仕入れに60万円かかり

(費用)、営業スタッフの給料や事務所の家賃などに合計20万円かかった(

費用)場合、利益は20万円です(100万円−60万円−20万円)。

 

しかし、ここで重要なのは、この計算には現金の動きが反映されていないことです。

 

現金とは何か?

現金とは文字通り、銀行口座や金庫にある「お金」のことです。

現金の増減は、実際にお金が入ってきたか、出ていったかによって決まります。

 

先ほどの例で、もし商品の代金100万円がまだ顧客から支払われていなければ

(売掛金)、収益は計上されますが現金は増えていません。

逆に、商品の仕入れ代金60万円をすでに支払っていれば、その分の現金は減少

しています。

 

「黒字倒産」の5つのメカニズム

それでは、利益が出ているのに現金が枯渇する主な原因を見ていきましょう。

1. 売掛金の増加:売上はあるが入金はまだ

最も一般的な原因は、売掛金の増加です。

特に会社が成長局面にあるとき、売上が急増すると売掛金も比例して増加します。

例: A社は3ヶ月前から売上が倍増しました(月間500万円→1,000万円)。

支払いサイトは90日なので、増えた売上分の入金はまだです。

一方で、商品仕入れの支払いはすでに発生しており、現金が急速に減少しています。

損益計算書では立派な黒字なのに、銀行口座は空になりかけています。

 

2. 在庫の増加:現金が商品に姿を変えた

在庫も利益と現金の乖離を生む大きな要因です。在庫を増やすと現金は減少しますが、

損益計算書上では費用として計上されません(販売時に売上原価として計上)。

例: B社は売上増加を見込んで通常の2倍の在庫を仕入れました。

商品代金2,000万円はすでに支払済みですが、まだ販売していないので損益計算書には

影響していません。

結果、利益は変わらないまま、現金だけが2,000万円減少しました。

 

3. 設備投資:成長のための支出が現金を吸収

設備投資も利益と現金の乖離を生みます。

例えば1,000万円の機械を購入すると、現金は1,000万円減りますが、損益計算書には

減価償却費として分散して計上されます(例:年間100万円×10年)。

例: C社は事業拡大のため3,000万円の新設備を導入しました。

全額を現金で支払いましたが、損益計算書には年間300万円の減価償却費しか計上され

ません。

表面上の利益への影響は小さいですが、現金は大きく減少しています。

 

4. 借入金の返済:利益計算に含まれない重要支出

借入金の返済も利益計算には含まれない重要な現金支出です。

元金の返済は損益計算書に反映されず、貸借対照表の負債が減少するだけです。

例: D社は毎月200万円の元金返済があります。

年間では2,400万円の現金が出ていきますが、損益計算書に影響するのは金利分

(例:年間120万円)だけです。

利益が年間1,000万円あっても、実際の手元資金は逼迫しています。

 

5. 税金の支払い:前年度の利益に対する現金支出

法人税等の支払いも、現金を大きく減少させる要因です。

特に前年度より業績が悪化している場合、前年度の高い利益に基づく税金支払いが

現在の資金繰りを圧迫します。

例:E社は前年度に2,000万円の利益を上げ、今年600万円の法人税を納付しました。

しかし今年は業績が悪化して利益が500万円に落ち込み、資金繰りが厳しくなっています。

 

「利益」を「現金」に変えるための実践的アプローチ

それでは、利益を確実に現金に変えるためにはどうすればよいでしょうか?

具体的な対策を見ていきましょう。

1. 売掛金回収の早期化

売掛金は企業の大切な資産ですが、現金ではありません。回収を早めることで利益を

現金化できます。

実践策:
– 請求書発行のタイミングを早める(月末→納品時)
– 入金サイトの短縮交渉(90日→60日など)
– 早期入金割引の導入(10日以内入金で1%割引など)
– ファクタリングの活用(手数料を払って即時現金化)

2. 在庫の最適化

在庫は必要以上に持たないことが鉄則です。適正在庫を維持することで、現金流出を

抑制できます。

実践策:
– ABC分析による在庫管理(売れ筋商品の特定)
– 適正在庫水準の設定(業種にもよりますが1〜2ヶ月分が目安)
– 発注頻度を増やし、1回の発注量を減らす
– 滞留在庫の早期処分(値引きしてでも現金化)

3. 設備投資の資金計画

設備投資は慎重な資金計画が不可欠です。投資による現金減少を事前に把握しておきましょう。

実践策:
– 投資の分散実施(一度に全額ではなく段階的に)
– リースやレンタルの活用(初期投資額の圧縮)
– 設備投資専用の資金を事前に確保
– 投資回収計画の精緻化(いつまでにどれだけの利益を生むか)

4. 借入金の返済計画

返済計画は経営計画の重要な一部です。無理のない返済スケジュールを設定しましょう。

実践策:
– 返済額と時期を考慮した資金繰り表の作成
– 返済条件の見直し交渉(元金据置期間の設定など)
– 借り換えによる月々の返済負担軽減
– 季節変動を考慮した返済計画(繁忙期に多く、閑散期に少なく)

 

5. 13週資金繰り表の作成と管理

短期的な資金繰りを把握するため、13週(約3ヶ月)先までの資金繰り表を作成し、

定期的に更新しましょう。

実践策:
– 週単位での入出金予測
– 「確定」と「予定」を区別した記入
– 毎週末に翌週の資金状況を確認する習慣づけ
– 資金ショートが予測される週の2ヶ月前から対策実施

 

資金繰り重視の経営へシフトする

経営者として成功するためには、損益計算書(P/L)だけでなく、実際の資金の流れ

にも等しく注意を払う必要があります。

 

資金繰り重視の経営の基本

資金繰り重視の経営とは、単に利益を追求するのではなく、「いつ、どれだけの現金が

入出金するか」を重視する考え方です。

 

具体的には、以下の3つの視点が重要です:

1. 事業活動の資金の流れ:本業からどれだけ資金が生み出されているか
2. 投資活動の資金の流れ:設備投資などでどれだけ資金が使われているか
3. 財務活動の資金の流れ:借入や返済でどれだけ資金が増減しているか

これらを総合的に管理することで、「黒字なのに資金ショート」という事態を防ぐことが

できます。

 

実践的な資金繰り管理のポイント

1. 日次の現預金残高チェック:
毎朝、銀行口座残高を確認する習慣をつけましょう。

これにより資金状況への感度を高められます。

2. 週次の資金繰り確認:
毎週金曜日に翌週の入出金予定を確認し、不足が予想される場合は早めに対策を講じましょう。

3. 月次の資金繰り分析:
月末に当月の資金の動きを分析し、計画との差異を把握しましょう。

差異の原因を特定することで、より精度の高い資金計画が立てられます。

4. 「資金繰り」を会議の固定議題に:
経営会議などで「資金繰り」を固定議題にし、全社的な課題として共有しましょう。

 

まとめ:利益と現金、どちらも大切に

財務初心者の社長にとって、最も重要な学びは「利益」と「現金」が別物だという認識です。

どちらも企業経営において欠かせない要素であり、バランスよく管理する必要があります。

利益は企業の収益力を示す重要な指標ですが、現金こそが日々の事業を支える血液です。

いくら利益が出ていても、現金が枯渇すれば企業活動は立ち行かなくなります。

 

「黒字倒産」を防ぐためには、常に以下の問いを自分に投げかけてみましょう:

1. この利益は、いつ現金になるのか?
2. 必要な時期に、必要な資金は確保できるのか?
3. 成長に伴う資金需要増加に、どう対応するのか?

利益と現金の違いを理解し、両方をバランスよく管理できれば、あなたの会社は

財務的に強固な基盤を持ち、持続的な成長を実現できるでしょう。

 

次回は「売上至上主義が会社を滅ぼす理由」について解説します。お楽しみに!