「計画なんて意味がないよ。どうせ現実は違う方向に進むんだから」
📚 事業計画の本質的価値 シリーズ記事一覧 |
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第1回:間違った計画でも無計画より価値がある理由 ← 今回 |
第2回:経営の真実:数字の向こう側にある本当の力 |
第3回:説明できない計画は、計画ではない |
第4回:ToDoリストでは会社は良くならない |
第5回:思考なき「頑張り」の限界 |
私のクライアントである社長の言葉に、私は深く頷きました。
確かに、多くの社長がそう感じています。特に事業計画を一度も書いたことがない方、あるいは苦労して作った計画が棚に上げられたままになった経験をお持ちの方なら、なおさらでしょう。
今日から数回に渡って、そんな計画への懐疑的な思いを抱く社長さんに、従来とは違う視点から事業計画の本質的価値についてお伝えしたいと思います。
経営を「売上を上げて利益を出すこと」と定義するなら、確かに計画など後回しにしても構わないかもしれません。
しかし、経営の本質はそれだけではありません。
法人という存在が社会から認められているのは、「1+1=2以上」の価値を生み出せると期待されているからです。
個人事業主ではなく法人という形態を選んだ時点で、あなたは単なる「個の集合体」以上のものを目指しているはずです。
その「2以上」の価値はどこから生まれるのでしょうか?
それは、組織の構成員全員が同じ目的・目標を共有し、同じ方向に進むことから生まれます。
ここで、あるスイスでの軍事演習の逸話をお話しします。
ハンガリー人部隊を率いる若い少尉は、アルプス山脈に偵察隊を送り出しました。
しかし、その直後から天候が悪化し、2日経っても偵察隊は戻りませんでした。
絶望的な状況の中、3日目になって奇跡的に偵察隊は帰還しました。
「われわれは道に迷ったとわかった時、もう終わりだと思いました。すると隊員の一人のポケットに地図を見つけたのです。その地図のおかげで冷静さを取り戻し、地図で位置を確かめながらここに戻ってきたのです」
と隊員が語りました。
少尉がその救いの地図を見てみると、なんと…それはアルプス山脈ではなくピレネー山脈の地図だったのです。
「無計画は間違った計画よりも恐ろしい」
彼らを救ったのは「正確な地図」ではなく、「地図という存在そのもの」がもたらした安心感と方向性だったのです。
書店には「完璧な事業計画の作り方」を謳う本が並び、コンサルタントは「我こそは正確な予測ができる」と主張します。
しかし、そうした「完璧主義」こそが、多くの社長たちを計画策定から遠ざける原因になっています。
実は、事業計画の価値は「予測の正確さ」にはありません。
先ほどのアルプス山脈の例に戻りましょう。
偵察隊を救ったのは「正確な地図」ではなく、「地図そのもの」でした。
実は、事業計画も同じです。
将来を100%正確に予測できる計画など存在しません。しかし、たとえ「間違った」計画であっても、それがあることで:
✅ 間違った計画でも得られる効果
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❌ 無計画の場合のリスク
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では、どうすれば「完璧」を求めすぎず、かつ意義のある事業計画を作れるでしょうか?
事業計画は「一度作ったら終わり」の書類ではありません。
真に価値ある事業計画は、組織の中で呼吸し、成長し、時には方向転換する「生きた道具」です。
「この道で正しいんだという確信が何よりも必要」という言葉は、経営の本質を突いています。
リーダーには、不確実な未来に対する「確信」が必要です。しかし同時に、現実の変化に対応する「柔軟性」も求められます。
一見矛盾するこの二つの要素を両立させるのが、優れた社長の条件です。
将来は誰にもわかりません。だからこそ、計画が必要なのです。
アルプス山脈の偵察隊が間違った地図でも無事に帰還できたように、完璧ではない計画でも、それがあることで組織は前進できます。
計画のない経営は、地図のない山登りのようなものです。頂上を目指すなら、たとえ不完全でも地図を持つことです。
その一歩から、真の経営が始まります。
次回は、経営者が抱く「会計と財務への苦手意識」に焦点を当て、「お金の物語」としての会計の本質をお伝えします。
「数字の正確さ」よりも重要な「数字の持つ力」について、引き続きアルプス山脈の偵察隊から学ぶ経営の知恵をお届けします。
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