資金繰り改善の手法 その65資金繰り改善の思考を広げる:初心者社長のための定期預金活用入門

2025.05.15

資金繰り改善の手法 その65資金繰り改善の思考を広げる:

初心者社長のための定期預金活用入門

はじめに

 

「資金繰りが厳しい」という悩みを抱える社長は多いでしょう。

多くの場合、資金繰り改善というと「銀行からもっと借りる」「経費を削減する」

「売上を増やす」という発想に限られがちです。

 

しかし、真の資金繰り改善は「お金の流れ全体をどう管理するか」という、

より広い視点から考えることが大切です。

 

今回は初心者社長の方に、資金繰りの思考を広げるきっかけとして、一見矛盾する

ようにも思える「定期預金の活用」をご紹介します。

 

 資金繰り改善の思考を広げる

 

 従来の発想からの脱却

 

多くの社長は資金繰りについて以下のような固定観念を持っています:

 

– 資金繰りが厳しい時は、とにかく現金を手元に置くべき

– 定期預金は余裕がある会社だけのもの

– 資金繰り改善とは「入るお金を増やす」か「出るお金を減らす」こと

 

しかし、これからご説明するように、お金の「質」や「流れ」を意識することで、

新たな改善策が見えてくるのです。

 

 定期預金活用の基本的な考え方

 

定期預金を資金繰り改善に活用する際の基本的な考え方は「お金に目的と期限

を設定する」ということです。

これは資金を「見える化」する効果的な方法です。

 

 お金の性質を区別する

 

会社の預金口座に入っているお金は、一見すべて同じように見えますが、実は性質

の異なる資金が混在しています:

 

  1. 日常の運転資金:毎日の仕入れや給与など、日常的な支払いに必要なお金
  2. 将来の固定的支出のための資金:税金、ボーナス、保険料など、時期が決まっている                   大きな支出のためのお金
  3. 緊急時のための準備金:予期せぬ事態に備えるためのお金
  4. 将来の投資のための資金:設備投資や新規事業のために準備しているお金

 

これらを同じ普通預金口座で管理していると、「使えるお金」と「既に使い道が決まっているお金」

の区別がつかなくなり、資金繰りを見誤る原因になります。

 

 初心者社長のための定期預金活用法

 

 【活用法1】目的別資金の「見える化」

 

一番シンプルな活用法は、目的別にお金を分けて「見える化」することです。

 

例:

– 年間1,200万円の税金が必要な会社なら、毎月100万円を「税金準備定期」として積み立てる

– 賞与資金も同様に、毎月の売上から一定額を「賞与準備定期」として積み立てる

 

これにより得られるメリット:

– 支払い時期が来た時の資金ショートを防げる

– 社長自身が会社の真の手元資金を正確に把握できる

– お金の流れに規律が生まれる

 

 【活用法2】「使ってはいけないお金」を守る

 

経営者あるある:「一時的に使うつもりが、結局戻せなくなった」

 

預かり金(源泉税、社会保険料など)や将来の大きな支払いのための資金は、

うっかり他の用途に使ってしまうと後で大きな問題になります。

 

例:従業員から預かった源泉所得税や社会保険料を、毎月給与計算後すぐに短期の定期預金

に入れておく。これにより「使ってはいけないお金」を物理的に区別できます。

 

 【活用法3】季節変動を乗り切る準備

 

多くのビジネスには繁忙期と閑散期があります。繁忙期の利益を定期預金として確保し、

閑散期に計画的に使うという考え方です。

 

例:

12月が書き入れ時の会社であれば、12月の余剰資金を翌年の閑散期(例えば2〜4月)に

合わせて満期が来る定期預金に入れておく。

 

 初心者が陥りやすい落とし穴と対策

 

 落とし穴1:必要な運転資金まで定期預金に入れてしまう

 

定期預金の活用を始める前に、最低限必要な運転資金(通常1〜3ヶ月分の固定費)を確

保することが大前提です。

それを下回る状態で定期預金を作ると、日常の支払いに困ることになります。

 

対策:

まずは現実的な資金繰り表を作成し、最低限必要な手元資金を把握しましょう。

その上で余剰資金のみを定期預金化します。

 

 落とし穴2:解約タイミングの読み違い

 

定期預金の満期日と大きな支払いの時期がずれていると、中途解約による金利損失や、

手続きの手間が生じます。

 

対策:

支払日の1週間前くらいに満期が来るよう、定期預金の期間を設定しましょう。

 

 落とし穴3:銀行の都合による「拘束預金」化

 

借入の際に銀行から「この融資には○○万円の定期預金が必要です」と言われるケースが

あります。

これは実質的な担保となり、自由に使える資金が減少します。

 

対策:

複数の金融機関と取引し、借入と預金の関係を明確にしておきましょう。

必要に応じて金融機関に交渉することも重要です。

 

 資金繰り思考を広げる実践エクササイズ

 

初心者社長が資金繰りの思考を広げるために、以下のエクササイズをお勧めします:

 

 エクササイズ1:資金の「見える化」マップを作る

 

  1. 自社の預金残高をノートに書き出す
  2. その資金を以下のカテゴリーに分類してみる

– 日常の運転資金(今月の支払いに必要なお金)

– 近い将来(3ヶ月以内)の固定的支出に必要なお金

– 遠い将来(3ヶ月以上先)の固定的支出に必要なお金

– 緊急時のための準備金

– 将来の投資のための資金

  1. 現在すべて普通預金で管理しているお金を、上記の区分に応じてどのように
  2. 分散させるべきか考える

 

 エクササイズ2:年間資金カレンダーを作る

 

  1. 年間の大きな入出金を月別にカレンダーに書き出す

– 税金支払い(法人税、消費税、固定資産税など)

– 賞与支給

– 保険料の一括支払い

– 設備投資予定

– 借入金の返済

– 季節的な売上の増減

  1. 資金不足が予想される月と余剰資金が発生する月を視覚化する
  2. どのように資金を移動させれば1年を通じてスムーズな資金繰りができるか考える

 

 定期預金活用で得られる思考の変化

 

定期預金の活用を通じて、以下のような資金繰りに関する思考の変化が期待できます:

 

  1. 受動的から能動的へ:「資金が足りないから借りる」という受動的な発想から、             「資金の流れを計画的に管理する」という能動的な発想へ

 

  1. 短期的視点から長期的視点へ:「今月の支払いをどうするか」という短期的な視点から、          「1年先までの資金の流れをどう管理するか」という長期的な視点へ

 

  1. 単一の解決策から複合的な解決策へ:「借入だけ」「削減だけ」という単一の解決策から、         様々な手法を組み合わせた総合的な資金管理へ

 

 まとめ:資金繰り改善は「管理」の質を高めること

 

資金繰り改善は単に「お金を増やす」ことではなく、「限られた資金をいかに効果的に管理するか」

という技術です。

定期預金の活用はその一例に過ぎませんが、資金の流れを意識的に管理するという思考を育てる

良いきっかけになります。

 

資金繰りの基本ができていない状態で拙速に定期預金を作ることはおすすめできませんが、

基本的な資金管理の延長線上に「定期預金の戦略的活用」があることを知っておくことは、

財務初心者の社長にとっても価値があるでしょう。

 

お金の流れを「見える化」し、目的別に管理する習慣をつけることで、資金繰りに対する不安

が減り、より戦略的な経営判断ができるようになります。

 

まずは小さな一歩から始めてみてください。資金繰りの思考が広がることで、

経営全体の質も向上していくでしょう。