「資金繰りが厳しい」という悩みを抱える社長は多いでしょう。
多くの場合、資金繰り改善というと「銀行からもっと借りる」「経費を削減する」
「売上を増やす」という発想に限られがちです。
しかし、真の資金繰り改善は「お金の流れ全体をどう管理するか」という、
より広い視点から考えることが大切です。
今回は初心者社長の方に、資金繰りの思考を広げるきっかけとして、一見矛盾する
ようにも思える「定期預金の活用」をご紹介します。
多くの社長は資金繰りについて以下のような固定観念を持っています:
– 資金繰りが厳しい時は、とにかく現金を手元に置くべき
– 定期預金は余裕がある会社だけのもの
– 資金繰り改善とは「入るお金を増やす」か「出るお金を減らす」こと
しかし、これからご説明するように、お金の「質」や「流れ」を意識することで、
新たな改善策が見えてくるのです。
定期預金を資金繰り改善に活用する際の基本的な考え方は「お金に目的と期限
を設定する」ということです。
これは資金を「見える化」する効果的な方法です。
会社の預金口座に入っているお金は、一見すべて同じように見えますが、実は性質
の異なる資金が混在しています:
これらを同じ普通預金口座で管理していると、「使えるお金」と「既に使い道が決まっているお金」
の区別がつかなくなり、資金繰りを見誤る原因になります。
一番シンプルな活用法は、目的別にお金を分けて「見える化」することです。
例:
– 年間1,200万円の税金が必要な会社なら、毎月100万円を「税金準備定期」として積み立てる
– 賞与資金も同様に、毎月の売上から一定額を「賞与準備定期」として積み立てる
これにより得られるメリット:
– 支払い時期が来た時の資金ショートを防げる
– 社長自身が会社の真の手元資金を正確に把握できる
– お金の流れに規律が生まれる
経営者あるある:「一時的に使うつもりが、結局戻せなくなった」
預かり金(源泉税、社会保険料など)や将来の大きな支払いのための資金は、
うっかり他の用途に使ってしまうと後で大きな問題になります。
例:従業員から預かった源泉所得税や社会保険料を、毎月給与計算後すぐに短期の定期預金
に入れておく。これにより「使ってはいけないお金」を物理的に区別できます。
多くのビジネスには繁忙期と閑散期があります。繁忙期の利益を定期預金として確保し、
閑散期に計画的に使うという考え方です。
例:
12月が書き入れ時の会社であれば、12月の余剰資金を翌年の閑散期(例えば2〜4月)に
合わせて満期が来る定期預金に入れておく。
定期預金の活用を始める前に、最低限必要な運転資金(通常1〜3ヶ月分の固定費)を確
保することが大前提です。
それを下回る状態で定期預金を作ると、日常の支払いに困ることになります。
対策:
まずは現実的な資金繰り表を作成し、最低限必要な手元資金を把握しましょう。
その上で余剰資金のみを定期預金化します。
定期預金の満期日と大きな支払いの時期がずれていると、中途解約による金利損失や、
手続きの手間が生じます。
対策:
支払日の1週間前くらいに満期が来るよう、定期預金の期間を設定しましょう。
借入の際に銀行から「この融資には○○万円の定期預金が必要です」と言われるケースが
あります。
これは実質的な担保となり、自由に使える資金が減少します。
対策:
複数の金融機関と取引し、借入と預金の関係を明確にしておきましょう。
必要に応じて金融機関に交渉することも重要です。
初心者社長が資金繰りの思考を広げるために、以下のエクササイズをお勧めします:
– 日常の運転資金(今月の支払いに必要なお金)
– 近い将来(3ヶ月以内)の固定的支出に必要なお金
– 遠い将来(3ヶ月以上先)の固定的支出に必要なお金
– 緊急時のための準備金
– 将来の投資のための資金
– 税金支払い(法人税、消費税、固定資産税など)
– 賞与支給
– 保険料の一括支払い
– 設備投資予定
– 借入金の返済
– 季節的な売上の増減
定期預金の活用を通じて、以下のような資金繰りに関する思考の変化が期待できます:
資金繰り改善は単に「お金を増やす」ことではなく、「限られた資金をいかに効果的に管理するか」
という技術です。
定期預金の活用はその一例に過ぎませんが、資金の流れを意識的に管理するという思考を育てる
良いきっかけになります。
資金繰りの基本ができていない状態で拙速に定期預金を作ることはおすすめできませんが、
基本的な資金管理の延長線上に「定期預金の戦略的活用」があることを知っておくことは、
財務初心者の社長にとっても価値があるでしょう。
お金の流れを「見える化」し、目的別に管理する習慣をつけることで、資金繰りに対する不安
が減り、より戦略的な経営判断ができるようになります。
まずは小さな一歩から始めてみてください。資金繰りの思考が広がることで、
経営全体の質も向上していくでしょう。