会社では「売上」「利益」「預貯金」「資金繰り」という言葉は日常的に使われていますが、
これらの違いを正確に理解していますでしょうか?
特に「預貯金残高が多い=資金繰りが良い」という考えは、経営の大きな落とし穴になる
ことがあります。
今回は、エステサロンの前受金ビジネスを例に、これらの財務概念の違いと、なぜ預貯金残高
だけでは資金繰りの健全性を判断できないのかを解説します。
ここは前回の繰り返しです。
売上とは、商品やサービスを提供して得た対価の総額です。
ただし重要なのは、「いつ」売上と認識するかです。会計上、売上は商品やサービスを
「提供した時点」で計上されます。
利益は、売上から費用(原価、人件費、家賃など)を差し引いた残りです。
会社の真の儲けを表します。
利益が持続的に出ていなければ、長期的な企業存続は難しくなります。
会社の銀行口座や手元にある現金の合計です。
これは単なる「ある時点での現金の残高」を示すものであり、将来の資金の動きを示す
ものではありません。
将来にわたって、必要なタイミングで必要な資金を確保できるかという見通しです。
預貯金は現在の状況だけを示しますが、資金繰りは将来の収入と支出のバランスを含む
動的な概念です。
エステサロン業界では、「10回コース」などのパッケージ販売が一般的です。
これにより、サービス提供前に大きな額の前受金を得ることができます。
この仕組みで預貯金残高が増えると、資金繰りが良好だと誤解しがちですが、
実はここに大きな危険が潜んでいます。
例:A社の場合
A社はエステサロンを経営し、急速に店舗を拡大していました。多くの顧客に1年分の
コースを前払いしてもらい、預金残高は潤沢にありました。
社長は「預金残高が5,000万円もある」と安心していましたが、
実際には以下のような状況でした:
– 預金残高:5,000万円
– 未提供サービスの前受金:4,800万円
– 翌月支払い予定の家賃・人件費・仕入れ:800万円
つまり実質的には、すでに600万円の資金不足状態だったのです。
近年、大手エステサロンチェーンの倒産が相次いでいますが、その多くは前受金ビジネスモデルの
落とし穴にはまったケースです。
B社の事例
全国に50店舗を展開していたB社は、一見売上も順調で預金残高も豊富でした。
しかし、新規顧客獲得のためのキャンペーンコストがかさみ、実際のサービス提供時のコストが
想定を上回るようになりました。
急速な事業拡大のため、新規顧客からの前受金を既存顧客へのサービス提供コストや新店舗の
出店費用に充てる「自転車操業」状態になっていたのです。
新規顧客の獲得ペースが鈍化した時点で資金繰りが破綻し、20億円もの前受金を抱えたまま倒産
しました。
前受金は将来のサービス提供のために「預かっている」お金だと考え、別の銀行口座で管理すること
も一つの方法です。少なくとも帳簿上で明確に区別しましょう。
最低でも3ヶ月先、できれば1年先までの収入と支出を月単位または週単位で予測する資金繰り表を
作成しましょう。これにより、資金不足に陥る可能性のある時期を事前に把握できます。
サービス未提供分の前受金がどれだけあるのかを常に把握しておきましょう。
また、顧客がどのペースでサービスを利用しているかも重要な指標です。
前受金に依存せずとも、日々のキャッシュフローで運営できるビジネスモデルを目指しましょう。
例えば、月額会員制の導入や、都度払いのオプションサービスの充実などが考えられます。
預貯金残高は財務状況を示す一つの指標にすぎません。
真の財務健全性を判断するためには、以下の要素を総合的に考慮する必要があります:
– 将来の収入と支出のバランス(資金繰り)
– 前受金などの「将来の義務」の大きさ
– 持続的な利益創出能力
– 売上の質と安定性
エステサロンのような前受金ビジネスでは特に、「見かけの預金残高」に惑わされず、
将来にわたる資金の流れを正確に把握することが経営者の重要な責務です。
定期的に資金繰り表を更新し、前受金と実際に自由に使える資金を区別することで、
突然の資金ショートを防ぎ、持続可能な経営を実現しましょう。
このような財務の基本を理解することは、経営判断の質を高め、会社の長期的な成功に
つながります。
預金残高だけでなく、真の資金状況を把握することから、健全な経営の第一歩が始まります。