事業計画書の本質的価値 第3回 説明できない計画は、計画ではない

2025.05.26






説明できない計画は、計画ではない


説明できない計画は、計画ではない

〜「スローガン」と「計画」の決定的な違いとは?〜


【5回連載】事業計画の本質的価値 – 第3回

前回までのメルマガで、「間違った地図でも、無いよりマシ」という教訓と「お金の物語」としての会計の捉え方をお伝えしました。

多くの社長さんから「計画は正確である必要はないと知って肩の荷が下りた」というご感想をいただき、嬉しく思っています。


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しかし同時に、こんな声も届いています。

「じゃあ、スローガンだらけの計画でもいいんですよね?」
「具体的な数字は要らないと?」
「『売上倍増!』『利益率アップ!』というビジョンがあれば十分?

今回は、そんな誤解にお答えしつつ、計画において「説明できる」ということがなぜ決定的に重要なのかをお伝えします。

スローガンと計画の決定的な違い

アルプス山脈の偵察隊の逸話を思い出してください。

彼らを救ったのは「正確な地図ではなくても、地図があったこと」です。

しかし、ここで重要なのは:彼らが持っていたのは「間違った地図」であって、「地図の代わりの何か」ではなかったということです。

ピレネー山脈の地図は、アルプス山脈の正確な地形を示していませんでしたが、それでも「地図としての要素」をすべて備えていました:

  • 地形の高低差が表現されていた
  • 道筋や位置関係が示されていた
  • 目印となる特徴が記載されていた

これを事業計画に置き換えると、「正確でなくてもいい」のは予測の部分であって、「計画としての要素」は必ず備えている必要があるのです。

「説明できる」ことの決定的重要性

計画の本質的価値が「共有と対話を促す力」だとすれば、その計画は「説明できるもの」でなければなりません。説明できないものは、共有も対話もできないからです。

ある飲食チェーンの社長はこう語りました:

「『売上30%アップ』というスローガンを掲げていたが、誰も『なぜそれが可能なのか』を説明できなかった。結局、現場は『無理な数字』と捉え、本気で取り組まなかった」

一方、製造業の社長はこう成功事例を共有してくれました:

「『売上20%増』という控えめな目標だったが、『新規顧客を月5社獲得』『既存客の注文頻度を1.2倍に』という具体的な道筋があり、誰もが『可能性がある』と納得して取り組んだ」

つまり、重要なのは数字の大きさではなく、「その数字に至る道筋が説明できるかどうか」なのです。

「説明できる計画」の3つの条件

では、「説明できる計画」とはどのようなものでしょうか?それは次の3つの条件を満たすものです:

  1. 「なぜ」が明確である

    • なぜその目標が必要なのか
    • なぜその数字が適切なのか
    • なぜその戦略を選んだのか
  2. 「どのように」が具体的である

    • どのような顧客にアプローチするのか
    • どのような活動を、どのくらいの頻度で行うのか
    • どのようなリソースを投入するのか
  3. 「誰が」が明確である

    • 誰が責任を持つのか
    • 誰がサポートするのか
    • 誰と協力して進めるのか

これらを欠いた計画は、単なる「願望のリスト」や「数字の羅列」に過ぎません。

アルプス山脈の教訓を深める:「説明の力」

前回までのアルプス山脈の逸話をさらに深掘りしてみましょう。

偵察隊が無事に帰還できたのは、単に「地図があった」からではありません。

彼らは地図を使って「現在地」と「目的地」を特定し、「進むべき方向」を決め、「危険な場所」を避け、「休憩ポイント」を設定した—

つまり、地図を「説明」し「解釈」し「活用」したのです。

もし彼らが「地図がある」という安心感だけで、実際にはそれを広げて検討もしなかったとしたら、結果は違っていたでしょう。

事業計画も同じです。

計画書が棚に飾られているだけでは意味がありません。それを「説明」し「解釈」し「活用」してこそ、価値が生まれるのです。

「説明できない計画」が組織にもたらす3つの弊害

「説明できない計画」を持つことで、組織にはどのような弊害が生じるでしょうか?

  1. 当事者意識の欠如: 「どうせ誰も説明できない数字だから」と、他人事として捉えられる
  2. 創意工夫の停滞: 具体的な道筋がないため、現場での創意工夫が生まれない
  3. 失敗からの学びの欠如: なぜうまくいかなかったのかを分析するための基準がない

これらは、単なる「短期的な目標未達」よりも遥かに深刻な問題です。組織の成長力そのものを損なうからです。

「説明できる簡素な計画」vs「説明できない精緻な計画」

多くの社長は、「詳細で精緻な計画=良い計画」と思いがちです。

しかし、実は逆の場合も多いのです。

あるIT会社の例を見てみましょう:

❌ ケースA:精緻だが説明できない計画

  • 100ページに及ぶ詳細な市場分析と財務予測
  • 専門用語と複雑な表が満載
  • 外部コンサルタントが作成し、誰も全体を把握していない

✅ ケースB:簡素だが説明できる計画

  • 10ページの簡潔な計画書
  • 「3つの重点市場」「5つの主要施策」が明確
  • 全役員が自分の言葉で説明できる

結果は明らかでした。ケースBの会社は計画の80%を達成し、社員の一体感も高まりました。

一方、ケースAの会社は計画と現実の乖離が大きく、「またコンサルタントの作った絵に描いた餅か」という諦めムードが蔓延しました。

「説明力」を高める3つの実践法

では、計画の「説明力」を高めるために、どのような実践が効果的でしょうか?

  1. 「ストーリー」として語れるか確認する: 「なぜ」「どのように」「誰が」を含む一貫したストーリーになっているか
  2. 「5分テスト」を実施する: 計画の核心部分を5分で説明できるか、役員全員でトライする
  3. 「他者説明」を促進する: 自分が担当でない部分の計画も説明できるよう、相互理解を深める

これらの実践を通じて、計画の「説明力」は飛躍的に高まります。

アルプス山脈の教訓の応用:「共有地図」の作り方

前回までのアルプス山脈の逸話を、今回の「説明力」というテーマに応用してみましょう。

偵察隊の全員が地図を理解し、互いに確認し合いながら進んだように、事業計画も「共有地図」として機能するべきです。

そのための具体的なステップは:

  1. 計画策定に多様なメンバーを巻き込む: 現場の知恵と経営層のビジョンを統合する
  2. 視覚化を重視する: グラフ、図表、タイムラインなど、言葉以外の表現も活用する
  3. 定期的な対話の場を設ける: 計画と現実のズレを「学び」に変える振り返りの機会を作る
  4. 「仮説」としての姿勢を保つ: 「これが正解」ではなく「これが現時点での最善策」という謙虚さを持つ

このプロセスを通じて、計画は単なる「文書」から「生きた共有地図」へと進化します。

社長の役割:「説明者」から「問いかけ者」へ

多くの社長は「計画を説明する側」と考えがちですが、実は「問いかける側」としての役割も同様に重要です。

  • 「なぜこの数字だと思う?」
  • 「どうやってそれを達成する?」
  • 「それが達成できなかったとき、何を学べる?」

こうした問いかけを通じて、組織全体の「説明力」は高まっていきます。

まとめ:スローガンと計画の境界線

スローガンと計画の境界線は、まさに「説明できるか否か」にあります。

「売上倍増!」というスローガンが計画になるのは、「なぜ」「どのように」「誰が」という要素が加わり、組織の誰もがそれを自分の言葉で説明できるようになったときです。

アルプス山脈の偵察隊がピレネー山脈の地図で帰還できたのは、その地図が「説明可能」だったからこそ。彼らはその地図を使って、状況を説明し、方向を定め、危険を回避することができたのです。

あなたの会社の計画は、スローガンでしょうか?それとも、誰もが説明できる「共有地図」でしょうか?

【次回予告】第4回「ToDo リストでは会社は良くならない」

次回は、「説明できる計画」の先にある落とし穴についてお話しします。

多くの社長さんが「説明できるToDoリスト」を作って満足してしまう現実と、なぜそれだけでは不十分なのかを解説します。

引き続きアルプス山脈の偵察隊から学ぶ経営の知恵をお届けします。お楽しみに。


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