今回は「低金利の金融機関の開拓」というテーマで、借入コストを削減する具体的な方法
についてお伝えします。
多くの中小企業の社長は
「金利は交渉しても下がらない」
「メインバンク以外から借りるのは難しい」
と考えがちです。
しかし実際には、適切なアプローチで新たな金融機関との取引を開始し、融資条件を改善
することは十分可能です。
ただし、ここで注意すべき重要なポイントがあります。
それは「表面金利だけで判断してはいけない」ということです。
本日は表面上の金利だけでなく、実質的なコストも含めた「真の借入コスト」を理解し、
本当の意味での資金繰り改善につながる金融機関開拓法をお伝えします。
金融機関は融資の金利を決める際、表面上の金利だけでなく「実質的な収益性」で判断して
います。これは以下のような要素を総合的に考慮したものです:
– 貸出金利による収入
– 預金残高からの収益
– 関連サービスの利用状況(クレジットカード、為替取引など)
– 経営者個人や従業員の金融商品利用状況
– 事務コストの回収
例えば、Aという会社に年利1.5%で1,000万円を融資する場合、銀行の金利収入は年間15万円です。
しかし、もしその会社が平均3,000万円の預金を置いていれば、銀行はその預金を運用して追加
収益を得られます。
このため、銀行としては低い金利でも総合的に見れば収益が確保できるのです。
多くの社長が見落としがちなのが、信用保証協会付き融資における「保証料」の存在です。
例えば:
– 表面金利:1.5%
– 保証料:1.0%~2.0%(信用力により変動)
– 実質コスト:2.5%~3.5%
保証料は多くの場合、融資実行時に一括で差し引かれるため、「実際に手元に入る金額」
は借入額より少なくなります。
例えば1,000万円を借りる場合、保証料約100万円が差し引かれ、実際に入金されるの
は900万円程度になることもあります。
しかし、返済は1,000万円に対して行うため、実質的な金利負担は表面上の数字より大きく
なるのです。
表面金利以外にも、以下のような「見えないコスト」が発生することがあります:
– 融資手数料(事務取扱手数料など)
– 担保設定費用(登記費用など)
– 決算書・試算表作成の追加コスト
– 銀行対応の時間的コスト
– 専用口座維持のための最低預金要件
これらを含めた総合的なコスト計算が必要です。
単純な金利の高低だけでなく、以下の要素を含めた総合コストで比較しましょう:
– 表面金利
– 保証料(保証協会付き融資の場合)
– 各種手数料
– 預金要件(預け金の機会損失)
– 付帯サービスの価値
例えば、A銀行(金利1.5%+保証料1.2%+手数料あり)とB銀行(金利2.0%+保証料なし+手数料なし
)では、一見するとA銀行の方が低金利に見えますが、実質コストではB銀行の方が有利な場合が
あります。
銀行は「預貸率」(預金に対する貸出の比率)を重視します
。例えば、5,000万円の融資を受けている場合、通常口座に1,000万円程度の預金を維持すること
で、銀行にとっての実質利回りが変わり、金利交渉の余地が生まれます。
ただし、「拘束性預金」(融資の見返りとして強制的に預けさせられる預金)は資金効率を悪化
させる原因になるので注意が必要です。
近年、財務数値だけでなく「事業の将来性」や「経営者の資質」を評価する「事業性評価」を
重視する金融機関が増えています。
このような金融機関は、一時的な財務状況よりも中長期的な視点で融資判断をするため、総合
的なコストパフォーマンスが高いことが多いです。
まずは現在の借入について、表面金利だけでなく実質コストを計算しましょう:
実質コスト計算例
– 借入額:3,000万円
– 表面金利:2.0%(年間金利60万円)
– 保証料:1.2%(36万円、一括前払い)
– 担保設定費用:15万円(初回のみ)
– 事務手数料:5万円(年間)
– 拘束性預金:500万円(機会損失 約1.0%で5万円)
初年度の実質コスト計算
– 金利支払い:60万円
– 保証料:36万円
– 担保設定費用:15万円
– 事務手数料:5万円
– 預金の機会損失:5万円
– 総コスト:121万円
実質年率に換算すると約4.0%となり、表面金利の2倍です。このような計算を各借入先ごと
に行い、実態を把握することが第一歩です。
銀行との交渉を有利に進めるには、銀行の収益構造を理解することが重要です。
– 預金・融資のバランスを意識した提案
– 給与振込や売上金の入金など、取引集中度をアピール
– 経営者個人の資産運用なども含めた総合的な取引の提案
– 決算書・試算表を定期的に提出する
– 資金計画を前もって相談する
– 問題が発生した際は早めに報告する
– 為替手数料(振込手数料など)
– 金融商品販売による手数料
– ビジネスマッチングによる手数料
これらを理解した上で、「あなたの銀行にとって収益性の高い顧客になります」という提案が
できると、交渉が有利に進みます。
融資形態によって実質コストは大きく異なります。
主な融資形態の特徴を理解しましょう:
– 特徴:銀行が全リスクを負う融資
– 表面金利:比較的高め(2.0%~3.5%程度)
– 実質コスト:表面金利に近い(別途手数料程度)
– メリット:保証料がかからず、総額では有利な場合がある
– 特徴:信用保証協会が保証する融資
– 表面金利:比較的低め(1.0%~2.5%程度)
– 実質コスト:表面金利+保証料(1.0%~2.0%)
– 注意点:保証料が前払いで差し引かれる場合が多い
– 特徴:不動産等を担保とする融資
– 表面金利:低め(1.0%~2.0%程度)
– 実質コスト:表面金利+担保設定費用
– 注意点:担保評価によって借入可能額が制限される
– 特徴:自治体の制度を利用した融資
– 表面金利:非常に低い(0.5%~1.5%程度)
– 実質コスト:表面金利+保証料(一部補給される場合もある)
– メリット:総合的に最も低コストになる可能性が高い
新たな金融機関を開拓する際は、以下の点を重視して評価しましょう:
– 表面金利だけでなく、すべての条件を確認
– 保証料や手数料の詳細を必ず確認
– 預金要件(明示的・暗黙的)の確認
– 契約期間や途中返済条件の確認
– 複数の金融機関から提案を受け、比較材料にする
– 実質コストベースで比較していることを伝える
– 長期的な取引関係の構築を前提に交渉する
– 単なる低金利だけでなく、事業支援内容も評価する
– 政府系金融機関:低金利だが審査に時間がかかる場合が多い
– 地方銀行:総合的なサービスが充実
– 信用金庫:地域密着型で経営者の人柄を重視
– メガバンク:全国ネットワークがあり情報量が豊富
事例1:表面金利にだまされたA社の場合
製造業を営むA社は、メインバンクの2.5%より低い1.5%という金利に魅力を感じ、
B銀行からの借り換え提案に応じました。
しかし、実際には以下のような条件が隠れていました:
– 表面金利:1.5%
– 保証料:1.3%(前払い)
– 融資実行手数料:融資額の0.5%
– 経常取引口座の維持要件:平均残高1,000万円以上
結果として、実質コストは3.5%以上となり、メインバンクより高コストの借入
となってしまいました。
事例2:実質コストを理解して成功したB社の場合
一方、サービス業のB社は新規融資を検討する際、以下のように複数の提案を実質
コストで比較しました:
C銀行の提案
– 表面金利:2.2%
– 保証料:なし(プロパー融資)
– 担保:なし
– 預金要件:なし
– 実質コスト:2.2%
D銀行の提案
– 表面金利:1.4%
– 保証料:1.1%
– 担保:なし
– 預金要件:融資額の10%
– 実質コスト:約2.8%
B社は表面金利は高いものの実質コストが低いC銀行を選択し、結果的に資金繰りの改善
に成功しました。
低コストでの資金調達を実現するための本質は、一時的な低金利ではなく、金融機関との
長期的な信頼関係の構築にあります。
金融機関に対して積極的に情報開示することで信頼関係が築け、結果的にリスクプレミアム
(金利上乗せ)が低減します:
– 月次試算表の定期的な提出
– 資金繰り計画の共有
– 問題点の早期相談
– 成功事例や新規案件の情報共有
すべての金融機関と同じ関係を築くのではなく、役割分担を明確にすることも重要です:
– メインバンク:コア融資、総合的な経営支援
– サブバンク:特定目的の融資、メインのバックアップ
– 政府系金融機関:長期的な設備投資、危機対応
単なる「お金の出し手」ではなく、事業のパートナーとして金融機関と向き合うことで、
より良い条件での融資が実現します:
– 経営課題の相談
– ビジネスマッチングの活用
– 事業承継や海外展開などの支援活用
– 人材紹介や情報提供の依頼
低金利の金融機関開拓は、表面金利だけを見るのではなく、実質コストを正確に把握して
判断することが重要です。
以下の点を常に意識しましょう:
– 保証料、手数料、預金要件などを含めた総合コストで判断する
– 特に保証協会付き融資の場合、保証料を必ず計算に入れる
– 預金と融資のバランスが金利に影響することを理解する
– 様々な取引を集中させることで交渉力が高まる
– 一時的な低金利より、長期的な安定関係を優先する
– 情報開示と誠実なコミュニケーションが実質コスト低減の鍵
– 1行依存のリスクを避け、複数行と良好な関係を維持する
– 競争原理を適度に活用して条件改善を図る
資金繰り改善において、借入コストの削減は地味ですが確実な効果をもたらします。
表面的な数字に惑わされず、実質的なコストと長期的な関係性を重視した金融機関選び
を心がけましょう。