この質問に対して、多くの社長が自信満々で「ToDoリスト」を取り出します。しかし、それこそが会社を停滞させ続けている根本原因の一つなのです。
前回(第3回)では「説明できない計画は計画ではない」というメッセージをお伝えしました。この話を受けて、多くの経営者が次に陥りがちな落とし穴があります。「よし、説明できるToDoリストを作ろう」という発想です。
「説明できるToDoリストを作れば、それが計画だ」——これは計画ではありません。それは「思考を停止したタスクの羅列」に過ぎません。
財務コンサルタントとして30社以上の経営改善に関わってきた中で、繰り返し目にしてきた光景があります。
毎年丁寧なToDoリストを作り、その達成率は90%を超えているにもかかわらず、会社の業績は年々悪化していく——というケースです。タスクは着実にこなされているのに、なぜ会社は良くならないのでしょうか。
この記事ではその理由と、ToDoリストを超えた「真の計画」が持つ力について解説します。
多くの社長が、こんなリストを作って満足しています。
これらは確かに「具体的」で「説明しやすい」。しかしこれは「思考なき頑張り」の典型例です。
製造業A社(年商2.5億円)の事例です。A社の社長は几帳面な方で、毎年詳細なToDoリストを作り、その達成率は毎年90%を超えていました。「展示会3回出展」「新規顧客開拓100件」「新商品3品投入」——全て実行しました。
しかし3年間、売上は前年割れが続きました。タスクの完了率は高いのに、なぜ業績が改善しないのか。その答えは「やることが間違っていた」ではなく「なぜそれをするのかという問いが欠けていた」というところにあります。
「展示会に出展する」ことは決まっているのに、「その展示会でどんな顧客に、どんな価値を伝え、どんな関係を構築するのか」という思考が止まっていました。「新商品を投入する」ことは決まっているのに、「誰のどんな問題を解決するのか」という問いが抜けていました。
ToDoリストは「何をするか」を列挙します。しかし「なぜそれをするのか」「それによって会社がどう変わるのか」という思考を省略します。この省略が、「忙しいのに会社が良くならない」という状態を生み出します。
心理学者ダニエル・カーネマンは著書『ファスト&スロー』において、人間の思考を「システム1(高速・直感的・自動的)」と「システム2(低速・分析的・意識的)」の2種類に分けて説明しています。
— ダニエル・カーネマン(ファスト&スロー より)
「ToDoリストを作る」という行動は、典型的なシステム1の産物です。過去に「展示会に出展したら受注が増えた」「新規開拓を増やしたら売上が伸びた」という経験から、「今年も同じことをすればいい」という直感的判断を下します。これは楽な思考です。
一方、「なぜ今期の売上が伸び悩んでいるのか」「市場全体が縮小しているのか、競合に顧客を取られているのか、提供価値がずれてきているのか」という問いに向き合うことは、システム2の領域です。これは疲れる思考です。
「考えるより動く方が楽」というのは心理的に正しい認識です。しかしカーネマンが示したように、システム1の直感に依存した経営判断は、環境が変化したときに無力化します。A社の「展示会3回出展」が3年間無効だったのは、市場環境が変化していたのにシステム2で再評価せず、システム1の習慣的判断を繰り返したからです。
このシリーズを通じて引用してきたアルプス山脈の偵察隊の逸話を、新たな視点で考えてみましょう。
第3回でお伝えした通り、雪に閉じ込められた偵察隊を救ったのは「ピレネー山脈の地図」でした。では、もし彼らが地図ではなくToDoリストだけを持っていたとしたら、どうなっていたでしょうか。
ToDoリストは「特定の環境下での最適ルート」を描きます。しかし環境が変化した瞬間に、そのリストは意味を失います。地図(真の計画)は「自分がどこにいて、どこへ向かいたいのか」という全体像を提供します。環境が変化しても、全体像を持った人間は判断し続けることができます。
A社が3年間タスクを実行し続けても改善しなかった理由がここにあります。市場という「地形」が変わっていたのに、去年のToDoリスト(古い地形に基づくルート)をそのまま実行していたのです。
単なるToDoリストと「真の計画」を区別する5つの要素があります。
サービス業B社の成功事例を比較として紹介します。B社は「詳細なタスクは3カ月先までしか決めない。しかし『なぜそれをするのか』『どんな効果を期待するのか』は1年先・3年先まで明確にしている」という方針で経営していました。
この5要素が整った計画を持つB社は、市場環境が変化したときに「手段(タスク)」は柔軟に変えながら「目的と方向性」に向かって進み続けることができました。3年間で売上が2.5倍、利益率も大幅改善を実現しました。
ToDoリストは、この5つの要素が整った全体構造の「末端」に過ぎません。5要素なき状態でToDoリストだけを作ることは、目的地も現在地もわからないまま「とりあえず北に進む」と決めることと同じです。
渋沢栄一が「論語とそろばん」で説いた経営観は、まさに「ToDo(何をするか)」ではなく「To Be(どうあるべきか)」という問いに向き合い続けることでした。
— 渋沢栄一(論語と算盤より)
渋沢が一橋家の財政改革から始まり、500社以上の企業設立に関わった際に一貫していたことは「この事業は何のためにあるのか、社会にどんな価値をもたらすのか」という問いを常に持ち続けたことでした。彼のToDoリストは常に「To Be(社会に価値をもたらす近代的産業の確立)」という方向性の下に整理されていました。
ToDoの前に「なぜ」を問うことで、タスクが目的につながっているかを確認できます。明快に答えられないToDoは、実行を止める勇気が必要かもしれません。
タスクの完了が会社の「状態の変化」につながっているかを問います。「展示会に出展する(ToDo)」ことが「新規顧客との関係を構築し、翌期の売上基盤を形成する(To Be)」という変化につながっているか。
同じ目的を達成するための「手段の見直し」です。昨年も同じことをした→だから今年も→というシステム1の自動判断を、システム2で上書きする問いです。
この3つの問いが、「頑張る経営」から「考える経営」への最初の一歩になります。
「社長としての真の決断は、日々のタスクを決めることではなく、会社の在り方を決めることにあります。」
カーネマンが示したように、ToDoリストはシステム1(楽な直感的思考)の産物です。真の計画はシステム2(しんどいが本質的な熟考)から生まれます。渋沢栄一が「論語(To Be)」と「そろばん(ToDo)」の両方を重視したように、方向性(To Be)なきタスク(ToDo)は会社を疲弊させるだけです。
アルプスの偵察隊が「間違った地図」でさえ生き延びられたのは、全体像を持って考え続けたからです。あなたの会社にとっての「地図」——目的・環境認識・戦略的意図・リソース配分・成功の定義——これを描くことこそが、社長の最も重要な仕事です。
なぜ多くの社長が「考える」より「頑張る」を選ぶのか——その心理的・文化的な背景と、真に「考える経営者」になるための具体的な方法を解説します。
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合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
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