事業計画書の本質的価値 第5回 思考なき「頑張り」の限界を配信しました。

2025.06.09

思考なき「頑張り」の限界

〜戦術的勝利と戦略的敗北:日本型経営の盲点〜


【5回連載完結】事業計画の本質的価値 – 第5回


「今月も目標未達でした。来月は頑張ります!」

あなたの会社でも、こんな報告を聞いたことはありませんか?実は、この「頑張ります」という言葉の中に、日本企業が30年間停滞し続ける根本原因が隠されているのです。


🔗 シリーズナビゲーション

📚 事業計画の本質的価値 シリーズ記事一覧
第1回:間違った計画でも無計画より価値がある理由
第2回:経営の真実:数字の向こう側にある本当の力
第3回:説明できない計画は、計画ではない
第4回:ToDoリストでは会社は良くならない
第5回:思考なき「頑張り」の限界 ← 今回

これまでの4回で見えてきたもの

これまで4回にわたり、事業計画の本質的価値について様々な角度からお伝えしてきました。

  • 第1回では「間違った計画でも無計画よりマシ」という教訓
  • 第2回では「お金の物語」としての会計の捉え方
  • 第3回では「説明できることの重要性」
  • 第4回では「ToDoリストでは会社は良くならない」

今回は、これまでの内容の根底にある、日本の経営文化そのものに潜む本質的な問題に切り込みます。それは「思考なき頑張り」という日本特有の価値観です。


日本人と「戦術的勝利」への執着

日本人には「戦略的な敗北を戦術的な勝利で覆せる」と考える傾向があります。

「頑張れば何とかなる」
「努力すれば報われる」
「粘り強さが成功を生む」

これらの信念は、戦後の日本の復興と経済成長を支えた原動力でした。そして確かに、かつての高度成長期には、この「頑張り」の精神が大きな成果を生み出しました。

しかし、経営環境が激変し複雑化した現代において、この「頑張り信仰」は大きな盲点になっているのではないでしょうか。


「体育会系文化」と思考停止の罠

日本社会で高く評価される「体育会系」の価値観。それは「思考停止して一心不乱に頑張る」文化とも言えます。

高校野球を見れば明らかです。「死ぬほど練習した」「限界を超えて頑張った」というプロセスが称賛され、時に結果以上に価値があるとされます。

ビジネスでも同じ構造が見られます:

  • 「とにかく営業件数を増やせ」(なぜその商品なのかは問わない)
  • 「残業してでも今月中に」(なぜ今月なのかは考えない)
  • 「みんなで一丸となって」(何に向かって一丸なのかは曖昧)

この価値観自体を否定するものではありません。しかし冷静に問うべきでしょう:

  • 「なぜ頑張るのか?」
  • 「何のために優勝するのか?」
  • 「その努力は本当に目的達成の最短経路なのか?」

こうした本質的な問いを抜きにした「頑張り」は、ビジネスにおいては致命的な非効率を生み出します。


ビジネスにおける「頑張り」の価値とは

ドラッカーの言葉を借りれば、利益ですら「会社存続のためのコスト」に過ぎません。ましてや、目的を見失った「頑張り」自体に価値はないのです。

❌ 失敗する社長の言葉

「毎日終電まで社員と一緒に頑張っていたが、売上は伸びず、社員の離職も増えていた。あるとき『なぜこんなに頑張っているのに成果が出ないのか』と自問し、愕然とした。『頑張る』ことが目的化し、『何のために』という問いを失っていたのだ」

✅ 成功する社長の言葉

「私は社員に『頑張るな』と言っている。代わりに『考えろ』と。頑張りは有限だが、知恵は無限だからだ」


古来の日本的経営に学ぶ真の叡智

実は、日本古来の経営者は「思考する経営」を実践していました。

近江商人の「三方よし」、二宮尊徳の「道徳経済合一説」、渋沢栄一の「論語とそろばん」—これらはすべて、目先の利益より長期的な価値創造を「考え抜いた」結果です。

戦後の「頑張り信仰」は、むしろ日本的経営の本質から逸脱した一時的な現象に過ぎないのかもしれません。

真の「和魂洋才」とは、古来の深い思考と現代の科学的手法を統合することなのです。


アルプス山脈から学ぶ最後の教訓

これまで4回にわたって引用してきたアルプス山脈の偵察隊の逸話。最後にもう一度、この物語から学びを得ましょう。

偵察隊は単に「頑張って」帰還したのではありません。彼らは「地図」という思考の道具を活用し、「どこにいるのか」「どこに向かうべきか」を考え続けたからこそ、生還できたのです。

もし彼らが地図を持たず、ただ「頑張って進め!」と叫びながら歩き続けていたら、おそらく全員が命を落としていたでしょう。

間違った地図であっても、「考え続ける」ことで正しい道を見つけられる—これこそが経営における計画の真髄です。


日本企業の「戦術的勝利・戦略的敗北」の罠

多くの日本企業が陥りがちな罠があります。それは「戦術的には勝利するが、戦略的には敗北する」という事態です。

  • 「年度目標を達成する」という戦術的勝利のために、長期的な研究開発投資を削減する
  • 「予算内に収める」という戦術的勝利のために、本来必要な設備投資を先送りする
  • 「指示された業務を完璧にこなす」という戦術的勝利のために、業務の本質的な改革を怠る

こうした「木を見て森を見ず」の判断の積み重ねが、長期的な競争力の低下を招いているのです。


真に成功している0.001%の社長たち

日本にも、「思考する経営」を実践し成功を収めている社長がいます。彼らはごくわずか、おそらく全社長の0.001%にも満たないでしょう。

柳井正氏、孫正義氏、大山健太郎氏、稲盛和夫氏…

彼らに共通するのは「思考する社長」であるという点です。

柳井正氏の「1日1000問」の真意

例えば、柳井正氏の「1日1000問」は単なる思考量ではありません。「なぜこの商品が売れるのか」「なぜこの価格なのか」「なぜこの立地なのか」—すべての経営判断に「なぜ」を5回重ねることで、表面的な戦術を超えた本質的な戦略を見つけ出しているのです。

彼らが重視するのは「頑張り」ではなく「考え抜くこと」なのです。


「To Do」より「To Be」、「戦術」より「戦略」

前回のメルマガで「ToDoリストでは会社は良くならない」とお伝えしました。その根本的な理由が、ここにあります。

「To Do(やるべきこと)」に囚われた経営は、日本的な「頑張り信仰」の表れであり、短期的な戦術的成功をもたらすかもしれませんが、長期的な戦略的勝利には結びつきません。

真に必要なのは「To Be(あるべき姿)」を明確にすること。そして「戦術」に没頭する前に「戦略」を固めることです。


「計画」の本質:思考の道具、対話の場

これまで4回にわたってお伝えしてきた「計画の価値」。その本質は、実は「頑張り」とは真逆の場所にあります。

計画とは:

  • 「頑張る」前に「考える」ための道具
  • 「動く」前に「対話する」ための場
  • 「執行」する前に「選択する」ための基準

90%の社長が「計画など絵に描いた餅」と考え、9.999%が「融資や補助金のため」だけに計画書を作成する中、真に計画の価値を理解している社長はわずか0.001%に過ぎません。

彼らが理解しているのは、計画とは「思考の道具」であり、その価値は計画の精度や達成率ではなく、「考え続けること」にあるという事実です。


今日からできる「思考する経営」の第一歩

では、どうすれば「頑張る経営」から「考える経営」に転換できるのでしょうか?

【明日の会議で、こう問いかけてみてください】

「これはなぜ必要なのですか?」
「この目標を達成すると、会社はどう変わりますか?」
「他にもっと良い方法はありませんか?」

この3つの質問が、あなたの会社を「頑張る会社」から「考える会社」へと変える最初の一歩になります。


最後の問いかけ:あなたは何を選ぶか

このシリーズを通して、私が皆さんにお伝えしたかったのは、単なる「事業計画の作り方」ではありません。それは「思考する経営」への招待状でした。

あなたはどちらを選びますか?

  • 計画なき「頑張り」で疲弊する99.999%の一員になるのか
  • それとも、「考え続ける」ことで真の成長を実現する0.001%になるのか

日本的な「頑張り信仰」と決別し、「思考する社長」への道を選ぶ—それがこのシリーズからの最大のメッセージです。

「頑張る」ことよりも「考える」ことを。
「ToDo」よりも「To Be」を。
「戦術」よりも「戦略」を。

そして何より、「地図」としての計画を持ち、常に「なぜ」を問い続ける経営を。

この選択があなたの会社の未来を決めるのです。


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