なぜ「コロナに強い」と言われた中古車業界が倒産ラッシュなのか?中古車業界の栄枯盛衰に学ぶ「浮利を追わず」の経営哲学

2025.06.15

なぜ「コロナに強い」と言われた中古車業界が倒産ラッシュなのか?

中古車業界の栄枯盛衰に学ぶ「浮利を追わず」の経営哲学

はじめに

「中古車販売業の倒産が過去最悪のペース」

https://www.tdb.co.jp/report/industry/20250609-chuukosya1-5/

 

このニュースを見て、多くの経営者は驚かれたのではないでしょうか。

なぜなら、つい数年前まで中古車業界は「コロナに強い業種」として注目を

集めていたからです。

しかし、この現象は決して珍しいことではありません。

焼肉業界、宅配業界、テレワーク関連業界…多くの業界で同様の「栄枯盛衰」

が繰り返されています。

今回は、財務の専門家として年商1億円から7億円の中小企業をサポートして

きた経験から、この中古車業界の事例を通じて「流行に惑わされない経営の本質」

についてお話しします。

 

中古車業界に何が起きたのか?

2020年:「コロナに強い業種」として脚光

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により多くの業界が打撃を受ける中、

中古車業界は注目を集めました。

なぜ中古車が注目されたのか?

  1. 移動手段への不安増大:公共交通機関を避け、自家用車での移動を望む人が急増
  2. 価格に対する意識変化:将来への不安から「車の出費を抑えたい」「手元にお金を残しておきたい」というニーズ
  3. 新車納期の長期化:コロナによる生産停止で新車が買えない状況

実際、2020年6月の中古車販売台数は前年同月比6.1%増の32万7368台と、9か月ぶりの

プラスに転じました。

 

新車市場が大幅に落ち込む中、中古車だけが好調を維持していたのです。

 

メディアが作り出した「成功神話」

この好調ぶりを受けて、メディアは連日のように報道しました。

  • 「コロナ禍でも強い中古車業界」
  • 「アフターコロナの勝ち組業種」
  • 「今こそ中古車ビジネスの時代」

こうした報道に影響され、多くの企業が中古車事業への参入や事業拡大を決断しました。

転落への道筋

参入ラッシュが始まった

メディアの注目を受けて、様々な企業が中古車事業に参入しました。

  • 異業種からの新規参入
  • 既存の中古車販売店の規模拡大
  • フランチャイズ展開の加速

一見すると、これは業界全体の成長を意味する良い兆候のように見えました。

しかし、環境は既に変化していた

2021年以降、中古車業界を取り巻く環境は大きく変化していました。

1. 仕入価格の高騰

  • 半導体不足による新車生産の遅れ
  • 中古車需要の増加による仕入価格上昇
  • オークション相場の高騰

2. 金利上昇の影響

  • 日銀の金融政策変更
  • 自動車ローン金利の上昇
  • 消費者の購買力低下

3. 人件費の急上昇

  • 人手不足による採用競争激化
  • 最低賃金の継続的上昇

4. 需要の先食いによる反動

  • コロナ初期の特需が一巡
  • 買い替えサイクルの長期化

そして倒産ラッシュへ

これらの外部環境の変化に対応できない企業から、順次倒産していくことになりました。

特に、ブームに乗って急拡大した企業ほど、固定費負担が重く、環境変化への対応が

困難だったのです。

この現象は中古車業界だけではない

焼肉業界でも同じことが起きている

実は、この「ブーム→参入ラッシュ→環境変化→倒産」のパターンは、焼肉業界でも

全く同じことが起きています。

焼肉業界の場合:

  • 2020年:「テイクアウト需要で好調」と報道
  • 2021年:新規参入・既存店舗の拡大ラッシュ
  • 2022年以降:人件費高騰、食材費上昇で苦戦
  • 2024年:倒産急増

他の業界でも繰り返される同じパターン

  • 宅配業界:コロナ特需→参入ラッシュ→競争激化→淘汰
  • テレワーク関連:需要急増→新規参入→需要一巡→倒産
  • マスク製造業:品不足で高利益→参入ラッシュ→供給過多→大量倒産

なぜこのようなことが起きるのか?

「儲かる業界探し」の罠

多くの経営者が陥りがちなのが「今、儲かる業界は何か?」という発想です。

この発想の問題点:

  1. 情報の遅れ:メディアで報道される頃には、すでにピークを過ぎている
  2. 競争の激化:同じことを考える企業が殺到する
  3. 本業からの乖離:自社の強みを活かせない分野への進出
  4. 短期的思考:持続性を考えない判断

外部環境への過度な依存

「コロナに強い」という評価も、結局は外部環境に依存した一時的な現象でした。

外部環境は必ず変化します。その変化に翻弄される経営では、持続的な成長は望めません。

財務の観点から見た危険信号

私が多くの中小企業の財務をサポートしてきた経験から、ブームに乗った企業に共通

する危険信号をお伝えします。

1. 急激な売上成長への錯覚

売上が急激に伸びると、経営者は「うまくいっている」と錯覚しがちです。

しかし、財務的には以下の問題が潜んでいることが多いのです。

  • 利益率の低下:競争激化により価格競争に巻き込まれる
  • 運転資金の圧迫:売上拡大に伴う仕入れ増加で現金不足
  • 固定費の急増:人員増加、店舗拡大による固定費負担増

2. 資金繰りの悪化

特に危険なのが、売上は増えているのに現金がないという状況です。

これは「成長企業の罠」とも呼ばれ、多くの企業が陥りがちです。

なぜ売上が増えても現金がないのか?

  • 売上計上と現金回収のタイムラグ
  • 成長に伴う運転資金の増加
  • 設備投資による現金流出

3. 借入依存度の急上昇

成長資金を借入に頼りすぎると、環境変化時に返済負担が重くのしかかります。

では、どうすべきなのか?

住友家の教え「浮利を追わず」

住友家が400年以上にわたって受け継いできた家訓に「浮利を追わず」という言葉

があります。

これは、目先の利益や一時的な儲けに飛びつかず、堅実で持続可能な事業経営を

重視するという意味です。

まさに現代の中小企業経営にも通じる重要な考え方と言えるでしょう。

 

「何をしたいのか?」から始める

「儲かる業界は何か?」という浮利を追うのではなく、

「自社は何をしたいのか?

」「何のために事業をしているのか?」

から考えることが重要です。

 

経営理念に基づく事業展開の利点:

  1. 一貫性のある判断:迷った時の判断基準が明確
  2. 持続可能性:外部環境に左右されにくい
  3. 差別化:独自性のある価値提供
  4. 社員のモチベーション:共通の目標に向かう組織力

自社の強みを活かす

流行に乗るのではなく、自社の強みを活かせる分野で勝負することが重要です。

強みの見つけ方:

  • 創業時から継続している事業は何か?
  • 競合他社と比べて優れている点は何か?
  • 顧客から評価されている要素は何か?
  • 社内で蓄積されているノウハウは何か?

財務基盤の強化

流行に惑わされないためには、強固な財務基盤が不可欠です。

財務基盤強化のポイント:

  1. 現金の確保:最低でも月商の2-3か月分の現金
  2. 借入依存度の管理:総資産に占める借入金の割合を50%以下に
  3. 収益性の向上:単純な売上拡大より利益率の改善
  4. 資金繰りの予測:3か月先までの資金繰り表作成

まとめ:流行に惑わされない経営とは

中古車業界の栄枯盛衰は、多くの経営者にとって貴重な教訓となります。

重要なポイント

  1. メディア情報に惑わされない:「儲かる業界」情報は既に遅い
  2. 経営理念を明確にする:判断基準となる軸を持つ
  3. 自社の強みを活かす:流行より自社の得意分野で勝負
  4. 財務基盤を強化する:環境変化に耐えられる体力をつける
  5. 長期視点を持つ:短期的な利益より持続可能性を重視

最後に

年商1億円から7億円の企業にとって、「次の成長ステージ」への誘惑は大きいものです。

しかし、その成長が持続可能でなければ意味がありません。

流行に乗るのではなく、自社の軸を持った経営を続けることで、外部環境の変化に

左右されない強い会社を作ることができます。

 

もし現在の資金繰りや事業展開にご不安を感じられているなら、一度立ち止まって

「何のために事業をしているのか?」を考えてみてください。

 

その答えが、持続可能な成長への道筋を示してくれるはずです。


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