「頑張っているのに、なぜか利益が出ない。売上はあるのに手元にお金が残らない。税理士に相談しても、もっと売上を上げましょうとしか言われない」——このような状況に心当たりはありませんか。
問題の本質は「頑張り方」ではなく「考え方」にあります。サンマルクカフェ創業者・故片山直之氏(1958年-2018年)は、こう言いました:
「売上は人気のバロメーター、
利益は知恵のバロメーター」
この言葉に凝縮された経営の本質を、30社以上の財務改善を支援してきた経験から解説します。「頑張る経営」から「考える経営」へ——その転換点となる5つの原則をお伝えします。
多くの社長が「売上至上主義」に陥っています。売上が伸びれば会社は良くなる——そう信じて、日々懸命に営業活動に励んでいます。しかし売上が伸びても利益が出ない会社は数多く存在します。30社以上の財務改善を支援してきた経験から言えば、その割合は驚くほど高いのが現実です。
帝国データバンクの「全国企業倒産集計2025年度報」(2026年4月公表)では、2025年度の倒産件数が1万1,027件(負債1,000万円以上)に達しました。倒産企業の多くは、売上水準では問題がなかったにもかかわらず、利益が薄く資金が積み上がらなかった会社です。「売上は好調なのに苦しい」という状態が長期間続いた末の倒産——これが「頑張る経営」の行き着く先です。
• 売上は前年比120%なのに、手元の資金が減っている
• 忙しくて休む暇もないのに、利益率は3%未満
• 価格競争に巻き込まれ、値下げ要求に応じ続けている
• 「もっと頑張れば」と思いながら、疲弊していく
これらはすべて、「頑張り」が先行し「考える」ことが後回しになっている典型例です。
片山直之氏の言葉「売上は人気のバロメーター、利益は知恵のバロメーター」は、この問題を一言で射抜いています。売上は顧客に選ばれた証拠であり、努力と行動量で伸ばすことができます。しかし利益は、どれだけ賢く事業を運営しているかの証拠であり、「考える」ことでしか伸ばせません。
どれだけ多くの人に選ばれたか。市場での存在感。「頑張り」で伸ばせる。
どれだけ賢く事業を運営しているか。仕組み化の成果。「考える」ことで伸ばせる。
この定義の何が革命的かといえば、**利益を「結果」ではなく「知恵の証明」として位置づけた**点です。利益が出ないのは運が悪いからでも市場が厳しいからでもなく、経営者の思考が足りないからだという明確なメッセージです。
サンマルクカフェ創業者(1958年-2018年)。メディア露出を極力控えた「メディア嫌いの天才経営者」として知られる。独自の経営哲学により、激戦のコーヒーチェーン市場で差別化に成功。2018年に60歳で逝去した後も、その経営理念は継承されV字回復を実現している。
片山氏は自社の事業分野を**「意表の喜び創造業」**と規定していました。「意表を突く」とは、相手の予想を超えるということ。顧客が予想もしていなかった価値を提供することを使命として定義していたのです。
経営学者ピーター・ドラッカーは「利益は目的ではない。利益は事業を継続させるための条件である」と語っています。この視点は、片山氏の哲学と深いところで重なっています。
— ピーター・ドラッカー(『現代の経営』より)
「利益を目的にしてはいけない」というドラッカーの教えは、一見「利益より売上(顧客への普及)を重視せよ」と読める誤解を招くことがあります。しかし片山氏の「利益は知恵のバロメーター」という言葉と合わせると、本質が見えてきます。
**利益は目的ではなく、知恵の証であり、事業継続の条件**——この二つの視点を統合すれば、「利益の出ない会社は、社会に価値を提供する知恵が足りなく、事業を継続する資格もない」という厳しくも正確な経営論が浮かび上がります。
30社以上の支援現場で見えたのは、利益が出ない会社の多くが「顧客への提供価値を深く考えていない」という共通点でした。誰に、何を、どのような仕組みで提供するか——この問いを考え抜いた会社だけが、ドラッカーの言う「事業継続の条件」を満たす利益を生み出しています。
利益率を3%から10%に改善した企業の共通点は、「売上を追わなくなったこと」でした。
代わりに彼らが注力したのは:
• どの顧客にフォーカスするか(顧客の選別)
• どの商品・サービスに注力するか(商品の選別)
• どのような仕組みで提供するか(オペレーションの最適化)
「もっと売る」ではなく「賢く売る」という思考への転換です。
「利益が出ない」の根本には売上総利益(粗利)の構造問題があります。粗利の質と利益の関係については以下の記事で詳しく解説しています。
片山氏の経営哲学と、30社以上の財務改善実績から導き出した「思考型経営の5つの原則」をご紹介します。
渋沢栄一が「論語とそろばん」で説いた核心は、道義(論語)と経済(そろばん)は対立するものではなく、統合されるべきものだという思想です。この視点は、片山氏の経営哲学とドラッカーの利益論を統合する鍵になります。
— 渋沢栄一(論語と算盤より)
片山氏の「利益は知恵のバロメーター」という言葉を渋沢の文脈で読み解くと、こうなります。「知恵(論語:顧客への本質的な価値提供)」と「利益(そろばん:事業継続の条件)」は両立するものであり、知恵のない利益追求は長続きせず、利益の出ない事業は社会への貢献を続けられない——この二つの統合が「思考型経営」の本質です。
**「頑張る経営」vs「考える経営」**の構造をまとめます。
| 観点 | ❌ 頑張る経営 | ✅ 考える経営 |
|---|---|---|
| 目標 | 売上拡大 | 利益の質の向上 |
| 方法 | 営業量を増やす | 仕組みを改善する |
| 競争 | 競合を追いかける | 独自の市場を創る |
| 利益への認識 | 頑張った結果 | 知恵の証明 |
| 時間軸 | 短期的成果重視 | 持続可能性重視 |
製造業A社(年商3億円)の事例です。改善前は営業担当者を3名から5名に増員し新規顧客開拓に注力しました。売上は120%に伸びましたが利益率は2%→1.5%に低下しました。改善後は顧客を利益率で分析し上位20%にフォーカス。標準化・マニュアル化で品質向上とコスト削減を両立させました。売上は前年並みでしたが利益率は8%に向上しました。「もっと売る」から「賢く売る」への転換が利益率を4倍以上にしました。
「考える経営」に転換するために、今日からできる4つの質問をお伝えします。
売上が高くても利益が低いなら「人気はあるが知恵が足りない」状態です。仕組み化・システム化の余地がないか見直しましょう。ドラッカーが示したように、利益は事業を継続するための条件です。
業界の常識を3つ書き出し、それぞれに「なぜ?」を5回繰り返してみましょう。片山氏が「コーヒーチェーンの主役はコーヒー」という常識を疑ったように、常識の外に独自のポジションが潜んでいます。
「製造業」「サービス業」という業種定義ではなく、「顧客にとって当社はどんな価値を提供しているか?」を言語化しましょう。片山氏の「意表の喜び創造業」という定義が、差別化の原点でした。
渋沢栄一の「そろばん(経済合理性)」は、目先の利益を追うことではなく、長期的な価値創造への投資を支持します。短期の犠牲で長期の利益を生む仕組みを考えることが「知恵」です。
片山氏が2018年に60歳で逝去した後も、その経営理念は継承されサンマルクはV字回復を実現しました。これは片山氏の経営哲学が単なる個人的な能力ではなく、継承可能な思考法だったことを証明しています。
「売上は人気のバロメーター、利益は知恵のバロメーター」——この言葉とドラッカーの「利益は事業継続の条件」、渋沢の「論語とそろばんの統合」が示すのは、同じ一つの真実です。知恵ある経営者だけが、社会に価値を提供し続けながら利益を生み出し、事業を永続させることができる。
「考える力」を磨くことが、「収益満開経営」の核心です。
A. 全方位的な営業活動から、利益率の高い顧客・商品へのフォーカスへの転換です。A社の事例のように、顧客を利益率で分析し、価値を届けられる顧客との関係を深めることが実践の第一歩です。ドラッカーが示したように、利益は事業を継続させる条件——その条件を確実に満たすための選択と集中です。
A. 30社以上の支援経験から、最低でも6カ月、通常は1〜2年の継続的な取り組みが必要です。ただし小さな成功体験は早期に得られます。顧客を利益率で分析し上位にフォーカスするだけで、3カ月以内に利益率が改善するケースは多いです。重要なのは「考える習慣」を身につけることです。
A. 片山氏は「店内製造」というこだわりと「オペレーションの効率化」を実際に両立させました。鍵は「どちらか一方を選ぶ」のではなく「両方を実現する方法はないか?」と問い続けることです。この問いを諦めずに考え抜いた企業だけが、真の差別化を実現しています。
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経営コンサルタント 長瀬好征
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