利益は出ているのに、なぜか手元に現金がない…
この状態を放置すると、黒字倒産のリスクが高まります
「利益は出ているのに、なぜか手元の現金が足りない」と感じていませんか?
キャッシュフロー悪化の真の原因は、実は売上減少や赤字だけではありません。
むしろ「急激な売上増加」や「過剰在庫」など、多くの経営者が見落としがちな点に潜んでいます。
📊 本記事で解決できること
会社の損益計算書(P/L)は黒字で、順調に利益が出ている。
それにもかかわらず、なぜか手元の資金が足りず、支払いに窮する――。
これは多くの経営者が直面する可能性のある、非常に危険な状態です。
⚠️ 重要なポイント
この「利益は出ているのに現金(キャッシュ)がない」という状況が、
いわゆる「黒字倒産」の入り口なのです。
キャッシュフローとは、その名の通り「現金の流れ」を指します。会社に入ってくる
現金(キャッシュイン)と、会社から出ていく現金(キャッシュアウト)の差額が、
企業の生命線となります。
会計上の「利益」と、手元にある「現金」が一致しないのは、売上や費用を計上するタイ
ミングと、実際にお金が入金・出金されるタイミングに「ズレ」があるためです。
項目 | 会計上の利益への影響 | 現金(キャッシュ)への影響 | 具体例 |
---|---|---|---|
売掛金 | 売上が立った時点で利益に計上される | 実際に入金されるまで現金は増えない | 商品を掛けで販売した場合、売上は計上されるが、入金は数ヶ月後になる |
棚卸資産(在庫) | 仕入れただけでは費用にならず、売れるまで資産として計上される | 仕入れた時点で現金は減少する | 100万円分の商品を仕入れても、売れるまでは費用にならず、仕入れ代金の支払いで現金は減る |
減価償却費 | 費用として計上され、利益を減少させる | 現金の支出は伴わない | 500万円の機械を5年で償却する場合、毎年100万円が費用となるが、実際の現金支出は購入時のみ |
借入金の返済 | 元本返済部分は費用にはならず、利益に影響しない(支払利息は費用) | 返済額の分だけ現金は減少する | 毎月50万円を返済している場合、その分だけ手元の現金は確実に減っていく |
税金の支払い | 利益に対して課税され、法人税等が費用として計上される | 決算後、定められた期日に現金で納付するため、現金が大きく減少する | 利益が出た期の翌期に納税するため、資金準備ができていないと資金繰りが急激に悪化する |
利益は出ているはずなのに、なぜか手元の資金が足りない。
多くの経営者が直面するこの「勘定合って銭足らず」の状態は、黒字倒産の前兆かもしれません。
損益計算書(P/L)の数字だけを追いかけていると、キャッシュフローを悪化させる真の原因を
見逃してしまいます。
⚠️ 成長企業の落とし穴
「売上が伸びているから会社は安泰だ」と考えるのは早計です。
実は、急激な売上増加は、運転資金を著しく圧迫し、キャッシュフローを悪化させる最大の要因
の一つです。
なぜなら、事業活動には通常、仕入代金の支払いが先に行われ、売上代金の入金が後になるという
タイムラグが存在するからです。
売上が急増すると、それに伴って仕入量も増加します。
つまり、出ていくお金(仕入代金)は急激に増えるのに対し、入ってくるお金(売上代金)は後から
しか入ってきません。
項目 | 計算式(例) | 改善の方向性 |
---|---|---|
売上債権回転期間 | 売掛金 ÷ (売上高 ÷ 365日) | 短縮する(早期回収) |
棚卸資産回転期間 | 棚卸資産 ÷ (売上原価 ÷ 365日) | 短縮する(在庫最適化) |
仕入債務回転期間 | 買掛金 ÷ (売上原価 ÷ 365日) | 延長する(支払猶予) |
貸借対照表(B/S)上、在庫は「棚卸資産」として資産の部に計上されます。
しかし、会計上の資産である在庫も、現金化されなければキャッシュを生まない「眠っているお金」
に他なりません。
💰 在庫が「負の資産」になる条件
複数の事業を展開している会社では、会社全体として黒字であっても、特定の事業がキャッシュ
フロー悪化の元凶となっているケースがあります。
⚠️ 経営者が陥りがちな罠
将来性を期待して利益率の低い事業や赤字事業に投資を続けた結果、優良事業が生み出した貴重
なキャッシュまで食い潰してしまうのです。
減価償却費は、会計上は費用として計上されますが、実際に現金が出ていくわけではない
「ノンキャッシュ・コスト」です。
そのため、利益の額以上に手元に現金が残りやすく、一見すると資金繰りに余裕があるように見えます。
💡 見落としがちな重要ポイント
減価償却費は、本来、老朽化した設備の更新投資に備えるための原資と考えるべきものです。
この資金を運転資金や賞与などに安易に充当してしまうと、いざ設備を更新する時期が来たときに、
自己資金がまったく足りないという事態に陥ります。
法人税や消費税、事業税といった税金の支払いは、利益が確定してから納付期限が訪れるため、
時間的なズレが生じます。
決算で大きな利益が出たことに安堵し、その利益を前提に役員報酬を増やしたり、大規模な投資を
決定したりした結果、納税時期になって手元資金が枯渇するというケースは、意外なほど多く発生
します。
⚠️ 税金支払いの厳しい現実
税金の支払いは、いかなる理由があっても待ってはくれません。
延滞すれば延滞税というペナルティも課されます。
この「わかっていたはずの支出」への準備不足が、キャッシュフローを一気に悪化させ、資金繰り
の計画を根本から狂わせてしまうのです。
前章で解説した「隠れた原因」のほかにも、キャッシュフローを悪化させる、より直接的で
一般的な原因が存在します。
これらは多くの経営者が認識しやすい一方で、日々の業務に追われる中で対策が後回しに
されがちな項目でもあります。
商品を販売したりサービスを提供したりした際に発生する「売掛金」は、会計上は売上と
して計上されますが、その時点ではまだ現金化されていません。
この売上が発生するタイミングと、実際に現金が入金されるタイミングのズレ(タイムラグ)
が、キャッシュフロー悪化の直接的な原因となります。
⚠️ 特に注意すべきリスク
取引先の経営状況の悪化による支払遅延や、最悪の場合の貸倒れ(回収不能)は、一気に
キャッシュフローを毀損させる致命的な要因です。
そのため、日頃からの与信管理と、迅速な入金確認の徹底が極めて重要になります。
固定費とは、売上高の増減にかかわらず、毎月一定額発生する費用のことです。
事業を拡大する過程で従業員を増やしたり、より広いオフィスに移転したりすると、これら
の固定費は増加します。
💰 固定費増大の恐ろしさ
問題は、売上が計画通りに伸びなかった場合に、増大した固定費が重くのしかかる点です。
固定費が増えれば、利益を確保するために必要な売上高(損益分岐点売上高)も上昇します。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
人件費 | 役員報酬、従業員給与、賞与、法定福利費など |
地代家賃 | 事務所、店舗、工場、倉庫などの賃料 |
減価償却費 | 建物、機械、車両などの固定資産の費用化(※キャッシュアウトは伴わないがPL上の費用) |
リース料 | コピー機や社用車などのリース料金 |
支払利息 | 金融機関からの借入金に対する利息 |
その他 | 通信費、水道光熱費の基本料金部分、各種保険料など |
金融機関からの借入は、設備投資や運転資金の確保に不可欠な手段ですが、その返済は
キャッシュフローに大きな影響を与えます。
💡 重要な会計知識
ここで最も注意すべき点は、借入金の「元本返済額」は、損益計算書(PL)上の経費には計上
されないという事実です。
会計上、経費として扱われるのは「支払利息」の部分のみです。
ここまでキャッシュフローが悪化する様々な原因について解説してきました。
自社の状況と照らし合わせて、「もしかしたらうちの会社も…」と不安に感じた経営者の方も
いらっしゃるかもしれません。
以下の項目に一つでも当てはまる場合は、キャッシュフローが悪化している、あるいは
将来的に悪化する危険性が高いサインです。
🚨 最重要警告サイン
「売上は好調で利益も出ているはずなのに、なぜか月末になると資金繰りが厳しい…」と
感じることはありませんか?
これは「黒字倒産」の典型的な兆候であり、最も注意すべき危険信号です。
まずは、損益計算書の利益と、実際の預金通帳の残高の推移を比較してみてください。
利益の伸び以上に預金残高が減っている、あるいは横ばいである場合は、資金繰りに問題が
潜んでいる可能性が高いでしょう。
商品を販売した代金を回収するまでの期間(売上債権回転期間)よりも、仕入れた代金を
支払うまでの期間(仕入債務回転期間)が短い場合、資金繰りは常に圧迫されます。
これは、常に資金が不足する構造的な問題を抱えていることを意味します。
指標 | 計算式 | 目安 |
---|---|---|
売上債権回転期間(日) | 売上債権(売掛金+受取手形) ÷ (年間売上高 ÷ 365) | 短いほど良い |
仕入債務回転期間(日) | 仕入債務(買掛金+支払手形) ÷ (年間売上原価 ÷ 365) | 長いほど良い |
理想は「売上債権回転期間 < 仕入債務回転期間」の状態です。もし逆転している場合は、取引先
との支払・回収サイトの見直し交渉が急務となります。
会計上、在庫は「棚卸資産」として貸借対照表に計上されます。
しかし、現金化されて初めて会社のキャッシュになるということを忘れてはいけません。
⚠️ 要注意の在庫項目
社長の頭の中や経験と勘だけで資金繰りを管理している「どんぶり勘定」は、キャッシュフロー
悪化のサインを見逃す最大の原因です。
💰 予測できる大きな支出例
キャッシュフローの悪化は、放置すれば事業の継続を脅かす深刻な問題です。
しかし、原因を正しく理解し、一つひとつ着実に対策を講じることで、健全な状態へと改善する
ことが可能です。
キャッシュフロー改善の第一歩は、自社のお金の流れを正確に把握することから始まります。
損益計算書(P/L)では利益が出ていても、実際のお金の動きは分かりません。
そこで活用すべきなのが「キャッシュフロー計算書(C/F)」です。
キャッシュフロー計算書が「過去」のお金の流れを分析するものであるのに対し、「未来」の
お金の動きを予測し管理するのが「資金繰り表」です。
項目 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
前月繰越現金 | 前の月から繰り越された手元資金 | – |
収入(入金) | 当月に入ってくる現金の合計 | 現金売上、売掛金回収、受取手形期日入金、借入金など |
支出(出金) | 当月に出ていく現金の合計 | 現金仕入、買掛金支払、人件費、家賃、水道光熱費、借入金返済、税金支払など |
差引過不足 | 収入合計から支出合計を差し引いた額 | この金額がマイナスだと資金が不足している状態 |
翌月繰越現金 | 前月繰越現金に差引過不足を加えた額 | この金額が次の月の「前月繰越現金」となる |
資金繰り表によって将来の資金不足が予測された場合や、事業拡大に伴う運転資金が必要
になった場合には、金融機関からの融資をはじめとする資金調達を検討します。
重要なのは、資金が完全に枯渇する前に、余裕を持って行動を起こすことです。
自社だけでキャッシュフローの改善に取り組むのが難しいと感じた場合は、躊躇なく専門家
の力を借りましょう。
客観的な第三者の視点が入ることで、社内では気づけなかった問題点や、より効果的な解決策
が見つかることがあります。
本記事では、売上急増や不良在庫など、多くの経営者が見落としがちなキャッシュフロー悪化
の隠れた原因を解説しました。
利益が出ていても資金がショートする黒字倒産は、これらの損益計算書だけでは見えにくい
原因によって引き起こされます。
この最悪の事態を避ける結論として、キャッシュフロー計算書や資金繰り表で現金の流れを
正確に把握し、早期に対策を講じることが企業の存続に不可欠です。
まずは自社の現状把握から始めましょう。
A. 売上増加に伴い、経常運転資金も比例して増加するためです。
売上が2倍になれば、売掛金や在庫も概ね2倍必要になり、その分の立て替え資金が必要です
。急成長時は特に運転資金の計画的な確保が重要になります。
A. 売掛金や棚卸資産、仕入債務の金額を基に、「売上債権○○万円、棚卸資産○○万円、
仕入債務○○万円により、○○万円の運転資金が必要です」と具体的に説明しましょう。
根拠のある回答は銀行の評価も高くなります。
A. ABC分析で重要商品を特定し、まずはCランク(売上貢献度の低い商品)から在庫削減を
始めることをお勧めします。
同時に需要予測の精度向上や、仕入先との関係強化による納期短縮に取り組み、段階的に
適正在庫を実現していきましょう。
A. 相談の仕方が重要です。「一方的な要求」ではなく、「お互いの発展のため」という姿勢
で臨みましょう。
発注量の増加や長期契約など、相手にもメリットがある提案とセットで相談することで、
Win-Winの関係を築けます。
週3回配信で経営に役立つ情報をお届けしています。財務初心者の社長でも分かりやすく
実践的な内容です。
✅ 月・水曜日:経営のヒントや最新情報
✅ 土曜日:今週のまとめ(YouTube・ブログ更新情報)
キャッシュフロー管理や資金繰り改善について、より詳しく学びたい方は以下のリソースもご活用ください: