「報酬を与えているのに、なぜか従業員のやる気が上がらない…」そんな悩みを抱えていませんか?
実は、報酬は時に動機づけを低下させる危険性をはらんでいます。
この記事では、なぜ報酬がモチベーションを低下させるのか、その決定的な理由を心理学の観点から徹底解説します。
特に「アンダーマイニング効果(過正当化効果)」という現象が、報酬が持つ落とし穴の核心であることを明らかに
します。
読み終えれば、報酬と動機づけの健全な関係を築くための具体的なヒントが得られるでしょう。
私たちは日々の生活や仕事において、何らかの動機づけによって行動しています。
しかし、その動機づけの源泉がどこにあるのか、そして特に「報酬」がそれにどのような影響を与えるのかを理解する
ことは、複雑な人間心理を紐解く上で非常に重要です。
この章では、動機づけの基本的な概念と、報酬がそれに与える影響の基礎知識について解説します。
動機づけは大きく二つの種類に分けられます。一つは、行動そのものから得られる喜びや満足感に根差す内発的動機づけ、
もう一つは、外部からの報酬や評価、罰などによって促される外発的動機づけです。
内発的動機づけは、個人の好奇心、興味、達成感、自己成長への欲求など、行動自体が目的となる場合に生じます。
例えば、趣味に没頭したり、新しい知識を学ぶことに喜びを感じたりする行動は、内発的動機づけによって推進されて
います。
このタイプの動機づけは、行動の質を高め、長期的な持続性をもたらす傾向があります。
一方、外発的動機づけは、給与、昇進、表彰、罰則、他者からの評価など、行動の外部にある要因によって行動が
促されるものです。
例えば、給料のために働く、試験で良い成績を取るために勉強する、といった行動がこれに当たります。
外発的動機づけは、特定の行動を迅速に促す効果がありますが、その効果は外部要因が取り除かれると失われやすい
という特徴があります。
両者の違いをより明確にするために、以下の表で比較してみましょう。
| 項目 | 内発的動機づけ | 外発的動機づけ |
|---|---|---|
| 源泉 | 行動そのものの興味・関心、達成感、成長欲求 | 外部からの報酬、評価、罰、強制など |
| 持続性 | 長期的、自律的、行動の質を高める | 短期的、外部要因に依存、量的な行動を促す |
| 行動の質 | 創造性、問題解決能力、深い学習、高いパフォーマンス | ルーティンワーク、単純作業、目標達成 |
| 例 | 趣味、ボランティア、自己研鑽、探求活動 | 給料、昇進、表彰、ノルマ達成、罰則回避 |
報酬は、従業員のパフォーマンス向上や目標達成を促す強力なツールとして広く認識されています。
しかし、その強力さゆえに、使い方を誤るとかえって動機づけを損ない、予期せぬ問題を引き起こすことがあります。
この現象は、行動経済学や心理学の分野で長年研究されてきました。
報酬が動機づけに問題を抱える主な理由は、それが内発的動機づけを「侵食」する可能性があるためです。
本来、人が自らの興味や喜びから行っていた行動に対し、外部からの金銭的な報酬が与えられると、その行動の目的が
「報酬を得るため」へとすり替わってしまうことがあります。
これにより、行動そのものから得られていた満足感が薄れ、結果として内発的動機づけが低下してしまうのです。
また、報酬はしばしば短期的な行動変容を促しますが、長期的な視点で見ると、報酬がないと行動しないという依存状態
を生み出すリスクもはらんでいます。
これは、報酬が行動の「目的」となり、「手段」としての役割を超えてしまうことで、自律的な行動意欲が失われることに
つながります。
このような報酬の負の側面は、特に創造性や自律性が求められる現代の仕事環境において、大きな課題となっています。
報酬が動機づけに与える影響は複雑であり、特に内発的動機づけが関わる場面では、その効果が逆転し、かえって意欲を
損なうことがあります。ここでは、その3つの決定的理由を心理学的な観点から深掘りします。
報酬が動機づけを低下させる最も代表的な現象が、この現象、または過正当化効果と呼ばれるものです。
これは、もともと内発的な動機づけによって行っていた活動に対して、外発的な報酬が与えられると、かえってその活動
への内発的な興味や意欲が低下してしまう心理現象を指します。
人間は、自分の行動が何によって引き起こされているのかを常に解釈しようとします。
内発的動機づけによって行動している場合、その行動の理由は「楽しいから」「興味があるから」といった内的な要因に
帰属されます。
しかし、ここに金銭などの外発的な報酬が加わると、人は自分の行動の理由を「報酬を得るため」という外的な要因に
帰属し直してしまうのです。
その結果、本来の「楽しい」という感覚が薄れ、報酬がなければ行動しないという状態に陥りやすくなります。
このアンダーマイニング効果を実証したのが、アメリカの心理学者エドワード・L・デシの研究です。
デシは1971年に行った有名な実験で、大学生を対象にソマパズルという立体パズルを解いてもらいました。
実験では、学生を3つのグループに分け、それぞれ異なる条件を設定しました。
実験の途中で休憩時間が設けられ、学生たちは自由に時間を過ごすことができました。
この休憩時間に、学生たちが自発的にパズルを解くかどうかが観察されました。
結果は衝撃的なものでした。報酬を与えられたBグループの学生たちは、報酬がなくなった途端、パズルへの
興味を失い、自発的にパズルを解く時間が著しく減少したのです。
一方、最初から報酬を与えられなかったAグループの学生たちは、休憩時間も自発的にパズルを解き続ける傾向
が見られました。
この研究は、報酬が内発的動機づけをいかに簡単に損なってしまうかを示す決定的な証拠となりました。
この現象は、自己決定理論の基盤となり、多くの心理学研究に影響を与えています。
報酬は、特に創造性を要する仕事や複雑な問題解決が必要なタスクにおいて、その能力を阻害する可能性があり
ます。
報酬が与えられると、人は報酬を獲得することに意識が集中し、リスクを避け、既知の方法や最短ルートで成果を
出そうとする傾向が強まります。
これにより、以下のような悪影響が生じます。
つまり、報酬は、特定の成果や行動を「早く」「多く」生み出すことには有効な場合がありますが、複雑な問題解決や
革新的なアイデア創出には逆効果となる可能性が高いのです。
報酬は、特定の行動を一時的に促進する強力な手段となり得ます。しかし、その効果は短期的なものにとどまり、
長期的な行動の持続性には結びつきにくいという問題があります。
外発的報酬によって動機づけられた行動は、報酬が提供されている間は維持されますが、報酬がなくなると、その
行動も停止してしまうことが多く見られます。
これは、行動の理由が「報酬を得るため」という外部要因に依存しているためです。内発的動機づけに根ざした
行動のように、「楽しいから」「意義があるから」といった内的な理由がないため、外部からの刺激がなくなると、
行動を続ける理由が失われてしまうのです。
この現象が最も顕著に現れるのが、「報酬がないと行動しない」という状態です。
これは、かつて内発的に行っていた行動であっても、報酬が導入されたことで、その行動が「報酬のための作業」
に変質してしまい、報酬がなくなると一切の意欲を失ってしまうことを意味します。
これは、個人の自律性や主体性が損なわれた状態であり、動機づけが完全に低下した状態と言えるでしょう。
この状態は、特に教育現場や人材育成において深刻な問題を引き起こします。例えば、テストの点数や成績に対する
報酬が過度に強調されると、生徒は「学ぶことの楽しさ」よりも「報酬を得るための勉強」に意識が向き、報酬が
なくなると学習意欲を失ってしまう可能性があります。
報酬の有無が行動に与える影響を以下の表にまとめます。
| 報酬の有無 | 行動への影響 | 動機づけの状態 |
|---|---|---|
| 報酬がある場合 | 短期的な行動を促進する効果があるが、内発的動機づけを損なうリスクを伴う。 | 外発的動機づけが優位となり、行動の理由が外部に帰属される。 |
| 報酬がなくなる場合 | 行動が停止したり、意欲が著しく低下したりする。 | 内発的動機づけが喪失しており、自律的な行動が困難になる。 |
報酬は時に強力な動機づけとなりますが、その与え方や対象となるタスクによっては、かえって逆効果となり、
人々の行動や意欲を損なうことがあります。
特に、内発的な動機づけがすでに存在する場合や、創造性が求められる仕事において、金銭的報酬が予期せぬ
負の影響をもたらすことが知られています。
ここでは、報酬が動機づけを低下させる具体的な状況について掘り下げていきます。
人々が自らの意思で、活動そのものに喜びや意義を見出して取り組んでいる場合、そこに金銭的な報酬を導入
すると、かえってその活動への意欲が低下することがあります。
これは「アンダーマイニング効果(過正当化効果)」の典型的な現れです。
例えば、趣味で絵を描くことが好きで、純粋にその行為を楽しんでいる人がいるとします。
もし、その人に「絵を描いたら1枚につき1万円を支払う」という報酬を提示した場合、当初は喜んで受け入れる
かもしれません。
しかし、時間が経つにつれて、絵を描く目的が「絵を描く楽しさ」から「1万円を得ること」へとすり替わって
しまう可能性があります。
結果として、報酬がなければ絵を描くことへの興味を失い、かつて感じていた純粋な喜びや内発的な動機づけが
損なわれてしまうのです。
この現象は、ボランティア活動や、個人の成長・学習に関わるタスクなど、本質的に報酬がなくても取り組める
活動において特に顕著に見られます。内発的動機づけは、自律性、有能感、関係性といった人間の基本的な心理的
欲求が満たされることで高まりますが、外部からの報酬はこれらの欲求を満たすどころか、コントロールされている
という感覚を与え、自律性を損なうことがあるのです。
創造性や複雑な問題解決能力が求められる仕事において、報酬が動機づけを低下させるケースも多く見られます。
ルーティンワークのように明確な手順や答えがある仕事では、報酬が生産性を高める効果を発揮しやすい傾向に
あります。
しかし、アイデア出し、研究開発、企画立案、デザインなど、試行錯誤や自由な発想が不可欠な仕事では、報酬が
逆効果となることがあります。
ダニエル・ピンクは著書『モチベーション3.0』の中で、報酬が創造性を阻害する可能性を指摘しています。
報酬が提示されると、人々は「どうすれば報酬を得られるか」という思考に集中し、報酬に直結しない多様な
アプローチやリスクを伴う発想を避ける傾向があります。
これにより、思考の幅が狭まり、斬新なアイデアや革新的な解決策が生まれにくくなるのです。
創造的な仕事においては、金銭的報酬よりも、仕事そのものへの没頭、自己決定の機会、成長の実感などが、
より強力な動機づけとなります。
報酬そのものが悪いわけではなく、その「与え方」が動機づけを損なう主要な原因となることがあります。
特に、報酬が特定の条件や行動に厳密に紐付けられ、事前に約束されている「期待報酬」の場合、その影響
は顕著です。
期待報酬とは、ある行動や成果に対して、事前に明確に約束された金銭的報酬のことです。
例えば、「このプロジェクトを成功させたらボーナスを支給する」「〇〇の目標を達成したら昇給する」といった
形で提示される報酬がこれにあたります。
このような期待報酬は、以下のような理由で動機づけを損なう可能性があります。
| 要素 | 期待報酬がもたらす影響 | 動機づけへの影響 |
|---|---|---|
| コントロール感の喪失 | 報酬が行動の主目的となり、自らの行動が外部の力(報酬)によってコントロールされていると感じる。 | 自律性が損なわれ、内発的動機づけが低下する。 |
| 自律性の低下 | 「報酬を得るために行動する」という思考が強まり、自らの意思ではなく、義務感で行動するようになる。 | 活動そのものへの興味や喜びが薄れる。 |
| 質の低下 | 報酬を得るための最低限の努力や、効率的な手段に目が向き、本来の目的や質の追求が疎かになる。 | 創造性や問題解決の深さが失われる可能性がある。 |
| 条件付けの形成 | 報酬がないと行動しない、という思考回路が形成され、「報酬ありき」の行動様式が定着する。 | 報酬がない状況での行動意欲が著しく低下し、持続性が失われる。 |
このように、期待報酬は短期的な行動を促す効果がある一方で、長期的な視点で見ると、人々の内発的な動機づけ
を奪い、行動の質を低下させ、さらには報酬がないと行動しないという「報酬依存症」のような状態を作り出す
リスクをはらんでいます。
報酬を与える際には、そのタイミング、方法、そして報酬が伝えるメッセージについて、慎重に検討する必要が
あります。
報酬が動機づけを低下させるリスクがある一方で、人間が本来持っている内発的な欲求を満たすことで、より持続
可能で質の高い動機づけを育むことができます。
ここでは、報酬に頼らずに人々の意欲を引き出すための主要な要素と具体的な方法について解説します。
人は、自分の行動や選択を自分で決めたいという根源的な欲求を持っています。これは心理学者のエドワード・デシと
リチャード・ライアンが提唱した自己決定理論における「自律性」の欲求に該当します。この欲求が満たされると、
人はより主体的に、そして責任感を持って物事に取り組むようになります。
具体的な方法としては、単に指示を与えるのではなく、仕事の進め方や達成方法について個人の裁量を認めることが
挙げられます。
例えば、目標設定のプロセスに当事者を巻き込んだり、複数の選択肢の中から本人に選ばせたり、意見を積極的に求め、
それを尊重する姿勢を示すことが重要です。これにより、与えられた仕事ではなく「自分の仕事」という意識が芽生え、
内発的な動機づけが高まります。
人は、自分の能力が向上していること、そして自分の行動が何らかの成果や貢献に繋がっていると感じることで、
大きな満足感を得ます。これも自己決定理論における「有能性」の欲求であり、「自分にはできる」という感覚が、
さらなる挑戦への意欲へと繋がります。
この有能感を育むためには、まず適切なフィードバックが不可欠です。単なる評価ではなく、具体的な行動に対する
建設的なフィードバックは、個人の成長を促します。
また、少し背伸びをすれば届くような「ストレッチ目標」を設定し、それを達成する過程で成功体験を積み重ねる
ことも有効です。
スキルアップのための研修機会を提供したり、新しい役割や責任を与えることで、個人の能力開発と有能感の向上を
同時に図ることができます。
人間は社会的な生き物であり、他者との良好な関係性の中で安心し、力を発揮することができます。
これは自己決定理論における「関係性」の欲求であり、所属感や他者からの承認が満たされることで、人は心理的に
安定し、安心して挑戦できるようになります。
職場においては、上司と部下、同僚間の信頼関係を築くことが極めて重要です。オープンなコミュニケーションを
奨励し、互いに協力し合えるチームワークを育むことで、個人は孤立感を感じることなく、自分の役割を全うしよう
とします。
また、個人の貢献を認め、感謝の意を伝えることも、関係性を深め、「自分はチームにとって必要な存在だ」という
感覚を育む上で欠かせません
。心理的安全性の高い環境は、失敗を恐れずに挑戦できる土壌を作り、結果として組織全体の生産性向上にも寄与
します。
自分の仕事が単なる作業ではなく、より大きな目的や社会的な意義に繋がっていると感じる時、人は深いレベルで
動機づけられます。
これは、単に与えられたタスクをこなす以上の、仕事への「意味」や「価値」を見出すことに他なりません。
組織のビジョンやミッションを明確に共有し、個々の業務がどのようにその達成に貢献しているのかを具体的に示す
ことが重要です。
例えば、製品やサービスが顧客にどのような価値を提供しているのか、社会にどのような影響を与えているのかを
伝えることで、従業員は自分の仕事が「誰かの役に立っている」という実感を得られます。
この目的意識が共有されることで、困難な状況に直面しても、それを乗り越えようとする強い内発的な動機づけが
生まれます。
これらの非金銭的な動機づけ要因は、報酬のように一時的な効果に留まらず、個人の成長と幸福感、そして組織への
エンゲージメントを長期的に高める上で不可欠な要素となります。
| 動機づけの要素 | 具体的な取り組み | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 自己決定感 | 裁量権の付与、仕事の進め方の選択肢提示、意見の尊重 | 主体性の向上、責任感の強化、創造性の発揮 |
| 有能感 | 適切なフィードバック、成長機会の提供、ストレッチ目標設定、成功体験の共有 | 自信の向上、スキルアップ意欲の促進、達成感の醸成 |
| 関係性 | 良好な人間関係の構築、チームワークの促進、相互承認、心理的安全性の確保 | 所属感の強化、安心感の醸成、協力体制の構築 |
| 目的意識・意義 | 組織のビジョン・ミッションの共有、仕事の社会貢献性・顧客価値の明確化 | エンゲージメントの向上、仕事への誇り、困難への耐性強化 |
これまでの議論で、報酬が動機づけ、特に内発的動機づけを損なう可能性を見てきました。
しかし、報酬がまったく不要だというわけではありません。むしろ、報酬は組織と個人の間で健全な関係を築く上で
重要な役割を果たすものです。重要なのは、その与え方と位置づけを正しく理解することです。
報酬の役割を理解する上で、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論」は非常に
参考になります。この理論は、仕事における満足と不満足は異なる要因によって引き起こされると説明しています。
ハーズバーグは、仕事の満足度や動機づけに影響を与える要因を、以下の二つのカテゴリーに分類しました。
| 要因の種類 | 具体的な内容 | 影響 |
|---|---|---|
| 衛生要因(不満足要因) | 給与、福利厚生、労働条件、会社のポリシー、監督、対人関係など | これらが不足すると不満を引き起こすが、満たされても積極的に動機づけはされない。 |
| 報酬(給与)は、この衛生要因に分類されます。つまり、給与が低いと不満の原因となりますが、単に給与が高いだけでは、それ自体が仕事への情熱や積極的な動機づけを生み出すわけではないのです。 | ||
| 動機づけ要因(満足要因) | 達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進、成長の機会など | これらが満たされると、積極的に仕事への満足感や意欲を高める。 |
| これらは個人の内発的動機づけに直接作用し、仕事への情熱や貢献意欲を引き出します。 | ||
この理論からわかるのは、報酬は従業員の不満を取り除き、最低限の満足度を保証する「衛生要因」としては
極めて重要であるということです。
しかし、それだけでは持続的な動機づけやエンゲージメントは生まれません。報酬は「なくてはならないもの」
ではあるが、「あればあるほど良い」というものではないと理解することが重要です。
報酬が衛生要因としての役割を果たす一方で、従業員の真の動機づけを高めるためには、金銭以外の「非金銭的報酬」
の活用が不可欠です。これらは、前述のハーズバーグの「動機づけ要因」に該当し、内発的動機づけを直接刺激します。
これらの非金銭的報酬は、従業員が仕事を通じて得たいと願う「自己成長」「承認」「貢献」といった内発的な欲求を満たし、
金銭的報酬だけでは得られない深い満足感と持続的な動機づけをもたらします。
報酬が動機づけを損なう原因の一つに、評価制度の不透明性や不公平性があります。
従業員が「なぜこの報酬なのか」「自分の努力が正当に評価されていない」と感じると、不満や不信感が募り、モチベーション
は著しく低下します。健全な報酬と動機づけの関係を築くためには、以下の点が重要です。
| 要素 | 内容と重要性 |
|---|---|
| 評価基準の明確化 | 何をもって評価されるのか、その基準を具体的に従業員に共有することが不可欠です。目標設定の段階で、達成すべき成果や行動基準を明確にし、従業員が「何をすれば評価されるのか」を理解できるようにします。 |
| 評価プロセスの透明性 | 評価がどのように行われるのか、誰が評価するのか、どのような情報が評価に用いられるのかといったプロセスを透明にすることで、従業員の納得感を高めます。ブラックボックス化された評価は、不信感の温床となります。 |
| 公平な運用 | 評価基準やプロセスが明確であっても、それが公平に運用されなければ意味がありません。評価者へのトレーニング、複数人による評価(360度評価など)、異議申し立ての機会などを設けることで、評価の公平性を担保します。 |
| 定期的なフィードバック | 評価結果だけでなく、その背景にある具体的な行動や成果について、定期的かつ建設的なフィードバックを行うことが重要です。これにより、従業員は自身の強みや改善点を理解し、成長に繋げることができます。フィードバックは、報酬以上に動機づけに貢献する強力なツールです。 |
報酬は、従業員の努力と成果に対する正当な対価であるべきです。その対価が透明で公平なプロセスを経て支払われる
ことで、従業員は組織への信頼感を高め、安心して仕事に集中し、自身の能力を最大限に発揮しようとします。
これにより、報酬が単なる金銭ではなく、貢献が認められた証としての価値を持つようになり、健全な動機づけへと
繋がるのです。
いいえ、報酬は完全に不要というわけではありません。
ハーズバーグの二要因理論が示すように、報酬は「衛生要因」として重要な役割を果たします。
適正な報酬は従業員の不満を防ぎ、基本的な生活の安定をもたらします。
重要なのは、報酬だけに頼らず、内発的動機づけを育む環境を整えることです。
アンダーマイニング効果は主に、内発的動機づけが高い活動や創造性が求められる仕事で起こりやすくなります。
一方、ルーティンワークや明確な手順がある作業では、報酬が効果的に機能することが多いです。仕事の性質を理解し、
適切な動機づけ手法を選択することが重要です。
既存の報酬制度を急に廃止する必要はありません。
まずは非金銭的報酬(承認、成長機会、裁量権など)を充実させながら、報酬制度の透明性と公平性を高める
ことから始めてください。
また、期待報酬よりも予想外の報酬(サプライズ報酬)の方がアンダーマイニング効果を起こしにくいことも
覚えておきましょう。
重要なポイント
報酬は、使い方を誤ると、内発的動機づけを損ない、創造性や持続性を低下させる原因となり得ます。
特にアンダーマイニング効果は、自律的な行動や探求心を阻害する重要な問題です。
しかし、報酬は不要ではありません。ハーズバーグの二要因理論が示すように、報酬は不満を解消する衛生要因
として機能します。
真に人を動機づけ、パフォーマンスを高めるのは、自己決定感、有能感、良好な人間関係、そして目的意識といった
内発的な要素です。
報酬は、これらを補完する形で、透明性と公平性をもって適切に運用されることで、健全な動機づけ環境を築くこと
ができるのです。
現代の人事制度に偏りがちな西洋的な報酬理論に対し、日本古来の「徳治」の思想を取り入れることで、より人間性を
重視した動機づけが可能になります。
単なる成果主義ではなく、プロセスと人格を尊重し、長期的な関係性を築く経営こそが、真の「収益満開経営」への
道筋となるでしょう。
週3回配信で経営に役立つ情報をお届けしています。財務初心者の社長でも分かりやすく実践的な内容です。
✅ 月・水曜日:経営のヒントや最新情報
✅ 土曜日:今週のまとめ(YouTube・ブログ更新情報)
合同会社エバーグリーン経営研究所 長瀬好征
「和魂洋才」による収益満開経営で、失われた30年を終わらせ、2200年の日本に繁栄を残す
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