「賃上げはしたい。でも原資をどこから作ればいいかわからない」——横浜市内でご支援先の建設業社長と面談したとき、まさにその言葉が出ました。年商5億円、従業員20名。売上は伸びているのに、賃上げするたびに資金繰りが苦しくなる、という状況でした。
2025年版中小企業白書は、この問いに対して明快な答えを示しています。全体の85.2%の企業が賃上げを実施予定とした一方で、最も多いのは「業績の改善が見られないが賃上げを実施予定」とする企業——36.9%を占めます。これは「人材確保のための防衛的賃上げ」であり、数年以内に賃下げや人員削減に転じるリスクを内包しています。
一方で、同じ賃上げでも「戦略的経営」を実践する企業は、持続的な業績向上と賃上げを両立しています。白書はその差を「経営力」という概念で定義し、3つの要素として明示しました。これは国が初めてデータで証明した、賃上げ実現の構造的条件です。
さらに2026年の現時点では、帝国データバンクの2025年度倒産集計(1万425件)が示す通り、賃上げ原資を作れない企業から先に市場を退出していくという現実が加速しています。防衛的賃上げを続けながら倒産に向かっている会社と、戦略的経営で賃上げを好循環に変えている会社——その差は何か。30社以上の財務改善支援を通じて見えてきた本質を解説します。
先述の建設業社長は、3か月後に粗利率を4ポイント改善し、翌年の賃上げ原資を確保しました。その出発点は「戦略的経営とは何か」を正確に理解したことでした。
財務を軸とした経営コンサルタントとして30社以上の経営改善を支援してきた経験から、賃上げと戦略的経営を確実に両立させる構造を体系的に解説します。
渋沢栄一の「論語とそろばん」——道徳と経済の両立——の思想と現代財務理論を融合した「収益満開経営」の視点で、賃上げが企業の持続的繁栄をもたらすメカニズムを明らかにします。
この記事を読むことで、以下を得ることができます:
ブルームの期待理論が示すように、従業員のモチベーションは「努力すれば達成できる」という見通しと「達成すれば報われる」という確信から生まれます。賃上げとは報酬だけの問題ではなく、経営の仕組み全体の問題です。この記事でその全体像をつかんでください。
2025年版中小企業白書が示した最大の発見は、賃上げと投資を両立する企業の「経営力」が明確に定義されたことです。
激変する環境において、中小企業が課題を乗り越え、成長・持続的発展を遂げるには、経営者が自らの状況と方向性を把握し、適切な対策を打つ力としての「経営力」が重要である(2025年4月25日閣議決定)。
2025年度賃上げ実施予定
業績改善なき防衛的賃上げ
中小企業平均賃上げ率
経常赤字企業でも約3%の賃上げを実現している事実は、賃上げ原資を創出できる経営者とできない経営者の間に、明確な「思考の差」があることを示しています。
白書が示す最も重要な発見の一つが、「製品・サービスの優位性と価格への反映」の関係です。製品・サービスの優位性が価格に「十分に反映されている」企業は、そうでない企業と比較して販売単価が上昇したと回答する割合が有意に高いことが判明しています。
❌ 多くの中小企業が陥る「価格設定の罠」
「うちの商品・サービスは良いものだから、いつかお客様がわかってくれる」——この考え方こそが、適正な価格設定を阻害する最大の要因です。近江商人の「日々損益を明らかにしないでは寝につかぬ」が示す通り、価値を数字で把握・説明できなければ、価格に反映されることはありません。
🎯 戦略的価格設定の3ステップ
設備投資についても、白書は賃上げと戦略的経営を両立する企業の投資行動に明確な特徴があることを示しています。
前提:新機械導入による生産効率向上
現在:1時間で10個生産 → 導入後:1時間で15個生産(50%向上)
削減時間:月間200時間 → 人件費削減効果:月50万円
投資額1,000万円 ÷ 月50万円 = 20か月で回収
この試算を「受注が30%減少した場合でも33か月以内で回収可能」というリスクシナリオとセットで持つことで、投資判断に確信が生まれます。
白書の分析から見えてくるのは、賃上げと戦略的経営を両立させる企業の「思考パターン」です。
モチベーション = 期待 × 誘意性 × 道具性
渋沢栄一の「論語とそろばん」が示す道徳と経済の両立は、この期待理論と本質的に一致します。賃上げは約束であり、約束を果たせる経営の仕組みを先に作ることが順序です。
白書の知見と30社以上の支援経験から導いた、賃上げと戦略的経営を両立させるための実践的なロードマップです。
📋 第1段階:現状の数字を把握する(1か月目)
📈 第2段階:賃上げ原資を創出する計画を立てる(2〜3か月目)
🔄 第3段階:月次で改善サイクルを回す(4か月目以降)
白書が示す「賃上げと戦略的経営の両立」は、高度なテクニックではありません。未来を見据えた計画策定、数値に基づく意思決定、継続的な改善習慣、全社的な価値共有——渋沢栄一の「論語とそろばん」が説く道徳と経済の両立そのものです。賃上げは結果ではなく、戦略的経営を実践した企業に自然に訪れるものです。
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合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
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