「全社の粗利率は35%です」——でもその数字は、どの部門が稼いでいて、どの商品が粗利を食い潰しているかを隠しています。
損益計算書を全社合計でしか見ていない社長は、会社という「森」の姿しか知りません。しかし経営改善に必要なのは、どの「木」が元気で、どの「木」が枯れかけているかを知ることです。全社の粗利率が35%でも、A部門は55%でB部門は15%かもしれない。B部門が全体の粗利率を引き下げているとしたら、その原因を知らずして経営判断は下せません。
同様に、全商品の平均粗利率を見ているだけでは、上位20%の高粗利商品が全体の粗利の大半を稼ぎ、下位20%の低粗利商品がリソースを消費しているという現実が見えません。この「見えない構造」を放置している会社は、改善すべき対象を改善できず、強みを強化するべき資源を分散させ続けます。
帝国データバンク「全国企業倒産集計2025年度報」(2026年4月公表)によれば、倒産企業の財務管理の特徴の一つとして「経営管理の粗さ」が挙げられています。全社合計の数字しか把握していない、部門・商品単位での収益管理ができていない——これは、倒産予備軍の典型的な財務管理の姿です。
私が支援したある卸売業の会社では、全社粗利率22%を「業種平均並み」として問題なしと判断していましたが、商品別に分解したところ、売上上位5商品の粗利率が8〜12%であることが判明しました。残りの商品群が30〜40%の粗利率を持つにもかかわらず、高売上・低粗利の商品に営業リソースが集中していたのです。商品別分析の導入後、1年で全社粗利率が27%に改善しました。
収益満開経営の長瀬好征です。今回は、理論編の集大成として「部門別・商品別の売上総利益分析」を解説します。前回の第13回で学んだ5つの経営判断原則を「全社レベル」ではなく「部門・商品レベル」に展開することで、改善の精度は格段に上がります。
二宮尊徳は「積小為大」という言葉で、大きな成果は小さな単位の積み重ねから生まれると説きました。部門別・商品別の粗利分析は、まさにこの「積小為大」の実践です。全社という大きな単位を、部門・商品という小さな単位に分解して正確に把握することが、経営改善という「大きな成果」の起点になります。
この記事を読むことで、あなたは以下を得ることができます:
「全社合計の数字」から「部門・商品別の数字」へ——この視点の転換が、第13回までの理論を実際の経営改善に接続する鍵です。
ABC分析とは、商品・顧客・取引先を「貢献度」の高い順に並べ、A(上位)・B(中位)・C(下位)の3グループに分類する手法です。売上ランキングで行うABC分析は広く知られていますが、収益改善においては「粗利貢献額」でのABC分析が格段に重要です。
粗利貢献額によるABC分析の手順
全商品の「粗利貢献額」を算出する
粗利貢献額 = 各商品の売上高 × 各商品の粗利率。売上高の大きさではなく、粗利をいくら生み出しているかを計算します。
粗利貢献額の大きい順に並べ替え、累積比率を計算する
全商品の粗利貢献額合計に対して、各商品の累積粗利貢献率を計算します(例:上位1商品が全体の何%を占めるか)。
A・B・C に分類して戦略を立てる
累積粗利貢献率の70%までをAグループ、70〜90%をBグループ、90%以上をCグループに分類します。
| グループ | 粗利貢献の目安 | 推奨戦略 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| A | 累積粗利70% | 営業・マーケリソースを優先集中。品質維持・価格防衛を最優先 | 値引き要求に安易に応じない。AをBに落とさない |
| B | 累積粗利70〜90% | AへのステップアップをA検討。価格改定・仕入見直しでAへ引き上げる | Cに落ちないよう粗利率の変化を定期確認 |
| C | 累積粗利90%以上 | 縮小・廃番・価格大幅改定を検討。リソースをA・Bへ再配分 | 「売上があるから必要」という思い込みを捨てる |
💡 「売上ABC」と「粗利ABC」の逆転現象に注目
売上ランキング上位の商品が、粗利貢献額ランキングでは中位・下位にある「逆転現象」は珍しくありません。この逆転が生じている商品こそ、最も優先して対処すべき課題商品です。「売れているから大切にする」のではなく、「粗利を稼いでいるから大切にする」という判断軸の転換が、ABC分析の最大の価値です。
部門別採算管理とは、会社全体の損益を「部門・事業ユニット」ごとに分解して把握する管理手法です。どの部門が粗利を稼いでいて、どの部門が固定費を食い潰しているかが見えるようになります。
売上と変動費を部門ごとに紐づける
部門別採算管理の出発点は「その部門の売上高」と「その部門に直接帰属する変動費(仕入・外注費など)」を紐づけることです。これにより「部門別粗利額」と「部門別粗利率」が算出できます。
共通固定費の配賦ルールを決める
家賃・役員報酬・間接部門の人件費などの「共通固定費」をどの部門にどう配賦するかのルールを決めます。一般的には売上比率・人員比率・面積比率などが使われます。中小企業では最初はシンプルに「売上比率」で配賦するのが現実的です。
⚠️ 配賦ルールは「完璧」を追わない。まず把握することが目的。精緻な配賦計算に時間をかけるより、大まかでも部門ごとの粗利が見える状態を作ることを優先してください。
部門別「貢献利益」を算出して評価する
部門別粗利額から「部門固有の固定費(その部門だけをなくせば消える費用)」を差し引いたものが「貢献利益」です。共通固定費を除いた部門の真の採算性を示す指標です。
📌 「赤字部門 = 廃止すべき」ではない
共通固定費を配賦した後に赤字になっている部門でも、貢献利益がプラスであれば「廃止すると会社全体がより赤字になる」という状況があります。部門の廃止・縮小を判断する際は、貢献利益(共通固定費を除いた採算)で判断することが鉄則です。
部門別採算管理が「大きな単位での分解」だとすれば、商品別粗利分析は「最小単位での分解」です。どの商品が粗利を生み、どの商品がリソースを消費しているかを商品レベルで把握することで、ABC分析と組み合わせた精度の高い戦略立案が可能になります。
商品別粗利分析の実施手順は以下の通りです。
商品別粗利分析:判断マトリクス
このマトリクスで全商品を分類すると、「どこにリソースを集中すべきか」「どこのリソースを削減すべきか」が一目で見えます。最優先商品(右上)のシェアを高め、整理対象商品(左下)を整理する方向に経営資源を再配分することが、商品別分析の結論です。
💼 支援現場から——「整理対象商品」の削減が生む意外な効果
整理対象商品を削減することへの抵抗は大きいのですが、実際に整理を行った会社では「在庫管理の負担軽減」「営業担当者の集中力向上」「顧客への提案精度の向上」という副次効果が生まれます。少ない商品を深く扱う方が、多くの商品を浅く扱うより粗利が上がるのは、集中と選択の原理です。
部門別・商品別の粗利分析という今回のテーマは、稲盛和夫が京セラで生み出した「アメーバ経営」の根幹思想と完全に一致しています。稲盛がアメーバ経営を考案した起点となった言葉が残されています。
稲盛和夫「生きた数字」——アメーバ経営誕生の起点
京セラが従業員300人を超えた頃、経理担当の共同創業者・青山政次氏が作成する月次決算に対して、稲盛は直接こう語りかけました。
「青山さん、こんな過去の数字では役に立ちません。製品を販売して何カ月も経ってからその原価がわかっても、何も役に立ちません。私は、今月これだけの利益を出そうと、毎日手を打っているのです。そういうなかでは、過去の原価を聞いたところで意味がありません」
出典:稲盛和夫著『アメーバ経営』日本経済新聞社、33〜34ページ
そして稲盛は『アメーバ経営』同書35ページでこう結論づけています。
「経営者にとって必要なものは、会社はいま、どのような経営状態にあり、どのような手を打てばよいのかを判断できる『生きた数字』なのである」
出典:稲盛和夫著『アメーバ経営』日本経済新聞社、35ページ
「生きた数字」とは、今月・今週・今日の経営状態を即座に判断できる、リアルタイムの採算情報です。翌月中旬に税理士から届く試算表は、稲盛の言葉を借りれば「死んだ数字」——何カ月も前の過去を記録したものに過ぎません。
| 死んだ数字 | 生きた数字 | |
|---|---|---|
| 目的 | 過去を記録する | 今を把握し、手を打つ |
| タイミング | 翌月中旬(約6週間後) | 当日・当週・当月 |
| 経営への影響 | 問題発生から6週間後に気づく | 問題発生から1週間以内に対処 |
| 部門・商品別管理 | 全社合計のみ | 部門・商品単位で把握 |
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稲盛和夫がなぜ出張カバンに時間当たり採算表を入れて持ち歩いたのか、そして管理会計が経営判断をどう変えるかについては、以下の動画で詳しく解説しています。
「アメーバ経営は大企業の話」と思っている方も多いのですが、年商1〜5億円の中小企業こそ、アメーバの発想が最も自然に実装できる規模です。全社員が見渡せる規模だからこそ、部門・商品ごとの採算を社員全員が理解し、全員参加で改善に取り組める環境があります。
中小企業向けに「アメーバ発想」をシンプルに実装する3つの方法を示します。
🔵 実装①「担当者別・案件別の粗利メモ」(最もシンプル)
受注・見積もりの段階で「この案件の粗利額と粗利率」を担当者がメモする習慣から始めます。Excelの1行でも、手書きのメモでも構いません。案件ごとの粗利を把握することで、担当者自身が「この価格では粗利が取れない」という感覚を身につけます。これがアメーバ経営の「経営者意識の育成」の最小実装です。
🟢 実装②「週次の部門別粗利速報」(中規模向け)
毎週月曜日に「先週の部門別売上・粗利額・粗利率」を集計して共有します。完璧な精度は必要ありません。大まかな傾向が見えるだけで「今週の手を打つ」判断材料になります。稲盛が求めた「今月これだけの利益を出そうと、毎日手を打つ」という姿勢の実践が、週次の速報から始まります。
🟡 実装③「月次の商品別ABC分析レビュー」(全社向け)
月に1回、全商品の粗利貢献額を集計してABC分析を更新します。前月との比較で「Aグループが増えたか減ったか」「Cグループの処理が進んでいるか」を確認します。このレビューを経営会議の定例アジェンダに加えるだけで、会社全体の粗利管理の精度が毎月改善されていきます。
💡 「完璧なシステム」より「動く仕組み」を選ぶ
アメーバ経営を「完璧に導入しよう」と考えると、システム・規程・会議体の整備に膨大なエネルギーが必要になり、結局何も始まりません。①の「担当者別粗利メモ」から始めて、②→③へと段階的に精度を上げる方が、中小企業では確実に機能します。二宮尊徳の「積小為大」——小さく始めて、確実に積み上げることが、部門別採算管理の完成につながります。
部門別・商品別の粗利分析は「一度やれば終わり」の作業ではありません。毎月繰り返すことで、改善の方向性が見え、前月との比較で成果が確認できます。月次サイクルへの組み込み方を示します。
月次粗利分析サイクル(推奨)
月初1〜3日
前月の商品別・部門別粗利を集計
月初1週目
ABC分析を更新。前月との変化を確認
月初経営会議
分析結果を共有。当月の対策アクションを決定
月中
決定したアクションを実行。週次速報で進捗確認
このサイクルを回すことで、月ごとに「Aグループの粗利貢献が増えているか」「Cグループの整理が進んでいるか」という成果の積み重ねが可視化されます。
💼 支援現場から——「3ヶ月で粗利率が変わる」理由
部門別・商品別の粗利分析を月次サイクルとして回し始めた会社では、3ヶ月以内に変化が現れます。担当者が「自分の担当商品の粗利率」を意識するようになり、値引き交渉への対応が変わり、高粗利案件への注力が自然に増えます。分析を導入した12社中10社で、導入後3ヶ月以内に全社粗利率が1〜4ポイント改善しました。
次回・第15回のご案内(テーマ2理論編・総括)
次回は理論編の総括として「売上総利益理論の完全理解チェック」を行います。第9回〜第14回で学んだ内容を10問の理解度テストで確認し、テーマ3(実践編)への橋渡しをします。一倉定「社長学」との統合により、理論が経営者の行動規範として完成します。
前回記事。価格決定・商品構成・人員・投資・撤退の5原則。今回の分析手法と組み合わせて活用。
業種平均と自社の位置づけ診断。商品別分析の「目標粗利率」設定の参照として活用。
覚醒編(第1〜8回)の総まとめ。理論編・実践編の出発点として必読。
毎週月曜日、経営の本質を突く洞察をお届けしています。
渋沢栄一・二宮尊徳・近江商人の智慧と現代財務理論を融合した
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合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
「和魂洋才」による収益満開経営で、失われた30年を終わらせ、
2200年の日本に繁栄を残す