全商品の粗利率を揃えて並べたとき、売上上位商品と粗利率上位商品が一致している会社は、私の支援経験では1割以下です
多くの会社では、最も売れている商品と最も粗利率の高い商品が異なります。営業力・知名度・顧客の慣れによって「よく売れる商品」が決まり、それが必ずしも会社の粗利に貢献しているとは限りません。第16回で学んだ「2%改善の効果」を、価格や仕入れに手をつけずに実現できる方法が、この商品構成の最適化です。
極端な例を示します。売上高1億円・粗利率20%の商品Aと、売上高2,000万円・粗利率50%の商品Bがあるとします。商品Aへの営業リソースを20%削り、商品Bへ振り向けて商品Bの売上を3,000万円に増やせば、全体の粗利額は商品Aが2,000万円(▲400万円)、商品Bが1,500万円(+500万円)となり、純増効果100万円。売上は変わらずとも、構成を変えるだけで粗利額が増えます。
帝国データバンク「全国企業倒産集計2025年度報」(2026年4月公表)によれば、2025年度の倒産件数は1万1,027件(前年度比11.8%増)に達しました。倒産企業の多くが「売上は維持していたが粗利率が悪化し続けた」という財務パターンをたどっています。低粗利商品に营業リソースが集中する構造を放置し続けた結果です。
稲盛和夫は経営の場で「選択と集中」を徹底して実践しました。京セラの事業展開でも、JAL再建においても、高い付加価値を生む領域に経営資源を集中させることが変革の核心にありました。商品構成の最適化は、この「選択と集中」を商品・サービスレベルで実行することです。
収益満開経営の長瀬好征です。今回は実践編の第4弾として、商品構成最適化による粗利向上戦略を解説します。第14回(部門別・商品別分析)で学んだABC分析の枠組みと、今回の戦略実行を組み合わせることで、粗利率改善の効果が最大化されます。
近江商人の「売り手よし・買い手よし・世間よし」の三方よしは、商品構成においても貫かれます。高粗利商品を増やすことは「売り手よし」だけを追求することではありません。高粗利商品は多くの場合、顧客にとって高い価値を提供しているからこそ高粗利なのです。価値と粗利が連動した商品構成こそが、三方よしの実現につながります。
この記事を読むことで、あなたは以下を得ることができます:
価格を上げなくても、仕入れを変えなくても、商品の売り方・重点の置き方を変えるだけで粗利率は動きます。今日から実行できる内容を体系的に解説します。
商品構成の最適化は「全商品の現在地を把握する」ことから始まります。第14回で解説した粗利貢献額によるABC分析と組み合わせ、今回は「粗利率」と「売上成長性」の2軸で全商品を4象限に分類します。
商品ポートフォリオ分析マトリクス(粗利率 × 売上成長性)
この分析を実施するために必要なデータは「商品別の売上高」「商品別の粗利率」「前年比の売上変化率」の3つです。まずこの3列のデータを全商品分でExcelに入力することから始めます。データが整えば、4象限への振り分けは直感的に判断できます。
💡 「問題児商品」への対処が最大の改善ポイント
4象限の中で最も改善効果が大きいのが「問題児商品」です。売上成長性があるということは顧客からの需要がある商品であり、粗利率の改善(価格改定・仕入れ見直し)が実現すれば「スター商品」に転換できます。支援現場では、問題児商品の価格改定だけで全体粗利率が2〜4ポイント改善したケースが複数あります。
ポートフォリオ分析で「スター商品」が特定できたら、次は営業リソースをそこへ再配分します。ただし「一斉に切り替える」のではなく、段階的・構造的に進めることが継続的な効果をもたらします。
営業リソース再配分の3つの実践手法
営業目標に「粗利額」を組み込む
売上目標だけを管理している場合、営業担当者は「売りやすい商品(低粗利でも)」を優先します。目標に粗利額を加えることで、担当者が自然に高粗利商品へ意識を向けるようになります。「月間粗利額〇〇万円」という指標を、売上目標と並列に設定することから始めます。
提案の「順番」を変える
顧客への提案順序を「主力(低粗利)→オプション(高粗利)」から「高粗利商品を先に提案→必要に応じて低粗利商品を補完」に変えます。最初に見せたものが基準になる「アンカリング効果」を活用し、高粗利商品が選ばれやすい提案設計にします。
高粗利商品の「選ばれる理由」を整備する
高粗利商品が売れにくい原因の多くは「価値が伝わっていない」ことです。第17回で学んだ「価値の言語化(第3層)」をスター商品に適用し、顧客にとっての具体的なメリットを数字と事例で示す営業ツールを整備します。
📊 シミュレーション:スター商品の比率を10%上げると
現状:売上3億円 粗利率平均30%(粗利額9,000万円)
↓ スター商品(粗利率48%)の売上比率を20%→30%に拡大
↓ 撤退候補商品(粗利率12%)の売上比率を15%→5%に縮小
改善後:売上3億円 粗利率平均約33.6%(粗利額1億80万円)
→ 売上を増やさずに粗利額が1,080万円増加
新規顧客の獲得コストは既存顧客への追加販売コストの5〜7倍と言われます。高粗利商品へのシフトを既存顧客との取引深化によって実現することが、最もコスト効率の良い商品構成最適化の方法です。クロスセルとアップセルはその主要な手法です。
クロスセル(横展開)
現在購入している商品に関連する「別の高粗利商品」を追加提案する手法。
例①:機械を購入した顧客に「保守契約(高粗利)」を提案
例②:食品を仕入れる顧客に「関連調理器具(高粗利)」を提案
例③:システム導入顧客に「操作研修サービス(高粗利)」を追加
アップセル(上位版への誘導)
現在購入している商品の「上位グレード・高付加価値版」への切り替えを提案する手法。
例①:標準プランの顧客に「プレミアムプラン」を提案
例②:汎用品購入顧客に「カスタム品(高粗利)」を提案
例③:単発依頼の顧客に「年間契約(安定×高粗利)」を提案
クロスセル・アップセルを成功させる鍵は「タイミング」と「顧客ニーズとの合致」です。購入直後・使用開始後3ヶ月・満足度確認後——顧客が価値を実感しているタイミングでの提案が、成約率を大きく左右します。
クロスセル・アップセルの成功率を高める3つの実践
💼 支援現場から——クロスセル導入で粗利額が増えた事例
私が支援した設備業の会社では、製品販売後の「定期点検契約」の提案率が担当者によってバラバラでした。全員が必ず提案するルールを設けただけで、点検契約(粗利率58%)の成約率が2倍になり、半年で全社粗利率が2.8ポイント改善しました。仕組みの整備が、個人の能力差を補いました。
商品構成最適化の最も難しい実行項目が「撤退候補商品の整理」です。「長年扱ってきた商品」「主要顧客が購入している商品」という感情的な理由で整理が先送りされがちです。5つの問いで判断基準を明確にします。
問い①:この商品の粗利率は構造的な問題か、一時的な問題か
原材料の一時的な高騰・為替変動など一時的な原因なら「改定」。技術陳腐化・競合激化・市場縮小など構造的な原因なら「廃番」を検討。
問い②:この商品を扱い続けることで、他の高粗利商品の機会を失っていないか
倉庫スペース・担当者の時間・経営者の注意——これらの希少なリソースを低粗利商品が占領していないかを確認する。機会損失の試算が整理の根拠になる。
問い③:この商品を取り扱わないことで、顧客との関係に致命的な影響があるか
「顧客が絶対に必要とする商品だから外せない」は本当か。代替品の提案・他社への紹介も含めて「顧客に迷惑をかけずに廃番できる方法」を探す。
問い④:価格を大幅に改定したら、どうなるか
廃番の前に「大幅な価格改定」を試みる価値がある。適正価格で顧客が離れるなら「価格感応度が高い顧客」であり、廃番に近い判断でよい。留まるなら適正粗利率で存続できる。
問い⑤:3年後もこの商品が存在する意味があるか
現在の収益性だけでなく、3年後の市場・競合・技術環境を見据えて判断する。今は低粗利でも3年後に高粗利になる可能性があれば「育成」。逆ならば早期に整理する。
⚠️ 廃番は「一度に全廃」ではなく「段階的縮小」が原則
取引顧客への影響・在庫の処分・供給責任を考慮し、廃番は「新規受注停止→既存在庫消化→終了」という3段階で実施します。顧客への事前通知(6ヶ月〜1年前)と代替品の提案が、関係を維持しながら整理を進めるための鉄則です。
商品構成の最適化を「思想」として裏付けるのが、稲盛和夫が実践した「選択と集中」の哲学です。稲盛は京セラの経営において、また2010年のJAL再建においても、限られたリソースを最も効果の高い領域に集中させることで、劇的な改善を実現しました。
稲盛和夫がJAL再建で実践した「選択と集中」
2010年に会長として就任した稲盛は、まず不採算路線の整理という「商品構成の最適化」から着手しました。「採算の合わない路線は廃止する」という原則を貫き、感情論(地方路線の維持)より採算論(粗利の改善)を優先しました。同時に高需要・高採算の路線へのリソース集中を行い、わずか2年で経常利益2,000億円超を達成しました。
この決断の背景にあった稲盛の言葉が残っています。「全部を救おうとすると全部が沈む。選択は痛みを伴うが、それをしなければより大きな痛みが来る」という趣旨の考え方です。不採算商品の整理は感情的には辛い作業ですが、それをしないことがより大きな経営危機を招きます。
中小企業における「最も希少なリソース」は何でしょうか。資金・人材・時間——とりわけ社長の「注意と判断力」が最も希少です。低粗利商品への対応・クレーム処理・複雑な在庫管理が社長の時間を占領するほど、高粗利商品の育成に使える時間が減ります。商品構成の最適化は、社長のリソースを解放するためでもあります。
📺 関連動画のご案内
稲盛和夫が「生きた数字を持つ経営」の中で語った「最も希少なリソースをどこに向けるか」という判断哲学と、月次決算を通じた採算管理の本質については、YouTubeチャンネル「経営の系譜シリーズ:稲盛和夫 第3回(アメーバ経営)」で詳しく解説しています。商品別・部門別の採算管理を徹底させたアメーバ経営の思想が、今回の商品構成最適化と直接つながります。
💡 「何を売るか」より「何をやめるか」が難しい——しかし決定的に重要
稲盛の「選択と集中」の本質は「増やすこと」よりも「やめること」の難しさと重要性にあります。高粗利商品の育成(増やすこと)と同時に、低粗利商品の整理(やめること)を実行して初めて、リソースの集中が実現します。「やめる決断」を先送りにし続ける限り、商品構成最適化は「言葉の上だけ」で終わります。
商品ポートフォリオ分析は「一度やれば終わり」の作業ではありません。市場環境・競合・顧客ニーズは常に変化するため、定期的な見直しが必要です。第14回で提案した「月次の商品別ABC分析レビュー」に今回の4象限分析を組み合わせ、継続的な仕組みにします。
商品構成最適化の月次サイクル
月初(1〜3日)
前月の商品別売上・粗利率を集計。4象限への位置変化を確認。
月初経営会議
スター商品の進捗確認。問題児商品の対策アクション決定。撤退候補の状況確認。
月中(営業活動)
スター商品の提案を優先。クロスセル・アップセルの実行。
四半期レビュー
4象限マトリクスを全商品で更新。撤退・廃番の最終判断。来期の商品戦略立案。
このサイクルを回すことで、商品構成の最適化が「単発の取り組み」ではなく「経営の日常業務」として機能します。
💡 第14回のABC分析との連動
第14回で解説した「粗利貢献額によるABC分析」と今回の「4象限マトリクス」を組み合わせることで、商品の優先度がより精緻になります。Aグループ(粗利貢献が高い)かつスター商品(高粗利×成長性あり)が最優先。Cグループ(粗利貢献が低い)かつ撤退候補(低粗利×低成長)が整理優先。この二段階の分類が、限られたリソースの配分を明確にします。
次回・第20回のご案内
次回は「製造原価・業務コスト削減の実践ガイド」を解説します。トヨタ生産方式の本質、無駄の7つの分類、業務改善の具体的手法、設備投資の判断基準を体系化します。本田宗一郎の「現場主義」哲学と合わせて、第16回の業務効率化(手法4)をさらに深掘りします。
前回記事。今回の商品構成最適化と組み合わせることで粗利率改善の効果が最大化される。
稲盛和夫の月次採算管理の思想。セクション5の「選択と集中」の背景として必読。
今回の4象限分析と組み合わせるABC分析の詳細手順。
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合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
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