資金繰り改善の手法 その18 不採算部門からの撤退

2024.05.19

中小零細企業の社長が悩んでいるのが、「お金」のこと、要は資金繰りだと思います。

現場で財務改善を支援している財務コンサルタントが、

資金繰りを改善する手法を伝えていきます。

 

18 不採算部門からの撤退

不採算事業から撤退することで、以下のようなメリットがあります。

  1. 赤字解消 不採算事業から撤退すれば、その事業から発生していた損失を無くすことができます。               つまり、赤字がなくなり企業全体の収益が改善します。
  2. 資源の再配分 不採算事業に投入されていた人員、設備、資金などの経営資源を、より収益性の               高い事業に振り向けることができます。有効活用されていなかった資源を有望な事業に集中投資できます。
  3. 経営の簡素化 事業が多すぎると経営が複雑化し非効率が生じます。不採算事業を切り離すことで、              経営をスリム化でき、意思決定の迅速化などのメリットが期待できます。

この点において、不採算事業からの撤退と、資金繰り改善の手法としての14「プロジェクト選別や重点化」

とは以下の違いがあります。

 

【不採算事業からの撤退】

  • 既に行っている事業の中から、赤字となっている不採算事業そのものから完全に手を引くこと
  • 事業から完全に撤退するため、その事業に関する人員・設備・資金などのリソースを完全に振り向けられる
  • ただし撤退コストが一時的にかかる

 

【プロジェクト選別・重点化】

  • 新規や既存の複数のプロジェクト(事業計画)の中から、有望なものを選び重点投資する
  • 全てのプロジェクトから完全に撤退するわけではなく、選別して一部を継続/新規投資する
  • 事業ポートフォリオ全体の最適化を図る
  • リソースの使い分けや絞り込みはあるが、完全に撤退する事業はない

 

つまり、不採算事業からの撤退は、赤字事業そのものから完全に撤退することで経営資源を他に振り向けるのに対し、

プロジェクト選別・重点化は、複数事業から有望なものを選んで重点投資を行うという違いがあります。

 

前者は早期に赤字解消を図る一方、後者は長期的な事業ポートフォリオの最適化を目指す、という点が異なります。

資金繰り改善のためには、両者の使い分けが重要になってきます。

 

しかし、不採算部門からの撤退は本当に難しい。

それは投資における「損切り」ができるかがどうかとよく似ています。

 

まず、不採算とは、簡単に言えば事業からの収入が経費を下回っている状態、つまり赤字であることを指しますが、

不採算かどうかの判断は短期的な観点だけでなく、中長期的な見通しを踏まえて総合的に行う必要があるからです。

 

【成長余地】 現在は赤字でも、将来的に黒字転換が見込める事業はあります。新規参入で初期投資が大きかったり、

先行投資が必要な成長分野の事業は一時的に不採算かもしれません。成長性次第では継続する価値がある可能性が

あります。

 

【事業ポートフォリオ】 ある事業が不採算でも、他の有望事業を支える役割を果たしている場合は撤退を慎重に検討

する必要があります。製品ラインナップの中で補完し合う事業や、ブランド価値を高める事業などは単独では不採算

でも重要な意味があるかもしれません。

 

【撤退コスト】 撤退には人員の整理、設備の処分、関連契約の解除などで多額のコストがかかる可能性があります。

長期的な収支を見て、撤退による一時コストよりも継続する方が良い場合もあり得ます。

 

つまり、不採算事業の扱いについては、現状の赤字のみならず、将来の成長見通し、事業ポートフォリオでの位置

づけ、撤退コストなども考慮し、中長期的視点で総合的に判断する必要があるのです。

場合によっては、一時の不採算を覚悟の上で継続することも選択肢となります。

 

しかし、それ以上に、社長は心理的な面から不採算部門から撤退が出来ません。

行動経済学の観点から説明するならば、主に以下の2つの要因が影響していると考えられます。

 

  1. 損失回避の傾向 行動経済学では、人間は損失を得るよりも利得を失うことの方がはるかに嫌だと指摘されて         います。つまり、すでに投資した費用(サンクコスト)を失うことへの心理的な抵抗が強くなる傾向にあります。        この「損失回避の傾向」が、不採算部門からの撤退を難しくさせている一因です。
  2. 現状維持バイアス
    人間は現状から変化することを基本的に好まず、現状を維持しようとするバイアス(偏り)があります。この         「現状維持バイアス」も、事業の継続を選好させ、撤退を遅らせる要因となっています。                   変化への心理的な抵抗感が働くためです。

 

加えて、事業への思い入れが強ければ強いほど、上記2つのバイアスの影響を強く受けてしまいます。

創業者や長年関わってきた経営者ほど、サンクコストへのこだわりや現状維持へのこだわりが強くなる傾向にあ

ります。

また、撤退による従業員への影響や企業イメージの低下など、撤退による損失が顕在化しやすいことも、損失回避

の心理を刺激します。

このように、人間の行動が完全に合理的ではなく、感情的な側面も多分にあるため、冷静な経営判断が阻害されが

ちになるのです。

客観的に事業見通しを判断する一方で、こうした行動経済学的バイアスの影響も認識し、主体的に排除する努力が

必要とされます。

 

したがって、名経営者といわれる人ほど不採算部門から撤退が上手く、そうでない社長ほど撤退下手です。

 

しかし、重要なことは前提条件として中長期的な見通しが立てられること、つまり経営計画を描けるか、徹底できるか

がどうかを決めているのです。