資金繰り改善の手法 その23 ベンチャーキャピタルからの資金調達

2024.05.24

中小零細企業の社長が悩んでいるのが、「お金」のこと、要は資金繰りだと思います。

現場で財務改善を支援している財務コンサルタントが、

引き続き資金繰りを改善する手法を伝えていきます。

23 ベンチャーキャピタルからの資金調達

 

ベンチャーキャピタルからの資金調達は、資金繰り改善の手法として考えることが出来ます。

ベンチャーキャピタル(以下、「VC」)とは、新規ビジネスに対して投資を行う投資会社のこと

を指します。

 

日本には、以下のような種類のベンチャーキャピタル(VC)が存在しています。

  1. 独立系VC 民間の投資会社や個人富裕層が運営するVC。                                                           代表的なものとしてジャフコ、DBJキャピタル、グローウィングリッチなどがあります。
  2. 事業会社系VC
    大手企業の子会社や関連会社として設立されたVC。                                                            例としては、三菱UFJキャピタル、日本製紙イノベーションVC、SCREENホールディングスなどがあります。
  3. 公的系VC 国や自治体が運営するVC。                                                                   産業振興や地域活性化を目的としています。代表例は産業革新機構、東京成長産業投資ファンド、ジャフコV-CUBEなどです。
  4. ベンチャーファンド VC専門の投資ファンドです。                                                             年金基金や富裕層から資金を集めて投資を行います。グロービスキャピタル、グローウィングシードなどが有名です。
  5. 金融機関系VC 大手銀行や証券会社が設立したVCで、みずほキャピタル、三井住友キャピタルなどがあります。

 

そして、VCは有望な事業アイディアや技術を持つ企業に出資することで、事業の成長を支援し、

将来的に高い利益を得ることを目指しています。

 

具体的なプロセスは以下の通りです。

  1. 起業家や経営者がビジネスプランを作成する
  2. そのプランをVCに提示し、投資を求める
  3. VCがプランを評価し、投資の可否を判断する
  4. 投資が決まれば、VCから資金が提供される
  5. 事業が成長し、一定の節目(IPOなど)で投資額以上の利益が出れば、VCは高い利回りを得られる

 

起業家側のメリットは、実績のない新規事業でも優れた事業プランがあれば資金調達できる点にあります。

一方デメリットは、VCによる経営への関与や、将来的に株式公開や事業売却による高いリターンが求めら

れる点です。

 

VCの投資を受けるには、独自の技術やビジネスモデル、成長性のある市場など、投資に値する魅力的な事業

アイデアが必要不可欠です。

事業プランの作成からVCとのネゴシエーションまでが重要なプロセスとなります。

 

しかし、日本の中小企業がベンチャーキャピタルから資金調達することは難しい現実があります。

主な理由は以下のようなものが考えられます。

  1. 投資対象としての魅力不足 ベンチャーキャピタルは、短期間で高い成長が期待できる革新的なビジネ                                      スモデルに投資することを好みます。一方、多くの中小企業は地場産業や伝統的な業種に属しており、                                      ハイリスク・ハイリターンの投資対象としては魅力が乏しいと見なされがちです。
  2. 情報の非対称性 中小企業の経営内容や将来性をベンチャーキャピタルが適切に評価するのは難しい                                       側面があります。中小企業側も資金調達に関する知識や人脈が不足していることが多く、情報の非対                                      称性が解消されにくい状況にあります。
  3. エクイティファイナンスに対する理解不足 中小企業経営者の中には、自社株式を引き渡す事にリスク                                      を感じる方も多く、エクイティファイナンスに対する理解が十分でない場合があります。
  4. ハンズオン支援体制の不足 ベンチャーキャピタルは単に資金を提供するだけでなく、経営面でのハン                                      ズオン支援を行うことが一般的ですが、中小企業をサポートできる専門家が不足している状況があります。

このように、中小企業がVCから資金を調達するには、様々な課題がある現状があります。

そのため、金融機関からの借入や補助金活用など、他の選択肢を検討せざるを得ない中小企業が多いのが

実情です。

 

最大の障害は、ベンチャーキャピタルから出資を受ける際には、経営権の一部を失う懸念や、配当、

EXIT(売却)など様々な条件面での制約があるため、社長に抵抗感があることです。

 

その原因としては、以下の点が考えられます。

  1. 経営者の事業に対する強い思い入れ  長年に渡り育ててきた自社事業への思い入れが強く、                                          外部の出資者に経営権を渡すことへの心理的ハードルが高い。
  2. VC出資に対する理解不足  VCの出資は単なる資金調達ではなく、一種の経営パートナーシ                                           ップを構築するものという認識が不足している。
  3. リスクを恐れる経営マインドセット  大きなリターンを得るには一定のリスクを伴うが、                                           社長の中には過度にリスクを恐れる傾向がある。
  4. 短期的な利益優先の発想  早期段階の会社にとって持続的成長が重要だが、社長は短期的                                           な利益を優先しがちである。

ベンチャーキャピタルから出資を受ける際には、以下の点を理解しておく必要があります。

  • 議決権付き株式を一定割合保有されることで、重要な経営判断にVCが関与してくる
  • 企業価値の向上とEXITを見据えた長期的な経営戦略が求められる
  • 配当より企業の成長投資が優先される可能性がある
  • 一定の節目(IPOなど)でVCは売却を求めてくる
  • 事業が失敗した場合、債権者と同様に投資額を失う可能性がある

つまり、VCとの利害対立が一定程度避けられないことを認識し、経営権の一部を譲渡する覚悟

が必要となります。

自社の将来像と、VCの存在による影響をよく検討する必要があるでしょう。

 

そして、日本の中小零細企業、特に小規模閉鎖会社においては、以下の2点が大きな要因となり、

VC出資に対する理解が進みにくい状況があります。

  1. デット(借入)とエクイティ(出資)の違いについての理解不足

多くの経営者は、従来から銀行借入などのデット調達は理解していますが、エクイティファイ                                            ナンスの意味合いを十分に理解していないことが多いようです。エクイティとは株式の保有を通                                           じて企業の所有権の一部を持つことを指します。つまり、資金を調達する代わりに経営権の一部                                           をVCに渡すことになります。このトレードオフが十分に認識されていないケースが多い。

  1. 創業者一族による完全所有の状況

中小企業、特に小規模閉鎖会社では、創業者や一族が100%の株式を所有している場合がほとん                                           どです。このような状況下で、外部への株式の分散(エクイティファイナンス)に対する心理的ハー                                          ドルが非常に高くなっていると考えられます。

つまり、デットとエクイティの違いへの理解不足と、完全な一族所有体制が、VCからの出資=経営

権の一部譲渡へのマインドセットの転換を困難にしている大きな要因なのです。

株式公開に対する機運が乏しいことも、この背景にあると言えるでしょう。

 

中小企業がVC出資を有力な資金調達手段として検討するためには、このような事業形態の特徴を

踏まえた上で、エクイティファイナンスの意義や条件をきちんと理解する必要があります。

 

そして、エクイティファイナンスによる資金調達をすることは、中長期的な事業計画との関連性は

非常に高いと言えます。

なぜなら、ベンチャーキャピタルや投資家は、単に資金提供をするだけではなく、長期的に企業価値

を最大化することを目的としているからです。

 

具体的には、以下の点で事業計画との密接な関係があります。

  1. 事業の成長性・収益性への評価 投資家は、提示された事業計画の中長期的な成長見通しや収益性を                                       詳細に検証します。計画の実現可能性が高いほど、投資を決定しやすくなります。
  2. キャッシュフロー計画とリターン 投資家は、資金提供後のキャッシュフロー計画を重視します。                                         一定の期間で投資額以上のリターンが得られるかが投資判断の大きなポイントになります。
  3. 経営陣の資質評価
    投資家は、経営陣が中長期計画を着実に実行できる能力があるかを重視します。投資後の経営支援                                       体制も重要な要素です。
  4. 出口戦略(Exit)の確立 ベンチャーキャピタルは、通常5年から10年程度での投資リターンを得る必要                                       があります。そのため、事業計画の中にIPOやM&Aなどの出口戦略が明確に盛り込まれているかが大切です。

 

このように、エクイティファイナンスを受ける企業は、単なる短期的な資金計画だけでなく、3年後、5年後、10

年後の事業の姿を具体的に描いた中長期計画を提示し、投資家を納得させる必要があります。

 

計画が的確で実現可能性が高いほど、望ましい条件での資金調達が可能になるためです。

事業の持続的な成長を見据えた中長期計画の重要性が高いと言えるでしょう。

 

となると、計画性のない感で経営している会社は、エクイティファイナンスによる資金調達を実現するのが極めて

難しいと言えます。

なぜなら、エクイティファイナンスを受けるには、財務、法務、経営戦略の全ての側面において、中長期的な事業

計画と体制が備わっていることが投資家から求められるからです。

 

具体的には以下のような点が課題となります。

【財務面】

  • 中長期の収支計画や資金繰り計画が不明確
  • キャッシュフロー創出力や収益性の見通しが不透明
  • 投資家へのリターン計画が乏しい

【法務面】

  • 株式構造や種類株式発行などの法的検討が不十分
  • 知的財産権、コーポレートガバナンスなどの体制が不備

【経営戦略面】

  • 3年後、5年後の事業ビジョンや成長戦略が曖昧
  • 経営陣の手腕や実行力に対する投資家の不安
  • IPOやM&Aなどの明確な出口戦略が描けていない

このように、単なる資金計画だけでなく、財務、法務、経営全般にわたる中長期の事業計画とその実現体制が

整備されていないと、投資家から信頼を得ることは難しくなります。

 

計画性のない経営では、投資家が求める透明性と合理性が確保できないため、エクイティファイナンスへの

道は極めて険しいと言えるでしょう。