これまでの連載で、「売上・利益・現預金・資金繰り」の基本的な関係性や、
財務管理の重要性について解説してきました。
利益と現金の違い、売上至上主義の危険性、そして預貯金残高だけでは資金繰り
の健全性を判断できないことなど、財務の本質に触れてきました。
今回は少し視点を変えて、「あなた自身の財務タイプ」について考えてみましょう。
社長としての財務に対する考え方や行動パターンは、会社の財務状況に大きく影響します。
自分の財務タイプを知ることは、自社の財務課題を客観的に理解し、適切な改善策を講じるた
めの第一歩となります。
長年の財務コンサルティングの経験から、社長の財務に対する姿勢は主に5つのタイプに
分類できることがわかりました。
それぞれのタイプには長所と短所があり、どれが絶対的に良いというわけではありません。
しかし、自分のタイプを認識することで、補うべき点が明確になります。
特徴:
– 「数字は後からついてくる」という考え方
– 財務諸表をほとんど見ない、もしくは表面的にしか見ない
– 銀行残高で経営状況を判断する傾向がある
– 経営判断は主に経験と勘に基づいて行う
このタイプの長所:
– 柔軟な判断ができ、機会を逃さない
– 過度な分析による「決断の遅れ」が少ない
– 顧客や市場の変化に対する感度が高い
このタイプの短所:
– 資金繰りの問題が突然表面化することがある
– 感覚と実態のギャップに気づきにくい
– 成長に伴い、直感だけでは対応できない複雑さが増す
改善のヒント:
月次決算の簡易レポート(A4一枚程度)を作成し、最低限のチェックを習慣化しましょう。
特に「キャッシュフロー計算書」を定期的に確認することで、感覚と実態のギャップを埋めることができます。
特徴:
– 売上の増加を最重要視する
– 「売上さえ上がれば利益はついてくる」という信念がある
– 営業成績やシェアの話には熱心だが、利益率の話には消極的
– 拡大戦略を好み、コスト管理には関心が薄い
このタイプの長所:
– 成長マインドが強く、チャレンジ精神がある
– 営業力・マーケティング力が向上しやすい
– モチベーションが高く、周囲を鼓舞する力がある
このタイプの短所:
– 利益率の低下に気づきにくい
– 成長に伴う運転資金の増加で資金ショートのリスクがある
– 規模の拡大が必ずしも企業価値の向上につながらない
改善のヒント:
売上だけでなく「限界利益率」や「貢献利益」といった指標を管理会計に導入し、
どの商品・サービスがどれだけ利益に貢献しているかを把握しましょう。
また、成長に必要な運転資金を事前に計算し、計画的な資金調達を行うことも重要です。
特徴:
– リスク回避を重視し、安全性の高い経営判断を好む
– 借入金をできるだけ減らすことに熱心
– 手元資金を厚く持つことを重視する
– 投資や拡大には慎重で、確実性を求める
このタイプの長所:
– 財務基盤が安定しやすい
– 経済環境の変化に強い耐性を持つ
– 長期的な信用力が高まりやすい
このタイプの短所:
– 成長機会を逃す可能性がある
– 過剰な内部留保により資本効率が低下する
– 保守的すぎて社内にチャレンジ精神が育ちにくい
改善のヒント:
財務の安定性を保ちながらも、「適切なリスクテイク」の考え方を取り入れましょう。
ROE(自己資本利益率)などの指標を参考に、資本効率も意識した経営を心がけることで、
安全性と成長性のバランスが取れた経営が可能になります。
特徴:
– 財務データや経営指標を細かく分析する
– 意思決定の前に十分なデータ収集と分析を行う
– エクセルや経営管理システムを活用している
– 「数字で語る」ことを重視する
このタイプの長所:
– 財務状況を正確に把握している
– 問題点の早期発見と対応が可能
– 合理的な投資判断ができる
このタイプの短所:
– 分析に時間をかけすぎて決断が遅れることがある
– 数字に表れない定性的な要素を見落とすことがある
– 従業員とのコミュニケーションが数字中心になりがち
改善のヒント:
分析力を活かしながらも、「分析のための分析」に陥らないよう注意しましょう。
また、数字だけでなく市場動向や顧客の声、従業員の感覚など定性的な情報も意思決定に
取り入れることで、よりバランスの取れた経営判断ができます。
特徴:
– 財務は専門家に任せるべきという考え方がある
– 税理士や経理担当者の判断を大きく信頼している
– 財務諸表を見る機会が少ない
– 「数字は苦手」という意識がある
このタイプの長所:
– 専門家の知見を活用できる
– 本業や営業活動に集中できる
– コンプライアンス面での安心感がある
このタイプの短所:
– 財務状況の把握が遅れがちになる
– 税務会計と管理会計の違いを理解していないことがある
– 経営判断に必要な財務感覚が育ちにくい
改善のヒント:
税理士などの専門家とのコミュニケーションを増やし、単に報告を受けるだけでなく、
財務状況について質問や議論をする機会を作りましょう。
また、最低限の「財務の共通言語」を身につけることで、専門家との対話がより生産的に
なります。
以下の質問に正直に答えて、自分の財務タイプを診断してみましょう。
それぞれの質問で最も多く選んだ選択肢が、あなたの傾向が強い財務タイプと考えられます。
自分の財務タイプを知ったら、次はそれを活かしながら弱点を補う方法を考えましょう。
どの財務タイプにも長所と短所があります。重要なのは、自分の財務タイプを理解した上で、
その長所を活かしながら短所を補完していくことです。
理想的な経営者は、状況に応じて5つのタイプをバランスよく使い分けられる人です。
直感を大切にしながらも数字で検証し、成長を追求しつつリスク管理も怠らず、専門家の知見も
活用しながら最終判断は自らの責任で行う—そんな柔軟な財務マネジメントが、これからの不確実
な時代を生き抜く経営の要となるでしょう。
自分の財務タイプを知ることは、自己否定ではなく自己理解のためです。
そして自己理解こそが、真の経営改革の第一歩なのです。