先日、岡山市内のある製造業の社長と面談しました。年商4億円、創業20年。「事業計画を作っています」と言うので内容を確認させていただいたところ、こんな言葉が並んでいました。「売上20%アップ!」「全員が輝く職場!」「お客様に感動を届ける!」
正直に申し上げました。「社長、これは計画ではなくスローガンです」と。
この問題は、多くの社長が直面している現実です。計画書を持っているのに機能しない。数字を掲げているのに誰も本気にならない。なぜなのか。それは「説明できない計画」になっているからです。
2025年版中小企業白書は、経営計画を策定している企業でも「PDCAを実際に回している企業」とそうでない企業では業績に明確な差があると示しています。計画を持つだけでなく、組織全員が「説明できる計画」にすることが、業績を左右するのです。
さらに深刻なのは、「説明できない計画」を持つ組織では、現場の創意工夫が生まれず、失敗から学ぶ基準も持てないことです。短期の目標未達よりも、組織の成長力そのものが失われていきます。30社以上の支援経験の中で、この構造が見えない倒産の温床になっているケースを何度も目にしてきました。
財務を軸とした経営コンサルタントとして30社以上の事業計画策定・改善を支援してきた経験から、「説明できる計画」と「説明できない計画」の決定的な違いを、具体的な事例とともにお伝えします。
渋沢栄一が『論語と算盤』で説いた「義利合一」——道義と実利は一体であるという思想は、事業計画においても当てはまります。「美しいスローガン(義の外見)」と「実行可能な道筋(実利の基盤)」の両方が揃って初めて、計画は機能するのです。
この記事を読むことで、あなたは以下を得ることができます:
2025年版中小企業白書が示したデータによれば、経営計画を策定している企業は未策定企業に比べて売上高・付加価値額の成長率が顕著に高く、さらにオープン経営(計画を従業員と共有する)を実践している企業の業績は、そうでない企業の2.9倍という結果も報告されています。「説明できる計画」を全員で共有することが、競争力の源泉となっているのです。
計画を「方法論」ではなく「思考の共有地図」として捉える——この視点の転換が、経営を根本から変える出発点になります。
📚 【事業計画の本質的価値 シリーズ】第3回
このシリーズはアルプス山脈の逸話をもとに、事業計画の本質的な価値を5回にわたってお伝えしています。
前回までのシリーズで、「間違った地図でも、無いよりマシ」という逸話と、「お金の物語」としての会計の捉え方をお伝えしました。多くの社長から「計画は正確でなくていいと知って肩の荷が下りた」という声をいただきました。
しかし同時に、こんな誤解も生まれていました。「じゃあスローガンだらけの計画でもいいんですよね?」「売上倍増!というビジョンがあれば十分?」——今回はこの誤解に正面から向き合います。
アルプス山脈の逸話を思い出してください。偵察隊が持っていたのは「ピレネー山脈の地図」という「間違った地図」でしたが、それでも地図としての要素はすべて備えていました。地形の高低差が表現され、道筋や位置関係が示され、目印となる特徴が記載されていた。だからこそ、現在地を確認し、方向を定め、危険を回避できたのです。
事業計画でも全く同じことが言えます。「正確でなくていい」のは予測の部分であって、「計画としての骨格」は必ず備えている必要があります。
🌱 収益満開経営の視点
渋沢栄一は「義利合一」——道義と実利は本来一体だと説きました。美しいスローガン(道義の言葉)と、実行可能な道筋(実利の設計)の両方が揃って初めて、言葉は行動を生みます。スローガンだけでは「聞こえの良い言葉」であり、道筋だけでは「冷たい数字の羅列」です。両者を結ぶのが「説明できる計画」なのです。
では、スローガンと計画の境界線はどこにあるのか。それはただ一点——「説明できるかどうか」です。
ある飲食チェーンの社長は、「売上30%アップ」というスローガンを掲げていました。しかし誰も「なぜそれが可能なのか」を説明できませんでした。結果、現場は「無理な数字」と捉え、本気で取り組みませんでした。一方、製造業の社長は「売上20%増」という控えめな目標でしたが、「新規顧客を月5社獲得」「既存客の注文頻度を1.2倍に」という具体的な道筋があり、全員が「可能性がある」と納得して取り組みました。重要なのは数字の大きさではなく、「その数字に至る道筋が説明できるかどうか」なのです。
計画の本質的価値が「共有と対話を促す力」だとすれば、その計画は「説明できるもの」でなければなりません。説明できないものは、共有も対話もできないからです。
では「説明できる計画」とはどのようなものか。30社以上の支援経験から、次の3つの条件を満たしているかどうかで判断できます。
条件①「なぜ」が明確である
条件②「どのように」が具体的である
条件③「誰が」が明確である
これらを欠いた計画は、単なる「願望のリスト」や「数字の羅列」に過ぎません。
2025年版中小企業白書は、経営計画を策定している企業の中でも、「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の3つすべてに取り組んでいる企業は「想定した効果が得られた」という回答が多く、いずれも取り組んでいない企業では「想定した効果は得られなかった」との回答が突出して高いと示しています。つまり「説明できる計画」があってこそ、PDCAが機能するのです。
「説明できない計画」を持つことで、組織には深刻な弊害が生じます。これは単なる「目標未達」の問題ではありません。組織の成長力そのものが蝕まれる問題です。
当事者意識の欠如
「どうせ誰も説明できない数字だから」という空気が生まれ、計画が他人事になります。社長が力を込めて掲げた目標でも、現場には「また上から落ちてきた根拠のない数字」と受け取られてしまいます。当事者意識のない組織は、壁にぶつかったとき「言われた通りにやったのに…」という他責思考に陥ります。
創意工夫の停滞
「どのように達成するか」の道筋が見えないため、現場での試行錯誤が生まれません。逆に「説明できる計画」があれば、「新規顧客を月5社獲得するにはどうすればいいか」という具体的な問いが生まれ、現場から工夫とアイデアが自然に湧き出てきます。計画の説明力は、組織のイノベーション力に直結しているのです。
失敗からの学びの欠如
「なぜうまくいかなかったのか」を分析するための基準がありません。「新規顧客を月5社獲得」という計画があれば、達成できなかったとき「アプローチ先の業種が違った」「提案内容が刺さらなかった」という具体的な学びが得られます。しかし「売上20%アップ!」だけでは、何をどう改善すればいいかすら見えません。
私が支援した千葉市内のある製造業では、3年間「利益率改善!」というスローガンを掲げ続けていましたが、毎期わずかに改善するものの根本的な変化がありませんでした。スローガンを「受注案件の粗利率20%以下は受けない/現場責任者ごとの粗利率を月次で確認する」という「説明できる計画」に変えたところ、半年で利益構造が大きく改善しました。根拠のある言葉は、組織を動かす力を持っています。
多くの社長は「詳細で精緻な計画=良い計画」と思いがちです。しかし、実は逆の場合も多いのです。
結果:計画書が棚に飾られ、誰も参照しない
結果:計画の80%を達成し、社員の一体感が高まった
アルプス山脈の逸話に戻りましょう。偵察隊が生還できたのは、単に「地図があった」からではありません。地図を広げ、「現在地はどこか」「次に向かうべき方向はどちらか」「危険な場所はどこか」と、全員が共有しながら活用したからです。
計画書が棚に飾られているだけでは意味がありません。「説明」し「解釈」し「活用」してこそ価値が生まれるのです。
2025年版中小企業白書が示した印象的な数字があります。経営計画をオープンに共有する組織は、そうでない組織より業績が2.9倍高い——この数字が示すのは、計画の「精緻さ」ではなく「共有の質」こそが業績を決めるということです。
では、計画の「説明力」を高めるために、どのような実践が効果的でしょうか。30社以上の支援から確立した3つの実践法をお伝えします。
多くの社長は「計画を説明する側」として自分を位置づけています。しかし、組織の「説明力」を高めるためには、「問いかける側」としての役割がより重要です。
💬 社長が使うべき「問いかけ」の例
こうした問いかけを繰り返すことで、組織全体の「説明力」は飛躍的に高まります。社長が答えを与えるのではなく、「問いを与える」ことが、組織全体の思考力を育てるのです。
二宮尊徳の「積小為大」——小さなことを積み重ねることで大きな成果が生まれるという教えは、ここにも当てはまります。毎日の短い問いかけの積み重ねが、「説明できる計画」を組織全体に根付かせていくのです。
スローガンと計画の境界線は、まさに「説明できるか否か」にあります。「売上倍増!」がスローガンから計画になるのは、「なぜ」「どのように」「誰が」という要素が加わり、組織の誰もが自分の言葉で説明できるようになったときです。
アルプス山脈の逸話で偵察隊が生還できたのは、地図を全員で「説明し、解釈し、活用した」からです。あなたの会社の計画は、スローガンでしょうか?それとも、誰もが説明できる「共有地図」でしょうか?
今すぐできる一歩:自社の計画書を取り出し、「5分テスト」を自分自身でやってみてください。説明できない部分が見えたとき、そこが計画の磨きどころです。
Q. 事業計画とスローガンは何が違うのですか?
スローガンは「売上倍増!」のような願望の表明です。事業計画は「なぜその目標が必要か」「どのような活動を誰が行うか」が具体的に説明できるものです。組織の誰もが自分の言葉で語れる状態になって初めて、スローガンが計画へと昇格します。2025年版中小企業白書もこの「説明できる計画」の有無が業績を左右すると明言しています。
Q. 「5分テスト」とは具体的にどのようなものですか?
役員一人ひとりが、自社の計画の核心部分を5分以内で口頭説明するテストです。「なぜこの目標が必要か」「どうやって達成するか」「誰が責任を持つか」の3点を5分以内で話せるかを確認します。説明できない役員がいたとき、それは責任の問題ではなく「計画がまだ説明できる状態になっていない」というシグナルです。
Q. 計画書が精緻であるほど良いのではないですか?
必ずしもそうではありません。100ページの精緻な計画書でも誰も説明できなければ機能しません。10ページの簡素な計画書でも全員が自分の言葉で語れれば、業績を牽引します。2025年版中小企業白書が示した「経営計画をオープンに共有する組織の業績は2.9倍高い」というデータが示す通り、計画の「精緻さ」より「説明可能な共有の質」の方が、業績への影響が大きいのです。
この記事は、事業計画書作成10ステップの一部です。
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