先週、東京都内の喫茶店で、ある製造業社長と面談しました。年商5億円、従業員12名。数字だけ見れば順調な会社です。
「長瀬さん、正直に言います。毎月25日の支払日が来ると、胃が痛くなるんです。売上は伸びてるんですよ。でも、なぜか手元に現金が残らない。『今月もなんとかなるだろう』って自分に言い聞かせながら、もう3年が経ちました」
この言葉を聞いた瞬間、私の頭に浮かんだのは、200年前の農政家・二宮尊徳の警句でした。
「なんとかなるだろうでは、何ともならない。明日の備えは今日のうちに」
二宮尊徳。小学校の校庭で薪を背負って本を読む銅像で有名ですが、彼の本質は「実践的経営者」でした。江戸末期、600以上の財政破綻した村落を、すべて黒字化させた実績を持つ経営再建のプロです。
私が財務コンサルタントとして、なぜ江戸時代の農民を研究するのか。それは、彼の「報徳思想」が、令和の中小企業経営者を救う最も確実な方法論だからです。
この記事では、冒頭の社長が実際にどう変わったのか、そして二宮尊徳の4つの原則を、あなたの会社で今日から使える形でお伝えします。
冒頭の社長の会社を、私は決算書をお預かりしてその場で電卓を叩きながら分析しました。
発見したのは、驚くべき事実です。
つまり、売れば売るほど資金が先に出ていく構造でした。これが「売上好調なのに手元に現金がない」の正体です。
以下の項目、1つでも当てはまれば要注意です。
1つでも該当するなら、この記事は必ずお役に立ちます。
二宮尊徳(1787-1856)は、相模国(現・神奈川県)の貧農に生まれました。両親を早くに亡くし、叔父の家で奉公しながら、夜は自分で栽培した菜種を売って油代を稼ぎ、勉強を続けた人物です。
彼が20代で実家の田畑を復興させた手法が評判となり、やがて幕府や諸藩から「財政破綻した領地の再建」を次々と依頼されるようになります。
二宮尊徳は、村の再建を単なる技術論で語りませんでした。人間の心と行動原理から経営を変える、体系的な思想を構築したのです。
| 原則 | 意味 | 現代経営での実践 |
|---|---|---|
| 至誠(しせい) | 誠実さ・現実直視 | データに基づく経営判断 |
| 勤労(きんろう) | 勤勉な努力 | 生産性向上と人材育成 |
| 分度(ぶんど) | 身の丈に合った計画 | 財務規律と適正投資 |
| 推譲(すいじょう) | 利益の社会還元 | ステークホルダー経営 |
驚くべきことに、この4原則は現代のESG経営やSDGsの考え方と完全に一致します。二宮尊徳は200年前に、「持続可能な経営」の原型を体系化していたのです。
冒頭の製造業社長に、私はまずこう聞きました。
「社長、今月末の預金残高はいくらになる予定ですか?」
答えは「うーん…たぶん500万円くらいかな」でした。実際の数字は280万円。誤差44%です。
私はこの社長と、以下の作業を3日かけて行いました。
二宮尊徳は言いました。「道は近きにあり」と。難しい経営理論は不要です。まずは現実を正確に把握する。それが至誠の実践です。
「分度」は、二宮尊徳思想の中で最も誤解されやすい概念です。「贅沢するな」という禁欲主義ではありません。
分度の本質:収入に応じた適正な支出計画を立て、必ず余剰を生み出す仕組みを作ること
江戸時代の村で言えば、「今年の収穫が100俵なら、90俵で暮らす計画を立て、10俵を備蓄・投資に回す」という考え方です。
先ほどの製造業社長の会社は、売上8億円に対して:
利益率2%では、何か想定外のことが起きれば即赤字です。私は社長と「分度」を設定しました。
| 項目 | 現状 | 分度(目標) | 施策 |
|---|---|---|---|
| 原材料費率 | 60% | 55% | 仕入先見直し・ロス削減 |
| 人件費率 | 30% | 28% | 業務効率化・残業削減 |
| その他経費率 | 8% | 7% | 固定費の見える化 |
| 営業利益率 | 2% | 10% | 上記の積み重ね |
重要なのは、「10%にしろ」と命令するのではなく、社長自身が「うちの会社の適正利益率は10%だ」と納得することです。これが分度の本質です。
「積小為大(せきしょういだい)」は、報徳思想で最も有名な言葉です。「小を積んで大と為す」、つまり小さな努力の積み重ねが大きな成果を生む、という意味です。
これは現代の「カイゼン」や「PDCAサイクル」の原型と言えます。
冒頭の製造業社長に提案したのは、極めてシンプルな施策でした。
「毎朝8時、5分間だけ、昨日の改善点を1つ発表する」
最初の1週間は、こんな内容でした:
「こんな小さいこと、意味あるんですか?」と社長は言いました。
しかし3ヶ月後、この会社では:
二宮尊徳は600の村で、まず「荒れ地の1坪を耕す」ところから始めました。「こんな小さいこと」の積み重ねが、村全体を変えたのです。
「推譲(すいじょう)」は、得た利益を将来への投資と社会への還元に使うという考え方です。
二宮尊徳は、村が黒字化すると必ず「社倉(備蓄米の倉庫)」を作らせ、次の不作に備えました。また、復興した村の余剰米を、まだ貧しい隣村に低利で貸し出す仕組みも作りました。
分度の実践により利益率が10%に改善した社長は、こう言いました。
「長瀬さん、増えた利益の一部を、従業員の教育研修に使いたいんです。それと、地元の工業高校に、実習設備を寄贈したい」
これが推譲の精神です。結果として:
「会社は社会の公器である」。これは松下幸之助の言葉ですが、二宮尊徳は200年前に同じことを実践していました。
理論だけでは何も変わりません。明日から、いえ今日から実践できる具体的な方法をお伝えします。
A: 二宮尊徳が活躍した江戸末期は、天保の大飢饉、異常気象、社会不安が続く激変期でした。そんな中で600の村を黒字化させた手法が「理想論」でしょうか? むしろ「なんとかなるだろう」という根拠のない楽観論の方が、よほど危険です。
A: 小規模だからこそ効果的です。二宮尊徳も、数十人規模の小さな村から始めました。経営者の価値観が全員に浸透しやすく、一人ひとりの改善が全体に与える影響も大きいのです。
A: 「積小為大」の精神は、まさに短期と長期の両立を図る考え方です。毎日の小さな改善が短期的な成果を生み、その積み重ねが長期的な大きな変化につながります。冒頭の社長も、3ヶ月で目に見える変化が現れました。
冒頭の製造業社長は、報徳経営の実践から1年後、こう言いました。
「長瀬さん、今月25日が来ても、胃が痛くないんです。むしろ、来月の数字が楽しみになってきました」
二宮尊徳の報徳思想は、「なんとかなるだろう」という漠然とした思考から、「必ずなんとかする」という確信に基づく経営への転換を促します。
至誠・勤労・分度・推譲の4原則を現代に活かすことで、持続可能で社会に貢献する「収益満開経営」を実現できるのです。