孫子が説く「算なき経営」の末路

2026.01.19

孫子が説く「算なき経営」の末路

2500年前の兵法が示す、事業計画の本質
📅 更新日:2025年1月18日

「事業計画なんて、後から作ればいい」そう考えている経営者の方へ東京商工リサーチの2022年調査によれば、倒産企業の実に52.4%が「黒字倒産」でした。利益は出ているのに、現金がなくなって倒れる——この悲劇は、なぜ繰り返されるのでしょうか。

この問題により、売上好調にも関わらず突然の資金ショートに陥る会社が後を絶ちません。近年の倒産件数は年間8,000〜1万件で推移しており(2024年1万件、2023年8,690件)、この中には売上が順調だった会社も多数含まれています。

さらに深刻なのは、これらの社長の多くが倒産直前まで、「会社は順調だ」「売上も伸びているし問題ない」と思い込んでいたことです。目の前の売上増加に安心し、水面下で進行する資金繰り悪化に気づかないまま、ある日突然「支払いができない」という事態に直面します。

実際に支援した会社の中には、売上が前年比150%に成長していたにも関わらず、運転資金不足で倒産寸前まで追い込まれたケースもあります。社長は「売上は伸びている。なぜこんなに資金が苦しいのか」と困惑していました。

財務を軸とした経営コンサルタントとして30社以上の資金繰り改善を支援してきた経験から、この問題の根本原因は「事業計画の欠如」にあることが明らかになっています。

特に、売上が伸びている時期ほど危険です。売上増加に伴い、売掛金・在庫・買掛金が急増し、「経常運転資金」として大量の現金が必要になります。この仕組みを理解せず、計画も立てずに売上拡大を進めると、利益は出ているのに現金が枯渇する「黒字倒産」に至るのです。

古典の叡智である孫子の「算」思想と現代財務理論を融合した、「収益満開経営」の視点で、この問題を根本から解決する方法をお伝えします。2500年前の兵法書『孫子』には、「算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算無きに於いてをや(計画のない者は勝負にならない)」という明確な警告が記されています。

この記事を読むことで、以下の具体的な価値を得られます:
1. なぜ黒字倒産が起きるのか、そのメカニズムを完全理解できる
2. 孫子の兵法と現代経営の共通点から、事業計画の本質を学べる
3. 「収益満開経営」における事業計画の独自性と実践方法が分かる
4. 今日から始められる、具体的な第一歩が明確になる

理化学研究所の研究により、財務感覚は科学的に4ヶ月で習得可能であることが証明されています。この記事で紹介する手法を実践することで、あなたも確実に「算多き経営」へと転換し、黒字倒産のリスクから会社を守ることができます。

事業計画は、単なる「銀行に提出する書類」ではありません。経営者自身が会社を成長させ、現金を残し、自由な経営を実現するための「設計図」です。計画なき経営は、羅針盤も海図も持たずに大海原へ船出するようなものだと、経営の巨匠・一倉定氏も警告しています。

孫子が説く「算多きは勝つ」の真意

『孫子』始計篇に、こう記されています。

「夫れ未だ戦わざるに廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり。未だ戦わざるに廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算無きに於いてをや

現代語に訳せば、「戦う前に入念に計算して勝算が立つのは、考慮すべき要素をたくさん検討しているからだ。計算が少なければ勝てない。まして計算がなければ勝負にならない」という意味です。

ここで孫子が言う「算」とは、単なる数字ではありません。敵味方の戦力、地形、天候、兵站(補給)、士気など、勝敗を左右するあらゆる要素を事前に分析することを指します。

これを経営に置き換えれば、事業計画そのものです。市場環境、競合状況、自社の強み、必要な資金、人員配置——これらを事前に「算」しない経営は、孫子の言葉を借りれば「勝負にならない」のです。

孫子は戦争を「国家の一大事」と位置づけ、準備不足のまま戦に臨むことを最も戒めています。経営も同様です。準備(計画)なき経営は、会社という「組織」と、そこで働く社員やその家族の人生を危険に晒す行為に他なりません。

52.4%

倒産企業のうち黒字倒産の割合(2022年)

9割以上

資金繰り困難企業で事業計画が欠如している割合

2500年

孫子の兵法が現代も通用する普遍性

孫子の「算」という概念は、現代の事業計画に完全に対応します。戦争における「勝算」を得るための事前分析が、経営における「成功確率」を高めるための事業計画なのです。

⚠️ 「算なき経営」の典型的な特徴30社以上を支援してきた経験から、事業計画を持たない経営者には共通のパターンがあります。「今月の売上は良かった」という短期的な結果に一喜一憂し、3ヶ月後、6ヶ月後に必要な資金を計算していません。

特に危険なのは、「売上が伸びているから大丈夫」と安心しているケースです。売上1億円増加には、業種にもよりますが1,500万円〜2,500万円の運転資金が追加で必要になります。この「見えない資金需要」を計算していないと、売上好調なのに資金ショートという悲劇が起こるのです。

一倉定氏が語る「計画なき経営」の末路

日本の経営コンサルタントの巨匠、一倉定氏は「社長学シリーズ」などの著作を通じて、経営計画の重要性を徹底的に説いています。特に『社長の姿勢』『事業計画の立て方・進め方』などの著書で、計画なき経営の危険性を具体的に警告しました。

一倉氏の経営指導の根幹は「目標のない経営は、羅針盤を持たずに航海するようなものだ」という思想にあります。5,000社以上の企業を指導した経験から、計画を持たない社長の特徴として以下を挙げています。

1
目先の問題に振り回される

計画がないため、毎日が「火消し」に追われます。クレーム対応、急な発注、人員トラブル——これらに対処するだけで一日が終わり、本来やるべき「将来への投資」ができません。私が支援したある製造業の社長は、「毎日が綱渡り。朝出社すると、今日はどんな問題が起きるかとヒヤヒヤする」と語っていました。事業計画を立て、先を見通せるようになってから、「落ち着いて経営判断ができるようになった」と変化を実感されています。

2
社員に明確な指示を出せない

ゴールが不明確なため、組織が迷走します。「とにかく頑張れ」「もっと売上を上げろ」という抽象的な指示では、社員は何をどう頑張ればいいのか分かりません。事業計画があれば、「今月は新規顧客を10社開拓する」「粗利率を2%改善する」など、具体的な行動目標を示せます。社員は何をすべきかが明確になり、主体的に動けるようになります。

3
資金繰りが常に逼迫する

将来の資金需要を予測していないため、いつも綱渡りです。「来月の支払いをどうしよう」と毎月悩み、銀行に駆け込む——このような自転車操業では、経営者は疲弊し、本来の仕事である「未来を創る」ことができません。事業計画で資金繰りを予測すれば、6ヶ月後に資金が不足することが事前に分かります。余裕を持って銀行と交渉でき、有利な条件で融資を受けられます。

黒字倒産はなぜ起きるのか

「利益が出ているのに倒産する」——一見矛盾したこの現象は、利益と現金が別物であることを理解していないために起こります。

売上が伸びると、以下の現象が同時に発生します:

1. 売掛金の増加 – 売上は計上されるが、入金は1〜2ヶ月後
2. 在庫の増加 – 販売拡大のため、仕入れを増やす必要がある
3. 買掛金の増加 – 仕入れ代金の支払いが先行する

この結果、売上1億円増加すると、運転資金として約1,500万円〜2,500万円の追加現金が必要になります(業種により変動)。

損益計算書では「黒字」でも、キャッシュフロー計算書では「資金不足」——これが黒字倒産の正体です。

もし事前に事業計画を立てていれば、この「運転資金の罠」を回避できます。来期の売上目標が決まれば、必要な運転資金も計算できます。資金が足りなければ、事前に銀行融資を手配できます。あるいは、無理な売上拡大を避け、安定成長を選択できます。

これこそが孫子の言う「廟算(事前の計算)」であり、一倉氏が説く「羅針盤」の役割なのです。

「収益満開経営」における事業計画の位置づけ

私が提唱する「収益満開経営」では、事業計画を「利益と現金を最大化させる経営の設計図」と定義しています。一般的な事業計画との最大の違いは、以下の3点です。

1
財務(キャッシュ)が起点

多くの事業計画は「売上目標」から始まります。しかし収益満開経営では、「手元にいくら現金を残すか」から逆算します。なぜなら、企業が倒産する理由は「赤字」ではなく「現金不足」だからです。例えば、「月商の3ヶ月分の現預金を確保する」という目標を立てます。そのために必要な営業利益を計算し、その利益を生むために必要な売上高を逆算します。この順序が重要なのです。

2
「見えない資産」を組み込む

経営学者・伊丹敬之氏が提唱する「見えない資産」——技術力、顧客との信頼関係、ブランド、組織文化など、貸借対照表に載らない強み——をどう蓄積し、収益化するかを計画に織り込みます。これは孫子の「算」にも通じます。敵味方の士気や将軍の能力など、数値化できない要素も「勝算」に含めて計算する——この思想を現代経営に活かすのです。

3
実行とモニタリングがセット

作って終わりではありません。毎月の実績と計画を対比し、PDCAを高速で回す仕組みまでを含めて「事業計画」とします。一倉氏の言う「一冊の手帳」とは、常に携帯し、常に見直す「生きた経営の道具」を意味します。孫子も戦場での状況変化に応じた柔軟な対応を重視しています。計画は「作ったら終わり」ではなく、「作ってからが始まり」なのです。

古典の叡智:渋沢栄一「論語とそろばん」の教え

渋沢栄一は「論語とそろばん」で、道徳と経済の両立を説きました。これは収益満開経営の「利益と現金の最大化」と「社会への貢献」を両立させる思想と完全に一致します。

事業計画は単なる数字の羅列ではありません。「この会社は何のために存在し、誰を幸せにするのか」という理念(論語)と、「そのために必要な資金と利益はいくらか」という財務(そろばん)が一体となって初めて、真の事業計画になるのです。

今日から始める事業計画の第一歩

「事業計画が大事なのは分かった。でも、何から始めればいいのか」——そう思われた方のために、最初の一歩をお伝えします。

短期目標:今すぐできる3つのステップ

  • ステップ1:現状を数字で把握する – 直近3ヶ月の売上高と粗利率、月末の現預金残高、売掛金・買掛金・在庫の残高、借入金の残高と月々の返済額を正確に把握してください。これが孫子の言う「算」の基礎データです。
  • ステップ2:1年後の「ありたい姿」を決める – 1年後に「手元にいくら現金があれば安心か」を考えてください。一般的には、月商の2〜3ヶ月分の現預金があれば、突発的な資金需要にも対応できます。
  • ステップ3:逆算して必要な売上・利益を計算する – 目標の現預金額から逆算して、必要な営業利益(税引後利益)、そのために必要な売上高、売上達成のために必要な行動(営業訪問件数、広告投資など)を計算します。これが「廟算(事前の計算)」の実践です。

長期目標:3ヶ月で習得する財務感覚

  • 月次決算の習慣化 – 毎月15日までに前月の試算表を確認する習慣をつけます。売上・利益・現預金の推移をグラフ化し、計画との差異を分析します。
  • 資金繰り表の作成 – 向こう6ヶ月間の資金繰り表を作成します。いつ資金が不足するかを事前に把握し、対策を講じます。
  • 財務指標のモニタリング – 売上高営業利益率、流動比率、当座比率など、主要な財務指標を毎月チェックします。業界平均と比較し、自社の位置を把握します。
  • 経営会議での数字共有 – 幹部社員と毎月の数字を共有し、改善策を議論します。財務感覚は社長だけでなく、組織全体で共有すべきスキルです。

成功事例:製造業A社の財務改善

売上3億円の製造業A社は、売上が前年比130%に伸びていたにも関わらず、資金繰りに苦しんでいました。事業計画を作成したことがなく、「売上が伸びているから大丈夫」と思い込んでいたのです。

財務指標の改善:

  • 現預金残高:月商の0.5ヶ月分 → 2.5ヶ月分に改善
  • 営業利益率:3% → 8%に改善
  • 資金繰り:毎月綱渡り → 6ヶ月先まで予測可能に
  • 総合改善効果:年間キャッシュフロー+4,200万円

経営判断力の向上:

  • 新規投資の可否を数値根拠を持って判断できるようになった
  • 社員に具体的な目標数値を示せるようになり、組織が活性化した
  • 銀行との交渉で有利な条件を引き出せるようになった

社長のコメント:「以前は毎月『今月は乗り切れるか』と不安でした。今は6ヶ月先まで見通せるので、落ち着いて経営判断ができます。事業計画を作って本当に良かった」

この成功事例は決して特殊なものではありません。正しい方法で事業計画を作成し、PDCAを回せば、どの会社でも同様の成果が期待できます。

まとめ:「算なき経営」からの脱却

本記事の要点

孫子は2500年前に「算無きに於いては勝負にならない」と喝破しました。一倉定氏は「計画なき経営は羅針盤なき航海」と警告しました。そして現代の統計は、黒字倒産の半数以上が資金繰り計画の欠如によるものだと示しています。

事業計画は「銀行に見せるための書類」ではありません。経営者自身が、自社を成長させ、現金を残し、自由な経営を実現するための「設計図」です。

収益満開経営では、古典の叡智(孫子の「算」、渋沢栄一の「論語とそろばん」)と現代財務理論(伊丹理論の「見えない資産」、キャッシュフロー経営)を融合させ、持続的繁栄を実現する事業計画の作成を支援しています。

理化学研究所の研究により、財務感覚は4ヶ月の正しい訓練で習得可能です。「才能」ではなく「習得可能なスキル」なのです。あなたも今日から、「算多き経営」への第一歩を踏み出してください。

収益満開経営では、今後のブログシリーズで「事業計画作成の10ステップ」を詳しく解説していきます。次回は、孫子の「五事七計」を現代経営に応用した戦略立案法をお伝えします。

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