書評 金融マンのための実践ファイナンス講座 リライト版 · HTML
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収益満開経営の長瀬好征です。先日、和光市内のある社長との面談でこんなやり取りがありました。
「先生、銀行から『次回の融資審査では、3年後のキャッシュフロー計画を出してほしい』と言われたんですが、何をどうやって作ればいいのかさっぱり分からなくて……」
年商5億円、創業20年のベテラン社長です。税理士との付き合いも長く、決算書の数字はある程度わかる。ところが、「未来を語れるか」と問われると、とたんに言葉に詰まってしまった。
この瞬間、私は確信しました。今の中小企業経営者に最も欠けているのは「過去の数字の読み方」ではなく、「未来の数字の設計力」だと。
2024年の企業倒産件数は約1万件(東京商工リサーチ調査)。その多くが黒字企業の資金ショートによる「黒字倒産」です。帝国データバンクの調査では、倒産企業の約3割が直前期に黒字を計上していたとされています。売上も利益もある。なのになぜ倒産するのか。答えは明快で、キャッシュフローを管理できていないからです。
そして、銀行もすでにそのことを熟知しています。金融検査マニュアルが2020年に廃止されて以来、銀行の審査は「過去の数字の点数化」から「将来性・事業性の評価」へと大きくシフトしました。スコアリング対策で融資を取り続けた時代は、事実上終わっています。
では、これからの社長に何が求められるのか。銀行と対等に話し合うために、本当に必要なものは何なのか。その問いへの最良の答えの一つが、今回ご紹介する一冊です。
この記事を読むことで、以下が手に入ります。
多くの社長が混同しているのですが、会計とファイナンスは根本的に目的が異なります。
会計(Accounting)は、過去に起きた経営活動を記録・集計し、外部(銀行・税務署・株主)に報告するための「言語」です。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の三つが主役です。すでに起きたことを正確に伝えるのが目的であり、本質的に後向きの学問です。
一方、ファイナンス(Finance)は、未来の意思決定に使う「思考の道具」です。「この設備に投資すべきか」「借入と増資、どちらが有利か」「このプロジェクトのリターンはリスクに見合うか」といった、前向きの問いに答えるための理論体系です。
税理士の仕事は主に前者です。過去の取引を正確に記帳し、適切な税額を計算し、申告する。これは極めて重要な仕事ですが、「来月の資金繰りをどうするか」「3年後の借換えに備えてどう財務を整えるか」という問いへの回答は、税理士の専門領域の外にあります。
ところが多くの社長は、「税理士に任せているから財務は大丈夫」と思い込んでいます。これが最大の落とし穴です。
30社以上の財務支援を行ってきた経験から言えば、経営危機の8割は「過去の記帳ミス」ではなく、「未来への判断ミス」から生まれています。設備投資のタイミング、借入の規模、返済計画の甘さ——これらはすべてファイナンスの問題です。会計の知識だけでは、銀行と対等に渡り合えないのはそのためです。
本書は、この「会計の基礎」から「ファイナンスの本質」へという正しい学習順序を踏んでいます。まずB/S・P/L・C/Fの読み方を押さえ、次になぜキャッシュフローがすべての基準になるのかを理解し、そのうえで投資判断・資金調達・リスク管理という実務に展開していく。340ページという分量は、この体系的な構成があってこそです。
書店のビジネス書コーナーには「銀行攻略術」「融資を引き出す決算書の作り方」といった本が並んでいます。これらの本が悪いとは言いません。ただ、それらの本の多くは「現状の数字をいかに有利に見せるか」に焦点を当てた、テクニック集です。
本書は、そういった方向性とはまったく異なります。
融資テクニック本は「こうすれば通る」という結論を教えます。本書は「銀行がなぜその指標を重視するのか」という原理から説明します。原理を理解すれば、テクニックは自分で導き出せるようになります。「魚を与えるか、釣り方を教えるか」の違いです。
タイトルに「金融マンのための」とあるとおり、この本は銀行側の論理で書かれています。つまり、銀行員が社長の事業をどう評価するか、どこを見ているか、がわかる構成になっています。相手の目線で物事を考える——これは近江商人の「三方よし」の精神とも通じる、交渉の本質です。
中小企業の社長には直接関係の薄い、株式発行による資金調達(エクイティファイナンス)も扱っています。一見「使えない章」に見えますが、ポートフォリオ理論やMM理論を知ることで、負債とエクイティのバランス(財務レバレッジ)についての理解が格段に深まります。「知らなくても生きていける」知識が、「知っているかどうかで経営の質が変わる」知識になる瞬間があります。
私はこの本を強くすすめますが、★5ではなく★4としています。その理由を正直にお伝えします。
ただ、これらは欠点ではありません。本書がこの難度であるからこそ、読み切った社長には本物の財務力がつくのです。
簡単に読める本で学べることには、限界があります。財務の本質を本当に理解しようとすれば、ある程度の時間と思考の負荷は避けられません。問題は「難しいから読まない」という判断をするかどうかです。
私が提唱する「収益満開経営」は、山田方谷の義理合一という思想を現代経営に活かすことを基盤の一つにしています。
「義」は道徳・倫理・人間関係のあり方を指します。「利」は数字・利益・経済合理性を指します。この両者は対立するものではなく、本来一体であるべきだと説きました。
本書が示す「会計基礎→ファイナンス理論→実務応用」という学習の道筋は、まさに「利」の部分を現代的に体系化したものです。
義だけでは事業は続かない。利だけでは人を動かせない。両者を統合して初めて、真の経営者となる。
そして今、多くの中小企業社長は「義」の部分(志、誠実さ、顧客への思い)は持っています。しかし「利」の部分——とくにファイナンスの視点——が弱い。その弱さを補う一冊として、本書は最適です。
外部依存(税理士任せ・銀行攻略テクニック)から自立的経営への転換。これこそが、失われた30年を終わらせ、2200年の日本繁栄に貢献する経営者への第一歩です。
向いていない社長の方は、まずは簿記3級相当の入門書から始めることをおすすめします。会計の言語を最低限理解してから本書に取り組むと、理解度が格段に上がります。
なお、財務の入門書としては「会計HACKS!」も書評で取り上げています。ただし、中小企業の現場で即使えるかという点では評価に留保があります(詳細はこちらの書評記事をご覧ください)。
この本を最後まで読み通せるかどうかは、あなたの経営者としての本気度を測るリトマス試験紙のようなものだと、私は思っています。
「難しそうだから」と敬遠するか。「難しいからこそ価値がある」と判断して読み進めるか。その分かれ目に、経営者としての成長がかかっています。
冒頭でご紹介した岡山の製造業社長は、その後3ヶ月かけてこの本を読み切りました。読み切った後の面談で、彼はこう言いました。
「長瀬さん、銀行員と話していて、初めて相手の言っていることが全部わかった気がしました」
財務力は一夜にして身につくものではありません。しかし、正しい方向で学び続ければ、必ず変わります。
真の経営者は、困難な学習から逃げません。なぜなら、学ぶことをやめた瞬間から、会社の未来が閉じ始めるからです。
本書の理解をさらに深めるため、9月より「経営者のための会計・ファイナンス活用講座」全10回シリーズを配信予定です。山下章太氏の書籍で学んだ理論を、中小企業の現場でどう活用するか、具体的な実践法をお伝えします。
詳細はメルマガにてご案内します。
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合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
「和魂洋才」による収益満開経営で、失われた30年を終わらせ、
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