事業の選択と集中5ステップで資金繰りを改善する|人・お金・社長の時間あたりの粗利で比べる方法
「事業をいくつか持っていれば、どれかが不調でも安心だ」——
そう考えて事業を増やしてきた会社ほど、「全体では黒字なのに、お金が足りない」という状態に陥りやすくなります。事業が増えるたびに、人も、売掛金や在庫に眠るお金も、そして社長の時間も、少しずつ分かれていくからです。
結論から申し上げます。資金繰りのための選択と集中とは、事業ごとに「人・お金・社長の時間」をどれだけ使い、どれだけの粗利を生んでいるかを並べ、稼ぐ力の高い事業に資源を寄せていくことです。売上の大きい事業が、稼ぐ力の高い事業とは限りません。
収益満開経営の長瀬好征です。財務を軸とした経営コンサルタントとして、30社以上の資金繰り改善を支援してきました。この記事では、事業ごとの稼ぐ力を「資源あたりの粗利」で比べる方法と、選択と集中を進める5つのステップを、計算例とともにお伝えします。
- 「あれもこれも」が資金繰りを苦しくする仕組み
- 人・お金・社長の時間あたりの粗利で事業を比べる計算例
- アンソフの成長マトリクスを、集中先の判断にどう使うか
- 選択と集中を進める5つのステップと、失敗しやすい4つの場面
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なぜ「あれもこれも」の会社は、資金繰りが苦しくなりやすいのか?
事業が増えるほど、人・お金・社長の時間という限られた資源が分かれ、稼ぐ力の低い事業が、稼ぐ力の高い事業の生んだお金を使ってしまうからです。
試算表や決算書は、会社全体の数字を示します。全体が黒字なら、どの事業が稼ぎ、どの事業がお金を使っているかは見えません。資金繰りの面で見落とされやすいのは、次の3つです。
| 分かれていく資源 | 見えにくい理由 | 資金繰りへの影響 |
|---|---|---|
| お金(売掛金や在庫に眠るお金) | 事業ごとに回収の早さや在庫の持ち方が違うのに、全体の残高でしか見ていない | 回収が遅い事業や在庫の多い事業が、運転資金を大きく使う |
| 人 | 兼務が多く、誰がどの事業にどれだけ時間を使っているかがわからない | 稼ぐ力の高い事業に人が足りず、伸ばす機会を逃す |
| 社長の時間 | 記録に残らず、数字にも表れない | 立ち上げ中の事業や問題を抱えた事業に、社長の時間が吸い取られる |
特に見落とされやすいのが、社長の時間です。中小企業では、社長が営業も判断も担っていることが多く、社長の時間は、会社でいちばん替えのきかない資源です。どの事業に社長の時間が使われているかは、どの事業が会社の将来を形づくっているかと、ほぼ同じ意味を持ちます。
事業ごとの稼ぐ力は、何で比べればよいのか?
売上ではなく、事業ごとの粗利を、その事業が使っている「人」「売掛金と在庫に眠るお金」「社長の時間」で割って比べます。計算例で確かめてみましょう。
| 事業 | 月の売上 | 月の粗利 | 人 | 売掛金と在庫に眠るお金 | 社長の時間 |
|---|---|---|---|---|---|
| A:本業の部品製造 | 1,200万円 | 420万円 | 10人 | 1,800万円 | 30% |
| B:保守・点検 | 400万円 | 180万円 | 3人 | 400万円 | 10% |
| C:数年前に始めた物販 | 400万円 | 60万円 | 4人 | 1,200万円 | 40% |
| 合計 | 2,000万円 | 660万円 | 17人 | 3,400万円 | 80%(残りは全社の仕事) |
※考え方を示すための計算例です。特定の会社の数字ではありません。
この表を、資源あたりの粗利に直すと、次のようになります。
| 事業 | 1人あたりの月の粗利 | 眠るお金100万円あたりの月の粗利 | 社長の時間10%あたりの月の粗利 |
|---|---|---|---|
| A:本業の部品製造 | 42万円 | 約23万円 | 140万円 |
| B:保守・点検 | 60万円 | 45万円 | 180万円 |
| C:数年前に始めた物販 | 15万円 | 5万円 | 15万円 |
売上の大きさでは、Aが最大で、BとCは同じです。しかし資源あたりの粗利で見ると、3つの物差しすべてでBが最も高く、Cが最も低いことがわかります。Cは粗利全体の約9%しか生んでいないのに、人の約24%、眠るお金の約35%、社長の時間の40%を使っています。
ここで大切なのは、この表は「Cをやめるべきだ」という答えを出すものではない、ということです。Cが数年後の柱を育てている途中なのかもしれませんし、Aの取引先との関係を支えているのかもしれません。この表が示すのは、「どこに資源を寄せれば、会社全体の稼ぐ力が上がるか」を考える材料です。事業をやめるかどうかの判断には、別の物差しが必要になります。
事業や部門をやめるかどうかの判断(共通費の扱い、やめると利益が減る場合)は、こちらで解説しています。
📖 不採算部門の撤退判断5つの基準|「赤字部門」をやめると利益が減る場合の見分け方 →
アンソフの成長マトリクスは、選択と集中にどう使えるのか?
集中先の候補が、今の強みの延長線上にあるのか、遠く離れているのかを確かめる道具として使えます。
経営学者のイゴール・アンソフは、1957年に発表した論文で、企業が成長する方向を「市場(今の市場か、新しい市場か)」と「製品(今の製品か、新しい製品か)」の2つの軸で4つに分けました。成長マトリクス(アンソフ・マトリクス)と呼ばれる整理です。
| 方向 | 市場と製品 | 必要になる新しい知識や資源 | 選択と集中での見方 |
|---|---|---|---|
| 市場浸透 | 今の市場 × 今の製品 | 少ない | 今の強みをそのまま深める。集中先の第一候補になりやすい |
| 市場開発 | 新しい市場 × 今の製品 | 市場や販路の知識 | 製品の強みは使えるが、売り方は新しく学ぶ |
| 製品開発 | 今の市場 × 新しい製品 | 製品や技術の知識 | 顧客との関係は使えるが、作り方は新しく学ぶ |
| 多角化 | 新しい市場 × 新しい製品 | 市場と製品の両方 | 今の強みが最も使いにくい。資源の分散が最も起きやすい |
第2章の計算例に当てはめると、Bの保守・点検は、Aの部品を使っている今の顧客に新しいサービスを提供する「製品開発」に近い位置にあります。顧客との関係も技術の知識もAから引き継げるため、少ない資源で高い粗利を生みやすいのです。一方、Cの物販が本業と別の顧客に別の商品を売るものなら「多角化」にあたり、人もお金も社長の時間も、新しく用意しなければなりません。
多角化そのものが悪いわけではありません。ただ、資金繰りに余裕のない会社が多角化の方向に資源を分け続けると、どの事業も中途半端になりやすいのです。集中先を選ぶときは、資源あたりの粗利の高さと、今の強みからの距離の両方を見ます。
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事業の棚卸し、資源あたりの粗利の計算、位置の確認、資源の寄せ方の決定、3か月ごとの見直し。この5つのステップで進めます。
- 事業を棚卸しする——会社が手がけている事業を書き出し、事業ごとの売上と粗利を、少なくとも過去12か月分そろえる。季節の波があるため、数か月分では判断を誤りやすい
- 事業ごとの資源を書き出す——人(兼務は時間の割合で分ける)、売掛金と在庫に眠るお金、社長の時間の割合を、第2章の表の形で埋める。社長の時間は、2週間ほど手帳やカレンダーで記録すると、感覚とのずれがわかる
- 資源あたりの粗利を計算し、位置を確かめる——3つの物差しで並べ、第3章の4つの方向のどこにあるかを書き添える
- 資源の寄せ方を決める——「どの事業に、何を、いつまでに寄せるか」を決める。人を動かすのか、運転資金を動かすのか、社長の時間を動かすのかを分けて考える
- 3か月ごとに見直す——資源あたりの粗利が、寄せた先で上がっているかを確かめる。上がっていなければ、寄せ方か、集中先の選び方を見直す
この中で、社長がいちばん驚くのは、多くの場合ステップ2の「社長の時間」です。記録をつけてみると、思っていたよりずっと多くの時間を、稼ぐ力の低い事業の対応に使っていることに気づきます。お金や人を動かす前に、社長の時間の使い方を変えるだけで、集中は始められます。
選択と集中で失敗しやすいのは、どんなときか?
粗利率だけで判断するとき、短い期間の数字で判断するとき、移行にかかる費用と時間を見込まないとき、社員に理由を伝えないとき。この4つの場面です。
| 失敗しやすい場面 | なぜ起きるか | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 粗利率だけで判断する | 粗利率が低くても、資源をあまり使わず、他の事業を支えている事業がある | 資源あたりの粗利と、他の事業とのつながりを合わせて見る |
| 短い期間の数字で判断する | 季節の波や一時的な不振を、事業の実力と取り違える | 少なくとも12か月分の数字で比べる |
| 移行の費用と時間を見込まない | 取引先への説明、在庫の処分、人の配置換えには時間とお金がかかる | 資源を寄せる計画を資金繰り表に落とし、手元のお金が最も少なくなる月を確かめる |
| 社員に理由を伝えない | 事業の縮小は、社員の将来への不安を生む | なぜ寄せるのか、一人ひとりの役割がどう変わるのかを、数字とともに伝える |
もう1つ、集中した後の注意点があります。事業を絞るほど、その事業の市場の変化を直接受けるようになります。集中は一度決めて終わりではなく、3か月ごとの見直しとセットで続けるものです。
選択と集中は、事業の組み合わせを変える取り組みです。稼ぎ方の仕組みそのもの(いつお金を受け取り、いつ払うか)を見直す方法は、別の記事で解説しています。
代金の受け取り方や価格の根拠など、稼ぎ方の仕組みからの見直しは、こちらで解説しています。
📖 ビジネスモデル変革で資金繰りを改善する6つの効果|お金が入る時期と出る時期から見直す →
「集中する」とは、社長が何を決めることなのか?
「何をやるか」以上に、「何に資源を使わないか」を決めることです。新しい事業や取引を始める判断は、多くの社長が日々しています。一方で、今ある事業に使う資源を減らす判断は、先送りされがちです。
選択と集中を「事業を捨てること」と考えると、決断は重くなります。しかし第2章の計算例が示すように、本当に問われているのは、限られた人・お金・社長の時間を、どこに置けば会社全体がいちばん稼げるかです。やめる事業がなくても、資源の寄せ方を変えるだけで、選択と集中は始まります。
そして、その判断は社長にしかできません。どの事業に未来を託すかは、会社がどこへ向かうかという、社長自身のゴールと切り離せないからです。数字は判断の材料を示してくれますが、どこに向かうかまでは決めてくれません。
選択と集中以外の資金繰り改善の手法は、こちらの一覧から選べます。
📖 資金繰り改善76の実践手法一覧|自社の課題から選ぶ5つのカテゴリー →
📝 まとめ:事業は「売上」ではなく「資源あたりの粗利」で比べる
「あれもこれも」の会社では、人・売掛金と在庫に眠るお金・社長の時間が事業ごとに分かれ、稼ぐ力の低い事業が、稼ぐ力の高い事業の生んだお金を使ってしまいます。計算例では、粗利の約9%しか生まない事業が、眠るお金の約35%と社長の時間の40%を使っていました。
事業を棚卸しし、資源あたりの粗利と今の強みからの距離を確かめ、資源の寄せ方を決めて3か月ごとに見直す。この5つのステップで、選択と集中は「捨てる決断」ではなく「資源を置き直す判断」になります。
今すぐできる一歩:これから2週間、ご自身の時間をどの事業に使ったかを、手帳に記録してみてください。
❓ よくある質問
事業が増えるほど、人・売掛金と在庫に眠るお金・社長の時間が分かれ、稼ぐ力の低い事業が、稼ぐ力の高い事業の生んだお金を使ってしまうからです。資源あたりの粗利が高い事業に資源を寄せることで、同じ資源から生まれるお金が増え、運転資金の負担も軽くなります。
売上の大きさではなく、事業ごとの粗利を、使っている人・売掛金と在庫に眠るお金・社長の時間で割った「資源あたりの粗利」で比べます。あわせて、アンソフの成長マトリクスで、その事業が今の強みの延長線上にあるかどうかも確かめます。
それだけでは判断できません。将来の柱を育てている途中の事業や、他の事業の取引を支えている事業もあります。やめるかどうかは、共通費の扱いや、やめた場合に会社全体の利益がどう変わるかを別に計算して判断します。
経営学者のイゴール・アンソフが1957年の論文で示した整理で、企業の成長の方向を、市場(今の市場か新しい市場か)と製品(今の製品か新しい製品か)の2つの軸で、市場浸透・市場開発・製品開発・多角化の4つに分けたものです。
まず事業ごとの売上と粗利を12か月分そろえ、人・売掛金と在庫に眠るお金・社長の時間の割合を書き出します。特に社長の時間は、2週間ほど手帳やカレンダーで記録すると、感覚とのずれがわかり、資源の寄せ方を考える出発点になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の経営判断の推奨を目的とするものではありません。計算例は考え方を示すための簡便なものです。
※本稿は長瀬好征の実務経験をもとに、AIを構成・編集のパートナーとして活用し作成しました。
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