在庫管理を「カン」に頼る7つの危険性|発注点と安全在庫で、勘を数字のルールに置き換える方法
「在庫のことは、ベテランの担当者に任せているから大丈夫」——
長年の経験で「そろそろ頼んでおこう」「これは多めに」と判断できる担当者は、会社の財産です。ところが、ある商品は切らしてお客様を待たせ、別の商品は倉庫に積み上がっている。そんな状態が同時に起きていないでしょうか。
結論から申し上げます。問題は「カン」そのものではなく、カンが担当者の頭の中にしかなく、誰も確かめられないことです。1日にどれだけ出るか、頼んでから何日で届くか、どれだけ余裕を持つか。この3つの数字で「発注点」を決めれば、ベテランのカンを会社のルールに置き換えられます。在庫に眠るお金も、そのとき初めて見えるようになります。
収益満開経営の長瀬好征です。財務を軸とした経営コンサルタントとして、30社以上の資金繰り改善を支援してきました。在庫をテーマにした記事はほかにもありますが、この記事では「いつ・いくつ発注するか」という発注の判断に絞り、カンを数字のルールに置き換える方法を、計算例とともにお伝えします。
- 在庫をカンに頼ると起きる7つのこと
- 発注点・安全在庫・発注量の決め方(計算例つき)
- ルールにしたときに、在庫に眠るお金がどれだけ変わるか
- カンとルールの使い分け方
資金繰りの弱点を自社で点検できる「資金繰りチェックシート」を無料でお配りしています。在庫の見直しとあわせてお使いください。
📧 無料メルマガ登録でチェックシートを受け取る📋 目次
在庫を「カン」に頼ると、何が起きるのか?
品切れと売れ残りが同時に起き、在庫に眠るお金が見えなくなります。そして、担当者がいなくなったときに会社が困ります。
| カンに頼ると起きること | なぜ起きるのか |
|---|---|
| ① 品切れと過剰在庫が同時に起きる | よく覚えている商品には目が届き、そうでない商品は放置されやすい |
| ② 担当者が休む・辞めると発注が止まる | 判断の基準が、その人の頭の中にしかない |
| ③ なぜその量を頼んだのか説明できない | 根拠が記録されず、振り返りも改善もできない |
| ④ 現金が在庫の形で眠り続ける | 「多めに持っておけば安心」が積み重なる |
| ⑤ 売れ行きの変化に気づくのが遅れる | 「例年どおり」「前もこれで売れた」で判断する |
| ⑥ 小口の急な発注が増え、送料や手間がかさむ | 切れそうになってから慌てて頼む |
| ⑦ 動かない在庫の処分が先送りになる | 「いつか売れる」という期待に、期限がない |
どれも、担当者の能力の問題ではありません。判断の基準が共有されていないという、仕組みの問題です。だから、人を責めても直りません。基準を数字にして共有すれば直ります。
なぜ在庫は「カン」に頼りやすいのか?
カンで回しても、すぐには困らないからです。そして在庫の判断は、決算書の利益にすぐには表れません。
仕入れた商品は、売れるまでは費用ではなく「資産」として決算書に載ります。多めに仕入れても、その期の利益はほとんど変わりません。一方で、仕入れの代金を払った分だけ、現金は実際に減っています。カンで多めに仕入れても利益の数字は痛まず、痛むのは目に見えにくい資金繰りの方なのです。
もう一つの理由は、カンが実際によく当たることです。経験を積んだ担当者の判断は、多くの場合、大きく外れません。だからこそ、それを数字にしようという発想が生まれにくいのです。しかし、当たる理由を言葉と数字にしておかなければ、その判断は担当者と一緒に会社から消えてしまいます。
私が考える財務への向き合い方の3つの段階に当てはめると、在庫を「担当者に任せて安心している」のが最初の段階、在庫の金額や日数を把握しているのが次の段階、そして発注の基準を数字で決め、在庫が資金繰りに与える影響を社長が説明できるのが目指す段階です。
カンを数字に置き換えるには、何を決めればよいのか?
「いつ頼むか」を決める発注点、「いくつ頼むか」を決める発注量、そして「どれだけ余裕を持つか」を決める安全在庫の3つです。
| 決めること | 意味 | カンで決めていると |
|---|---|---|
| 発注点 | 在庫がこの数を下回ったら発注する、という目安 | 「そろそろかな」で頼むため、早すぎたり遅すぎたりする |
| 発注量 | 1回に頼む数 | 「前と同じくらい」「多めに」で決まる |
| 安全在庫 | 出荷の増減や納品の遅れに備える余裕 | 不安な分だけ膨らみ、根拠がない |
この3つを決めるのに必要な数字は、多くありません。1日に平均いくつ出ていくか、発注してから届くまで何日かかるか(リードタイム)、そして何日分の余裕を持つか。ベテランの担当者は、これらを経験の中で無意識に計算しています。それを紙に書き出すだけで、カンはルールに変わります。
どの商品から発注のルールを決めるか(ABC分析)は、こちらで解説しています。
📖 月次棚卸のやり方|ABC分析で中小企業の資金繰りを安定させる実践手順 →
発注点と安全在庫は、どう計算するのか?
発注点は「1日の平均出荷数 × リードタイム + 安全在庫」で計算します。計算例で見てみましょう。
| ある商品の数字 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 1日の平均出荷数 | 過去3か月の出荷数 ÷ 営業日数 | 20個 |
| リードタイム | 発注してから届くまで | 10日 |
| 安全在庫 | 20個 × 5日分の余裕 | 100個 |
| 発注点 | 20個 × 10日 + 100個 | 300個 |
| 発注量 | およそ20日分(取引条件や送料も考えて決める) | 400個 |
※考え方を示すための計算例です。特定の会社の数字ではありません。安全在庫を何日分とするかは、出荷のばらつきや品切れの影響の大きさで決めます。
在庫が300個を下回ったら、400個を発注する。届くまでの10日間で200個が出ていき、届く直前には安全在庫の100個が残っている計算です。「そろそろかな」が「300個を切ったら」に変わるだけで、誰が担当しても同じ判断ができるようになります。
最初からすべての商品で計算する必要はありません。売上や在庫金額の大きい上位の商品から始め、残りは月1回の見直しで十分です。
ルールにしたら、在庫に眠るお金はどれだけ変わるのか?
平均すると「安全在庫 + 発注量の半分」が在庫として手元にあります。カンで多めに持っていた量と比べれば、眠っているお金の差が分かります。
| カンで多めに持つ | 発注点のルール | |
|---|---|---|
| 平均の在庫数 | 常に800個前後 | 100個 + 400個 ÷ 2 = 300個 |
| 在庫金額(仕入単価5,000円) | 400万円 | 150万円 |
| 差(在庫に眠るお金) | 250万円 | ― |
※考え方を示すための計算例です。
1つの商品で250万円です。同じことが上位の10品目で起きていれば、2,500万円が在庫の形で眠っていることになります。それだけのお金が手元にあれば、借入を減らすことも、次の投資に回すこともできます。カンで持っていた「念のため」の在庫は、数字にした瞬間に金額として見えるようになるのです。
一方で、在庫を減らしすぎて品切れが増えれば、売上と信用を失います。安全在庫は、そのための余裕です。発注点のルールは在庫をただ減らすためのものではなく、品切れと過剰在庫の両方を、根拠のある水準に収めるためのものです。
在庫全体を圧縮して資金を生み出す段取りは、こちらで解説しています。
📖 在庫圧縮で資金繰りを改善する7つの手法|「減らすと決めたのに進まない」を防ぐ実行段取り →
経営の現在地を、経営実務力と経営覚悟度の2つの軸で確かめられる「経営力診断シート」を無料でお配りしています。
📊 診断シートを無料で受け取るカンとルールは、どう使い分ければよいのか?
ふだんの発注はルールで回し、ルールで読めない場面だけカンを使います。そして、カンで動かしたときは理由を記録します。
| ルールで回す(ふだん) | カンを使う(例外) |
|---|---|
| 定番の商品の補充 | 新商品で、出荷の実績がまだない |
| 出荷が安定している商品 | 大口の注文やキャンペーンが決まっている |
| 取引先からの納品が安定している商品 | 季節の変わり目、天候や相場の大きな変化 |
| ― | 仕入先の事情で、納品が遅れそうなとき |
明日からの4ステップ
- 上位の10品目を選ぶ——在庫金額か売上の大きい順に
- 3つの数字を書き出す——1日の平均出荷数、リードタイム、何日分の余裕を持つか(担当者に聞きながら)
- 発注点と発注量を決め、棚や台帳に書いておく——誰が見ても分かる場所に
- 月1回、数字を見直す——品切れや過剰が出た品目は、カンで動かした理由とあわせて記録し、数字を直す
カンで動かした理由を記録していくと、やがてそれも数字になります。「この季節は出荷が1.5倍になる」と分かれば、次からはルールに組み込めます。カンを捨てるのではなく、カンを会社の知恵として残していく。それが、担当者が替わっても揺るがない在庫管理です。
動かない在庫を見つける年齢表と、在庫ロスの影響の計算は、こちらで解説しています。
📖 在庫ロス削減で資金繰りを改善する8つの効果|ロス100万円を取り戻すのに必要な売上の計算 →
📝 まとめ:カンを捨てずに、数字のルールにする
在庫をカンに頼ると、品切れと過剰在庫が同時に起き、在庫に眠るお金が見えなくなり、担当者がいなくなると判断が止まります。問題はカンそのものではなく、カンが共有されていないことです。
1日の平均出荷数、リードタイム、安全在庫の3つから発注点を決めれば、誰が担当しても同じ判断ができます。計算例では、1品目で250万円のお金が在庫から解放されました。ふだんはルールで回し、例外だけカンを使い、その理由を記録する。それが、会社に残る在庫管理です。
今すぐできる一歩:在庫金額の大きい商品を1つ選び、担当者と一緒に「1日の平均出荷数」と「リードタイム」を書き出して、発注点を計算してみてください。
❓ よくある質問
品切れと過剰在庫が同時に起き、在庫に眠るお金が見えなくなります。判断の基準が担当者の頭の中にしかないため、その人が休んだり辞めたりすると発注が止まり、なぜその量を頼んだのかを説明・改善することもできません。問題はカンそのものではなく、共有されていないことです。
在庫がこの数を下回ったら発注する、という目安です。「1日の平均出荷数×リードタイム(発注から納品までの日数)+安全在庫」で計算します。計算例では、1日20個・リードタイム10日・安全在庫100個で、発注点は300個になります。
出荷のばらつきや納品の遅れ、品切れしたときの影響の大きさで決めます。計算例では1日の平均出荷数の5日分としました。品切れが取引先の信用に直結する商品は多めに、代わりのきく商品は少なめにするなど、商品ごとに決めてかまいません。
平均すると「安全在庫+発注量の半分」が手元にある在庫になります。計算例では、カンで常に800個持っていた商品が平均300個になり、仕入単価5,000円なら在庫金額は400万円から150万円へ、250万円のお金が解放されます。
不要ではありません。ふだんの補充はルールで回し、新商品や大口注文、季節の変わり目などルールで読めない場面でカンを使います。カンで動かしたときに理由を記録していけば、やがてそれも数字になり、ルールに組み込めます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の経営判断の推奨を目的とするものではありません。計算例は考え方を示すための簡便なものです。
※本稿は長瀬好征の実務経験をもとに、AIを構成・編集のパートナーとして活用し作成しました。
📧 メルマガ「収益満開経営」のご案内
毎週月曜日、経営の本質を突く洞察をお届けしています。
渋沢栄一・二宮尊徳・近江商人の智慧と現代財務理論を融合した
「収益満開経営」の実践法を、無料でお読みいただけます。
🎁 ご登録特典:PDF診断シート2点を無料プレゼント
あなたの「経営力の現在地」が5分でわかる
自社でセルフチェックできる実践ツール
✅ PDFファイルなので、スマホ・PCですぐにダウンロード可能
✅ ご登録後のステップメールにてお受け取りいただけます
※いつでも配信解除できます
合同会社エバーグリーン経営研究所
経営コンサルタント 長瀬好征
「和魂洋才」による収益満開経営で、失われた30年を終わらせ、
2200年の日本に繁栄を残す
