説明できない計画は計画でない|事業計画書の3条件
岡山市内のある製造業の社長と面談したときのことです。年商4億円、創業20年。「事業計画を作っています」とおっしゃるので内容を拝見すると、こんな言葉が並んでいました。「売上20%アップ!」「全員が輝く職場!」「お客様に感動を届ける!」
正直に申し上げました。「社長、これは計画ではなくスローガンです」と。
結論から申し上げます。スローガンと計画を分ける境界線は、ただ一点——「なぜ」「どのように」「誰が」を、社長だけでなく幹部も自分の言葉で説明できるかどうかです。計画書を持っているのに機能しない、数字を掲げているのに誰も本気にならない。その原因の多くは、計画が「説明できない計画」になっていることにあります。
私は財務を軸とした経営コンサルタントとして、30社以上の事業計画の策定と改善を支援してきました。ご相談に来られる社長の多くは、すでに何らかの計画書をお持ちです。ところが、その計画書は「銀行に出すために作った」「税理士や外部の人に作ってもらった」ものであることが少なくありません。社長自身が説明できない計画は、社員にも説明できず、結局は棚に置かれたままになります。
2025年版中小企業白書も、計画を「持つこと」と「使うこと」の違いに光を当てています。経営計画を策定している事業者は、策定していない事業者に比べて、売上高の変化率(中央値)が7.7%対5.7%、付加価値額の変化率が9.9%対8.1%と、いずれも高い傾向が示されました。一方で、策定していても、計画達成に向けた行動・進捗管理・評価と見直しのいずれにも取り組んでいない事業者では、「想定した効果は得られなかった」と答える割合が特に高いとされています。計画は、組織の中で説明され、使われて初めて力を持つのです。
この記事を読むことで、あなたは以下を得られます。
- スローガンと計画の決定的な違い
- 「説明できる計画」の3条件(なぜ・どのように・誰が)
- 「売上20%増」を説明できる数字に分解する方法(計算例つき)
- 計画の「説明力」を高める3つの実践法と「5分テスト」
- 社長が「問いかけ者」になるための具体的な問い
自社の計画が「説明できる計画」になっているかを確かめる第一歩として、7つの観点から自社を点検できる「経営力診断シート」を無料でお配りしています。
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📚 事業計画の本質的価値シリーズ【第3回/全5回】
このシリーズでは、組織心理学者カール・ワイクが紹介したことで知られる「アルプス山脈の偵察隊」の逸話を手がかりに、事業計画の本質的な価値を5回にわたってお伝えしています。第1回では「なぜ事業計画は機能しないのか」、第2回では「考える社長と頑張る社長の違い」を取り上げました。第3回の本記事では、計画が計画として機能するための条件——「説明できること」を扱います。
スローガンと計画は、どこが決定的に違うのか?
計画には「なぜ」「どのように」「誰が」という骨格があり、スローガンにはそれがありません。数字の大きさや言葉の美しさではなく、その数字に至る道筋を説明できるかどうかが、両者を分けます。
このシリーズで繰り返しお伝えしてきたアルプスの逸話を振り返ります。雪山で道を失い、全滅を覚悟した偵察隊が、隊員のポケットにあった一枚の地図を頼りに無事に帰還した。ところが後になって、その地図はアルプスではなくピレネー山脈の地図だったとわかった——という話です。
この逸話から「計画は正確でなくてもいい」と受け取り、肩の荷が下りたという声を多くいただきました。一方で、「それならスローガンだけの計画でもいいのでは?」という誤解も生まれました。今回はこの誤解に正面から向き合います。
偵察隊の地図は「違う山の地図」でしたが、地図としての要素はすべて備えていました。地形の高低が描かれ、道筋や位置関係が示され、目印となる特徴が記されていた。だからこそ隊員たちは、現在地を確かめ、方向を定め、危険を避けることができたのです。事業計画も同じです。「正確でなくていい」のは予測の部分であって、「計画としての骨格」は必ず備えている必要があります。
たとえば、ある飲食チェーンの社長は「売上30%アップ」を掲げていましたが、なぜそれが可能なのかを誰も説明できず、現場は「無理な数字」と受け止めて本気になりませんでした。一方、ある製造業の社長の目標は「売上20%増」と控えめでしたが、「新規顧客を月5社にアプローチする」「既存客の注文頻度を高める」という道筋があり、社員が「やれるかもしれない」と納得して動き出しました。
🌱 収益満開経営の視点
渋沢栄一は『論語と算盤』で、道義と実利は本来一体であるという「義利合一」を説きました。美しいスローガン(道義の言葉)と、実行可能な道筋(実利の設計)の両方がそろって初めて、言葉は行動を生みます。スローガンだけでは「聞こえのよい言葉」にとどまり、道筋だけでは「冷たい数字の羅列」になります。その二つを結ぶのが「説明できる計画」です。
前回(第2回)の記事はこちらです。
📖 第2回:「考える社長」と「頑張る社長」の決定的な違い →
「説明できる計画」の3つの条件とは何か?
「なぜ」が明確であること、「どのように」が具体的であること、「誰が」が決まっていること——この3つです。計画の本質的な価値が「共有と対話を促す力」にあるとすれば、その計画は説明できるものでなければなりません。説明できないものは、共有も対話もできないからです。
📋 説明できる計画の3条件
条件①「なぜ」が明確である
- なぜその目標が必要なのか(外部環境の変化、自社の強みとの関係)
- なぜその数字が妥当なのか(過去の実績や、市場・顧客の動きという根拠)
- なぜその戦略を選んだのか(ほかの選択肢と比べた理由)
条件②「どのように」が具体的である
- どのような顧客に、どのように働きかけるのか
- どのような活動を、どのくらいの頻度で行うのか(例:月5社にアプローチ)
- 人・時間・予算をどれだけ投じるのか
条件③「誰が」が明確である
- 誰が最終的な責任を持つのか
- 誰が支え、誰と協力して進めるのか
- 社長自身はどの部分に関わるのか
これらを欠いた計画は、「願望のリスト」か「数字の羅列」にすぎません。
3条件を使うと、スローガンを計画に書き換えることができます。
| スローガン | なぜ | どのように | 誰が |
|---|---|---|---|
| 「売上20%アップ!」 | 主要取引先1社への依存を下げるため | 新規顧客に月5社アプローチ、既存客への定期提案を月1回に | 営業部長が責任者、社長は月次で進捗を確認 |
| 「利益率改善!」 | 値引き受注で粗利が薄くなっているため | 粗利率20%以下の案件は原則受けない、案件ごとの粗利を月次で確認 | 現場責任者ごとに粗利を確認、例外の判断は社長 |
| 「全員が輝く職場!」 | 若手の定着が課題のため | 入社3年目までの社員と月1回の面談、教育費を年間○万円確保 | 総務課長が運営、社長は半期ごとに全員と面談 |
事業計画が「機能しない」根本原因は、シリーズ第1回で掘り下げています。
📖 第1回:なぜ99%の事業計画は機能しないのか? →
計画の数字は、どう説明すれば「説明できる」になるのか?
目標の数字を、「どこから」「いくら」生まれるのかという部品に分解し、部品ごとに根拠を示すことです。合計の数字だけを掲げると、それはスローガンになります。部品に分けると、計画になります。
年商4億円の会社が「売上20%増(+8,000万円)」を掲げたとします。これを説明できる数字にすると、たとえば次のようになります。
| 部品 | 前提(根拠) | 増加額 |
|---|---|---|
| 既存客からの増加 | 定期提案で注文頻度を1割高める(既存売上4億円×10%) | 4,000万円 |
| 新規客からの増加 | 月5社にアプローチ、成約率20%で年12社、1社あたり年間約330万円 | 約4,000万円 |
| 合計 | 約8,000万円(+20%) |
こうして分解すると、議論の中身が変わります。「20%は無理だ」という感想ではなく、「成約率20%は高すぎないか」「1社あたり330万円の取引は見込めるか」「頻度1割増のために何をするか」という、検証できる問いが生まれるからです。前提のどれかが外れても、どこがずれたのかがわかり、次の手が打てます。
支援の現場では、この分解を社長と一緒に行う時間を最も大切にしています。外部の人間が数字を作れば計画書は早くできますが、社長が前提の一つひとつを自分で決めなければ、その計画を説明することはできないからです。事業計画は外注できない——私が繰り返しお伝えしている理由がここにあります。
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📊 チェックシートを無料で受け取る「説明できない計画」は、組織に何をもたらすのか?
「当事者意識の欠如」「創意工夫の停滞」「失敗から学べないこと」の3つです。これは単なる目標未達の問題ではなく、組織の成長力そのものが損なわれる問題です。
当事者意識の欠如
「どうせ誰も説明できない数字だから」という空気が生まれ、計画が他人事になります。社長が力を込めて掲げた目標でも、現場には「また上から落ちてきた根拠のない数字」と受け取られます。当事者意識のない組織は、壁にぶつかったとき「言われたとおりにやったのに」という他責に陥ります。
創意工夫の停滞
「どのように達成するか」の道筋が見えないため、現場での試行錯誤が生まれません。反対に「新規顧客に月5社アプローチ」という計画があれば、「5社に会うにはどうすればいいか」という具体的な問いが生まれ、現場から工夫が出てきます。計画の説明力は、組織の工夫する力に直結しています。
失敗から学べない
「なぜうまくいかなかったのか」を分析する基準がありません。「新規5社」の計画なら、届かなかったときに「アプローチ先の業種が違った」「提案内容が合っていなかった」という学びが得られます。しかし「売上20%アップ!」だけでは、何をどう直せばよいのかすら見えません。
私が支援した千葉市内のある製造業では、3年間「利益率改善!」というスローガンを掲げ続けていましたが、毎期わずかに改善するだけで根本的な変化はありませんでした。スローガンを「粗利率20%以下の案件は原則として受けない」「現場責任者ごとの粗利率を月次で確認する」という説明できる計画に変えたところ、半年ほどで利益の構造が目に見えて変わり始めました。根拠のある言葉は、組織を動かす力を持っています。
精緻な計画と簡素な計画、どちらが機能するのか?
多くの場合、機能するのは「説明できる簡素な計画」です。計画の価値は精緻さではなく、組織の誰もが説明し、使えることにあります。
❌ ケースA:精緻だが説明できない計画
- 100ページに及ぶ詳細な市場分析と財務予測
- 専門用語と複雑な表が満載
- 外部の専門家が作成し、誰も全体を把握していない
- 社長自身も「作ってもらった計画」という感覚
結果:計画書が棚に置かれ、誰も開かない
✅ ケースB:簡素だが説明できる計画
- 10ページほどの簡潔な計画書
- 「3つの重点市場」「5つの主要施策」が明確
- 役員全員が自分の言葉で説明できる
- 社長が「私たちの計画」として腹落ちしている
結果:毎月の会議で開かれ、ずれるたびに打ち手が議論される
アルプスの偵察隊が生還できたのは、単に地図を持っていたからではありません。地図を広げ、「今どこにいるのか」「次にどちらへ進むのか」「どこが危ないのか」を、全員で確かめながら使ったからです。計画書も、棚に置かれているだけでは意味がありません。説明し、解釈し、使ってこそ価値が生まれます。冒頭で紹介した白書の分析——策定していても運用に取り組んでいない事業者ほど「効果が得られなかった」と答えている——も、同じことを示しています。
計画の「説明力」を高めるには、何をすればよいか?
「ストーリーで語れるか確かめる」「5分テストを行う」「他部門の計画を説明し合う」の3つです。どれも費用はかからず、次の役員会から始められます。
社長が「問いかけ者」になると、組織はどう変わるのか?
社長が答えを与える側から問いを与える側に回ると、社員が自分で考え、計画を自分の言葉で説明できるようになります。多くの社長は自分を「計画を説明する側」と考えていますが、組織の説明力を高めるには「問いかける側」の役割のほうが大切です。
💬 社長が使うべき「問いかけ」の例
- 「なぜこの数字だと思う? どんな根拠がある?」
- 「具体的にどうやって達成する? 最初の一歩は何?」
- 「達成できなかったとき、何がわかる? それを次にどう生かす?」
- 「この計画を、□□部門の△△さんに説明できる?」
こうした問いを毎月の会議や日々の会話で繰り返すことで、組織全体の説明力は着実に高まっていきます。問いに答えるうちに、社員は計画の「なぜ」を自分で考えるようになるからです。このシリーズの次回(第4回)では、計画を「やることリスト」と取り違えてしまう落とし穴を取り上げます。
次回(第4回)の記事はこちらです。
📖 第4回:ToDoリストでは会社は良くならない →
📝 まとめ:スローガンと計画の境界線
スローガンと計画の境界線は、「説明できるか否か」にあります。「売上20%アップ!」がスローガンから計画になるのは、「なぜ」「どのように」「誰が」が加わり、目標の数字が根拠のある部品に分解され、組織の誰もが自分の言葉で説明できるようになったときです。
アルプスの偵察隊が生還できたのは、地図を全員で説明し、解釈し、使ったからでした。あなたの会社の計画は、スローガンでしょうか。それとも、誰もが説明できる「共有の地図」でしょうか。
今すぐできる一歩:自社の計画書を取り出し、「5分テスト」をまず社長ご自身で試してみてください。説明に詰まった部分が、計画の磨きどころです。
❓ よくある質問
スローガンは「売上倍増!」のような願望の表明です。事業計画は、なぜその目標が必要か、どのような活動を、誰が行うかが具体的に説明できるものです。組織の誰もが自分の言葉で語れる状態になって初めて、スローガンは計画になります。
①「なぜ」が明確であること(なぜその目標が必要で、なぜその数字が妥当か)、②「どのように」が具体的であること(どの顧客に、どの活動を、どの頻度で行うか)、③「誰が」が明確であること(誰が責任を持ち、誰と協力し、社長はどこに関わるか)の3点です。この3条件を欠いた計画は、願望のリストにすぎません。
目標の数字を、どこからいくら生まれるのかという部品に分け、部品ごとに根拠を示します。たとえば年商4億円の会社の売上20%増(+8,000万円)なら、既存客の注文頻度1割増で4,000万円、月5社へのアプローチと成約率20%による新規12社で約4,000万円、というように分解します。
当事者意識の欠如(根拠のない数字として他人事になる)、創意工夫の停滞(具体的な道筋がないため現場の工夫が生まれない)、失敗から学べないこと(うまくいかなかった理由を分析する基準がない)の3つです。短期の目標未達よりも深刻で、組織の成長力そのものを損ないます。
「5分テスト」がお勧めです。計画の核心を5分で説明できるかを、社長と役員全員で試します。説明に詰まった部分が、まだ計画として固まっていない部分です。経営全体の現状確認には、メルマガ登録特典の「経営力診断シート」も役立ちます。
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