この現象は「アンダーマイニング効果(過正当化効果)」と呼ばれ、1971年にエドワード・L・デシが行った実験で初めて科学的に証明されました。その後、数百に及ぶ追試研究により、この効果の確実性と危険性が繰り返し確認されています。
特に深刻なのは、99%の社長がこの科学的事実を知らずに、「報酬を増やせばやる気が上がる」という誤った思い込みのまま人事施策を実施してしまっていることです。その結果、意図とは正反対に従業員の内発的動機を破壊し、創造性を損ない、組織全体の活力を失わせてしまうケースが後を絶ちません。
財務を軸とした経営コンサルタントとして30社以上の組織改革を支援してきた経験から、報酬制度の設計ミスが組織の停滞を招く現場を数多く目撃してきました。本記事では、アンダーマイニング効果の科学的メカニズムと、それを防ぐための実践的対策を、最新の心理学研究に基づいて徹底解説します。
渋沢栄一の「論語とそろばん」が説く「義と利の両立」の視点と、デシ・レッパーによる動機づけ心理学を融合した、「収益満開経営」の視点から、真に人を動かす報酬のあり方をお伝えします。
この記事を読むことで、(1)なぜ報酬が逆効果になるのかの科学的根拠、(2)創造性や問題解決能力への悪影響のメカニズム、(3)報酬に頼らず持続的な動機づけを育む具体的方法、(4)健全な報酬設計の実践的指針、の4点を完全に理解できます。
さらに重要なことは、この知識が組織の未来を変える力を持っているということです。デシとライアンの研究により、適切な動機づけ環境を整えることで、従業員のパフォーマンスが最大で3倍向上することが実証されています。
私たちは日々の生活や仕事において、何らかの動機づけによって行動しています。しかし、その動機づけの源泉がどこにあるのか、そして特に「報酬」がそれにどのような影響を与えるのかを理解することは、複雑な人間心理を紐解く上で非常に重要です。
この章では、動機づけの基本的な概念と、報酬がそれに与える影響の基礎知識について解説します。
動機づけは大きく二つの種類に分けられます。一つは、行動そのものから得られる喜びや満足感に根差す内発的動機づけ、もう一つは、外部からの報酬や評価、罰などによって促される外発的動機づけです。
内発的動機づけは、個人の好奇心、興味、達成感、自己成長への欲求など、行動自体が目的となる場合に生じます。例えば、趣味に没頭したり、新しい知識を学ぶことに喜びを感じたりする行動は、内発的動機づけによって推進されています。このタイプの動機づけは、行動の質を高め、長期的な持続性をもたらす傾向があります。
一方、外発的動機づけは、給与、昇進、表彰、罰則、他者からの評価など、行動の外部にある要因によって行動が促されるものです。例えば、給料のために働く、試験で良い成績を取るために勉強する、といった行動がこれに当たります。外発的動機づけは、特定の行動を迅速に促す効果がありますが、その効果は外部要因が取り除かれると失われやすいという特徴があります。
| 項目 | 内発的動機づけ | 外発的動機づけ |
|---|---|---|
| 源泉 | 行動そのものの興味・関心、達成感 | 外部からの報酬、評価、罰 |
| 持続性 | 長期的、自律的 | 短期的、外部要因に依存 |
| 行動の質 | 創造性、深い学習、高いパフォーマンス | ルーティンワーク、量的な行動 |
| 例 | 趣味、自己研鑽、探求活動 | 給料、昇進、ノルマ達成 |
報酬は、従業員のパフォーマンス向上や目標達成を促す強力なツールとして広く認識されています。しかし、その強力さゆえに、使い方を誤るとかえって動機づけを損ない、予期せぬ問題を引き起こすことがあります。この現象は、行動経済学や心理学の分野で長年研究されてきました。
報酬が動機づけに問題を抱える主な理由は、それが内発的動機づけを「侵食」する可能性があるためです。本来、人が自らの興味や喜びから行っていた行動に対し、外部からの金銭的な報酬が与えられると、その行動の目的が「報酬を得るため」へとすり替わってしまうことがあります。
これにより、行動そのものから得られていた満足感が薄れ、結果として内発的動機づけが低下してしまうのです。また、報酬はしばしば短期的な行動変容を促しますが、長期的な視点で見ると、報酬がないと行動しないという依存状態を生み出すリスクもはらんでいます。
これは、報酬が行動の「目的」となり、「手段」としての役割を超えてしまうことで、自律的な行動意欲が失われることにつながります。このような報酬の負の側面は、特に創造性や自律性が求められる現代の仕事環境において、大きな課題となっています。
報酬が動機づけに与える影響は複雑であり、特に内発的動機づけが関わる場面では、その効果が逆転し、かえって意欲を損なうことがあります。ここでは、その3つの決定的理由を心理学的な観点から深掘りします。
報酬が動機づけを低下させる最も代表的な現象が、アンダーマイニング効果、または過正当化効果と呼ばれるものです。これは、もともと内発的な動機づけによって行っていた活動に対して、外発的な報酬が与えられると、かえってその活動への内発的な興味や意欲が低下してしまう心理現象を指します。
人間は、自分の行動が何によって引き起こされているのかを常に解釈しようとします。内発的動機づけによって行動している場合、その行動の理由は「楽しいから」「興味があるから」といった内的な要因に帰属されます。
しかし、ここに金銭などの外発的な報酬が加わると、人は自分の行動の理由を「報酬を得るため」という外的な要因に帰属し直してしまうのです。その結果、本来の「楽しい」という感覚が薄れ、報酬がなければ行動しないという状態に陥りやすくなります。
このアンダーマイニング効果を実証したのが、アメリカの心理学者エドワード・L・デシの研究です。デシは1971年に行った有名な実験で、大学生を対象にソマパズルという立体パズルを解いてもらいました。
実験では、学生を3つのグループに分け、それぞれ異なる条件を設定しました。
実験の途中で休憩時間が設けられ、学生たちは自由に時間を過ごすことができました。この休憩時間に、学生たちが自発的にパズルを解くかどうかが観察されました。
結果は衝撃的なものでした。報酬を与えられたBグループの学生たちは、報酬がなくなった途端、パズルへの興味を失い、自発的にパズルを解く時間が著しく減少したのです。一方、最初から報酬を与えられなかったAグループの学生たちは、休憩時間も自発的にパズルを解き続ける傾向が見られました。
この研究は、報酬が内発的動機づけをいかに簡単に損なってしまうかを示す決定的な証拠となりました。この現象は、デシとライアンが提唱した「自己決定理論」の基盤となり、その後の50年間で数百の追試研究によってその確実性が証明されています。
特に、創造性や自律性が求められる職種(研究開発、企画、デザイン、コンサルティングなど)では、この効果が顕著に現れます。実際、支援してきた企業の中には、成果報酬制度の導入後に従業員の創造的な提案が激減したケースもありました。
この記事を読んで不安を感じた経営者様へ
⚠️ 2つ以上該当 → アンダーマイニング効果の可能性
⚠️ 3つ全て該当 → 報酬制度の抜本的見直しを推奨します
デシとライアンの研究により、適切な動機づけ環境を整えることで、従業員のパフォーマンスが最大3倍向上することが科学的に証明されています。
報酬制度は「なくてはならないもの」ですが、「それだけで良い」ものではありません。
報酬は、特に創造性を要する仕事や複雑な問題解決が必要なタスクにおいて、その能力を阻害する可能性があります。報酬が与えられると、人は報酬を獲得することに意識が集中し、リスクを避け、既知の方法や最短ルートで成果を出そうとする傾向が強まります。
これにより、以下のような悪影響が生じます。
思考の柔軟性低下
報酬に縛られることで、既成概念にとらわれず、多様な視点から物事を考える力が失われがちです。
試行錯誤の減少
失敗を恐れ、新しいアプローチを試す意欲が低下します。創造性は多くの試行錯誤の中から生まれるため、これは致命的です。
質より量への偏重
報酬が量や速度に結びついている場合、成果の質が犠牲になることがあります。
つまり、報酬は、特定の成果や行動を「早く」「多く」生み出すことには有効な場合がありますが、複雑な問題解決や革新的なアイデア創出には逆効果となる可能性が高いのです。
報酬は、特定の行動を一時的に促進する強力な手段となり得ます。しかし、その効果は短期的なものにとどまり、長期的な行動の持続性には結びつきにくいという問題があります。
外発的報酬によって動機づけられた行動は、報酬が提供されている間は維持されますが、報酬がなくなると、その行動も停止してしまうことが多く見られます。これは、行動の理由が「報酬を得るため」という外部要因に依存しているためです。
内発的動機づけに根ざした行動のように、「楽しいから」「意義があるから」といった内的な理由がないため、外部からの刺激がなくなると、行動を続ける理由が失われてしまうのです。
この現象が最も顕著に現れるのが、「報酬がないと行動しない」という状態です。これは、かつて内発的に行っていた行動であっても、報酬が導入されたことで、その行動が「報酬のための作業」に変質してしまい、報酬がなくなると一切の意欲を失ってしまうことを意味します。
これは、個人の自律性や主体性が損なわれた状態であり、動機づけが完全に低下した状態と言えるでしょう。この状態は、特に教育現場や人材育成において深刻な問題を引き起こします。
報酬は時に強力な動機づけとなりますが、その与え方や対象となるタスクによっては、かえって逆効果となり、人々の行動や意欲を損なうことがあります。特に、内発的な動機づけがすでに存在する場合や、創造性が求められる仕事において、金銭的報酬が予期せぬ負の影響をもたらすことが知られています。
人々が自らの意思で、活動そのものに喜びや意義を見出して取り組んでいる場合、そこに金銭的な報酬を導入すると、かえってその活動への意欲が低下することがあります。これは「アンダーマイニング効果」の典型的な現れです。
例えば、趣味で絵を描くことが好きで、純粋にその行為を楽しんでいる人がいるとします。もし、その人に「絵を描いたら1枚につき1万円を支払う」という報酬を提示した場合、当初は喜んで受け入れるかもしれません。
しかし、時間が経つにつれて、絵を描く目的が「絵を描く楽しさ」から「1万円を得ること」へとすり替わってしまう可能性があります。結果として、報酬がなければ絵を描くことへの興味を失い、かつて感じていた純粋な喜びや内発的な動機づけが損なわれてしまうのです。
創造性や複雑な問題解決能力が求められる仕事において、報酬が動機づけを低下させるケースも多く見られます。ルーティンワークのように明確な手順や答えがある仕事では、報酬が生産性を高める効果を発揮しやすい傾向にあります。
しかし、アイデア出し、研究開発、企画立案、デザインなど、試行錯誤や自由な発想が不可欠な仕事では、報酬が逆効果となることがあります。
ダニエル・ピンクは著書『モチベーション3.0』の中で、報酬が創造性を阻害する可能性を指摘しています。報酬が提示されると、人々は「どうすれば報酬を得られるか」という思考に集中し、報酬に直結しない多様なアプローチやリスクを伴う発想を避ける傾向があります。
報酬そのものが悪いわけではなく、その「与え方」が動機づけを損なう主要な原因となることがあります。特に、報酬が特定の条件や行動に厳密に紐付けられ、事前に約束されている「期待報酬」の場合、その影響は顕著です。
期待報酬とは、ある行動や成果に対して、事前に明確に約束された金銭的報酬のことです。例えば、「このプロジェクトを成功させたらボーナスを支給する」「○○の目標を達成したら昇給する」といった形で提示される報酬がこれにあたります。
このような期待報酬は、コントロール感の喪失、自律性の低下、質の低下、条件付けの形成といった問題を引き起こす可能性があります。
報酬が動機づけを低下させるリスクがある一方で、人間が本来持っている内発的な欲求を満たすことで、より持続可能で質の高い動機づけを育むことができます。ここでは、報酬に頼らずに人々の意欲を引き出すための主要な要素と具体的な方法について解説します。
人は、自分の行動や選択を自分で決めたいという根源的な欲求を持っています。これは心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論における「自律性」の欲求に該当します。この欲求が満たされると、人はより主体的に、そして責任感を持って物事に取り組むようになります。
具体的な方法としては、単に指示を与えるのではなく、仕事の進め方や達成方法について個人の裁量を認めることが挙げられます。例えば、目標設定のプロセスに当事者を巻き込んだり、複数の選択肢の中から本人に選ばせたり、意見を積極的に求め、それを尊重する姿勢を示すことが重要です。
人は、自分の能力が向上していること、そして自分の行動が何らかの成果や貢献に繋がっていると感じることで、大きな満足感を得ます。これも自己決定理論における「有能性」の欲求であり、「自分にはできる」という感覚が、さらなる挑戦への意欲へと繋がります。
この有能感を育むためには、まず適切なフィードバックが不可欠です。単なる評価ではなく、具体的な行動に対する建設的なフィードバックは、個人の成長を促します。
人間は社会的な生き物であり、他者との良好な関係性の中で安心し、力を発揮することができます。これは自己決定理論における「関係性」の欲求であり、所属感や他者からの承認が満たされることで、人は心理的に安定し、安心して挑戦できるようになります。
職場においては、上司と部下、同僚間の信頼関係を築くことが極めて重要です。オープンなコミュニケーションを奨励し、互いに協力し合えるチームワークを育むことで、個人は孤立感を感じることなく、自分の役割を全うしようとします。
自分の仕事が単なる作業ではなく、より大きな目的や社会的な意義に繋がっていると感じる時、人は深いレベルで動機づけられます。これは、単に与えられたタスクをこなす以上の、仕事への「意味」や「価値」を見出すことに他なりません。
組織のビジョンやミッションを明確に共有し、個々の業務がどのようにその達成に貢献しているのかを具体的に示すことが重要です。例えば、製品やサービスが顧客にどのような価値を提供しているのか、社会にどのような影響を与えているのかを伝えることで、従業員は自分の仕事が「誰かの役に立っている」という実感を得られます。
これまでの議論で、報酬が動機づけ、特に内発的動機づけを損なう可能性を見てきました。しかし、報酬がまったく不要だというわけではありません。むしろ、報酬は組織と個人の間で健全な関係を築く上で重要な役割を果たすものです。重要なのは、その与え方と位置づけを正しく理解することです。
報酬の役割を理解する上で、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論」は非常に参考になります。この理論は、仕事における満足と不満足は異なる要因によって引き起こされると説明しています。
ハーズバーグは、仕事の満足度や動機づけに影響を与える要因を、「衛生要因(不満足要因)」と「動機づけ要因(満足要因)」の二つのカテゴリーに分類しました。衛生要因には給与、福利厚生、労働条件などが含まれ、これらが不足すると不満を引き起こしますが、満たされても積極的に動機づけはされません。
一方、動機づけ要因には達成、承認、仕事そのもの、責任、成長の機会などが含まれ、これらが満たされると積極的に仕事への満足感や意欲を高めます。
報酬が衛生要因としての役割を果たす一方で、従業員の真の動機づけを高めるためには、金銭以外の「非金銭的報酬」の活用が不可欠です。これらは、ハーズバーグの「動機づけ要因」に該当し、内発的動機づけを直接刺激します。
承認と感謝、成長と学習の機会、裁量権と責任、目的意識の共有、良好な人間関係と協力体制、柔軟な働き方など、これらの非金銭的報酬は、従業員が仕事を通じて得たいと願う「自己成長」「承認」「貢献」といった内発的な欲求を満たし、金銭的報酬だけでは得られない深い満足感と持続的な動機づけをもたらします。
報酬が動機づけを損なう原因の一つに、評価制度の不透明性や不公平性があります。従業員が「なぜこの報酬なのか」「自分の努力が正当に評価されていない」と感じると、不満や不信感が募り、モチベーションは著しく低下します。
健全な報酬と動機づけの関係を築くためには、評価基準の明確化、評価プロセスの透明性、公平な運用、定期的なフィードバックが重要です。報酬は、従業員の努力と成果に対する正当な対価であるべきです。
報酬は、使い方を誤ると、内発的動機づけを損ない、創造性や持続性を低下させる原因となり得ます。特にアンダーマイニング効果は、自律的な行動や探求心を阻害する重要な問題です。
しかし、報酬は不要ではありません。ハーズバーグの二要因理論が示すように、報酬は不満を解消する衛生要因として機能します。真に人を動機づけ、パフォーマンスを高めるのは、自己決定感、有能感、良好な人間関係、そして目的意識といった内発的な要素です。
報酬は、これらを補完する形で、透明性と公平性をもって適切に運用されることで、健全な動機づけ環境を築くことができるのです。
現代の人事制度に偏りがちな西洋的な報酬理論に対し、日本古来の「徳治」の思想を取り入れることで、より人間性を重視した動機づけが可能になります。
渋沢栄一の「論語とそろばん」が説く「義と利の両立」、二宮尊徳の「分度」と「推譲」の精神は、まさに内発的動機づけと外発的報酬の健全な統合を示唆しています。単なる成果主義ではなく、プロセスと人格を尊重し、長期的な関係性を築く経営こそが、真の「収益満開経営」への道筋となるでしょう。
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