人件費の真実
従業員1人雇うのに「月給の3倍の粗利」が必要な理由
「人手が足りないから、もう1人雇いたい」——その判断を、月給の金額だけでしていませんか?
売上は上がっているのに手元にお金が残らない。人を雇ったら、急に資金繰りが苦しくなった。こうしたご相談の多くは、採用のときに「月給」という見える数字だけで判断したことから始まっています。
結論から申し上げます。月給30万円の人を雇うと、会社の負担は月45万円前後になり、それを賄ったうえで会社に利益を残すには、月給のおよそ3倍・月90万円の粗利が必要です。粗利率30%の会社なら、売上に直すと月300万円の上乗せになります。
私は財務を軸とした経営コンサルタントとして、30社以上の資金繰り改善を支援してきました。採用を「感覚」で決めている社長ほど、気づかないうちに固定費の重みに押しつぶされていきます。人件費は、売上が落ちてもすぐには減らせない費用だからです。
この記事を読むことで、あなたは以下を得られます。
- 月給以外にかかる「見えない人件費」の全体像
- 「月給の3倍の粗利」が必要と言われる理由
- 粗利率別に見た、1人を雇うのに必要な売上の早見表
- 採用が「先払いの投資」になる理由と、最初の半年の資金の出方
- 採用を決める前に数字で確かめる3つのチェックポイント
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📋 目次
従業員1人を雇うと、会社には実際いくらかかるのか?
月給のおよそ1.5倍が目安です。月給30万円なら、会社の負担は月45万円前後になります。賞与や退職金、採用にかかる費用まで含めると、さらに大きくなります。
採用を考えるとき、多くの社長の頭にあるのは「月給○万円」という数字だけです。しかし会社が実際に負担する費用は、その金額をはるかに超えます。
月給以外にかかる主な費用
- 社会保険料の会社負担分:健康保険・厚生年金・介護保険など。給与のおよそ15%前後
- 労働保険料:雇用保険・労災保険の会社負担分
- 賞与・退職金の積み立て:月給とは別に、年間で見ると大きな負担
- 福利厚生費:健康診断、慶弔見舞金など
- 教育・研修の費用:即戦力でない限り、一定期間の教育が必要
- 設備・事務所の費用:机・パソコン・ソフトの利用料、事務所の広さに応じた賃料の増加
- 採用の費用:求人広告や人材紹介の手数料
これらを積み上げると、会社が負担する費用は月給のおよそ1.5倍になります。月給30万円なら、月45万円前後です。さらに、すぐには数字に表れない負担——既存の社員が教える時間、管理の手間、慣れないうちのミスの手直し——も加わります。
なぜ「月給の3倍の粗利」が必要と言われるのか?
給料、人に付随する費用、そして会社に残すべき利益の3つを、その人の働きで生み出す必要があるからです。給料分だけ稼いでも、会社にとってはむしろ赤字になります。
「給料の3倍稼げ」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。これは売上ではなく、粗利(売上総利益)で給料の3倍という意味で理解すると、計算の筋が通ります。
| 粗利の使い道(月給30万円の場合) | 金額の目安 | 中身 |
|---|---|---|
| ① 給料 | 30万円 | 本人に支払う月給 |
| ② 人に付随する費用 | 15万円 | 社会保険料・福利厚生・設備など |
| ③ 会社を支える費用と利益 | 45万円 | 間接部門の費用、借入の返済、将来への投資、利益 |
| 必要な粗利の合計 | 90万円 | 月給の3倍 |
①と②を合わせた45万円は、その人を雇うことでかかる直接の費用です。粗利がここまでなら、損益は「トントン」にすぎません。会社には、社長や経理など直接は売上を生まない人の人件費、事務所の家賃、借入の返済、将来への投資があり、それらを支えて利益を残すには、③の分まで稼ぐ必要があります。
つまり採用の判断には、「損益がトントンになる線(月給の1.5倍の粗利)」と「会社が健全に回る線(月給の3倍の粗利)」の2本の線があります。旧来の「月給の3倍」は、後者の目安だと考えてください。
粗利率によって、必要な売上はどれだけ変わるのか?
必要な売上は「必要な粗利 ÷ 粗利率」で決まるため、粗利率が低い会社ほど、1人を雇うのに必要な売上は大きくなります。
【計算式】必要な月間売上 = 必要な粗利 ÷ 粗利率
例:月給30万円、粗利率30%の会社
・トントンの線:45万円 ÷ 0.3 = 150万円
・健全に回る線:90万円 ÷ 0.3 = 300万円
| 粗利率 | トントンの線(月の売上) | 健全に回る線(月の売上) |
|---|---|---|
| 50% | 90万円 | 180万円 |
| 30% | 150万円 | 300万円 |
| 20% | 225万円 | 450万円 |
| 10% | 450万円 | 900万円 |
※月給30万円の場合。会社負担を月給の1.5倍、健全ラインを粗利で月給の3倍として計算
粗利率10%の会社が月給30万円の人を雇えば、トントンにするだけで毎月450万円、健全に回すには毎月900万円の売上の上乗せが必要です。この数字を知らずに採用し、売上が追いつかなければ、資金繰りは急速に悪化します。
裏を返せば、粗利率を上げることは、人を雇い、待遇を良くする力を高めることでもあります。粗利の「質」については、次の記事で詳しく解説しています。
粗利の質を高める考え方は、こちらで解説しています。
📖 売上総利益の「質」が経営を決める|回収・回転・継続性の3条件 →
採用は、なぜ「先払いの投資」なのか?
給料や採用費は入社した月から出ていくのに、その人が十分な粗利を生むまでには時間がかかるからです。採用は、お金を先に払って、あとから回収する投資なのです。
たとえば月給30万円(会社負担45万円)の人を、人材紹介を通じて採用したとします。紹介手数料は、年収の3割程度が目安とされることが多く、年収400万円なら約120万円です。そして、仕事を覚えて一人前に粗利を生むまでに半年かかるとすると、最初の半年間のお金の出方は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 採用の費用(紹介手数料の例) | 約120万円 |
| 最初の6か月の人件費(45万円×6か月) | 約270万円 |
| 戦力になるまでに先に出ていくお金 | 約390万円 |
この間に新しい人が生む粗利が少なければ、その差は会社の手元資金から出ていきます。採用を決める前に、この「先に出ていくお金」を資金繰り表に入れ、手元資金がもつかを確かめることが欠かせません。売上が想定を下回った場合も含めて、6か月先までの資金繰りを試算しておきましょう。
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📊 診断シートを無料で受け取る「人手不足」は、本当に採用でしか解決できないのか?
多くの場合、そうではありません。現場の「人が足りない」という声の中身を解きほぐすと、採用以外の方法で解決できることが少なくありません。
「人手不足」の正体として多いもの
- 業務のむだ:重複した作業、手作業、特定の人しかできない仕事
- ITの活用の遅れ:自動化できる作業を人の手で続けている
- 優先順位のあいまいさ:やらなくてもよい仕事に時間を使っている
- 既存の社員の技能不足:教育への投資で解決できる
- 仕事の受けすぎ:そもそも受けている仕事の量と条件が適正か
支援の現場では、業務の流れを整理するだけで「人が足りない」という感覚が大きく和らぐ会社を多く見てきました。とくに見落とされがちなのが、最後の「仕事の受けすぎ」です。粗利の薄い仕事を断れば、人を増やさずに利益が増えることもあります。
二宮尊徳は、実力に見合った支出の枠を決める「分度」を説きました。人件費は、いったん増やすと簡単には減らせない固定費です。採用は、自社の粗利という実力の枠の中で決める——これが分度の考え方の現代版です。採用の前に、外部への委託で賄えないかも検討してください。
採用の代わりに外部委託を活用する判断の仕方は、こちらで解説しています。
📖 アウトソーシングで資金繰り改善:5つの戦略的活用法 →
採用を決める前に、何を数字で確かめるべきか?
「財務」「業務」「組織」の3つの面を、感覚ではなく数字で確かめてから決めてください。
① 財務面
- 自社の粗利率で、トントンの線と健全に回る線の売上を計算したか
- 採用費と最初の6か月の人件費を入れた資金繰り表を作ったか
- 売上が想定を下回っても、手元資金がもつか
② 業務面
- 今の業務の流れを見直す余地はないか
- ITや自動化で代わりにできる作業はないか
- 外部委託のほうが費用が低くないか
③ 組織面
- 新しい人を受け入れて教える体制があるか
- 既存の社員が教えるために時間を割けるか
- 何か月で戦力になり、何か月で採用費を回収できるかを見積もったか
📐 採用判断の3つの段階
- 3流:月給の金額だけを見て「払えるかどうか」で決める
- 2流:社会保険料などを含めた総額の人件費を把握して決める
- 1流:自社の粗利率と資金繰りから、必要な売上と回収までの期間を計算し、投資として決める
税理士は人件費を正しく帳簿に載せ、銀行は人件費が重すぎないかを見ます。しかし「この人を雇って、何か月で回収できるか」を社長と一緒に計算するのは、どちらの本来の役割でもありません。この判断の力は、社長自身が持つ必要があります。
人材は会社の根幹です。しかし財務の裏づけのない採用は、いずれその人を守れなくなる危険を生みます。本当に社員を大切にする経営とは、情に流された採用ではなく、数字に根ざした余裕の上に立った採用です。人件費を「コスト」ではなく「投資」として扱う考え方は、次の記事でも解説しています。
人件費を投資として生かす戦略は、こちらで解説しています。
📖 人件費投資で成功する経営者が実践する3つの戦略 →
📝 採用を考えたら、まずこの3つを
- 予定している月給から、会社負担(月給×1.5)と必要な粗利(月給×3)を計算する
- 自社の粗利率で割り、トントンの線と健全に回る線の月間売上を出す
- 採用費と最初の6か月の人件費を資金繰り表に入れ、手元資金がもつかを確かめる
まとめ:採用は投資。リターンの根拠を数字で持つ
月給30万円の人を雇うと、会社の負担は月45万円前後。それを賄って会社が健全に回るには、月給の3倍・月90万円の粗利が必要で、粗利率30%なら月300万円の売上の上乗せになります。
しかも採用は、採用費と戦力になるまでの人件費を先に払う投資です。採用を決める前に、自社の粗利率で必要な売上を計算し、資金繰りがもつかを確かめてください。そして「人が足りない」の中身を、業務や受注の見直しで解決できないかも検討してください。
「なんとかなるだろう」ではなく、「この数字があるから大丈夫」と言える採用判断が、会社と社員の両方を守ります。
❓ よくある質問
社会保険料・労働保険料の会社負担分、賞与や退職金の積み立て、福利厚生費、教育・研修の費用、机やパソコンなどの設備費、事務所の賃料の増加、求人広告や人材紹介の手数料などがかかります。合計すると、会社の負担は月給のおよそ1.5倍が目安で、月給30万円なら月45万円前後になります。
売上ではなく、粗利(売上総利益)で月給の3倍と理解すると筋が通ります。給料、人に付随する費用、そして間接部門の費用や将来への投資・利益の3つを、その人の働きで生み出す必要があるからです。月給30万円なら月90万円の粗利が目安で、粗利率30%の会社では月300万円の売上に相当します。
必要な売上は「必要な粗利÷粗利率」で決まります。月給30万円の場合、健全に回る線(粗利90万円)に必要な月間売上は、粗利率50%で180万円、30%で300万円、20%で450万円、10%で900万円です。粗利率が低い会社ほど、1人を雇うのに必要な売上は大きくなります。
給料や採用費は入社した月から出ていくのに、その人が十分な粗利を生むまでには時間がかかるからです。たとえば紹介手数料約120万円と、戦力になるまでの6か月の人件費約270万円を合わせると、約390万円が先に出ていきます。採用前に、このお金を資金繰り表に入れて確かめることが大切です。
できる場合が多くあります。業務のむだ、ITの活用の遅れ、優先順位のあいまいさ、既存の社員の技能不足、仕事の受けすぎが、人手不足感の正体であることが少なくありません。業務の流れの整理、教育、外部委託、粗利の薄い仕事の見直しを先に検討してください。資金繰りの現状確認には、メルマガ登録特典の「資金繰りチェックシート」も役立ちます。
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