仕入れと資金管理の基本|まとめ買い・支払条件・在庫の量で、手元のお金はどう変わるか
「まとめて買えば安くなる」「欠品が怖いから多めに持っておく」——
仕入れの判断は、多くの場合「値段」と「欠品しないこと」を基準に行われます。しかしその判断が、手元のお金にどう響いているかまで計算している会社は多くありません。売上は伸びているのにお金が残らない原因が、仕入れの習慣にあることは少なくないのです。
結論から申し上げます。仕入れは、「どれだけ抱えるか(在庫の量)」「いくらで買うか(値段)」「いつ払うか(支払条件)」の3つで資金繰りを動かします。値引きにつられて在庫を増やすと、値引きより大きなお金が倉庫に眠ることがあります。仕入れの判断のたびに、この3つを並べて計算することが、資金管理の基本です。
収益満開経営の長瀬好征です。財務を軸とした経営コンサルタントとして、30社以上の資金繰り改善を支援してきました。この記事では、仕入れが資金繰りを左右する仕組みを整理し、まとめ買いの値引きと支払条件の損得を計算例で確かめたうえで、毎月の確かめ方をお伝えします。
- 仕入れが、経常運転資金の3つの要素のうち2つを動かす理由
- 在庫の量・値段・支払条件という3つの「つまみ」
- まとめ買いの5%値引きは得か損か(計算例)
- 支払条件の変更と、早く払う代わりの値引きの損得(計算例)
- 仕入れの習慣が変えにくい理由と、毎月の確かめ方
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仕入れは、なぜ資金繰りを左右するのか?
事業を回すために立て替えているお金(経常運転資金)の3つの要素のうち、2つを仕入れが動かすからです。
経常運転資金 = 売掛金 + 在庫 - 買掛金
| 要素 | 何のお金か | 仕入れとの関係 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 売ったが、まだ受け取っていない代金 | (主に販売側の条件で決まる) |
| 在庫 | 仕入れたが、まだ売れていない商品や材料 | 仕入れの量で決まる |
| 買掛金 | 仕入れたが、まだ払っていない代金 | 仕入れの支払条件で決まる |
在庫が増えれば経常運転資金は増え、買掛金が減れば(早く払えば)経常運転資金は増えます。つまり、仕入れの量と支払条件は、売上が同じでも手元のお金を増やしたり減らしたりするのです。売掛金の回収に気を配っていても、仕入れの側が手つかずなら、資金繰りの半分は見えていないことになります。
売掛金・在庫・買掛金を日数にして毎月見る方法は、別の記事で解説しています。この記事では、そのうち仕入れの側で、社長がどんな判断をすればよいかを扱います。
売掛金・在庫・買掛金を日数で毎月確かめる方法は、こちらで解説しています。
📖 財務指標を経営判断に使う5つの視点|回転日数・CCC・運転資金を毎月読む方法 →
仕入れの判断は、どの3つの「つまみ」で資金繰りを動かすのか?
在庫の量、値段、支払条件の3つです。それぞれのつまみは、利益と手元のお金に違う向きで効くことがあります。
| つまみ | 回すと利益は | 回すと手元のお金は | 注意すること |
|---|---|---|---|
| 在庫の量(多めに持つ) | 欠品による売り逃しが減る | 在庫に眠るお金が増える | 売れ残りや品質の劣化で、損失になることがある |
| 値段(まとめ買いで安く買う) | 原価が下がり、粗利が増える | まとめて払うので、一時的に大きく減る | 値引きより、在庫に眠るお金や売れ残りの損が大きくなることがある |
| 支払条件(遅く払う) | (直接は変わらない) | 買掛金が増え、手元のお金が増える | 仕入先の資金繰りを圧迫し、関係や取引条件に響くことがある |
仕入れの担当者は、ふつう「値段」と「欠品しないこと」で評価されます。そのため、在庫の量と支払条件が資金繰りに与える影響は、誰も計算しないまま決まっていくことがあります。3つのつまみを並べて、利益と手元のお金の両方で計算するのは、社長の役割です。
まとめ買いの値引きは、本当に得なのか?
売り切れるなら得になることが多いですが、売れ残りが少し出るだけで損に変わります。計算例で確かめてみましょう。
計算例の条件
毎月300万円分を仕入れて売っている商品。仕入先から「3か月分をまとめて買えば5%引き」と提案された。3か月分900万円が855万円になる。
| 毎月仕入れる | 3か月分まとめて買う | 差 | |
|---|---|---|---|
| 1回の支払い | 300万円(毎月) | 855万円(3か月に1回) | 支払う月に555万円多く必要 |
| 年間の値引き | 0円 | 45万円×4回=180万円 | +180万円 |
| 在庫に眠るお金(平均) | 約150万円 | 約428万円 | 約278万円多く眠る |
| 眠るお金の利息(年2%で借りた場合) | ― | ― | 年約6万円 |
※考え方を示すための計算例です。特定の会社の数字ではありません。在庫の平均は、仕入れた量が一定の速さで売れていくものとして、1回の仕入れの半分で計算しています。
売り切れるなら、年180万円の値引きは、眠るお金の利息(年約6万円)をはるかに上回ります。ここまでなら、まとめ買いは得です。
しかし、3か月分の855万円のうち5.3%(約45万円)以上が売れ残ったり、値下げしないと売れなくなったりすれば、1回分の値引きは消えます。季節で売れ行きが変わる商品、流行の変わる商品、劣化しやすい商品では、この5.3%は決して大きな数字ではありません。保管の場所や手間のコストも加わります。
そしてもう1つ、支払う月に555万円多くお金が出ていきます。その月の資金繰り表に、555万円の谷を埋める余裕があるかを確かめずにまとめ買いを決めると、値引きで得をしながら資金ショートの危機を招くことになります。発注のタイミングと量を、数字のルールで決める方法は、別の記事で解説しています。
発注点と安全在庫で、発注のタイミングと量を決める方法は、こちらで解説しています。
📖 在庫管理を「カン」に頼る7つの危険性|発注点と安全在庫で、勘を数字のルールに置き換える方法 →
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支払いを1か月遅くできれば、ひと月分の仕入れ額だけ手元のお金が増えます。ただし、逆に「早く払う代わりに値引きしてもらう」方が得になる場合もあります。
| 条件の変更 | 手元のお金への影響 | 考え方 |
|---|---|---|
| 支払いを30日後から60日後にする | 毎月300万円の仕入れなら、買掛金が300万円増え、手元のお金も300万円増える(一度きり) | 仕入先の資金繰りを圧迫するため、関係を損ねない範囲で交渉する |
| 30日早く払う代わりに2%値引きしてもらう | 毎月300万円の仕入れなら、手元のお金は300万円減るが、値引きは月約6万円(年約72万円) | 30日早く払って2%得をするのは、年利に直すと約25%の運用と同じ。手元に余裕があれば大きく得になる |
※考え方を示すための計算例です。2%÷(100%-2%)×365日÷30日で、年利に直しています。
2つ目の計算は見落とされがちです。手元のお金に余裕があり、銀行に預けておくだけなら、早く払って値引きを受ける方が、預金の利息よりはるかに大きな得になります。逆に、借入をして早く払うとしても、借入の金利が年25%より低ければ得になる計算です。ただし、早く払った分だけ手元のお金は減るので、資金繰り表で余裕を確かめてからにします。
支払条件の交渉で大切なのは、自社の都合だけで仕入先の支払いを遅らせないことです。仕入先にも資金繰りがあります。支払いを遅らせてもらうなら、その代わりに発注の見通しを早めに伝える、取引量を安定させるなど、相手にとっての利点も一緒に示すのが、長く続く取引の基本です。
仕入れの習慣は、なぜ変えにくいのか?
一度決めたやり方を続けたいという心理と、過去の判断を否定したくないという気持ちが働くからです。
社会心理学者のロバート・チャルディーニは、著書『影響力の武器』で、人は一度ある立場をとったり行動を決めたりすると、その後もそれと一貫した行動をとろうとする強い傾向がある、という「コミットメントと一貫性」の原理を紹介しています。
仕入れでも、「先代のころからこの量を仕入れている」「この仕入先とはずっとこの条件でやってきた」という習慣は、この原理によって守られやすくなります。量や条件を見直すことが、過去の自分や先代の判断を否定するように感じられるからです。
この心理を乗り越える手がかりになるのが、判断を「感覚」ではなく「計算」の土俵に移すことです。第3章や第4章のように、今のやり方と別のやり方を同じ表に並べて計算すると、見直しは「過去の否定」ではなく「条件が変わったことへの対応」になります。数字は、人の判断を責めずに、判断を変えるきっかけをつくってくれます。
仕入れと資金管理を、毎月どう確かめればよいのか?
主な商品ごとの在庫の日数と、仕入れの支払いの予定を、毎月1枚の表で確かめます。
| 商品・材料 | 月の使用(販売)額 | 月末の在庫額 | 在庫の日数 | 前の月 | 支払条件 | 来月の支払い予定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 商品A | 300万円 | 150万円 | 15日 | 15日 | 月末締め翌月末 | 300万円 |
| 材料B | 120万円 | 180万円 | 45日 | 30日 | 月末締め翌月末 | 150万円 |
| 商品C(まとめ買い) | 100万円 | 280万円 | 84日 | 60日 | 納品月の翌月末 | 0円 |
※記入見本です。特定の会社の数字ではありません。在庫の日数=月末の在庫額÷月の使用(販売)額×30で計算しています。
この見本では、材料Bと商品Cの在庫の日数が前の月より延びています。特に商品Cは、まとめ買いで在庫が約3か月分に膨らんでいます。日数が延びた品目について、「売れ行きが落ちたのか」「仕入れすぎたのか」を確かめるのが、毎月の確認の中心です。
仕入れと資金管理の3つのステップ
- 主な品目の在庫の日数を出す——金額の大きい品目から、上の表の形で書き出す
- 仕入れの支払い予定を資金繰り表に入れる——まとめ買いの支払いが重なる月に、谷ができていないかを見る
- 大きな仕入れの前に、3つのつまみで計算する——在庫の量・値段・支払条件を並べ、利益と手元のお金の両方で判断する
在庫の日数が延びた品目を、どう減らしていくかの段取りは、別の記事で解説しています。
増えすぎた在庫を減らす段取りは、こちらで解説しています。
📖 在庫圧縮で資金繰りを改善する7つの手法|「減らすと決めたのに進まない」を防ぐ実行段取り →
📝 まとめ:仕入れは「値段」だけでなく「いつ払い、どれだけ抱えるか」で判断する
仕入れは、経常運転資金の在庫と買掛金を動かし、売上が同じでも手元のお金を増やしたり減らしたりします。計算例では、3か月分のまとめ買いで年180万円の値引きを得られる一方、在庫に約278万円が眠り、5.3%以上が売れ残れば値引きは消えました。支払う月には555万円の谷もできます。
支払条件は、遅らせれば手元のお金が増えますが、早く払う代わりの2%値引きは年利に直すと約25%の得になります。在庫の量・値段・支払条件の3つのつまみを並べ、利益と手元のお金の両方で計算することが、仕入れと資金管理の基本です。
今すぐできる一歩:金額の大きい仕入れ品目を3つ選び、月末の在庫額を月の使用額で割って30を掛け、在庫の日数を出してみてください。
❓ よくある質問
経常運転資金(売掛金+在庫-買掛金)のうち、在庫は仕入れの量で、買掛金は仕入れの支払条件で決まるからです。売上が同じでも、在庫を多く持てば、また仕入先に早く払えば、手元のお金は減ります。
売り切れるなら得になることが多いですが、売れ残りが出ると損に変わります。計算例では、毎月300万円の仕入れを3か月分まとめて5%引きで買うと、年180万円の値引きを得る一方、在庫に約278万円多くお金が眠り、855万円のうち5.3%以上が売れ残れば1回分の値引きは消えます。支払う月の資金繰りの谷も確かめる必要があります。
手元に余裕があれば、大きく得になることが多いです。30日早く払って2%の値引きを受けるのは、年利に直すと約25%の運用と同じです。ただし、早く払った分だけ手元のお金は減るので、資金繰り表で余裕を確かめてから決めます。
支払いを30日遅らせれば、ひと月分の仕入れ額だけ手元のお金が増えます。ただし仕入先にも資金繰りがあるため、自社の都合だけで遅らせると関係や取引条件に響くことがあります。発注の見通しを早めに伝える、取引量を安定させるなど、相手にとっての利点も一緒に示すのが基本です。
主な品目ごとの在庫の日数(月末の在庫額÷月の使用額×30)が前の月より延びていないか、仕入れの支払いが重なる月に資金繰りの谷ができていないかを確かめます。大きな仕入れの前には、在庫の量・値段・支払条件を並べて、利益と手元のお金の両方で計算します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の経営判断の推奨を目的とするものではありません。計算例と記入見本は考え方を示すための簡便なものです。
※本稿は長瀬好征の実務経験をもとに、AIを構成・編集のパートナーとして活用し作成しました。
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