「コロナの時に借りられるだけ借りた。でも今、新しい設備投資のために融資を申し込んだら、あっさり断られてしまった」—このような声が、私のもとに急増しています。1年前にはほとんど聞かれなかった質問です。
東京商工リサーチの調査によれば、2024年の企業倒産件数は1万件を超え、11年ぶりの高水準となりました。倒産企業の約3割(29.5%)が営業黒字であったという事実は、資金繰り問題が「業績が悪い会社だけの問題」ではないことを示しています。
問題の根源は、コロナ融資(ゼロゼロ融資)の後処理にあります。約245万件・43兆円にのぼる融資のうち、コロナ借換保証への借換率はわずか7%。残りの93%の企業が何らかの形で元の条件のまま返済を続けているか、あるいは返済を滞らせているのが現実です。
金融機関は今、返済実績と将来計画の両方を厳しく問うようになりました。「お金を貸してください」という姿勢では、もはや融資は通りません。2024年6月末でコロナ借換保証が原則終了し、金融機関の支援姿勢は「守り」から「将来性重視の選別」へと根本的に変わったのです。
しかし、正しい対応策を知れば、この時代でも融資を獲得することは十分に可能です。この記事では、30社以上の財務改善支援実績を持つ私が、実際に機能する5つのポイントを具体的にお伝えします。
収益満開経営の長瀬好征です。財務コンサルタントとして30社以上の中小企業の財務改善を支援してきた中で、コロナ後の融資環境の激変を現場で体感してきました。「借りれるときに借りた方がいい」という考えが今どれほどの代償をもたらしているか、毎月のように目の当たりにしています。
収益満開経営とは、花が咲くように自然で持続的な収益を生み出す経営のことです。渋沢栄一の「論語とそろばん」が示すように、道義と利益は分離できません。金融機関から真に信頼される会社になることが、最強の資金調達戦略です。
近江商人の「しまつ」とは、単なる節約ではありません。「物事の始末をきちんとつける」という意味であり、今の借入を丁寧に返済し、正確な財務実態を金融機関に伝え続けることこそが、次の融資への最短ルートです。厳しい時代だからこそ、本質を外さない対応が問われています。
2020年から2022年にかけて実施されたコロナ融資(ゼロゼロ融資)は、中小企業の命綱となりました。しかし、この制度が今、多くの社長の「足かせ」となっています。問題は制度の是非ではなく、借入後の「運用」にあります。
問題①:無計画な借入と据え置き延長の繰り返し
「借りられるだけ借りよう」という姿勢で資金調達した結果、返済開始後に資金繰りが悪化。据え置き期間の延長申請を繰り返した企業が多数出ました。
問題②:経営改善なき延命
融資で手元資金は増えたものの、本来の収益改善には手をつけないまま時間が経過。コロナが明け、ビジネスが動き始めた時には、すでに借入金月商倍率が6倍超に達していました(東京商工リサーチ調査)。
問題③:金融機関との関係断絶
融資を受けた後、業績報告も行わず、相談もない状態が続いた企業は、金融機関担当者との信頼関係を失いました。次の融資申込時に「この会社のことがわからない」という状況になっていたのです。
山田方谷の教えに「入りを量りて出を制す」という言葉があります。収入の範囲内で支出を管理するという、財政運営の根本原則です。コロナ融資は緊急時の資金手当てとして機能しましたが、この原則を忘れた運用が今の状況を招いています。
2024年6月末でコロナ借換保証が原則終了したことで、金融行政は明確に「コロナ前の水準に戻す」方針を打ち出しました。これは単なる制度の終了ではなく、金融機関の審査姿勢が根本的に変わったことを意味します。「困っているから貸す」ではなく「将来性がある会社に貸す」という選別が始まっているのです。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」—融資環境の現実を正確に把握しなければ、適切な対策は打てません。以下に、現状を示す重要なデータをまとめます。
※倒産件数・借入金月商倍率:東京商工リサーチ「2022年倒産企業の財務データ分析調査」および2024年倒産統計より。コロナ借換保証:信用保証協会公表データ(2023年1月〜2024年3月)。
特に注目すべきは、倒産企業の借入金月商倍率が6.46倍に達しているという事実です。生存企業の5.32倍と比較して約1カ月分多い借入を抱えており、この差が返済能力の有無となって審査に直結しています。
さらに重要なのは、倒産企業の29.5%が営業黒字だったという事実です。売上が好調であっても資金繰りで倒産する会社が年間約3,000社(2024年推計)存在するということは、「今期は黒字だから大丈夫」という感覚が命取りになりかねないことを示しています。金融機関もこのデータを熟知しており、フロー(損益)よりストック(借入残高・返済実績)を重視する傾向が強まっています。
新規融資を通すための最初のステップは、驚くほどシンプルです。今ある借入を計画通りに返済すること。これだけです。しかし、実践できていない会社が圧倒的多数です。
金融機関が融資審査で最初に確認するのは、既存の返済が滞っていないかどうかです。一度でも返済が遅れたり、据え置き延長を繰り返したりすると、金融機関の内部システムには記録が残ります。この記録は数年後の新規融資申込時にも参照されます。
近江商人の「しまつ」の精神が、ここで生きます。「始末」とは、過去の借入という「始め」を丁寧に「末(まつ)」にすること。今の借入を誠実に返済することが、次の融資への道を自ら開く行為なのです。
「財務体質の改善」と聞くと、決算書の見栄えを良くする粉飾まがいの行為を想像する方がいますが、それはまったく逆効果です。金融機関は決算書の「深読み」を専門トレーニングで学んでいます。見かけだけ良くしようとする試みは、信頼を根本から損ないます。
財務体質の真の改善とは、事業の収益性を本質的に高めることです。具体的には、売上総利益率の向上(同じ売上でも粗利が増える構造をつくる)と、固定費の見直し(不要な支出を削り、必要な投資に集中する)の2つを同時並行で進めます。
💡 重要な視点:借金返済の真の原資は「最終利益」ではなく「売上総利益(限界利益)」です。売上総利益が薄い状態では、いくら売上が増えても手元に残る資金は生まれません。返済能力を高めるために、まず売上総利益率の改善から着手してください。
二宮尊徳の「積小為大」が示すように、小さな改善の積み重ねが大きな変革をもたらします。1回の申込で劇的な改善を求めるのではなく、毎月少しずつ財務体質を改善していく姿勢こそが、金融機関が本当に信頼を置く経営者の姿です。
コロナ借換保証制度では、金融機関による伴走支援と一体として「経営行動計画書」の作成が求められました。これは単なる制度の要件ではなく、金融機関が今後のすべての融資審査で重視する方向性を示したものです。
経営行動計画書とは何か。一言でいえば「社長が自社の経営を客観的に分析し、具体的な改善アクションを数値と期限で示した計画書」です。「売上を上げたい」ではなく「第3四半期末までに、新規顧客向けAサービスの販売数を月間○件から○件に増やすことで、売上高を○○万円改善する」という具体性が求められます。
私が支援した30社以上の経営者の中で、経営行動計画書を自分で作れる社長と、「それは顧問税理士に任せています」と言う社長では、融資審査の通過率に明確な差があります。金融機関が見たいのは、社長が自社の経営を本当に理解しているかどうかです。計画書の「質」よりも、社長が自分の言葉で説明できるかどうかが問われています。
教育心理学者・西林克彦氏が示した「知ることと分かることの違い」は、経営行動計画書の本質に直結します。数字の羅列(そろばん)だけが並んだ計画書は、銀行担当者には「わかったつもり」の産物に映ります。そこに社長の意思と経営哲学(論語)が宿ったとき、計画書は初めて「生きたもの」になる—それが渋沢栄一の「論語とそろばん」が示す、和魂洋才の精神です。
「融資をお願いしたい時だけ金融機関に行く」という行動パターンを持つ社長は、知らずのうちに大きな損をしています。金融機関の担当者は、社長のことを知りたいと思っています。業績が良い時も悪い時も、定期的に情報を共有してくれる経営者には、担当者も積極的に情報を提供し、ベストなタイミングで融資の提案をしてくれます。
渋沢栄一の「論語とそろばん」が示すように、誠実な対話こそが長期的な関係の基盤です。業績が悪い時こそ、「こういう状況で、こうやって立て直しています」と正直に伝えることで、金融機関担当者の信頼を得ることができます。業績が悪い時に連絡が途絶える社長に、融資の提案は来ません。
また、メインバンク1行だけに依存するリスクも認識してください。東京商工リサーチの「2025年 全国160万5,166社のメインバンク調査」が示すように、地域によっては地方銀行の統合・再編が進み、選択肢が急速に減っています。早期に複数行との関係を構築しておくことが、長期的なリスク管理です。
ここまで4つのポイントをお伝えしてきましたが、最も重要な視点は「融資を通すこと」を目的にしないことです。融資はあくまで手段であり、目的は会社の持続的成長です。融資を通すためだけに財務を整えるという発想では、根本的な問題は解決しません。
本質的な長期財務戦略とは、「融資がなくても経営が回る状態に近づけていく」ことです。自己資本の充実、内部留保の積み上げ、そして無借金に向けた段階的な借入金の圧縮。これが進むほど、逆説的に金融機関からの融資が通りやすくなります。
収益満開経営とは、外部環境(融資・補助金・景気)に左右されない、本質的な収益力を持った経営のことです。近江商人が「三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」の精神で持続的な繁栄を築いたように、顧客への本物の価値提供が収益の源泉となる経営を目指します。
融資が通りにくい今の時代は、自社の経営力を本質的に問い直す絶好の機会です。「借りられないから困っている」のではなく、「なぜ借りなければ回らない状況になったのか」を直視することが、会社の本当の転換点になります。
私が支援した企業の中には、最初は「融資が通らない」という相談で来られたものの、財務の根本的な見直しを経て3年後には無借金経営を実現し、その後の新規事業展開で複数行から積極的な融資提案を受けるようになった事例があります。融資戦略の本質は、融資を必要としない会社になることです。
2024年3月にマイナス金利政策が解除され、2025年1月には追加利上げが実施されました。帝国データバンクの試算によれば、借入金利が0.25%上昇すると、1社あたり年間約68万円の支払利息負担が増加します。約1,700社が黒字から赤字へ転落するとも予測されています。
この環境変化は、過剰な借入を抱えた企業への圧力をさらに強めます。新規融資を申し込む前に、現在の借入残高を圧縮できないかを検討することが、これからの時代の最重要課題です。固定費の削減で得た資金を借入返済に充て、金利負担を軽減することが、財務体質改善の最速ルートです。
融資申込前に以下の項目を確認してください。チェックが入らない項目が多いほど、申込前に対策が必要です。「鉄は熱いうちに打て」の精神で、融資が必要になる前から準備を始めることが成功の鍵です。
【返済実績・財務状況】
【計画書・書類準備】
【金融機関との関係】
チェックが入らない項目が5個以上ある場合、融資申込を焦らず、まず該当項目の改善から始めることを強くお勧めします。「今すぐお金が必要」という状況であっても、準備なしで申し込むより、1〜2ヵ月かけて準備を整えてから申し込む方が、融資通過の確率は格段に上がります。
新規融資が難しい今の時代は、「和魂洋才」の精神で本質を見直す絶好の機会です。近江商人の商人道が示す「しまつ」と「三方よし」の精神で、誠実な経営と持続的な収益を両立させた先に、真の収益満開経営があります。失われた30年を終わらせ、2200年の日本に繁栄を残すために、今日から一つずつ実践してください。
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